勝利を刻むべき水平線は   作:月日星夜(木端妖精)

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第二十話 月日、流れて

 

 戦艦レ級と吹雪が手を組んでからおよそ二ヶ月の時が経った。

 その間に様々な事があった。

 まず鳳翔さんにレ級の存在がばれて大変驚かれ、次に名もなき艦娘の存在がばれて、こちらは歓迎された。

 吹雪の人間としての意識は完全に形成され、鎮守府の仲間達との絆も深まっている。

 早い段階で開発された、巨大深海棲艦の咆哮を打ち消す音撃弾によって比較的安全に海に出る事ができ、資材集めが捗った。

 幾度か海に出没する怪魚達との戦闘でデータも集まっているし、演習システムのおかげで各艦娘のブランクもなくなっている。

 

 そして、吹雪も……。

 

 

「たっ!」

 

 吹雪改二に掴まれた腕を突き返す事で手放させ、逆にその腕を取って力の流れを利用して投げる。

 海面を転がる吹雪改二を飛び越えて降ってくる夕立改二は素直に回避し、着水の隙を狙って砲撃する。相手も隙を潰すために即座に転がったりして避けるが、数発撃てば一発は当たる。そして当たれば動きは止められる。

 このまま撃ち続けて夕立改二を戦闘不能にしたいところだが――。

 

「んっ!」

 

 周囲が急激に暗くなり、追撃を断念せざるを得なくなる。

 立ち直って向かってくる吹雪改二の後ろ側、島風改二が腕を交差させ、腰を落として必殺の一撃を放つ前動作に入っている。

 その隙を突く事は難しい。三人のコンビネーションは抜群で、誰かが倒れれば誰かが支える。吹雪改二と技術の競い合いをしていれば、復活した夕立改二が襲い掛かってくるのを自ら姿勢を崩して倒れる事で回避し、ついでに吹雪改二の足を引っ張って倒れさせる。即座に顔下へ砲を翳せば、倒れ行く中で砲撃した吹雪改二の攻撃を防ぐ事ができた。

 かなりの衝撃にダメージが入るが、これくらいなら安いもの。

 この二ヶ月みっちり演習漬けになって、司令官・吹雪はすでに改二に到達していた。装備もお供も変わってないが、性能は段違い。耐久力も倍以上。

 

 水柱を上げて飛び上がった島風改二が宙で回転し、背のブースターユニットを用いた高速突撃から放ってくるパンチを吹雪改二と組み合い、場所を入れ替える事で回避する。ついでに敵も吹っ飛ばしてもらって一石二鳥。

 

『キュー』

 

 サァァっと滑って近付いてきた連装砲ちゃん達は、名もなき艦娘から託されたものだ。

 この二ヶ月で、吹雪は新しい技を身に着けた。……正確に言うならば連装砲ちゃんが新しい力を、になるのだが、使用できるのが吹雪のみなので吹雪の技と言って差し支えはないだろう。

 大中小とくっついただけの連装砲ちゃんを持ち上げ、体の大きな連ちゃんを支えて、大砲さながらに突き出せば、これで準備は完了。

 

「はっ!」

『キュ~』

 

 腰を落とし、衝撃に備えて連装砲ちゃん達に意思による指令を下せば、先端の砲ちゃんがちょこんと突き出した両手の先にエネルギーが集まり、光球となって膨らんでいく。

 

『……』

『…………』

『……』

 

 ちょうど目の前には三人が集まっていた。グッドタイミング。

 ザバッと海面を削って足を出し、直後、視界いっぱいに光が溢れた。

 

 一直線に伸びる光の奔流が三人を飲み込み、水平線まで伸びていく。海が割れる程の衝撃と威力。

 これぞ吹雪改二の奥の手、『燃料砲』である。ちなみにこれは素敵な名前を付けようとした吹雪を止めた叢雲の命名である。

 

「はひ……」

 

