デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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101.乱戦! 乱戦! 乱戦!!

 木のエレメントを入手して、翌日の朝。

 すでに日は登ったが森の奥はまだ薄暗い。というより、木々が生い茂っているため常に薄暗い。夜になるとかなり危険だな。というわけで、日が昇って時間に余裕を持たせてぬけることにしたわけなのだが、デジモンたちの咆哮も少し聞こえてくるあたり、危険度はそれなりか。

 

「大丈夫なの、これ」

「わからん。木のエレメントのおかげで森の力を借りれそうだけど……地形的には不利なんだよなぁ」

 

 あんまり無茶なことはできないし、場所が狭いと戦いにくい。炎系の攻撃を使うストライクドラモンは周りを燃やしかねないし、ドルモンの進化も狭い場所には不向き。プロットモンも防御能力は高くなったが、攻撃には向かない。

 クダモンの進化も高速戦闘向きで、スピードを活かせない状況になると厳しいものがあるらしい。マキナは何とか戦えそうだが、狭いと狙いをつけにくいだろうし……

 

「ライラモンと僕で迎撃しつつの逃げの一手だな。無駄な戦闘は避けるべきだ」

「それしかないみたいよねぇ……毒の粉撒きながら進んでみる?」

 

 いや、無用な戦いは避ける方針だからね。敵を作るやり方はやめよう。

 

 

 

 そんなことを言っていたのが、1時間ほど前のことである。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「うわああ!? 数が、数が多い!」

 

 なんというか、案の定というか……虫系デジモンの大群が現れて、襲われた次第である。

 クワガーモンにフライモン、ドクグモンに他にも色々。ほとんどがウィルス種だ。ワクチンはいない。

 

「なんでこうなっているのかなぁ!」

「クソッ、本能がうずきやがる……こうウィルス種ばかりだと力を解放しそうになっちまうぞ!」

「耐えろストライクドラモン! ドルガモンが迎撃してくれているから道を開いたら前に進むぞ」

 

 最初のうちはなんとかやり過ごしたり、木のエレメントを使って樹液データで気をそらしたりなどとやっていたのだが……予想を裏切ってくれたのは、デジモンたちの数だった。

 合計で100体はいるんじゃないかというほどの大群。流石に全部を相手していられないので、ライラモンの毒の粉を使ったり、目くらましやバグ化魔法を使ってやり過ごしていたのだが……数が多すぎた。むしろどんどん増えてきていやがる。

 

「うへぇ……ライラモンさんは、もうダメデース」

「しっかりしろ。まだ来るぞ」

「もういやぁ」

 

 ライラモンはすっかり体力を使い果たしてしまい、クダモンが進化したレッパモンの背に乗っている。この状況では体力を使うのは危険なため、僕もマキナもドルモンとクダモンを成熟期までにしか進化させていない。

 スピードを出せる状況ではないため、遠距離攻撃の可能なドルガモンの方が有効と判断したのだが……

 

「数が多すぎるよ! 一気に蹴散らせないの!?」

「森を壊すわけにはいかないっての! 僕たちが世界を壊してどうすんだよ!」

「前に爆撃やったじゃないか!」

「ちゃんと被害が出ないように計算しとるわ!!」

 

 前に使った爆撃は開けた場所だからやったのであって、周辺に被害は出していない。

 今回の場合は、森の中のため一体一体対処しているんだが……ダメだ。こういう状況に僕らは相性が悪い。

 僕が一体を殴り飛ばせば、次の二体が現れる。ストライクドラモンが突っ込んできて蹴り飛ばしてさらに増える。それを魔法剣で切りとばせばあらたに――ってもういいわ!

 

「仕方がない。みんな固まっていてくれ。プロットモン、全力で防御!」

「わかったです!」

 

 プロットモンのホーリーリングが強く輝き、光のバリアーを展開する。全員がその中に入ったことを確認し、マキナに合図する。

 すぐに僕の意図を組んでくれて、マキナは闇の魔力を放出した。

 

「いくよ、カノンくん!」

「おう!」

 

 何度も使っている光と闇の融合技。いつもは僕一人で使用していたが、それでは負担も大きいため自身の属性に目覚めたマキナと共に調整しながら完成させたのが、この技だ。

 僕が放出した光の魔力とマキナの闇の魔力が混ざり合い、周囲へとはじめとぶ。そして、バリアーに包まれていたみんなと僕ら以外のデジモンたちが混ざり合った混沌のエネルギーにからめとられていった。

 

「ケイオスフィールド、バージョン2!」

「範囲は絶大よ」

 

 今まで一人で使っていた時以上にエネルギーを込められるので効果範囲も格段に広がった。その分、近くに味方がいると使いにくいのだが、プロットモンのバリアーで何とかその問題もクリアした。

