デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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今後の展開的にも色々と考えていた結果、時間も余計にかかってしまいました。
後半部分なんて予約してから書き直したよ……


104.今は知らずとも

 雷の神殿を出発してから1週間ほどのこと。

 まあ、何もないわ荒野が続いて疲れるなぁという感じに進んでいたのだが、今僕たちは――洗車しています。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「しかし、何をどうしたらこんなことになるんかねぇ」

「すいません、わざわざ手伝ってもらっちゃって」

「別に大丈夫ですよ。困ったときはお互いさまですし!」

 

 荒野を歩いていると、地面に線路を見つけたのだ。

 ライラモンたちにも確認したことで、これがロコモンの線路であることがわかり線路沿いに進むこととなった。目的地の火の神殿までしばらくかかるので途中の駅がある町で補給をしようと考えてのことだったんだけど……まさかその途中で、錆だらけで横たわるロコモン本人を見つけるとは思わなかった。

 何よりも驚いたのはロコモンにまだ意識があったことだ。マシーン型のためスリープ状態で助けが来るのを待っていたらしい。

 で、起こしてあげて彼の体を修理しているというわけだ。あと、外装の掃除。

 

「でもなんで倒れていたのさ」

「私もよく覚えていないんですよ。何か大きな爆発があったようなことは覚えているのですが……スリープしていた影響なのか記憶データに破損があるみたいで」

「ルーチェモンの野郎の仕業か?」

「本人じゃなくて部下だろうけど……可能性はあるかな」

「いえ、皆さんに伝説の存在がよみがえったとお聞きしましたが私が倒れたころはそれよりももっと前です」

 

 たしかに。パンジャモンの話も合わせて考えるならばロコモンはもっと前にここで脱線したことになる。となると別のデジモンなのか?

 ロコモンはあまり覚えていないと言ったが、どうやら人型ではあったのは覚えているらしい。候補が多いためどうにも判断はつかないが。

 

「まあ、旅の途中で何かわかるかもしれないな」

「よーし、ツタの準備できたよー」

 

 ライラモンが準備してくれていたものが終わったようだ。

 ロコモンにツタを撒きつけて、線路に戻すためのロープを作ってもらっていた。適切な位置に支店となる木を添えており、少ない人数でも何とか起こせるようにしたが……厳しかったらグレイドモンあたりの力が必要になりそうだ。

 

「完全体って結構疲れるんだけど」

「そう言うなって。それに、ロコモンの協力があれば火の神殿までの道のりが大幅に短縮できるよ」

「それもそうだけどね」

 

 線路は一部欠落しているらしく、復旧するには時間がかかるそうだが火の神殿に一番近い町――この時代においての唯一にして、大きさとしても最大の町である機械都市にまで線路はつながっているらしい。

 とりあえずロコモンにはそこまで乗せていってもらえることとなった。

 

「6つ目の神殿までは時間がかかりそうだけど……とにかく、機械都市って聞いてワクワクしないか?」

「うわぁ……カノンが久々に目を輝かせているよ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 カノンたちがロコモンの修理と洗浄を行っているころ、この世界の各地で新たな動きが起こりつつあった。行動を起こしているのはカノンたちだけではない。

 ルーチェモンの軍勢も、他にも様々な存在が動き出している。

 

「ガアアアアアアアア!?」

 

 ここに一人――カノンたちに敗れたデビモンも、さらなる強さを手に入れるために自らの体を改造していた。データを無理やりいじるということは、デジモンにとっても多大な苦痛を伴う行為だ。ドルモンやマシーン型デジモンなどのように初めから改造できる機構を持っていないのならば、どうなるか。

 

「私は――わた、ワダッ。ギガガッガ、削除。コマンドプログラムAからRまでのデータのさく、さくさくさくさくさくさくさく――、」

 