 くらくらっと視界が明滅し、意識が飛び飛びになって思わず膝をついてしまう。ばらばらに離れた連装砲ちゃん達が心配そうに吹雪を囲んだ。

 この技は、名前の通り燃料を使用して放つ必殺技だ。使えば危険域まで燃料が減ってしまってふらついてしまう。

 その分強力だが、燃料は艦娘にとって生命線だ。尽きればどうなるかは嫌というほど見てきただろう。ゆえにこの技は奥の手。最後の最後にとどめを刺す時か、のっぴきならない事態にでも陥らなければ、使用は許されない。

 

「お疲れ様。三対一でも安定して勝てるようになったわね」

「あ、叢雲ちゃん。ありがと」

 

 港に戻れば、叢雲がタオルと経口補水液を用意して待っていた。

 ふかふかのタオルに顔を埋めて僅かに掻いていた汗を拭い、経口補水液で失った水分と燃料を補給する。

 ぷは、と息を吐き出す、この瞬間の疲労が弾ける感覚がたまらない。

 

「でも、あの三人に勝てるのは毎日戦って癖を知ってるからで、深海神姫(あの子)に勝てるかどうかは……」

「良いのよ、そんな心配しなくても。戦うのはあんたじゃなくて私達なんだから。金剛さんや私、他のみんなも島風と戦ってスピードとパワーに慣れてきてる。あんまり慣れすぎるのも駄目だけど、これほど訓練を重ねれば、そう遅れはとらないでしょう」

「ン級は……」

「でかくて硬いだけの雑魚ね。咆哮さえ音撃弾で潰してしまえば、駆逐艦でも倒せるわ」

 

 それよりも問題は敵の種類ね、と叢雲が言う。

 

「あいつ……レ級は、人間が現れた事によって海が活性化し、十四年前と同じ状態に戻ろうとしているって言ってたわよね」

「うん。……それが、最近報告にのぼってる……」

「そう。他の雑多な深海棲艦の復活よ」

 

 この海には、ほんの二ヶ月前までは深海神姫とレ級、そしてン級しかいなかった。

 だけど時間が経てば経つほど敵の種類が増え、最近では軽空母まで出始めたという。

 このまま資材集めと開発と訓練に明け暮れていれば、気がついた時には世界が深海棲艦で溢れている、なんて事になりかねない。

 

「準備は整って来たわ。それに、悔しけど、レ級とみんなの溝もかなり縮まってきてる……」

「もうそろそろ、って事だね」

「ええ。決戦よ」

 

 カツカツと靴音を鳴らして隣に立った叢雲につられ、吹雪も海の方に体を向けた。

 海はどこまでも穏やかで、青と白に煌めいていて、水平線は未来への無限の可能性を魅せてくれていた。

 

 

「ななちゃん」

 

 かたり。そっと扉を開け、木造の部屋に身を滑り込ませた吹雪は、薄暗い部屋の中を見渡して目当ての少女の姿を探した。

 

「いたいた、今日はそんなところにいるんだね」

『…………』

 

 開けた扉の裏側。壁に背を預け、抱えた膝に顔を埋めて小刻みに肩を跳ねさせる少女は、名もなき艦娘。吹雪はこっそりと『ななちゃん』と呼んでいる。名無し→なな。単純な発想だ。

 トテトテとついてきた連装砲ちゃん達が三匹で協力して扉を閉め、名もなき艦娘……ななちゃんに寄り添った。

 

「甘い物欲しくない? べっこう飴あるよ。鳳翔さんが作ってくれたんだよ」

『…………』

 

 顔を上げた彼女の顔には、やはり空間を乱す程の黒い線がひしめき合い、不気味に蠢いている。吹雪は既に慣れきってしまったが、最初に彼女の顔を見たみんなの反応は一様にして『一歩引き、仰け反る』だった事を思い出して、くすりと笑みを零した。

 そんな吹雪を、ななちゃんは不思議そうに――そういう雰囲気を感じる――見つめる彼女の手を取って、ラップで包まれたべっこう飴を握らせた吹雪は、そのまま立ち上がった。

 

「もう少しで、島風ちゃんに会えるかも」

『…………』

 

