世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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後々の展開を決めていなかったことによる、序盤との設定の矛盾に苦しんだため、一回最初っから物語を書き直して再構成します。今現在掲載している話までは、そう展開は変わらないはず・・・

今の展開が気に入っていた方は申し訳ありません。作者の自己満足の為、再構成にお付き合いください。


再構成 AC4編
新 一話 プロローグ


現実には伏線など存在しない。全てが唐突に始まり、何もかもが唐突に終わる。

私の人生の終焉も唐突なものであった。ACfAのデカール製作の際に、なかなかどうして上手くいかず、イラついていると唐突に意識が遠くなっていったのだ。自らの美的センスの不足による墳死だった。今頃私の部屋には、PS3のコントローラーを握りしめながら倒れる私の亡骸が転がっているだろう。そしていつか腐り、蛆が湧き、異臭により近隣住民から苦情が出てきて、大家が部屋を開けることにより、私の孤独死が発覚するのだ。テラウケる。

 

そして、第二の人生の始まりも唐突であった。

 

「サーバーダウン…ねぇ」

 

私は、顔にどのような表情を作るべきか迷いながら、説明にあらわれた天使を名乗る見目麗しい少年の言葉を聞いていた。(某イタ飯屋にかけられている宗教画に、良くいるタイプの身なりである。)

 

「はい、大変申し訳ありません。先日天界において大規模なサーバー障害が起きてしまいまして……多くの生物の命を強制終了してしまいまして……」

 

どこからであろうか。意味は分からないが怒りに溢れた叫び声が聞こえてきた。右隣では、美しい見た目をした女性の天使が、懇切丁寧にバッタに対し事の詳細を説明している。背中の方では呑気そうな牛の鳴き声が響き。左隣では赤ん坊による悲痛な泣き声が響く。幾千幾億もの命が、私と同じように事情説明を受け、様々な感情を吐き出している。

 

私はというと、別にどうとも感じていなかった。先の人生、刹那的かつ享楽的に楽しくすごした。後悔はない。齢25にして肉親は全て旅立っているし、アーマードコアの新作は恐らく出ないので、現世にとどまる理由もない。まぁ、ぽっくり死ぬなら今かなぁ……?程度に考えていたら本当に死んじまった。それが今の状況である。

 

「……で、それに対する補填なんか当然あるんでしょうね?」

 

が、表情にはそんな気持ちはおくびも出さない。死が天命なら受け入れるつもりであったが、ヒューマンエラーであると言われると、途端に詫び石が欲しくなるのが私という人間だ。いや、ゴッドエラーか?まぁいい。

私が渋い顔を作ると、それに反応して天使も申し訳なさそうな表情を作る。おら、申し訳ない思うんなら誠意を見せろや誠意を、天上ではそんな当然のことも教わらんかったんかいなおい。謝るだけならガキでもできるんやぞ。許されたい思うんなら……

 

「無論、あります。現世への生き返り。別世界への転生。天国に庭付き一軒家の提供。望むのならば、いくつかの特典もお渡しいたします。この度は本当に、本当に申し訳ありませんでした……」

 

赦そう

 

「わかりました。では、別世界への転生を願います。特典というのはどのように決めれば?」

 

私は一転して、自らの表情を笑みへと変えた。転生……転生……別世界……異世界への転生……異世界転生!!素晴らしい響きだ。美しい響きだ。心躍る響きだ。

ゴネたりはしない。交渉は苦手だ。今提示されたもので満足できるのならば、それ以上を目指し足掻くことなく妥協する。それが私だ。

 

「そうですか!ではこちらへ、貴方の新たな人生をどのようなものにするか決めましょう。特典もそこで……」

 

喜びの表情で天使がそう言う。うんうん、大失敗した上層部のケツ拭いてるってのに、その上ごねられたりしたら面倒この上ないものね。うん、いちゃもんつけんでよかった。

 

さて、ではキャラメイクをするとしようか。興奮からか、自然と歩幅が大きくなる。当然だ。今から私は、人生という世界最高の自由度を誇るロールプレイングゲームを、チートキャラでもって駆け巡ることができるのだ。同級生からバグアイルーを受け取り、一瞬でアカムトルムを撃破した時の興奮が、HoI4にチートMODを導入し、一瞬でソヴィエト連邦を飲み込んだ時のときめきが、身体全体を支配する。

 

待ってろよ新たな世界。

 

私が、全部めちゃくちゃにしてやるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージン・ウォルコットは、一人手術室の前で祈っていた。

