デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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活動報告にカノンとドルモンのキャラ設定を少し載せました。


103.雷撃の試練

 オオクワモンやスナイモンとの激闘から早数日。その後は特に目立った出来事もなく無事に雷の神殿へたどり着くことが出来た。

 大きな岩をそのままくりぬいて作られたような神殿で、ギリシャに行けば似たような神殿は見られるかもしれないといった感じの見た目だ。例によって大きな扉が一つ見えているわけだが……

 

「なかなかに重そうな扉だよなぁ」

「だね」

 

 デジメンタルが起動し、扉の封印は解除してくれたが……手で押さなければいけないんだろうなぁ。とりあえず、全員で思いっきり押してみるが――ヤバい、少しずつだけ動いていく。これ、結構時間かかるぞ。

 

「扉を開けるのも試練の内ってことなの!?」

「たぶんな……これ、ガチ系の試練がまっているんだろうなぁ」

 

 汗を噴き出しながら、全員で扉を開けるのに要した時間30分。全員が通れる隙間だけ開けるのにこれだけかかるとか……とりあえず中に入ると、それを見越したのかガコンと扉が閉まる。

 その様子をみてマキナとライラモンが涙目になっているが……気持ちはわかるが、前に進まなくてはいけない。とりあえず足取りが重くなるのを感じて暗闇の中を突き進む。

 

「雷の神殿、なかなかにハードな予感がするなぁ」

 

 愚痴っていても仕方がないので歩みは止めないが、嫌な予感というのはよく当たるもので開けた場所に出たとき、中央に強大な気配を持ったデジモンが座しているのが見えた。

 静かに佇んではいるものの、一歩を踏み出すのをためらうほどに強大な力を放っているのがわかる。

 

「――――よくぞ参られた、世界を救いし意思を持つ者たちよ」

 

 エンシェントビートモン。雷の十闘士、そしてやはりというべきかカブテリモンやクワガーモンなどの昆虫系デジモンの祖。光子郎さんのテントモンの進化系のデータや、この一帯のデジモンの感じから考えて昆虫系とはあたりをつけていたが……想像以上の力を内包している。

 

「我が預かりしは雷の力。強大な力の塊を御する術を持っているか、見定めさせてもらおう」

「つまり、力のコントロールを示せってことか?」

「いかにも。故に、我に挑め。それがここでの試練なり」

 

 究極体と戦えってことか――デジヴァイスを握りしめ、臨戦態勢を整える。別に、倒すことが勝利条件ではない。ここで示すべきは自分の力をどれだけ把握しているかってことだろう。だったら、全力で挑んで――と、考えていたところ、エンシェントビートモンはさらに言葉をつづけた。

 

「だたし、我に挑む者は成熟期までとする!」

「なっ――!?」

「可能性を示せ! ただ力のみを示すのではない。その可能性を示すのだ!」

「う、うそでしょ!? 究極体相手に成熟期のデジモンだけで戦えっていうの!?」

 

 マキナが驚いている通り、あまりにも無茶な試練だ。それも十闘士相手に……通常の究極体とは一線を画す力を持っているんだぞ。それこそ、全力なら一体一体がオメガモンクラスの存在だ。

 この試練ではライラモンは参加できないし、マキナはエンシェントビートモンの気に当てられたのか足が震えている。プロットモンは防御能力は高いが……ちょっと厳しいか。

 

「……ドルモン、行けそうか?」

「ちょっと難しい。おれは進化しないと力も上がらないし、それに……たぶん相性悪い」

 

 たしかに、ドルモンの能力では相性が悪い。せめてアーマー進化が出来ればサンダーバーモンと僕の電撃の合わせ技でエンシェントビートモンの攻撃をそらすことは出来そうだったのだが……となると、控えてもらう方がいいか。

 

「なら、ドルモンは他のみんなを頼む。マキナがあの状態じゃクダモンも戦えそうにないしな」

「すまないが私は最初からパスさせてもらうよ。十闘士相手じゃ私では歯が立ちそうにない」

「別に勝つ必要があるわけでもなさそうだけど――仕方がない、僕がいくしかないか」

 

 体をほぐし、エンシェントビートモンの前へ出ようとして、横にもう一人歩いてきた。

 ストライクドラモンが肩を回しながら少しけだるそうにしている。

 

「悪いが、俺も挑戦させてもらうぜ――ここで黙って見ているわけにもいかねぇよ。俺なら成熟期だから条件にも当てはまる」

「下手したら、消し飛ぶぞ」

「上等! 分厚すぎる壁だが、挑戦しねぇ理由にはならねぇよ!」

「なら、遅れんなよ!」

 