 さらり、と長い黒髪が揺れる。ななちゃんは微かに首を傾けて、吹雪を見上げていた。

 レ級に釘を刺されたのに、吹雪が彼女の前で島風の名前を出しているのは、ひとえにちょっと前のミスのためである。

 毎日の演習で連日島風の顔を見ているから、ななちゃんといる時にふと零してしまったのだ。迂闊だった。常ならば大きな反応を示さないななちゃんも、この時ばかりは吹雪の両肩を掴んで、彼女の言う『妹』の名前を何度も発した。

 ――『島風』とは離れた名前。知らない艦娘の名前。

 どう聞いても容姿は島風で、だけど彼女は弟だという誰かの名前を繰り返し伝えてくる。

 二ヶ月の間に深海神姫に関する情報が少しずつ集まってきているのに、こっちの情報はさっぱりだった。

 

「また後でね」

『…………』

「うん、ばいばい」

 

 控え目に手を上げてふりふりと左右に振る少女に、吹雪も手を振り返して、連装砲ちゃん達を伴って部屋を後にした。

 

 

「はーつゆーきちゃんっ」

「……司令官」

 

 白い制服に袖を通し、帽子をきゅっと被ったら、司令官吹雪の再誕だ。

 本棟裏手の砂利道を行き、波止場の縁に座る初雪の下へ駆けて来た吹雪は、釣り竿を手にぼうっと糸を垂らしていた彼女の傍に、跳ねるようにして屈んだ。

 

「釣れてる?」

「オケラ……」

「そっか。隣にいていい?」

「ん。どうぞ」

 

 近くに置かれた高速修復剤の中身は水だけで、どうやら今日は一匹も釣れていないらしい。

 隣に腰を下ろし、縁から足を投げ出して後ろに手をついた吹雪は、はふー、と息を吐いて肩の力を抜いた。そのままだるだると溶けていってしまいそうな脱力っぷりだ。初雪は気にした様子もなく釣り竿の先をぴくぴく動かしている。吹雪のこんな姿は、彼女にとって珍しいものではないのだろう。

 

 空を見上げてぼーっとする吹雪と、海を見つめてぼーっとする初雪。

 毎日この時間はのんびりタイムだ。

 

「ごっ、ご主人様~! どこー!?」

「んぇ、漣ちゃんだ」

 

 だけど休憩時間はこれでおしまいみたいだ。切羽詰った漣の声が本棟の方から聞こえてきて、吹雪は口元を手の甲で拭いながら立ち上がり、おぉい、と大きな声で呼びかけた。

 しばらくして、漣が全力走りで波止場へとやってきた。

 

「ぜぇー、ぜぇー、こ、こんなところにぃ……」

「……大丈夫? どうしたの、漣ちゃん。そんなに慌てて……緊急事態?」

「えっと、えっと、それが、あの子がご主人様を探してて……」

「あの子? ……ななちゃん?」

 

 膝に手を置いて苦しげに息を吐く漣が、そのままの体勢で後ろを指差すのを目で追えば、音もなく歩いてくるななちゃん事名もなき艦娘の姿があった。

 初雪が身を硬くするのを感じて、吹雪は努めて明るい笑顔を浮かべた。

 みんなが彼女を苦手に思っているのは知っているから、せめて少しでもその感情を和らげられるように。

 

『……』

「なぁに、ななちゃん」

 

 吹雪の前まで来た彼女は、何も言わず吹雪を見上げてきた。連装砲ちゃんを模した人形を抱いている。それは確か叢雲の所有物だったはずなのだが……。

 

『……』

「……?」

 

 ふと、風の音が耳に届いて、吹雪は目を細めて怪訝な顔をした。

 今何か……少女が何かを言った気がしたのだ。

 その認識は正しかった。

 

『……もう一度』

「え?」

 

 ぽそぽそとか細い声で、小さく口を開閉させる少女に、吹雪は彼女が名前以外の言葉を話すのに驚きながらも耳を傾けた。

 

『もう一度、ゼロ(最初から)、に』

 

 しんと静まり返った空間に、少女の声だけが響いた。

 

 

「そういう訳で、私達は未来を掴みます」

「ちょ、待て待て! 提督、そりゃどーいう訳だ?」

 

