デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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やーおーるー


100.力の道しるべ

 黒い空間を抜けてゆっくりと歩いていく。薄気味悪いというよりは、空気が違うというか……空間全体から強い力を持った存在を感じる。まるで、巨大な怪物の腹の中にいるみたいだ。

 

「怖いこと言わないでよ」

「洒落にならないわよねー」

「あながち間違いではないがな。十闘士ともなれば、それほどのパワーをもった連中だ。体を失い、その力を神殿という形で残しているが、見方を変えれば神殿そのものが彼らの体と言ってもいい」

 

 つまり、僕らは自ら彼らの体の中へ飛び込んだということか。

 ストライクドラモンが上等じゃねぇかと好戦的な笑みを浮かべているが、実力差があり過ぎて勝負にもならないと思う。というか直接対決だったら僕らも勝てるかわからないっての。

 ドルモンも以前にミラージュガオガモンとの戦いでは苦い思いをしていたから、少しやるせない顔になっているな。そういえば、あの時ドルモンのデジコアに潜り込んだが……あの時のデータの一部が、今の僕にも引き継がれているらしい。

 竜のDNAを持っているのはそれが原因だろう。

 

「うまく利用できるかもな」

「どうかしたの?」

「いや、こっちの話――っと、そろそろ開けた場所に出るぞ」

 

 やがて大きなホールのような空間に出た。といっても輪郭がわかるだけで周りは真っ黒なんだけどね。

 あたりを見回すが、どこにもデジモンの姿は見えない。

 しかし力の波動は確実にあるわけで、いないはずはないのだが――と、なにかが動くような音が響いてきた。ガチャガチャと規則的に聞こえるこの音は……歯車?

 地面が揺れて、何かが迫ってくるのがわかる。

 

「なにコレ!?」

「どうやら来たみたいだ――ッ!?」

 

 黒い空間を突き破って、巨大な何かが躍り出た。

 地面を一度蹴るたびに大きな揺れが僕たちを襲い、身動きを封じてしまう。

 

「なんてデカいデジモンなんだ!」

「流石にアレと戦うのはゴメン被るぜ」

 

 ストライクドラモンも匙を投げるほどの巨体。というかあのサイズ、アポカリモンを除けば今まで見てきたデジモンの中でも最大級だ。あれ以上となると、ギガシードラモンが上回るかどうかというところだろう。

 断言しよう。デカすぎて今の僕らじゃまったく勝ち目がない。

 マキナが銃を構え、ストライクドラモンが臨戦態勢に入っているが――どういうわけか、目の前のデジモンには闘志すらない。なんというか、ただそこに立っているだけなのだ。

 

「待ってくれ二人とも、どうやら戦うつもりはないらしい」

「で、でも……」

「黙っていたらやられるぞ。勝てないにしても、なんとか退路は作らないと危険だ」

「だから戦うつもりはないみたいだから大丈夫だって……そもそも、試練が必ずしも戦いになるってわけでもないだろうし」

 

 とは言うものの、これで戦いになったらマズイなぁとも思わけだが。

 兎にも角にもこの巨大デジモン――エンシェントトロイアモンがどのような試練を与えるかにかかっているわけだ。心して彼の言葉を持っていると、予想よりも甲高い声が響いてきた。

 

「うむ。状況を読む晴眼やよしである。余の名はエンシェントトロイアモン! 木の十闘士、植物デジモンたちの祖なるものぞ!」

「え、私の祖ってことなの!? 機械系じゃなくて!?」

 

 あからさまに嫌な顔をするライラモン。気持ちはわかるが、木の属性である以上植物系デジモンなんだろうな。体は木でできているし。しかし、大きな歯車や大砲、見た目も巨大なからくり木馬だし……正直鋼の十闘士じゃないのかといいたくはなるのだが、そこはつっこんではいけないんだろう。

 というかよく考えたら、体を機械化したりパーツを組み合わせて作られる機械系は元来別の種だし、そういった技術や概念が生まれるのは十闘士の誕生よりも遅いのか。

 

「となると、木を加工して作られたからくりの姿をしていても植物型ってのはあながち間違いじゃないのかもしれない」

「だからって、アレはないでしょうアレは!」

「余でも流石に傷つくぞよ。まあよいわ。それで、おぬしたち、何故ここに来た。ここは、余の空間……ルーチェモンの封印を施した、余の魂のステージじゃ」

「知っているかもしれませんが、僕たちは――」

 

 詳しい説明をしようと口を開いたが、彼の足が大きく動いて言葉を止められる。

 そして、片足を限界まで上げたポーズをとったのち再び地面に下ろされた。

 

「なるほど封印を解除し、奴が復活しようとしておるのか」

 

 今のでわかったのだろうか……というか今の動作にいったい何の意味が!?