 デジモンたちが麻痺したかのように落ちていき、痙攣しだす。一応調整したからダメージはないのだが、しばらくはその状態が続くだろう。

 もう一つの欠点としては一気に体力を消耗することだが。

 

「ぷはぁ……さすがに一日一発が限度か」

「結構疲れるね、これ」

「だがこれで先へ進める。こいつらが動き出す前に急ぐぞ」

「オーライ。まったく厄介な連中だよな」

 

 クワガーモン系って理性とんでいるの多いから、結構しつこいんだよな。

 願わくばこのまま無事に森を出たいところだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 なんて、考えたのがいけなかったのだろうか。30分後、目の前に新たなデジモンが現れた。

 怒涛の展開なんて言えば聞こえはいいかもしれないが、流石にもう限界である。

 

「ガアアアア!!」

「今度はオオクワモンか!」

「もういやぁ!!」

「ドルガモン、まだ行けるか?」

「ゴメン――もう無理」

 

 その言葉通りに、ドルガモンはすぐにドルモンへ退化してしまう。レッパモンもクダモンに退化してしまい、背に乗せていたライラモンが地面に落ちた。

 

「げふぅ……ダメ、私もういや」

「嫌なのは皆同じだ、そして早くどいてくれ……重い」

 

 後ろからは怒り狂ったクワガーモンが迫ってきている。いやぁ、この森の虫系は強いね。蟲毒みたいな感じで強い個体だけが残っていっているのかもしれない。それでもこの数ってどういうことだオイ。

 

「カノンくん、現実逃避していないで何とかして!」

「無茶言うな! こちとら一番動いてんだよ!」

 

 魔力もほとんど残っていないし、体力も限界近いぞ!

 虎の子の進化を使うか? だけど制御しないとどんな姿になるかわからないし、パンダモンになるとほとんど魔法使えないんだよなぁ……魔力も残っていないとはいえ、全く使えないほどではないから麻痺でワンチャンあるアイギオモンの方がまだマシだ。

 

「せめて、メタルグレイモンみたいな特徴を残したままの進化なら……って、どうしたんだストライクドラモン」

 

 なぜかさっきから黙っていたストライクドラモンが妙に気になった。

 静かにし続けているので、どうにもおかしいと思ったのだが……

 

「グルウウアアアアアア!!」

「やばい、ウィルス種に囲まれ続けたせいでタガが外れちゃったんだ!」

 

 ライラモンの言う通り、ストライクドラモンが暴走状態に入ったのだ。

 唸り声をあげて、オオクワモンにとびかかる――その様子に、周囲のデジモンたちも呼応してとび上がってきた。再び現れる虫系デジモンの大群。これはマズイかとなけなしの魔力をひねり出そうとして――ゾクリと、嫌な気配を感じた。

 狙われているのは僕ではない。ほとんど、周囲の虫型デジモンに狙いが定まっている。だが、この視線――マキナへと続いていて、嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

「――ッ、伏せろ!」

「ふぇ!?」

 

 マキナの頭を地面に抑えつけ、防御術式を起動する。もしもの時のために一回分だけ用意しておいてよかった。気休め程度にしかならないが、謎の気配は周囲のウィルス種たちだけを狙って降下してきた。その一瞬で、両手の鎌を使いデジモンたちを切り刻む。必殺とも取れる一撃だが、数が多い故に急所を確実に狙ったものであり、なおかつ威力自体は小さい。

 

「ッ、何者だ!」

 

 なんとか防御できたが次はどうなるかわからない。それに、自前の硬さでオオクワモンはまだ生きている。他にもなんとか回避できたデジモンたちはいるが……あの一瞬で、たくさんのデジモンたちが殺された。残ったデジモンたちはオオクワモンを除き、一目散に逃げだしていってしまっている。

 そして木々も切り倒されており、彼を中心にまるでクレーターのようになっていた。

 

「――――ウィルス、排除」

「成熟期……スナイモン」

 

 そして、前に聞いた話が脳裏によぎった。

 ウィルスハンター、確かにスナイモンにはそういう性質があったよな……だけど、ここまでの強さのスナイモンなんて僕は知らない。

 ライラモンがスナイモン? といった反応をしており初めて名前を聞いたようだったが……

 

「まさかコイツ、原種なのか!?」

「ウィルス、殺す!!」

 

 マキナに向かって飛んできたそいつを残った魔力を全てつぎ込んだ魔法剣を使い、食い止める。

 原種。便宜上僕がそう呼んでいるだけで、実際のところなんと呼称されているのかは知らないが――ひとつの種として、最初に現れたデジモンのことをそう呼んでいる。

 たとえるなら世界で最初に現れたグレイモンならそいつを原種と呼んでいる。最初に進化した個体が現れると、デジタルワールドのサーバーにそのデジモンの情報が記録され、他のデジモンもそのデジモンへの進化が可能になる、といった具合だ。