 食堂へ(つど)ったこの鎮守府の艦娘達に、司令官・吹雪はまず最初にそう語った。

 最初、である。なんの説明もなくそんな事を言い出した吹雪に、誰もが困惑していた。叢雲は頭が痛そうにしている。

 

「深海神姫を倒して、そのエネルギーで過去に向かい、運命を変えて私達の未来を掴み取るんです」

「提督、説明不足過ぎない!?」

「もう少し詳しい説明をお願いします」

 

 エネルギーだの過去に戻るだのと急に言われても、いったいなんの事だかさっぱりだ。

 

「……ううー、頭痛がしてキマシタ……」

「たしかに深海神姫には、無尽蔵の力が眠っているのではないかと推測されていますが」

 

 深海神姫の謎の光線が燃料砲と同じく燃料を用いるものなら、あの規模を支える大量の資源があると推察されている。それはきっと、あの船の中にか、もしくはあの小柄な体の中に。

 

 不知火の言葉にうんと頷いた吹雪は、「それを利用して過去に飛ぼう」、と、まるでちょっと難しい任務を言い渡しでもするような調子で言った。

 

『ソノ話ノ出所ハドコダ。夢デ見タトデモ言イ出ス訳デハアルマイ』

 

 艦娘達の中に一人混じった青白い肌の深海棲艦が、とりあえずといった風に言葉を投げかけた。

 

「うん。ななちゃんから話を聞いてね。もしかしたら、深海神姫を倒すだけじゃなくって、その先で何かできるかもしれないなって思って」

「……あの、その『ななちゃん』という方は……?」

 

 鳳翔が手を挙げて疑問を口にすれば、吹雪は間を置かず答えた。

 

「みんなが名もなき艦娘って呼んでる子です」

『オイ』

「ちょっと」

 

 ガタリと音をたててレ級と叢雲が立ち上がった。レ級はしれっと約束を破られている事に、叢雲は本当に突拍子もない事を元にみんなの前でおかしな事を言い出している吹雪に物申すため。

 

「私一人じゃよくわからない事も多いから、瑞鳳さんや大淀さんの意見も聞きたいな。それからみんなで話を纏めていこう?」

「う、うーん、無茶苦茶かも。……でも提督の言う事だし、信じたいかも……」

「今さら何がどうなろうと、暁は動じないわ。……過去に戻れるのが本当なら、またみんなに会いたいし……」

『……ハァ。アノ子ガソレヲ望ンダト言ウノナラ、否ハ無イ』

 

 疲れたように溜め息を吐いたレ級に、吹雪は何かわかる事がある? と聞いた。

 きっと彼女はまだ隠し事をしている。それも、たくさん。

 本来敵同士なのだからそれは当たり前のことなのだけど、二ヶ月間寝食を共にしてきた今なら、レ級はみんなに秘密を教えてくれると信じていた。

 

『アノ子ガ願イヲ叶エル』

「……ななちゃんに、そんな力が?」

 

 願い。

 途方もない話に、しかし吹雪は一欠けらも疑わなかった。

 

『アノ子ハ最初ノ艦娘ダ。オ前達ヲ生ミ出シタノモアノ子ナノダ』

「げぇっ、ここにきて新情報!? あの子が漣達のお母さん!?」

「嘘や冗談じゃないでしょうね」

『嘘ヲ言ッテモ仕方ナイダロ。……ソウ、最初ノ艦娘デアルアノ子ニ願エバ、オ前達ハオ前達ノ望ム"人ト共ニ戦イ続ケル"世界ヲ取リ戻セル』

「し、深海神姫と、戦う事もない……?」

 

 本当に名もなき艦娘にそんな力があるのなら、わざわざ深海神姫を倒し、あるかどうかも、利用できるかどうかもわからないエネルギーを求める必要はない。

 潮の独白に近い言葉は、もしそうならどれほど良いかという気持ちからのものだろう。

 

 ダガ、とレ級が続ける。

 

『オ前達ノ未来ノ為ニ、再ビ人類ヲ地獄ニ引キズリ込ムノカ?』

「……それ、は」

『永劫争イノ無イ安ラカナ眠リニツカセ続ケタ方ガ良イノデハナイノカ?』

 

 運命を変える、と一口で言えば、それはまるで輝かしい未来を取り戻すための正義の戦いのように聞こえるが、実際はどうなのだろう。

 人類が滅びるという形ではあるが、戦争は終わっている。……あの戦いの日々に再び人間を(いざな)うのか。……本当に?