 みんなもぽかんとしているが、正直な話――帰りたい。

 こいつ、かなり面倒な性格をしていやがる。しかも勝ち目がないからなおのこと質が悪い。

 

「なんじゃ。無言になりおって」

「あ、あはは……それで、事情が分かったなら試練の方をお願いします」

「うむ。よかろう」

 

 そういうと、いきなり足を折りたたんでエンシェントトロイアモンは僕らに目線を合わせてきた。いや、無理に合わせなくてもいいんですが……目が赤く光っていて、怖いです。

 しばらく無言が続いて――よしと頷くように首を振り、言葉を発した。

 

「おぬしたちにとって、力とは何ぞや」

「力? 力って言われても……」

「そんなもの、強さの証明だぜ!」

 

 ストライクドラモンがそう叫ぶや否や、爆発と共に彼の体が吹き飛んだ。一瞬のことだったが、エンシェントトロイアモンが砲撃したのだ。幸いなことにかなり手加減しているようで派手に吹き飛びはしたが威力はそこまでではない。心臓に悪いが。

 というか彼が足をたたんだのは砲撃をしやすくするためだったのか……うかつに答えるわけにはいかなくなった。ライラモンはストライクドラモンを助けるため、走っていってしまったし……さて、どう答えるか。

 

「だ、大丈夫よね? ウチたちも吹き飛ばされないよね!?」

「プロちゃん、泣きそうです」

「……なんて答えれば正解なのかわかんない」

「そんな!?」

 

 というか正解なんてあるのかコレ。やるせない気持ちになりながらも、嘘をついてもアウトな気はするので、とりあえず正直に答えるしかないか。

 

「意味のないもの、だな。僕としては」

「――――ほう、その意味やいかに?」

「大事なのは力じゃなくて、使う側の心だと思う。力そのものは、何の意味もない」

「なるほどなるほど、ならば問う。世界を滅ぼす爆弾がその手にある。そして、眼前には一体の敵――倒さねば世界が滅ぶが、爆弾を使えば世界が滅ぶ。敵は確実に倒せるがの。さて、おぬしならどうする?」

「そんな……それ、どっちにしたって滅ぶじゃないのよ!」

 

 マキナの言う通り。どちらにしろ、世界が滅ぶ――ように見えるが、実際のところはそうではない。

 それは分かったのだが、さて何と答えるか……似たような状況を経験しているため、どうにも答えづらいのだ。爆弾使っちゃったし…………

 

「カノン、この質問って……」

「ドルモンも気が付いたか」

「うん。ちゃんと考えればすぐに気が付くひっかけだよね」

「え、ひっかけ?」

「そう。爆弾があるとは言っているし、敵も眼前にはいるとは言った――でも、爆弾を使わなければ倒せないとは一言も言っていない」

「そ、そういえば……」

 

 諦める。爆弾を使う。選択肢が二つしかないように見えて、その実爆弾を使わずに倒すという選択肢もあるのだ。先ほどいきなり砲撃をしてきたことで妙に爆弾の印象が強くなってマキナはその点に気が付かなかったようだが……でも、この解凍にも一つ弱点がある。

 

「爆弾を使わなければ、倒せる保証はないがの」

「そこなんだよなぁ」

 

 この場合、爆弾を手にしている人物がどの程度の力を持つか語られていない。話の流れで僕をモデルにしてもいいのだが、敵の強さがどの程度か語られていないため勝ち筋を作るのは無理だ。

 となると実質的に爆弾を使わざるを得ない状況になってしまうわけで――いや、別にそれは関係ないのか。

 

「使わないで戦う」

「ほう――理由は?」

「勝つことを前提に考えていたからドツボにはまったんだ。この話で大切なのは、心だ。世界を滅ぼさない選択をとるため、力に対してどう向き合うか。結果はどうなるかはわからない。この話で力の差は語られていない。どちらが強いかなんてわからないんだから、戦ってみなくちゃわからない。