 体の力を解放し、一気に加速する。ストライクドラモンも最初から青い炎を纏って突撃していった。

 いざとなったらバーストモードを使用するしかないが、まずは相手の能力を分析しなくてはいけない。

 見た目はあらゆる昆虫のパーツを組み合わせたようなものだ。カブトムシ、クワガタムシ、カマキリなど。ケンタウルス状の体で、下半身はクワガタの顎がついているが、蜘蛛のようにも見える。

 背中にはいくつもの羽が生えており、それを使って高速で飛行してきて――

 

「考えるのもよいが、判断を見誤らないことだ!」

「緊急防壁ッ!」

 

 いくつもの防御魔法を瞬時に展開し、鎌を防ぐ。しかしまるでバターのようにたやすく防壁は切り裂かれていきすぐに攻撃が到達しそうになっていた。

 

「速度強化、視覚強化、肉体強化」

 

 一瞬一瞬を油断できない。ストライクドラモンの腕をつかみ、エンシェントビートモンの攻撃をかわす。恐ろしいのは一撃必殺級の攻撃がラッシュで来ることだ。単なる鎌としてだけでなく、槍のように刺突しても来る。

 

「――なっ!? 速すぎんだろ!!」

「それが十闘士の実力ってことだろう……」

 

 そして、こんなのが十体も必要だったルーチェモンはどれほどの化け物だというのか。

 

「少々の誤解があるようだから言っておくが、単純な攻撃性能なら私は十闘士でもトップクラスだ。もっとも、光、闇、火の三者は規格外だがな。あとはパワーだけなら土がトップだったか?」

 

 確かにパワー型の見た目をしていたな……あれと直接戦うことがなくなってよかったと思うべきか?

 

「それと、ルーチェモンも我らが戦ったときは成長期のデジモンだった――――この意味が分かるか、少年たちよ。すでに力を極めた我らではなく、未来ある君たちでなくては奴を倒すことはできん」

「――――ッ」

 

 改めて言われた事実が重い。それに、僕は七大魔王のルーチェモンがどのような存在だったか、断片的であるが情報を持っていた。

 そう、十闘士が戦ったルーチェモンはまだ成長期。そして七大魔王と呼ばれる存在は――完全体。

 今更ながらにこの時代でするべきことの果てしなさを重く感じる。

 

「だけど、立ち止まるわけにはいかないんだ」

 

 エンシェントビートモンの分析は終わった。彼の体を構成するコードは解析できている。悔しいが今の僕じゃ勝ち目はない。雷の属性であるがゆえに最上位に位置する彼とは絶望的に相性が悪い。

 だが、それは一人で戦った場合だ。

 

「合わせろよストライクドラモン――じゃないと、一瞬でおわるぞ」

「上等だッ! テメェこそ遅れんじゃねぇぞ!」

 

 身体強化魔法を全種発動し、一気に加速する。それに合わせストライクドラモンも炎の勢いを強くし、僕に追従した。チャンスは少ない。砂漠の中から米粒一つ探し出すような苦行だ。本当にわずかな隙を見出し、そこに全力を注ぐしかない。

 針の穴を通す慎重さを求められながら、巨大な岩を破壊するパワフルさを同時に求められる試練。

 

「それでこそだ! 運命に導かれしものたちよ!」

「運命とか関係ねぇんだよ! 俺は自分が信じた通りの道を進む!」

「その意気やよし――喰らえ、我が雷!」

 

 ストライクドラモンがエンシェントビートモンの放つ雷撃の中を突き進む。一度でも当たれば危険な技だ。これでも大分手加減しているのがわかる。雷撃の雨の中、ストライクドラモンがそのポテンシャルをフルに使い攻撃をかわす。

 僕も前へと突き進んでいるが彼の方が少し速い。

 

「――ッ!」

 

 その爪がエンシェントビートモンへと迫り――ぐるりと、その体が回転して攻撃が空振りに終わる。

 

「なに!?」

「昆虫型デジモンは巨体に進化する傾向が強いが、それでいて身のこなしも軽い。我も同じ特性を持っているのだ!」

「だけど、それは空中機動があるからだ!」

「――!?」

 

 確かにこの場はストライクドラモンの方が速い。だが、本来は僕の方が速い。属性というのは能力にある程度の影響を及ぼす。雷の特徴は強大なエネルギーもそうだが、総じて素早いものが多い。

 雷を身にまとい、速度を高める。僕が最初に習得したのは雷の魔法――そして、そこから派生した身体強化魔法だ。他の技なんかに比べて年季が違う。

 

「こちとら幼稚園児の時から使い込んどるんじゃぁああ!!」

 

