デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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色々と遅れて申し訳ない。執筆中にデータが飛ぶ悲劇が何度も起こったり色々と忙しかったりと……うん。すまない。


106.メタルキング?

 ノイズが走る。彼女の監視の任に付き私がスレイプモンからクダモンの姿になってからそれなりの時が過ぎた。元々私は長い時を生きてきたデジモンだ。デジコアの駆動時間も限界が近い。

 マキナ達には黙っていたが、そろそろだまし続けるのも無理だろう。

 まだ大丈夫――されど、すでに視界にノイズが走っている。

 彼女と出会ったとき……マキナは霞の様な存在だった。ちょっとしたきっかけで消えてしまいそうな、そんな不安定なデータの塊に過ぎなかった。

 それがカノンと出会ったことで自我を確立し、確固たる存在となって現世にとどまったのだ。彼女を見ていたからこそ、私自身も強い意志をもって今を生きていられる。

 マキナがいなければ、私はとっくに私という自我を失っていただろう。

 イグドラシルやホメオスタシス、はたまた他の誰が私に彼女たちと共に歩む道を与えたのかはわからない。だが、この時代に来たことでようやく私が今この瞬間のために生きながらえたのだと理解した。

 私の知識が彼らの道を照らしたのだ。だからこそ、私はまだ消えるわけにはいかない。

 だからまだ持ってくれ。デジモンにだって寿命はある。人間のそれとは異なるが、確かに限界は存在する。古の聖騎士より引き継がれた我らも元の時代においてはほとんどいないのだろう……私が退場するまで、そう時間もないはずだ。

 元の時代に戻ってからになるか、それともこの時代でになるか……おそらく一年以内だ。

 

「――――ッ」

 

 体に少々痛みが走る。

 その痛みを感じることで、まだ大丈夫だという実感がわく。痛みを感じるうちはまだ大丈夫だ。痛みというデータを許容できるのなら、思ったよりも時間はある。

 しかし、願うのならば……彼女の成長を見つめていたい。いつまでも…………

 初めは任務だった。だが、彼女と共にあるうちにいつしか私は彼女に情が移っていたらしい。だからこそ、こんなにも離れがたいと思っているのだろう。

 ――――ああ、それでも……私自身が彼女と共にある以上に、解決しなければいけないことがあるのだ。

 始祖となるであろう若者。おそらくはある種の自浄作用として誕生した彼。他にも、未来のためになさなければならないことが多い。

 

「…………」

 

 今はまだ、スリープで時間を稼ぐしかない。なすべき時が来るその日まで。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌日。チビマメモンの案内で王宮を見に行くことに。

 機械都市なのに王宮とはどういうことなのか……っていうか国なのここ? デジモンたちもよくわからずに言っているみたいだし、あまり深く考えてはいけないのかもしれない。

 

「というより、この世界のデータはどこか壊れているんだよなぁ……いや、ズレているって言った方が正しいのか」

「カノンくんは色々なこと知っているね。クダモンも物知りなんだけど、最近あまり起きないんだ」

 

 そう言ってマキナは首にぶら下げている薬莢をつつく。

 たしかにマキナの言う通り、クダモンはこの頃よく寝ている。時折薬莢から出てきてアドバイスをくれるのだが、入っている時間の方が圧倒的に多い。何かあったのだろうか?

 と、そこで件の王宮が目に入った。かなり大きいが、デカいネジや歯車がついていたりと機械都市の王宮だなと思わせる外観をしている。

 

「あれがこの街を収めるプリンスマメモンの住まう王宮です!」

「ああ、王子(プリンス)ね」

 

 だから王宮なのか。普通に宮殿でもいいんじゃないっすかね。

 

「カノン、なんか疲れた顔をしているよ」

「いや、どうにも嫌な予感がしてな」

「嫌な予感ってなんです?」

 

 プロットモンの問いに答えようとは思うのだが……僕自身明確な答えは出ない。

 ただ、嫌な予感というか出会いたくない何かがこの先にいる気がするのである。

 

「――――嫌な気配を感じるな。凶悪なウィルスデータを感じる」

「ストライクドラモンがこう言っているけど、そこのところはどうなの?」

「うーん……僕の場合はそういうのを感じているわけじゃないし、何とも言えないけど……たぶん、すごく疲れる相手がいるのは間違いない」

 

 そんなわけで、とりあえず王宮に入ることに。

 チビマメモンはさすがにまずいですよと言っていたが、放っておくわけにもいかないのだ。この街で売られている地図に書き足されたと思しき大王国なんて書いている奴を調べたいし。

 そうして王宮へと乗り込んでいったわけだが――その選択、今からでも取り消せませんかね?

