デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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改定前をみつつ、大分変ったなぁと。
ちょいマイナーなデジモンも出せれたら出していく所存。


10.うたかたの少女

 じめじめしてて暑い。梅雨時に晴れると不快指数が一気に高まる……

 もう6月になったが……休み時間でみんなが外で遊ぶ中、僕は一人教室の中にいる。半ば予想していたことだが、価値観が違いすぎるというか、話が合わないというか……浮きに浮きまくった僕はこうしてボッチ街道まっしぐらである。

 光子郎さんや太一さんなど知っている人もいるが、二人とも学年は違うしなぁ……サッカー部に入るってのもアリだろうけど、二年後のために時間を使いたいし。

 

「悩みどころであるなぁ」

「どうかしたの?」

「いやぁ、なかなか上手くいかないものだなって――って、どなた?」

 

 いきなり話しかけられたから答えたが、僕に話しかけてきた人は初めて見る顔だった。

 

「ウチ? ウチは久末(くすえ)蒔苗(まきな)よ。よろしくね!」

「よ、よろしく」

「むふー」

 

 いきなり息を噴き出したかと思えば、そのままこちらをずっと凝視し続けているが……いったい何なのだろう。

 

「ねえ、君の名前は?」

「橘カノン」

「カノン君かぁ。カノン君は外で遊ばないの?」

「いや、別に――っていうか、君はどのクラスの子なの? 見かけない顔だけど」

「んー、わかんない」

「いやわかんないって……!?」

 

 転校生なのかなと思ってふと彼女の首元に目が行って、思わず絶句した。ペンダントをつけているだけかと思ったら……ペンダントの先が薬莢になっている。なんという物騒なペンダントだよ……

 その筋(・・・)の人の子供かな。うん、関わらない方が良いんじゃないかとも思ったがばっちりロックオンされている。手首をつかまれて外に連れ出されそうになるが――

 

「――あ、ごめん。もう行かなきゃ」

「え、行かなきゃって……」

 

 それだけ言うと、彼女は走り出して行ってしまう。

 どうしたんだろうと廊下を覗き込むと、そこに彼女の姿はなく、外からクラスのみんなが戻ってくるところだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 家に帰ってランドセルを下ろす。あの後ちゃんと授業聞きなさいと先生に怒られてしまった……おかげで帰るのが少し遅れた。これからはバレないようにしよう。

 それにしても、薬莢なんてものを首から下げた女の子か……それなりに噂になっていてもよさそうなものだが、そんな話は聞かないのがどうにも気にかかる。

 いや、薬莢なんてものを見たことがある人の方が少ないだろうからそれも当たり前な気もするが。

 

「でもあの薬莢……なんか見覚えのあるような無いような」

「カノン、どうかしたの?」

「なんか今日、変な子に絡まれて……」

「ふーん。ん? カノン、なんかデジモンのにおいがするよ」

「――――え?」

 

 デジモンのにおい? でも別にデジモンなんて見ていないが……特に変わったことだって…………いや、一人いたか。

 

「あの子がデジモン……そんなわけないよな。普通に名前を言ってきたし、どう見ても人間にしか見えなかった」

 

 デジヴァイスも反応しなかったし。

 しかしドルモンの様子からするに、今日デジモンと接触したのは間違いない様だ。

 となると怪しいのはやはりあの子なのだが……

 

「どうするかなぁ」

「危険なにおいじゃないから大丈夫だと思うけど、どうする?」

「うーん、明日はドリモンになってついて来てくれ。もしかしたらまた会えるかもしれないし」

 

 とりあえず、そのことは明日考えるとして――今はいつもの練習を行う。

 床に座り、意識をデジメンタルに集中する。今の僕がデジモンと同じ魔術を使えるのはコイツがエネルギーを生み出してくれているからだ。だからこそ、いざという時にエネルギーを引き出せなければならない。

 次に、術式の構成を行う。身体強化と視覚強化を起動し、すぐにカットする。何度も繰り返し行うことで感覚的に使えるように練習しているのだ。

 

「……ふぅ」

「今日も頑張るねー」

「まあ、もう日課だしな」

 

 ただ、術式を開発できないかと色々試したりもしているがそっちはあまりうまくいっていない。実際のプログラム言語から色々と応用してみたりもしたが、事象の書き換えというのがいかにオーバーテクノロジーな代物かを知るだけである。ハッキリ言って地球上での技術で実際にその領域にたどり着くのは何年先になることやら……単位は3桁で足りるだろうか?

