デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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待っていた方、長らくお待たせいたしました。
改定版となりますが、どうぞお付き合いください。


序章・橘カノンとドルモン
1.誕生! その名はデジモン


 これは、僕の運命が始まった時の物語だ。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 この時のことは少し記憶がおぼろげだが、細かいことは覚えている。そう、あれは僕がまだ5歳のころ。1995年の春休みのことだ。あの日、ボクはおばあちゃんが住む光が丘へ遊びに行っていたんだ。

 夜、少し外を歩きたくなりおばあちゃんの家から抜けだしてしまったんだけど、その時の街はひどく静かであったことだけは覚えている。まるで人が誰もいなくなったみたいに静まり返った東京は今思い出してみてもとても気味が悪かった。

 歩道橋の真ん中まできて疲れが出てきた僕は、そろそろ戻ろうかと思った。その一瞬、何かに呼ばれたような気がして振り返ってみると――――どこからとも無く大きな音が響いてきた。

 

 

 

 空を見ると、大きなタマゴが浮いていた。

 そして、大きな音をたてワレたんだ。

 

 

 

 ボクは何が起こったのか気になり、走ってタマゴが割れた現場に向かったんだ。壊れた自動販売機などがあり、現場を見つけるのは簡単だった。

 そこで見たのは巨大なオレンジ色の恐竜と、巨大な緑色の怪鳥。両者が組み合って戦っている現場だ。

 恐竜の傍にはボクより少し年上の男の子と同い年くらいの女の子がいて、恐竜のことをコロモンと呼んでいたのが聞こえた。不思議と、その名前が耳に残ったのを覚えている。

 ボクは少し離れたところから見ていたから少しだけ状況がよく見えた。

 近くのマンションに6人、子供がいた。遠くて顔や性別は良く分からない。ただ、何かに惹かれるように彼らを見つけたのだけはハッキリと分かった。

 

 

 恐竜の……コロモンの傍にいた子供達は必死にコロモンを呼んでいた。そして男の子が女の子——おそらく妹——の笛を力いっぱい鳴らした。すると、その呼びかけにこたえるかのごとくコロモンが立ち上がり、雄々しく吠えると共にあたりに閃光が満ちた。

 まるで夜明けのように輝く炎のブレス。僕はただただ、その光に魅入られて立ち尽くすのみであった。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 しばらくすると、恐竜も怪鳥もどこかに消えたかのようにいなくなっていた。女の子がコロモンを呼ぶ声だけがあたりに響くのみで、あの巨体は姿かたちもない。僕は道の真ん中にいる二人に声をかけようとも思ったが、パトカーの音が聞こえてきたのでとりあえず、大騒ぎになる前にボクは家に帰ることにした。それに、流石に結構距離があったし。

 だが、その時あるものを見つけた。路地裏に、あったのだ。大きなタマゴが。色は藍色で上の方が白い。なぜだか、そのタマゴに呼ばれたような気がして、タマゴを持ち帰った。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 僕が謎のタマゴを拾ってから一週間が経った頃のことだ。それまで、親にあのタマゴはなんとか見つからずに済んでいた。まあ、僕の親は色々と規格外な人だから、僕が何かを隠していることに気がついていながらあえて僕に任せていたんだと思うけど。

 あの後すぐに僕たち一家は自宅のあるお台場に帰ってきていた。光が丘での出来事は爆弾テロということになり、結構色々な被害を出していたようだ。

 その影響で隣に引っ越してくる人たちがいるってその時母さんが言っていたのを覚えている。その時に、それとなく「猫でも拾ったのかしらー」って言っていたのも覚えている。やっぱり感づいていたんだろう。実際にはネコよりも大きいタマゴだが。で、その件のタマゴなのだが……その時はものすごかった。

 激しく動き出していたんだ。うん。しかもブレイクダンスを踊るかの如くグルングルンと。驚いて腰を抜かしかけたのは苦い思い出である。

 だけど、それ以上に僕はそのタマゴから出てくる何かがとても楽しみでワクワクしていた。だって、どんな図鑑にも載っていないんだ。誰も見たことが無い生き物が出てくる。そう思うだけで、僕の心の底から言い知れぬ興奮が湧き上がってくるのを感じていた。

 殻を破って出てくるのはどんな生き物だろう。

 父さんの本にも載っていないような生き物なのは間違いない。

 父さんは大学の教授でたくさんの本を持っていて、僕も好奇心から父さんの書斎で読書をしていた。わからないことがあれば父さんに聞いていたが、図鑑や辞書などを貰い、使い方を教わって他の本も読めるように頑張っていたらいつの間にやら色々なことを覚えていたという感じだ。