 

 

 

 

 

 

 

「ハァイ! ユーたちが噂のデジモンたちネー! ミーはキングエテモン! 世界一愉快な大王サ!」

「……よりによってエテモン種かよ」

 

 妙に暑苦しいノリでからんできたのはキングエテモンというデジモンだった。胸にデカく大王と書かれており、色々と胡散臭い感じがする。

 その隣に笑顔のプリンスマメモンがいたが……こっちはこっちでなんか頼りなさそうだった。内包しているエネルギー量は究極体そのものなのだが……

 それに、”大王”か。きな臭いとは思っていたが、ここまで直球で来られるとは思わなかった。

 

「いいねぇいいねぇ。君たちみたいに肝が据わっているの、オジサン好みだヨ!」

「なんか暑苦しんだけど……カノン君、こいつどうする?」

「オイ。明らかにこいつが持っているぞ。こいつ自身からじゃないが、隠し持っていても俺にはわかる」

「ああ……状況から考えてキングエテモンが犯人なんだろうけど――」

 

 犯人? 何のことでしょうかとプリンスマメモンが疑問符を浮かべている。

 チビマメモンも何の事だろうと首をかしげているが……

 

「やっぱり見込みどおりネ! そうサ! この大王様が機械都市一帯のエリアのデータを崩している犯人なのサ!」

 

 あっさりと、そいつは自白した。

 思わず僕らも目が点になり、何を考えているのかという疑問に囚われた。その一瞬で、距離を詰められてしまう。マズイと思った瞬間には僕たちは全員殴り飛ばされて王宮からたたき出された後だ。

 空中で体を回転させてすぐさま受け身の体勢に入るものの、キングエテモンはさらに追撃してくる。

 

「話には聞いていたからネ! ちょうどいいタイミングで来てくれて助かったヨ」

 

 魔力を放出して盾を形成するも、すぐに破られてそのまま僕は地面へと殴り飛ばされてしまう。

 

「――ッガ!?」

「カノンくん!?」

 

 そのまま蹴り飛ばされて近くの建物の壁へと叩きつけられる。

 ストライクドラモンは反撃を。ライラモンも援護に入るが、マキナは気をとられ足が止まった。

 ドルモンは攻撃の体勢に入っているが――ダメだ。全員、ワンテンポ遅い。

 

「遅い遅い! ミーは究極体なんだヨ? そんな攻撃、当たらないんだよネ!」

 

 体を回転させてキングエテモンは竜巻を発生させ、みんなを吹き飛ばしてしまう。

 全員がそれぞれバラバラの方向に吹き飛ばされてダメージを負った。

 圧倒的。ザンバモンとの戦いの時にも感じていたが、究極体というのはそれほどまでに強力な力を持つ。ダークマスターズとの戦いでも散々思い知ってきたことだ。

 

「まったく。あのザンバモンを倒したというから少しは期待していたのにナ」

「これは一体どういうことですか、キングエテモン殿! あなたは我々の同盟国の主では……さっきの会話は一体なんなんですか?」

「ああ、ミーが国なんて持っているわけないじゃないカ! アレは全部嘘サ」

「う、嘘ですって?」

 

 プリンスマメモンは後ずさり、どういうことだと驚愕を顔に表している。

 その様子をキングエテモンは心底愉快そうに笑いながら事の次第を説明し始めた。

 

「なぁに。ミーはルーチェモン軍とは協力関係にあってネ! ここら辺の地図データにちょろっと細工をしてもらってこの国を乗っ取る計画を立てていたんだけど、見返りに機械データの提供とか色々と面倒な作業があったのサ!」

 

 まあ、その影響でこの国のデジモンたち、元気なくなっちゃったけどネと付け加えてキングエテモンは再び高笑いを上げる。

 そして、地面が揺れ始めて機械都市の上空から何かが現れた。

 青い色の巨体、体の半分ほどを機械で改造したデジモン――そのシルエットは何度も見たことがある。

 

「紹介するヨ! こいつの名はメタルグレイモン! まあ、改造が不完全なのか体の腐敗で青くなっちゃったけどネ!」

「ガアアアアア!!」

「な、なんという……あなたは一体何がしたいのですか!」

「そりゃ簡単。ミーは大王だ。欲しいものは力づくででも手に入れる。ちょうど、邪魔者がやってくるって話もあったし、いきなりブッ飛ばせばいい話だったけどネ!」

 

 そして、メタルグレイモンの胸部のハッチが開き、中からミサイルが発射されようとして――その頭部を、僕が蹴り落した。

 

「ハァ!?」

「な――彼は先ほど殴り飛ばされて……二人目、ですって!?」

 

 プリンスマメモンの言う通り、僕は二人いた。

 いや正確に言うなれば――片方は、エイリアスによる分身だ。

 