 それに、そもそも戦う必要があるのかもわからないからな。もしかしたら説得できるかもしれないし」

「なるほど、面白い答えだ。余はこのように兵器そのものの姿に進化した。必要だったとはいえ、今でも思う。力とは何なんなのか。対話もまた一つに力だ。単純に強さだけを求めても力と言えるだろう。

 千差万別であるが、等しく言えるのは使うもの次第で世界を救いもするし、滅ぼしもする。どのような力であってもだ。だからこそ、方向性を決める心が必要なのだ」

 

 その心をおぬしは示した――その言葉と共に、僕の目の前に木のエレメントが現れた。

 

「余の力、おぬしに預けよう。それと、ストライクドラモン。おぬしの答えもまた一つの回答としてはありだが、いささか短絡的に過ぎる。もっと頭を柔らかくするがよい」

 

 そういうと、エンシェントトロイアモンはすくっと立ち上がって駆け出していった。

 黒い空間にその姿が消えていき、やがてあたりには静寂が訪れる。

 なんというか、割と自由な感じだったなぁ……

 

「って、今のが試練なの?」

「問答というかなぞかけ、みたいなものなんだろうな。兵器の姿に進化したからこそ、力の使い方を知りたかったってことなんだろう。まあ、とにかく4つ目のシンボルも無事に手に入った」

「…………俺は、無事じゃねぇぞ」

 

 黒焦げだけど、普通にしゃべれるし大丈夫だと思う。腹に大穴が開いたわけでもないんだからグチグチ言わないでもらいたいものだ。

 

「それ死ぬだろうが!」

 

 ごもっともだけど。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 神殿を出ると、デジヴァイスに次の神殿への矢印が表示された。

 地図データと照らし合わせると、この方角は……雷の神殿か。

 各属性のエレメントを手に入れるとその属性の魔法も強化されるし、これはいい感じではないだろうか。雷のエレメントを入手すれば、この旅も楽になる。

 

「でも、雷の神殿ってこの森の先なのよね? たしかこの先って……」

「凶暴な虫デジモンたちがうようよいるって聞いたことがあるな。強い個体も数多い」

「やっかいだなぁ」

「できればルーチェモンの部下以外とは戦いたくないんだけど、どうするの?」

 

 マキナの言う通り、普通に暮らしているだけのデジモンと戦うのは若干気が引ける。

 ライラモンの話からすると、究極体はさすがにいないだろうということだが……やっぱりクワガーモンが大量にいるらしい。ほんとどこにでも出てくるのな。あとオオクワモンもそれなりにいるとか。

 

「グランクワガーモンもいやしないだろうな」

「グランクワガーモン?」

「いや、知らないならいい」

 

 この時代にいない可能性もあるのか。クワガーモン系の究極体ってことで名前は知っていたのだが、アレはあれで古代種データを持っていると聞いたこともあるし……うーん、そこらへんどうなっているんだろうか。

 ゲンナイさんも秘密主義というか、色々と頼みごとをする割には隠し事が多いというか…………ピエモンに埋め込まれた球が悪影響を及ぼしているのではないかと邪推してしまう。根深い所にあって、取り除けないし……本当に大丈夫かあの人。

 

「カノンくん、難しい顔してどうしたの?」

「いや、ちょっと知り合いのことを思い出して……とりあえず、今日はここでキャンプを張るか。神殿の近くだから他のデジモンたちもよってこないだろうし」

「その方がいいだろうな。しかし、雷の神殿に昆虫型デジモンの棲息する森、か……」

「どうかしたのか、クダモン」

「いや。変に意識するのもいけないからな。忘れてくれ」

 

 クダモンはそういうが、もしかして他の十闘士について何か知っているのではないだろうか。

 雷と昆虫型の関連――いや、昆虫型で雷属性のデジモンに心当たりはあるが…………クダモンもそれ以上は何も言わないし、聞かない方がいいのだろう。

 ただ、ストライクドラモンを見て意味深な視線を時々向けているのは気になるが。前に、もしやなんて呟いていたし…………

 

「――彼だけは、死なせてはならない」

 

 クダモンが、ストライクドラモンをみてそう呟いていたのをついぞ僕は聞き取ることはなかった。ただ一人、ライラモンがその言葉を聞いていたが……もしも、それを早く知ることが出来たらあの結末を変えることが出来たのかもしれない。

 今より先、二つの神殿を越えたあの時に。

 

 




長々と続いたから、少し駆け足。
雷の神殿までは早いです。というか、試練パートはそこまで長くするつもりはない。

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