 ガクリと体の動きがとまり、デビモンの色が変色する。その光景を見ていた一体のデジモンはつまらなそうに一瞥し、その場を離れた。

 改造自体は成功したが、これでは意識は残っていないだろう。ただの妬みや恨みだけでは強くはなれない。それを受け入れるか、乗り越えるか。はたまたより強い感情で吞み込むか。どのような形であってもデビモンの様な小物では土台無理な話だったか。

 

「まったくもって、度し難いことだ」

「そうは言うけどねぇ、メタリフェクワガーモン。強力な暗黒データによる改造を受けて自我を保てるデジモンなんてそう多くはないのよ」

「ブロッサモンか……それは分かっている。だが、ザンバモンがいなくなった今、我々も戦力を増強せねばならん。進軍中の軍はどうなった?」

「いつもの通り。ナイトモンの奴にやられたみたいよ」

「やはりか……光の神殿、殿下の力を取り戻すには件の神殿を狙うのが一番なのであるが、やはり一筋縄ではいかないか」

「そうねぇ…………あとは、デビモンが戦ったっていう彼ら、どうする?」

 

 その言葉にメタリフェクワガーモンは思案するように言葉を止める。

 彼らはルーチェモンの配下の中でもいわば将軍に位置する存在。完全体のデジモンであり、暗黒の力を受け入れつつ自我を保ったデジモンたちだ。

 そしてメタリフェクワガーモンが決断を下した。

 

「彼らが次に向かうのはおそらく火の神殿だ。ならば、機械都市に立ち寄るだろう」

「あら? そこで決戦?」

「いやそれはマズイ。あの都市で暗黒の力を使いすぎると我々にも不都合があるかもしれない。そういったリスクは避けるべきだ。ならばこそ、協力者に頼もうではないか」

「協力者って……もしかしてアイツ? アタシ、アイツ嫌いよ」

「案ずるな。わかっている。それに私自身も出る。準備を整えておいてな」

「……なるほど、そういう事ね。まったくあくどいことを考えるわね」

「褒め言葉として受け取っておこう。これも戦略の内だ」

「はいはい。だったらアタシは他の神殿の封印を解くために動くわ。アイツらが通った後なら手薄だろうし」

「それが良いだろう。氷の神殿の攻略はどうなっている?」

「それこそいつも通りよ。あそこ手ごわいわね。とりあえず、あのデジモンを動かすことにはなったそうだけど……やっぱりデータ量が大きすぎるわね。しばらくかかるわ」

「そうか……ではな、そちらは頼むぞ」

「ええ。またね」

「…………ああ、また、な」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ウチたちがロコモンの修理を終えたのは、日も沈んで星が空に浮かび始めた頃だった。実に大変だったけど、こうしてみんなで何かするっては純粋に楽しいとも思う。まあ、ちょっと不謹慎かもだけど。

 それにしてもカノンくんはなんで困った人がいるとここまで何とかしようと頑張ってしまうのか。ウチも助けられた人だから、あまり強くは言えないけど……

 

「ねえ、カノンくん。どうしてここまで頑張るの?」

 

 安全のため一旦今日はロコモンの車両の中で眠ることとなった。久々に屋根のある寝床で安心感もあったのかみんな寝てしまったけど、カノンくんとウチはまだ起きていた。

 それで、今まで気になっていたことを聞いたのだが……カノンくん、何のことだって感じでわかっていない。

 

「困っている人がいたら、すぐに助けようとするじゃない……どうしてかなって」

「ああ。そのことか……」

 

 カノンくんはそういうと、頬をポリポリとかいて言いにくそうに淀んで口を閉じる。でも何か言葉にしようとしてはいるみたいで、あーでもないこーでもないと首をひねっていた。

 

「……ごめん、やっぱりわかんねぇや」

「わからない?」

「うん。結局、その時になって体が勝手に動いているんだ……でも、一つだけ覚えていることがある。何もしないで取りこぼしていた方がよっぽどつらいし、それにな……マキナ。お前がいてくれたから僕は迷わずに済んだんだ」

「ウチが?」

「あの時、ありがとうって言ってくれたから僕はどんなにつらくても、闇に囚われようとしても前に進めるんだ。そうやって、前に進むことでつかめるものがあるって気が付かせてくれたから、僕はここにいるんだ」

 

 そう言って、カノンくんはウチの手を握ってきた。

 ……臆面もなく恥ずかしいことを言う人だ。っていうか顔が熱い。ウチ、どうしちゃったのかな?