 ……そう問われると、吹雪はすぐには答えられなかった。

 

「惑わされないで。死んでるより、生きて生きて、生き抜いた方がマシに決まってんでしょ」

 

 叢雲が激を飛ばす。

 ……その通りだろう。

 人は愚かな選択により破滅の道を歩んでしまったが、誰も絶滅などしたくなかったはずだ。

 だから、過去に戻り、未来を変える行為は、きっと正義なのだ。その原動力が、自分達の幸せのためなのだとしても。

 

「駄目だと言われてもワタシはやりマス! ワタシがやりたいからやるのデース!」

「引きこもってたいけど……一度くらい、煩わしいの経験してみたい」

「全滅しちゃった仲間達にまた会えるなら、是非はないわ!」

「許されるなら、今度はみんなともっと仲良くなりたいです。だから……」

「わ、私も、みんなに会いたい。提督に会いたいです……!」

 

 口々に艦娘達が自分の想いを話した。過去、共に生きた人達と、また……。そうなるなら……!

 今の司令官は吹雪だ。だからみんな、吹雪に訴えている。吹雪に決断を促している。

 

『……ト、言ッテルガ? 吹雪、貴様ハドウナンダ?』

 

 深海神姫を倒してそのままあてどもない海を行くか、過去に戻り、未来を変えるか。

 そんなの、最初に言った通りだ。

 誰がなんと言おうと吹雪はやる。やらなきゃならない。

 

「……私も、できるなら『みんな』と一緒に戦いたい」

 

 結局吹雪も艦娘なのだ。

 司令官になり、人間となってみんなを導いてきたが、できるなら一人の艦娘として、司令官の下で戦いたかった。その想いは生まれた当初から持っていて、でも、今は心の奥底に封じ込めている欲求。

 

『ソレハ艦娘ラシイ意見ダ。艦娘ハミナ戦イヲ――』

「違う。戦うためじゃない。平和を勝ち取るために。私が生まれた理由を果たすために。だから私……ごめんなさい。深海棲艦(あなたたち)を倒します」

 

 艦娘の生まれた理由……戦う事。それは関係ない。

 吹雪は、きっとこの未来をなくすために生まれたのだ。

 終わってしまった世界を始まらせるために。

 そして過去に戻れば、また戦いの日々が始まるだろう。

 そうすればレ級の仲間をたくさん倒す事になる。ひょっとすれば、過去のレ級だって敵になるかもしれない。

 

『アァ、構ワン構ワン。出来ルナラノ話ダガナ。マ、様子グライハ見テイテヤルサ』

 

 軽い口調でそう言ったレ級は、椅子の背もたれに背を預けると、わざとらしい動作で足を組んで、『話ヲ戻スケド』と前置きした。

 

『願イヲ叶エルニハ対価ガ必要ダ』

「……その内容は?」

『ソウ緊張スルナ。オ前達ノ内誰カ一人ヲ生贄ニ、ナドトハ言ワンサ』

 

 エネルギーが必要なのだ、とレ級は言った。

 それはつまり、やはり深海神姫を倒し、内に秘められたエネルギーをどうやってかして回収しなければならないという事。

 

「それじゃあみんあ、その方法を考えよっか」

 

 吹雪の口調はいっそ清々しいほどに軽かった。

 自分達の進退を決める決戦を控えて、ほとんど気負ってさえいなかった。

 不安げに自分を見つめる艦娘達に、吹雪は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「大丈夫。私達なら、やれるよ」

 

 根拠のない励ましの言葉。

 なのに、その言葉はとても力強くて。

 『大丈夫』という一言が、みんなを勇気づけた。

 

 

 

 打倒深海神姫の作戦会議が始まる。

 

 季節は秋。

 10月10日。

 

 決戦の日は、近い。


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