「嫌な予感がしているのに、対策も取らないで乗り込むわけないっての」

「それに、みんなにはあらかじめ防御力強化魔法をかけてあったんだよね。ダメージが少なすぎる違和感で動くのをためらってくれて助かったよ」

 

 隠れていた本体の僕と、吹き飛ばされていた分身の僕が並び立つ。タッチをかわし、再び一人に戻った。いつものとは違い、分身も会話できるようにデータを組んだのだが、思いのほか時間がかかっていったいしか用意できなかったしこの方式だと力も分散してしまう。

 実戦じゃほぼ役に立たないが、だまし合いには最適だな。

 

「まったく、お前俺らにも黙っているとかどういうことだよ」

「ごめんね。敵をだますには味方からっていうし――まあ、自白はさせてもらったけどそうそう上手くはいかないか」

「カノン、衛兵がいるのは知ってた?」

「予想はしていたけど流石にこっちに向かって殺気立つ展開になるとはなぁ……」

 

 そう、キングエテモンの悪事を暴けばプリンスマメモンを守る衛兵もキングエテモンを狙うとは思ったのだが、どうやらそううまくいかなかったらしい。

 僕たち全員を取り囲むように彼らが現れ、取り押さえられそうになってしまった。

 

「ま、待つんだお前たち!」

「なにも心配いらないネ! このキングエテモン様の猿芝居に騙されてくれたこいつらをとっ捕まえてくれるってんだ。いいことづくめじゃなーい!」

「あちゃぁ……先手を打たれていたか」

「カノンくん、ホントうっかり多いよ!」

 

 マキナに言われた通り、ちょっとしくじった。

 プロットモンもジト目でこっちを見ているし……仕方がない。何とかしよう。

 

「なんとかできるの?」

「あの詐欺師は一発殴り飛ばしておきたい――色々と試しておきたいこともあるからね」

「でも、彼らは悪気はないんです! だから……」

 

 チビマメモンが懇願してくる。確かに衛兵たちは自分たちの職務を全うしているだけだ。

 それを利用しているキングエテモンが悪いのであって、彼らは騙されているだけ。だからこそ、僕も彼らを傷つけるつもりはない。

 

「え?」

「雷の神殿でエレメントを受け取ってからずっと考えてはいたんだ。いや、向き合う必要があったって感じかな?」

「……この気配――まさか」

 

 キングエテモンが先ほどまでの飄々とした態度を崩し、驚愕を浮かべる。

 プリンスマメモンも何かを感じ取ったのか、後ずさっていた。起き上がろうとしていたメタルグレイモンでさえ、少し体が震えている。

 そしてそのまま僕の体を赤い光が包み込み――アイギオテゥースモンへと進化した。

 

「このマメモンから少し話は聞いていた。プリンスマメモン、この地を統治するというのならば自信を持て。そして、王家として君臨するならば責任が生じる。自分で考え、自分で行動しろ。

 そのデジモンは君を騙し、この地を滅ぼそうとしたデジモンだ――自分の考えでどうするか決めろ」

 

 思考が切り替わる。今までの主観をそのままに、さらに高い視点の何かが頭の中に入ってくる――いや、目覚め始めたのだ。

 体から放出される電撃が強まっていき、僕の体から迸る。

 

「あ、ああ……」

「――――ッ」

 

 衛兵たちが膝をつき、戦意を失っていった。

 マキナ達も何が起きているのかわからないといった感じだが――僕は彼女たちの方を向き、にっこりと笑う。

 

「カノンくん、だよね?」

「ああ。安心しろ。別に変わってないよ……ただ、切り替えられるようになっただけだから」

 

 兆候は前からあった。どこかで僕の思考が別のものへと変質するこの状態。黄金のハンマーによる攻撃などをしていた時に現れていたが、雷のエレメントにより力が底上げされたおかげで”僕”のままこの状態へと移行できるようになった。

 

「――――どういうことかは分からないけど、ルーチェモンの軍が警戒するだけのことはあるみたいネ」

「みんな、気合入れろよ――まだ後続がいるぞ!」

 

 直後に、メタルティラノモンやメガドラモンといったサイボーグ型デジモンが飛来してきた。

 上を見ると何かの影が通り過ぎて行ったのがわかる。おそらくは運搬系デジモン。

 

「まったく、こうなったら街ごとぶっとばしてみようかナ!」

「そんなこと、させるわけねぇだろうが!」

「そうね。ここで戦力を出してきたってことはキングエテモンには手持ちのカードが少ないんじゃないかな?」

「カノンくんはホントに無茶ばかりだね――でも、黙って見過ごすわけにもいかない。今度は、守り切って見せる!」

 

 戦いが始まる。

 この時代において、究極体との激突が再び。

 


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