 

「……」

「マキナ?」

「ううん。何でもない……おやすみ!」

 

 それだけ言って、ウチはカノンくんの顔を見ないように横になった。

 今は、彼の顔を見ることが出来ない。今日のウチはどうかしているんだ。だから、落ち着くまで寝てなくちゃ。

 その感情をなんていうのか、この時のウチはまだ知らなかった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌日、最終調整を済ませて出発した。機械都市までは長い道のりになるらしく車内で揺られながらのんびりと汽車の旅となる。

 ロコモンでも機械都市までは数日かかるため車内で寝泊まりの日々が続いていた。

 

 そして、今日は駅のある機械都市に到着する日だ。

 機械都市の次の目的地、火の神殿にいるのはエンシェントグレイモン……ストライクドラモンたちも彼の伝説に聞く強さは相当なものだと言っていたし、試練もおそらくは直接戦闘になるだろう。というより、それ以外に思いつかないというのが正解だ。

 

「ねえカノン、先に機械都市を通らないといけないんだし、それはまたあとで考えればいいんじゃないの?」

「確かにそうだよな。デジメンタルの調達とかも考えないと」

 

 あと、ゲーム機の修理ができないかも試さないと。

 でも一つ気になることも。ドルモン、なんで拗ねた感じなんだ。

 

「そっぽ向いてどうしたんだよ」

「別に。ただ、ちょっと思うところがあるだけだから」

 

 そういうと、ドルモンは後ろの方へ行ってしまった。今は問い詰めない方がいい、か。こういう時のアイツは一人にするべきだ。口に出した方がすっきりすることもあるが、自問自答でしか解決できない時もある。そういう時はアイツ、大概が静かな感じになるし。

 

「……それに、こっちの問題もあったか」

 

 昨晩からマキナが目を会せようとしない。あの会話が原因なんだろうけど、何故ここまで避けるのか。

 クダモンがぽんと肩にてを当ててきたが……何の意味があるんだそれに。

 

「日々成長だ、カノン」

「なんかムカつくんだが……」

「なに。私たちデジモンには本来わからない事柄だからな。お前たちで解決するしかないことだ。いつかきっと、わかる時が来る」

「だから何の話だって……」

 

 結局、その話はそれ以上することはなかった。

 何なんだよと思いつつ、それらの問題が解決するのは大分先になる。少なくとも、これから先向かう機械都市では別の問題が発生することとなってしまう。今の僕たちには知りようもなかったことだが――それ以上に、驚きもあったし。

 

「――――うわああ!? でけぇ!!」

 

 機械都市、それは巨大なドーム型の街だった。

 僕の言葉につられてみんなが窓からその街を見るが……大分離れているのにもう見えてきたという時点で巨大さが伝わってきた。

 距離にしてどれくらい離れているかはわからないが、あと数時間もかかるらしい。

 

「どんだけ大きいのよ……」

「歩いて行ったらそれなりの時間がかかるな。ロコモンだから数時間で済んでいるのだ。迷わないようにしないと大変だな、あの大きさは」

「でもなんていうか、SFチックな見た目だよな……」

 

 現代のデジタルワールドはまだ現実味があったが……古代だからか?

 とにかく、ようやく到着したのだ。

 

 

 

 今だ問題は多く、先行きもまだ不安定。

 敵も味方も思惑入り乱れた混乱模様。

 それでも、一つ一つ前へと進んでいた。

 未来がどうなるかは、僕たちの手にゆだねられている。その真の意味はいまだ分からずとも、前へ。

 

 




というわけで、名前だけは出していた機械都市にようやく入りました。

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