 だからこそ、僕にはこのタマゴが地球上でまだ誰も見たことが無いタマゴだと思ったんだ。いや、確信したと言ってもいい。

 ボクは期待に胸を膨らませてタマゴから何かが出てくるのを今か今かと待っていた。その時の母さんは買い物に出かけていて良かったと今でも思う。この時ばかりは注意が散漫になっていて、タマゴを隠すこともできなかっただろう。

 

 

 

 そしてついに、タマゴが割れた。

 

 

 その生き物は地球上で類を見ないだろう。

 まず、足が無い。

 全身は青色の体毛に包まれていて、口の周りだけは白い。

 耳が二つ、頭にくっついていて、目は体に比べて少し大きい。

 毛には覆われているが、なんかゼリーみたいにプルプルしているような気もする。まるで、ゲームに出てくるスライムみたいな感じだ。

 はたして、スライムは卵から生まれるのか。そもそもスライムに毛なんて生えているわけが無いかと結論にたどり着く。では、この生き物はいったい何なのか。

 我ながら思う。やっぱり混乱していたと。

 

「…………」

「え、えっと……こんにちは」

「ガプッ」

 

 噛み付かれた。とりあえず挨拶したら顔にがぶりといかれた。

 

「!?!?!?」

「はむはむ」

 

 

 ただ、噛み付かれているが痛くは無い。

 

 

「あ、歯がないのか」

「……ど」

 

 良く触ってみると分かるが、体毛は意外と硬い。バリバリしているとかそんな次元ではなかった。かなり硬い……金属並みに。むしろ、質感が金属だった。金属の毛、果たして生き物と言っていいのか迷うレベルである。

 

「えっとボクは(たちばな)火音(かのん)……君の名前は?」

 

 言葉が通じるわけが無い。そう思いつつも、僕は自己紹介せずにはいられなかった。

 なんとなく、そうするべきだと思ったのは間違いないけど。

 

「……ドドモン」

「…………」

 

 未確認生物改めドドモンは人語を理解できたのである。もう何度驚けばいいのかわからないまま、色々な問題は後回しにして僕は一番必要な言葉をひねり出した。

 

「よ、よろしく」

「…………よろしく」

 

 そんな一言を出すのにものすごく緊張をしたことだけは覚えている。その時の僕はきっと、とても面白い顔をしていただろう。

 目を白黒させて、曖昧に笑った顔を。

 まあ、ファーストコンタクトは成功ではあったと思う。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、ドドモンとのファーストコンタクトから二週間がたったある日のこと。

 ドドモンは基本雑食で何でも食べる。果物が好物らしく、とてもおいしそうに食べている。

 

「……カノン、あれは、なに?」

 

 そして、コイツは結構好奇心旺盛で何でも知りたがる。僕も最初はこんな感じで父さんにアレコレ聞いていたんだろうなと思わせてくれるほど、あらゆるものに目を輝かせていた。

 

「あれは新聞だよ。最近のニュースが書いてある紙だよ」

 

 ニュースについては教えてあるのですぐ分かったようだ。

 最初は色々と苦労した。ニュースと聞いて「どんなデジモン?」と聞き返してきてどんな知識に基づいて話しているんだとも思った。

 デジモンってのはこの前のコロモンや怪鳥を総称した呼称らしく、ドドモンの他にも多くの種類がいるらしい。ただ、まだ赤ん坊なのかドドモンの知識は要領を得ない部分も多く、この時の僕はここまでしかわからなかった。

 と、そこでくぅと何とも可愛らしい音が聞こえてきた。

 

「……カノン、おなかすいた」

「あーそういえばもうお昼だね」

 

 その日、母さんはパートに行っていたので適当に何かたべてねーと冷蔵庫を指さしていた。

 うちは結構な放任主義で、まだ小さいのに色々と自由にさせてもらっていた。まあ、僕が同年代と比べて早熟過ぎたのもあったんだろうけど。

 我ながら小さいのによくもまあぁ、可愛くないほどに色々と知り過ぎていると後に思った。この10年後ぐらいに。

 

「よく考えたら、ウチの親にドドモンのことがばれても案外平気な気がする」

 

 父さんは「実に興味深い」とかいって受け入れそうだし。

 母さんは「あら~はじめまして~スライムっぽいわね~」とか言いそうだな。なんて思う。いや、実際に後にこの予想は的を射ていたんだけど。

 まあ、あの二人はすぐ受け入れそうだけど……もうちょっとよく考えてから言うことにしようと僕はとりあえず現状の方針を維持することに。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 お昼を食べ終えて、父さんの書斎から何か面白そうな本はないかなと、探してみる。割とこの頃は毎日こんな感じで暮らしていた。