 というわけで、本当に簡単なところしかどうにかできていない。

 

「一応、壁をだすってのはできるようになったんだけど……」

「凄いじゃない。でも、なんで不満そうなの?」

「…………不完全過ぎて三秒しか持たない。盾として構築したかったんだけど、上手くいかなくて」

「ああ……ちょっと短いね」

「目くらましに使えたら御の字かなぁ」

 

 ままならない世の中である。

 しばらく使っていると、ちょっとした倦怠感が体に出てくる。走った後などの運動をした感じではなく、たとえるならばサウナから出た後の脱力感というべきか。

 少し深呼吸して気持ちを切り替える。

 先に息を吐いて精神を落ち着かせ、続いて平常道理に呼吸を行う感じで整えていく。

 

「ふぅ……このぐらいでいいか」

「使いすぎて体に悪影響とか出てないよね?」

「そっちは大丈夫。別段影響はないよ……ただ」

「ただ?」

「…………確証はないから、言わないでおくよ。今のところ気にする必要もないし」

 

 ただなんとなく、魔術ってのがこの世界ともデジタルワールドとも違う世界の技術なんじゃないかなと思っただけなのだ。デジタルワールドが異世界にあるというのなら、他の異世界も存在するのではないかとも思ったのだが、確証はないし確認のしようもない。

 技術として存在していて、使えるなら今のところは良いかと思っているし。

 

「まずは、確認できるところからやっていくしかないしね」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌日、ドリモンをナップサックに入れて学校へ。誰かに見つかると厄介だからとりあえず隠れてもらっているが……久末さんは見当たらない。

 他の学年の子かなとも思ったが、探すのも大変そうだ。まあ、とりあえずは授業を受け続けておくしかないけど。

 

「…………今のうちにサーチでもしておくか」

 

 デジヴァイスを使い、デジモンがいないかサーチする。反応はなし…………ちなみに、ドリモンはサーチ対象外になっているらしく、反応しない。

 その後も特に何事もなく時間は過ぎていき、昼休みになった。

 給食のパンとかをいくつかとっておいてドリモンの分を確保しておく。流石に何も食べないってのもあれだろうし、見つかるといけないからと屋上へ行く。

 

「風が気持ちいな」

「だねぇ……」

「誰かに見つかるといけないから、ナップサックにはいっとけよ」

「わかってるよ」

 

 まあ、ナップサックを背負ったまま屋上にくる僕も見られたら目立ちそうだが。

 結局見つからないが……見つからないなら見つからないで仕方がないか。

 

「勘違いだったのかねぇ」

「何が?」

「いやこっちの話――――うお!?」

「ふふふ。また会ったね」

 

 突然、後ろに彼女が現れていた。急に出てきたけどどういうことだ?

 目を白黒させていると、なぜか彼女はトランプを取り出してきて笑顔になる。

 

「さあ、遊ぼう!」

「ふ、二人でトランプかよ……」

 

 あまりにも唐突で、無邪気に笑うものだから拍子抜けしてしまう。ドリモンの方を見るが、別段アクションは起こしていない。彼女はデジモンに関係ないみたいだ。

 となると、どこでデジモンのにおいが付いたのかだが……

 

「ねー、あーそーぼー」

「……わかったわかった。やってやるよ」

「ふふ、わーい!」

 

 まるで、そうやって遊ぶのが初めてみたいに彼女は大喜びする。二人だけのトランプってのもアレな感じだが……よく考えたら僕も人のこと言えないか。

 やがて、昼休みの終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。

 

「……」

「もう戻らないといけないなぁ」

「そう、だね――それじゃあまた明日!」

「お、おう」

 

 普通に屋上から出ていったあたり、別の学年の子だったのだろうか? なんか釈然としないものもあるが……

 

「ドリモン、どうだった?」

「んー、わかんない。別に危ない感じもしないし」

「そうなんだよなぁ……でも、デジモンのにおいがしない(・・・)んじゃなくて、わかんない(・・・・・)んだな」

「う、うん……なんかそんな感じ」

「……そっか」

 

 やはりどこかに違和感を感じる。勘だけど、やっぱり何かがあるんじゃないかと思う。

 彼女自体に危険性はなさそうだが……

 

「まあ、遊び友達が出来たってのは良いことかな」

「カノン、楽しそうだね」

「悪い気はしないからな」

 

 そろそろ戻らないとヤバいなと思いつつ、教室へ向かう。ココからは、僕の日常に彼女と遊ぶことが加わるだけだった。

 授業中は先の予習を行い、休み時間になると唐突にマキナ(そう呼べと言われた)がやってくる。念のため、ドリモンにはいてもらっているが、時折妙な感じがするだけで何事もなかった。

 妙な感じというのも、マキナと会っている時ではなく、日が暮れてきたあたりで感じるらしい。そういえば、あの日は少し帰りが遅かったな……

 

 マキナのことは唐突に現れるのが少し気になるが、それ以外はとくに何もない。毎度色々と持って来たり遊んでとせがんできたりと忙しないなと思うけど。

 何事に対しても朗らかに笑い、楽しそうにしている。僕とは違ったタイプだけど、とても面白いやつだと思う。あと、会話の端々から年上だというのは分かったので、おそらくは上の学年の子。まあ、その割には子供っぽいんだが……この場合は僕がおかしいんだろうけど。

 本当に難に対しても笑うこの子だが、どうして薬莢なんてものを首から下げているんだろうか?

