都市に入って最初の感想は、僕らの時代のデジタルワールドでもここまでの都市は無かったよなぁということだ。いや、SFってレベルではない気がする。もはや古代文明というか超未来都市というか……
ドルモンたちも口をあんぐりさせているが、僕だってこの光景は信じられない。
「凄いねぇ……デジタルワールドの機械都市ってこんな感じなの?」
マキナは元の時代のデジタルワールドにはいったことがなかったから、こんな感想だが――いや、そもそも一般常識はほとんどないのか。そこらへんも追々教えていかないとな。
ストライクドラモンたちもかなり驚いているあたり、こんな街がスタンダードなわけが無い。
「スゲェなオイ。噂には聞いていたがここまででけぇとはなぁ……機械デジモン誕生の地ってのは伊達じゃねぇな」
「本当ねぇ……街のデジモンたちも機械系ばかり」
二人の言う通り、周りを見ても機械系デジモンばかりだ。ガードロモンのようなデジモンや、アンドロモンっぽいデジモンなど見たことがあるタイプから見たことのないようなデジモンたちまで。まあ、未来では生き残っていないのもいるし、まだ発展途上な部分があるから僕らの時代とは見た目が若干異なるデジモンもいるか。
同じ名前だけど僕らの時代では姿が違うデジモンとは意外といるもので、例を挙げればファルコモンだろうか。モニタモンの里に行ったときに見たことがあるのだが、忍者っぽい鳥デジモンだった。
だがこの時代のファルコモンは鳥! って感じのデジモンである。忍者の方とは違い飛ぶよりも走る感じだ。
「しかし気になるのは……なんか、マメモン多くね?」
「多いね。確かに」
「半分はマメモン系のデジモンだな」
どうやらほとんどの住人はマメモン系デジモンらしい。となるとかなりの数の完全体がいることになるわけだが……いや、同じ名前でも世代が違う場合があるから一概にそうとは言えないのか。ホエーモンとかミノタルモンは成熟期と完全体で見た目変わんないし。
「とにかく、物資の補給とマップデータの更新をしないとな」
マップの方は適当なコンソールを使えばすぐに更新できるからいいが、物資はちゃんと補給しないと今後が大変だ。デジメンタルも欲しい所だが、あまり無駄遣いはできないし。
「って、カノンくんお金持っていたの?」
「色々とやって調達はしておいた。あまり多くはないけどな」
「いつの間に……」
マキナがげんなりしているが、未来でもデジタルワールドでお金の問題が発生したことはあるのだよ。丈さんからありがたいお言葉をいただいていたから、そこら辺の対策はしてある。
というわけで、まずは物資の補給をすることに。地図も売られていたのだがデジヴァイスのナビ機能とリンクはできないため買わなかったのだが……
「……まあ、後で考えるか」
ちょっと気になることがあったが、とりあえずやることやってからにしよう。マキナ達は色々と物色しているので、コンビニっぽい店の中をまわる。というか時代的にコンビニってどうなのよ。いや、っぽいだからいいんだけど……
地図データも最終更新版ぐらいにはなったから今後の旅も少しは楽になる。しかし、色々なものが置いてあるが……やはり街の住人向けなのか機械パーツが多い。
「でもやっぱり、デジメンタルは売ってないか……」
「――お兄さん、デジメンタルをお探しですか?」
「ん?」
声をかけられたので横を見るが、誰もいない――気のせいか?