 拳を振り抜き、エンシェントビートモンの頭部を殴り飛ばす。流石にほとんどダメージは与えられなかったが、さらに隙を生み出すことはできた。

 すぐに反撃が来るが――迫りくる鎌の横っ腹にストライクドラモンの爪がぶつかる。

 

「――ほう、なかなかのスピードだ」

「ッ、とんでもなく硬いぞ!!」

「クロンデジゾイド並みみたいだからな! そりゃ硬いだろうよ」

 

 両腕を横に突き出し、手のひらに球体の光が出現する。

 ストライクドラモンが何をする気だというような視線を向けるが、僕はそれを封殺した。

 

「いいから動き続けてくれ! 一瞬一瞬の判断で動かないといけないんだ! こっちも説明できない!」

「わかった――しっかり合わせやがれよ!」

「そっちこそ、驚いて思考停止すんなよ!」

 

 ストライクドラモンの動きがさらに上がる。炎の色は白に変わり、エンシェントビートモンの雷撃をわずかだがはじくまでになった。

 一定密度のエネルギーなら、あの攻撃も弾けるのか。だったら……

 

「コード・エイリアス&バーストモード!」

 

 分身体を二体作り出し、さらに自身はバーストモードへと移行する。分身体はそれぞれ光と闇の属性の魔力を身にまとい、特攻を仕掛けた。

 ストライクドラモンがそれを見て一歩下がりエンシェントビートモンが追撃する。

 

「ハァ!!」

「――――よし」

「ッ!?」

 

 だけどそれが狙いだ。光と闇の力の解放により、対象を捕える技ケイオスフィールドが発動した。

 十闘士相手だと本当にわずかな時間しか持ちそうにないが――それさえあれば十分だ。この技を決めるだけの時間さえ稼げれば。

 僕自身は風を生み出す。バーストモードで高めた力をただこの一撃に。

 

「ストライクドラモン、しっかり決めろよ!」

「ああ――全力で行くぜ!」

 

 強力な竜巻を前方に放ち、エンシェントビートモンへと直撃する。しかし、それだけでは不十分だ。でもこの風の意図は攻撃だけではない。これは道なのだ。

 風の道をストライクドラモンが炎の塊となって突き進む。風の力により炎がさらに強大になり、巨大な龍の顎の様な一撃がエンシェントビートモンへと突き刺さる。

 直後に、轟音があたりに鳴り響く。爆風と衝撃が空間を揺らして一瞬だけ意識が飛ぶ。

 

「――」

 

 それでも踏ん張り、なんとかその場に立ち続ける。

 さて、次はどうする――なんて考えていると爆風が一気に晴れていき中からエンシェントビートモンが姿を現した。傷が無いように見えるが……これ、失敗したか?

 

「……ふむ、合格だ!」

「え……ご、合格?」

「ああ。我が試練はただ単に戦うだけではない。汝らが自らの力をどれだけ理解し、極限状態で引き出せるかを見るためのモノ。制限をかけたのは時にはそんなこともあるだろう、限られた手札を最大限有効活用できなければ強大な力を持ったとしても使いこなすことはできない」

 

 エンシェントビートモンの姿が薄れていき、目の前に雷のエレメントが現れる。そして、僕の内からデジメンタルが飛び出してエレメントを格納した。

 再びデジメンタルは僕の中へと戻っていったが――これで、雷の神殿の試練は終わったのか。

 煙も完全に晴れてストライクドラモンがふらふらと戻ってくるが……煤だらけになっている。

 

「お、終わったか……」

「うん。これでエレメントは5つ。折り返しだね」

「先は長そうだな」

 

 本当に。とりあえずみんなを回収して外へ出よう。そう思った矢先だ。直後に周囲を強い光が照らしあまりの眩しさに目を閉じる。

 すると、いつの間にか神殿の外へと出ていた。

 マキナ達も近くにおり、何が起こったのかときょろきょろとしていたが……

 

「試練も終わったから、外に出したみたいだね。流石にあの重い扉をもう一度開けろなんてことにならなくて良かったけど」

「まぁな」

「でも、これでようやく半分なんだよね。次はどの神殿?」

「えっと……近いのは火の神殿だな」

 

 近いとは言っても大分距離があるが。他の神殿に比べれば近いというだけだ。

 まだ先は長そうである。

 




ちょっとした番外編を計画中。
連載形式じゃなくて短編的な感じでカノンが別作品の高校に通う姿をやる感じの作品。

本編のネタバレは極力なしで行くつもりで、別枠で本編がドシリアスの時の息抜き程度にやる予定。

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