 ちょっと嫌な想像をしてしまう要素だが……

 

「どうしたのカノン君、難しい顔して」

「いや……こっちの話」

 

 マキナと出会って一週間ほど。いまだ梅雨時だから仕方がないとはいえ、雨が続いていた。朝は晴れていたし、天気予報でも今日は大丈夫だと言っていたから油断して傘を持ってきておらず、雨が止むか弱まるまで図書室で時間をつぶしている。

 マキナも一緒にいるが、帰らなくていいのだろうか?

 

「……ううん。ウチもいるよ」

「親とか心配しないのか?」

「大丈夫、だと思う……」

 

 そう言うと、蒔苗はどこか悲しそうな顔をして顔を下げる。

 

「マキナ?」

「何でもない。ちょっと嫌なことを思い出しただけ」

 

 聞かない方が良かっただろうか。

 改めて自分の対人経験のなさというか、人付き合いの苦手さを思い知る。

 

「えっと、ごめん」

「ううん。大丈夫。それよりもさ、何して遊ぶ?」

「こんな時までそれかよ……」

 

 まあ、校内から出られそうにないのだから仕方がないのだが……例のごとくトランプとか色々持ってきており、それなりに時間をつぶせるのはまあいいかな。

 しばらくして、ちょっと違和感を感じ始めた。なんというか校内が静かすぎるのだ。流石に先生が見回りに来てもよさそうなものだが、一人も見ないし……あれ? 図書室なのに司書の人もいないってのもおかしいよな。

 

「……?」

「どうかしたの?」

「なんか静かすぎるって言うか、他に誰も見ないのがおかしいなって」

「…………あ」

 

 なぜか、マキナは少しおびえたような表情をした。ふと、彼女の提げていた薬莢に目が留まる。なにか見覚えがあると思っていたが、その薬莢の底の部分に見覚えのある文字が見えたのだ。

 この世界ではまず見ることはない文字――――デジ文字が。

 

「その薬莢……マキナ、君はいったい?」

「こ、これは――」

 

 マキナが何かを言おうとした、まさにその瞬間だった。

 ブツンと、電気が切れてあたりが真っ暗になる。それと同時に、悪寒が体を駆け巡り、冷汗が流れ落ちる。

 

「――――これは!?」

「ひっ――いや、嫌!!」

 

 マキナが取り乱し、後ずさっていく。真っ暗になった部屋を黄色い光が照らし、光そのもの――いや火の玉が襲い掛かってきた。

 

「危ないッ!」

「きゃ――」

 

 マキナを抱きかかえ、とっさに身体強化を行う。デジヴァイスが反応した音も聞こえだした。間違いなく、デジモンの仕業。

 ドリモンがナップサックから飛び出し、デジモンと思しき影に体当たりをする。小さな声だけが聞こえ、襲い掛かってきたデジモンの気配を感じないが……

 

「マキナ、しっかりつかまっていろよ!」

「え、ええ!?」

「ドリモン進化――ドルモン!」

 

 マキナをいわゆるお姫様抱っこの形で抱きかかえ、ドルモンと共に走る。狭い教室の中じゃ対処ができない。目指すべきなのは体育館か――

 

「ここからなら、屋上!」

「カノン、窓からでもグラウンドに行った方が良いんじゃないの?」

「できるならそうしている! でも校舎中の正規の出入り口以外がロックされてるよ! 妙な力が校舎全体に流れているから窓から出るのは無理だ!」

 

 毎日の積み重ねが生きてきた。急いで屋上まで駆けあがり、ドアへと向き直る。

 何が狙いかはわからないが、奴は確実に追ってくるだろう。

 

「――――存外、頭が切れる童よのう」

 

 黄色い炎と共に現れたそいつは、妖怪とでも呼ぶべき見た目だった。

 紫色の体に、九本の尻尾。黒と白のしめ縄をしたデジモン……

 

「このヨウコモンからは逃げられぬえ……さあ、堪忍し」

 

 唐突に、僕らの日常は終わりを告げた。

 もう後戻りはできない。後は、先へ進むだけ。それが、どのような形になろうとも。

 




色違いデジモンってマイナーなの多いですよね。
ただ、初期からいる色違いじゃないのにマイナーなのもいますが。
あとは見た目も名前も同じでも世代が違う例があったりと(ミノタルモンやホエーモン)
同じ名前でも姿が違うのがいたりと、デジモン界隈はややこしいのが多い。

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