「こっちですよこっち!」
「……ああ、下か」
声をかけてきたのは、マメモン。それも他の個体よりも一回り小さいマメモンだった。
少し高い声をしており、ちょっと幼さが残るような感じをしている。
「よければ、デジメンタル工房までご案内いたします!」
◇◇◇◇◇
彼、マメモン……小さいのでチビマメモンと周りから呼ばれていた彼は、デジメンタルを作る工房で働いているらしい。この街の住人たちは大体が彼のように何らかの工房で働いているのだとか。
「デジタルワールド中の機械を作る我らの誇りですから」
「なるほど、この都市に機械系データが集約されているのか」
いや、もしかしたらこの時代では一か所に一つのデータを集約しているのかもしれない。マップデータでも火の神殿は火山地帯にあるようだし……闇の神殿は例外だったが。いや、光と闇は集約し過ぎても危険だからか。
「それにしても、栄えているけどみんなどことなく元気がなさそうだね」
「確かにな。覇気がない。どういうことなんだ?」
「そうなんです。皆さん、近頃元気がないんですよ……僕、まだまだ見習いで大きな仕事は任されませんし、普段は工房で腕を磨こうとこもりがちなので……」
「なんで元気がないのか知らないと」
「はい……すいません、お役に立てませんで」
別にそこで謝らなくていいんだが……まあいいか。
彼の勤めている工房――町工場って感じの建物――に案内され、中を見て回る。確かにデジメンタルが色々とおいてあるな。しかし……ダメだなこれじゃ。彼には悪いが、これでは使えそうもない。
ストライクドラモンやライラモンはへぇという感じで見て回っているが、彼らも使うことはないだろうしマキナも眺めているものの……難しい顔をしている。
「これ、誰が作ったの?」
「師匠や先輩たちですが、どうかなさいましたか?」
「うーん……あんまり言いたくはないんだけど、強度が低すぎない?」
「たしかに進化後の強度にも影響はしますし、強度があるに越したことはないんですが……暴走の危険もありますので、これ以上に硬いデジメンタルなんてとてもとても」
そういえば、デジメンタルって壊れることもあるらしいな。僕が使っていたのは特別製だから壊れはしないが。というかこれだとドルモンも使うことはできない。
プロットモンも首を横に振っているし、クダモンには古代種データがない。
「耐久度が低すぎて、ドルモンたちのデータにデジメンタルが耐えきれない」
「そんなデジモンがいるんですか!?」
チビマメモンは驚いているが、X抗体持ちってのはそれだけの力を持っているのだ。潜在能力を解放されているし。まあ、この時代にはいないけど――いや、いるにはいるのだろうがイグドラシルが保存している存在だけだろう。たぶん。
「X抗体……はい、噂で聞いたことがあります」
「あるの!?」
「まさか、この時代にX抗体があるのか?」
クダモンも驚いているあたり、そんな話なんて知らなかったことだろう。
Xプログラムが万が一の時のための緊急システムなのはわかるが……抗体持ちがデジタルワールド内にいるとは思わなかった。
「闇のエリアの奥深く、グランドラクモンというデジモンがそんな力をもっていると聞いたことがありますが……ぼくも単なる噂話だとばかり」
「――――」
「クダモン? どうかしたの?」
「……なるほど、そういうことか」
その話を聞いたとき、クダモンは何かに合点がいったという感じで頷いていたが、僕たちはさっぱり何だが。
「心配はいらない。私の中では色々と合点がいったが、知っていいことでもない。というより話すことはできないのだ。色々とロイヤルナイツのことにも関わる上にこの世界の根幹にかかわることだ。
ルーチェモンたち七大魔王でさえも手出しはしないだろうな。それに、奴がいるのは別領域――ダゴモンの海のように我々のいるデジタルワールドとは少々異なった位相にいる。出会うこともないだろうな」
「いや、名前からして色々と嫌な予感がするんだが」
「安心しろ――私たちの時代ではもう生きていない」
クダモンはそういうが――もしかして、ロイヤルナイツが何かしたのか?
答えてはくれなさそうだったが、とりあえずその話は記憶の隅にでも置いておいた方がいいのだろう。
「とにかくデジメンタルだ。デジメンタルがないのは痛いところなんだよなぁ……他に何かないか? 試作品でもいいんだけど、とにかく硬いの」
「あるにはありますが……ぼくの作った失敗作ですけど」
そういって、チビマメモンが普段使っている工房の一室に入っていった。色々な工具があり、僕らも物珍しそうに周りを見る。色々と使って自分で作った方が速いかもなこれ。
とにかく、彼が持ってきた失敗作だが……
「誰が使ってもうんともすんともいいませんし、ただ硬いだけの失敗作なんです」
銀色の塊。四角く角ばったそれは無機的な印象をうけるが……
「本当に使えないの?」
「ええ。知り合いに調べてもらいましたが、まともに機能しないといわれまして……」
「……それ、貰ってもいいか?」
「でも失敗作ですよ」