 最初故にその個体は後から続いたものよりも強力な場合が多い。それもそのはずだ。今までなかった進化を生み出した存在だ。強いに決まっている……まあ、汚物系とかは例外かもしれないが。

 ちなみにドルモンの進化が厳しいものになったのは、このサーバーにデータがないからというのもある。”ドルモン”のデータはあるようなのだが、成熟期以後がなかったみたいだ。

 

「シャドウ・シックル!」

「魔法剣、グレイダルファー! 電力、最大!!」

 

 奴の鎌と僕の剣がぶつかり合い、周囲にエネルギーの余波をまき散らす。

 後ろでは、オオクワモンとストライクドラモンが戦っているが……どうする? あいつの暴走も止めないといけないし、スナイモンを相手し続けるってのも得策ではない。

 何とかストライクドラモンの暴走を食い止めつつ、この厄介なデジモンを相手する方法――ひとつ思いついたが、ネックは僕のエネルギー量。

 

「なら、ウチの力受け取って!!」

「ついでだ! おれの分も渡すぞ!」

 

 そういって、マキナが展開した魔法陣から僕に向かって光の球が二つ、飛び込んできた。マキナとドルモンのエネルギー。マキナが膝をつき、ドルモンがドドモンにまで退化してしまう。

 だけどおかげで何とかできそうだ!

 

「いくぞぉ!!」

 

 迫るスナイモンに、魔法剣を炸裂させ一時的にでも麻痺状態にする。体を無理やりにでも動かし、前へと突き進もうとするその執念はすさまじいものを感じるが、マキナをやらせるつもりはない。

 おとなしくオオクワモンに向かってくれたのなら良かったのだが、ウィルス種相手に見境なく遅いかかるこいつを野放しにもできなかった。

 麻痺している少しの間にオオクワモンとストライクドラモンの戦いに割って入り、両者を蹴り飛ばす。地面に激突したストライクドラモンはすぐに起き上がり、僕に向かって怒鳴りつけてきた。

 

「てめぇ、何しやがる!」

「そっちこそ、目は覚めたか?」

「ッ、悪い……意識飛んでた」

「覚めたならもういい。ストライクドラモン、お前はそっちのスナイモンを頼む」

「――ワクチン種にみえるが」

「ある意味でお前の同類だよ」

 

 僕がそういうと、ストライクドラモンは何かを感じ取ったのか、ああと頷いた。

 両者ともにウィルス種を殲滅する本能を持つデジモン。そのシンパシーゆえか、ストライクドラモンはスナイモンを痛ましそうに見つめる。

 

「…………俺も、ああなっていたのかもしれないな」

「…………感傷に浸るのは後だ。まずは、この窮地を脱するぞ」

「分かった!」

 

 ストライクドラモンがスナイモンに向かって飛びかかり、同時にスナイモンが動き出す。

 僕は反対にオオクワモンにとびかかり、硬い身体を崩すように拳をぶつけていった。

 だけども奴も強力な力を持っており、鉄の塊を殴っているような感覚さえしているのだ。

 

「コイツ、硬すぎるだろッ」

 

 何度もその大きな鋏で挟まれそうになるが、なんとか回避する。この個体、僕らの時代にいる奴よりも強いんじゃないのか?

 基本的に過去の方が弱い法則があるのだが……それは全体を通してみた場合だ。より過酷な環境もあるため、場合によっては強いこともあるのだろう。

 

「この場合はうれしくないけどね」

「ガアアア!!」

「ああもう、こうなったら進化しかないけど……」

 

 やれるのか? 一抹の不安がある。だけどやるしかない。

 

「いいや、やってみせる!」

 

 この土壇場、決めなきゃだめだろうが!

 体の内側の力を爆発させるように、進化の感覚を手繰り寄せながら自らの体を変質させる。

 前にパンダモンになった時とは違い、今度は強いイメージ――竜のデータを意識しながら体に力を巡らせていった。ドルモンのデジコアに潜り込んだ時に流れ込んできた、竜のデータを。

 

「いくぞ、超進化!」

 

 直後に、体の内側から強大な力が吹き荒れた。

 意識が持っていかれそうになるほどのエネルギー。どこに眠っていたのかと思うぐらいに、体中を駆け巡っていく。手綱を握るように力を組み伏せ、鎧の形として上半身に纏う。

 体が少し大きくなり、視線が高くなっていく。体の形が大きく変わったわけではないが、背中に少々の違和感を感じる。

 

「でもまあ、成功だ」

 

 完全体、アイギオテゥースモン。どうにか、強化型の進化を獲得できたみたいだな。

 とりあえず、一気に決めるとしますか!

 


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