 あまり外で遊ばず、家の中で難しい本を辞書を片手に読み漁る毎日。どんな子供だよと10年後ぐらいに以下略。

 ただ、この日はその日課をする余裕はなかったけど。

 

「ん、なんだ?」

 

 突如パソコンの画面が光り出して、画面から何かが出てこようとしていたのだから。

 

「う、うわぁ!?」

 

 ビックリして腰を抜かしてしまった。流石に不意打ちでは僕も驚くことしかできない。

 

「な、なんなんだ?」

 

 光が消えると、パソコンの前に二つの物体が現れていた。手に取ってみると、ちょっとヒヤッとしたけどどこか暖かい感触と共に僕の手に馴染む様に思った。

 

「……ポケベル……か? それに、ペンダント?」

 

 ポケベルのような物体と、ペンダントらしきものがあった。ペンダントには∞のようなマークが書かれていた。いや、Sを横倒しにしたと言ったほうが分かりやすいか?

 マークが書かれている部分は白色で、その周りは金色。

 ポケベルのような物体は全体的に白色。アンテナのようなものと液晶画面があるし、ボタンが三つ存在していた。

 僕はもしかしたら何か関係があるんじゃないかと思って、とりあえず、自分の部屋に戻ってドドモンに二つの物体を見せてみた。

 

「ドドモン、なんだかわかる?」

「……デジヴァイスとなんだろう?」

 

 ポケベルのような物体はデジヴァイスと言うらしい。

 ペンダントのほうは分からなかったみたいだが、彼らデジモンに関係のある品というのは間違いない。

 

「って、ドドモン知ってるの?」

「うん、ボク達、デジモンを進化させる道具……らしい」

 

 ドドモンの知識はブツ切れのようなもので、何か関連する事柄からしか引き出せない。

 

「進化って……?」

 

 ドドモン自身生まれたばっかりで自分が何者かも良く分かっていないらしい。

 ただ、なぜか基本的なことは知識として持っている。不思議であるが、これ以上の解明はできなかった。

 

「進化は進化だよ」

「……」

 

 ○○は○○だよ。このセリフが出るとこれ以上の回答は得られない。これまでも、デジモンはデジモンだよだったり、イグドラシルはイグドラシルだよとかそんな風にそれ以上の引き出しがなくなることが度々あった。

 

「……はぁ」

 

 ちょっと、脱力してから息を吐く。これ以上は何も答えられないのだから、無理に聞くのもできない。

 とりあえず、パソコンから出てきたんだからパソコンに関係ある程度に思っておこう。パソコンから物が出てくるとかサイエンスなのかオカルトなのかどっちなんだと言いたいが。

 

「コレをどうすればいいんだろう?」

 

 ボクはデジヴァイスを握り締め、とりあえず力をこめた。進化というのが、言葉通りの意味ならドドモンに何か変化をもたらすのではないかと思ったわけだが……

 

「んぎぎぎぎぎぎぎご……だめか」

「?」

 

 流石にそう簡単にはいかないらしい。

 なんだろう、どっかのアニメみたいに気合をこめればいいのか? 精神を集中させてドドモンのことを考える。

 今のままじゃ何も始まらない。まだワクワクする何かがこの先にあるのなら、僕はそれを見てみたい。

 

「ドドモン進化だ!!」

 

 だから純粋に、その願いを込めて僕は叫んだんだ。

 すると、ドドモンが光に包まれてその形を変えていった。

 まん丸の体から小さな足が生えて、体は少し大きくなる。

 

『ドドモン進化!

 

       ドリモン!!』

 

 目にはよりはっきりとした意識が現れて、彼の存在が大きくなったのを感じた。

 

「……本当に、進化した」

 

 茫然となりながらも、ワクワクする何かが待っている。その事実が、とてつもない昂揚感を産んだのだ。まるで、僕の中から突風が吹き荒れるように。

 




変更箇所として、主人公カノンの年齢を一つ上げました。これで初代選ばれし子供に同い年がいなくなる寸法です。
あと、すいませんが恋愛描写は極力なくしていく方針です。というわけで、原作キャラからヒロインをというのはやりません。
02終了後にオリジナルで何かやるかもといったレベルなので、その方面に期待している方がいらっしゃったら申し訳ない。

あと、triにアルファモンが出てきましたが、元々ここでは通常進化でアルファモンにはなりませんのであまり変わらずに行きます。

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