「まあ強度が高いものが欲しかっただけだし、たぶん何とかなるよ」
「?」
…………この子、結構面白いな。まあ、今は他にやることもあるし検証はまたあとになるが。
とりあえずゲーム機を取り出してチビマメモンに見せる。
「これ、直したいんだけどどうにかならないかな?」
「何かの機械でしょうか――な、なんですかこれ!? とんでもない記憶容量を持っていますよ! 一つのエリアをまるまる保存できるレベルの代物じゃないですか!?」
「――――あ」
マキナ達も目を白黒させて驚いている。あと、ドルモンとプロットモンが溜息を吐いたが……ごめん、うっかりしていた。人間界換算で100年近く未来の機械なんだからそりゃスペック差があり過ぎるか……失念していたよ。カノン君うっかりだね。
「うっかりで済ませていい問題でもないと思うよ」
「ホントです」
「あはは……となると、修理は出来なさそうかな」
「たぶん、無理――いえ、というか何らかのデータで変質していますね。このままだと起動できませんけど特殊な電撃データによる進化の様な状態になっています」
「……みんな、何故僕から目をそらすかなー」
わかっている。特殊な電撃データの持ち主なのは分かっている。ポケットに入れたまま気が付かないで戦闘し続けてゲーム機のデータを変質させたのは僕なのはわかっている。
「より強力な電気データと、鋼データがあれば記憶容量を利用したストレージを作れそうですね……い、いえ! いじってみたいとかそういうわけではないです!」
「いや、いいんだよ。直らないなら直らないで――ストレージ?」
「は、はい。これだけの容量とシステムがあれば色々と改造はできると思いますよ。元のデータがわからないので修理はできませんが利用して別の形にはできると思います」
「……そ、その手があったか!」
「えっとどういうことなの?」
「つまり、持ち運びできる倉庫を作れるということだな。これから先、色々とかさ張るであろうし我々にとってはありがたいことだ」
つまり、食糧や色々な物資をゲーム機の中に保存して持ち運べるようになるというわけだ。荷物がかさばらずに大量に持ち運べるようになるので、今後の食糧問題も色々と解決する。
「――――カノンくん、非常に悪いとは思うんだけど……」
「分かっている。切実にそこらへんのことは片づけたい」
というわけで、ゲーム機をベースに改造を施すことになったわけだが、流石に一日やそこらで終らないので工房のマメモンたちとも相談して数日は待つことになった。
ただ、他のマメモンたちがどことなく元気がなさそうなのが気になったが……何かが起きているのか。
◇◇◇◇◇
その日の夜。とりあえず工房に泊まることとなり、みんなが寝静まったのを見計らってから僕は外に出た。工房の屋根の上、神経を研ぎ澄ませて街のデータを感じ取る。
雷のエレメントの力により、僕の能力も強力になった。いや、ブーストされていると言った方が正しいか。雷と鋼のエレメントのおかげで改造の方も問題なく行えそうだし。
「……それに、このデジメンタル」
チビマメモンはまだ自分の真価に気が付いていないだけだろう。それを直接教えてもいいのだが、それでは新たな成長はないかもしれない。
僕にできるのはこの街の問題を片付けることだ。何かが起きているのなら、見過ごすことはできない。
なんてことはない。ただ、困っている人を見たら助けましょう。そんな言葉を実践しているだけだから。マキナは色々と言ってきたが……
「みんなが、その言葉をちゃんと実践できる世界こそが平和な世界ってことなんだろうな……だったら、自分から率先していかないとね」
そこらへんのリスクとかを思っても止まらないあたり、僕はまだ子供ってことなんだろうか。知識だけは色々と飛びぬけている自覚はあるが……まあ、気にしなくていいか。
僕自身が自分を疑ってはいけない。心の思うがままに進むしかないのだ。
だからこそ、まずはこの街を知らなくてはいけない。見てわかる光景ではなく、データでとらえたこの街を。
「――――やっぱり、リソースが不自然に流れ出ている」
ストライクドラモンたちの故郷と同じだ。バランスが意図的に崩されている。暗黒のデータではなく、流れ出ているということは……誰かが暗躍している。
それとデジヴァイスの地図データには無いが、この街で売られている地図に書き加えられている街を考えると……いや、余計な先入観は持たない方がいいかもしれない。
「……明日は、荒れるかもなぁ」
とりあえず今日はもう寝て、備えておこう。
もしかしたらまた激闘が始まるかもしれないし。
この予感は、ほどなくして現実のものとなる。
苦々しい記憶と共に、僕の前に現れて。
アプモン、サイバーアリーナをちょっとプレイしましたが……ああ、旧来のデジモンと関係してそうな奴らがちらほらと。
しかもハックモンも単なる名前被りじゃなくて2Pカラーみたいな感じだったのね。合体後は顔同じじゃねぇかよオイ。
ミラーモンとかまんま小さいエンシェントワイズモンだしなぁ……