この中では、彼の最愛の女性が、姉であるフランシスカ・ウォルコットがいる。

 

あぁ、どうか……

 

ユージンは呟いた。その独白は、無人の廊下に響くことなく、彼の口元で消えていく。

 

俺はどうなってもいい。どうか、姉さんと、俺らの子どもを、助けてください……

 

彼は、後悔していた。愛しているからと、姉とまぐわったことを。肉親を手にかけたこと。

 

ぐるぐると、思考が回る。螺旋階段を転げ落ちるかのように、ぐるぐると、ぐるぐると。

 

互いが、互いを求めていたことなどは理由にはならない。何故俺はあの日、姉さんの部屋の扉を開けてしまったのだろうか。何故俺はあの日、姉の隣に座ってしまったのだろうか。何故僕はあの日、姉の胸に飛び込んでしまったのだろうか。何故俺はあの日……

 

だが、その時は、ただただ最愛の人と繋がれた喜びだけが支配していた。やっと、姉さんと一つになれた、いままで姉弟だからと隠していた感情を、全て伝えることが出来た。姉さんが微笑んで、私もよ、ジーン。 そう言ってくれた。本当に、本当に幸せだった。

 

この時にはもう、罰は下されていたというのに。

 

その罰を認識したのは、それから五か月後のことだった。

 

突然、フランシスカが倒れたのだ。

ユージンは慌てた。時期は、国家解体戦争の終結から二か月後であった。このごろ、フランシスカは、訓練の他にも、プロパガンダ用の番組や広告撮影の為に、働きっぱなしであり、ユージンはかねてよりそのことを心配していたからだ。

 

姉さん、病院で診てもらおうよ。最近、働きすぎだよ。プロパガンダなんてメアリーシェリーにでもやってもらってさ。ゆっくりと休もうよ。

 

ありがとう、ジーン。そうね、病院で診てもらうわ。

 

ユージンが何度も何度も頼み込み、根負けする形でフランシスカは頷いた。倒れた次の日に、ウォルコット家のかかりつけの病院へ行くこととなった。

 

 

 

結論から言うと、フランシスカが倒れた原因は疲労ではなかった。彼女は身籠っていた。いうまでもなく、ユージンとの子を。

 

ユージンは狼狽した。ここで初めて、自らが犯した行為の罪深さを認識した。

帰りの車中、ユージンは深く沈んでいた。フランシスカは、そんな弟を優しく抱きしめ、こうつぶやいた。

大丈夫よ、ジーン。私、本当にうれしいのだから。だって、貴方との間に出来た子供なんだから。それに、二人の間で出来た子だと言ったら怒られるでしょうけど、子宝を授かったと言えば、きっとお父様も、お母様も、祝福してくださるわよ。

 

 

 

だが、二人は、フランシスカの妊娠を許しはしなかった。父も母も、姉さんを口汚くののしり、手ひどく暴力をふるった。売女だと、薄汚いドブネズミだと、お前など、もうウォルコット家の人間ではないと、幾度も叩きながら、叩きながら……姉さんを、叩いて……罵って……姉さんが、泣いていて……

 

そこで、ユージンの記憶は一度途切れていた。

 

次に意識を取り戻したときには、父も、母も、物言えぬ存在になり果てていた。フランシスカは、必死に弟の体に縋り付きながら、もういいのよ、ジーン。 とすすり泣いていた。

 

ユージンは最初、警察に自首しようと考えていた。だが、フランシスカに止められた。お願いだから、私の前からいなくならないでと。あなたがいなくなったら、私たちきょうだいは、おなかの中の娘は、いったいどうやって生きていけばいいのかと。

 

結局。両親の死は、家を襲撃した強盗による凶行という事になった。BFFからの圧力もあったのだろう、警察は深く調べようとしなかった。数日後、国軍出身のテロリストの罪状の中に、ウォルコット家の当主と、その夫人の殺害が加わった。

 

 

 

祈る手を強く握りしめ、天へと祈る。

勝手な人間だとわかってる。そんな資格が無いこともわかっている。国家解体戦争では何百万もの人間を殺戮し、実の姉に手を出し、肉親を怒りのままに殺した自分には。

だが、それでも、願ってしまう。それらの罪は、全て自分が受けまるから。だから、どうか、あの二人には、なんの罰も与えないでくれと。

 

「お兄ちゃん……」

 

ユージンが顔を上げる。本来なら、この病院で聞こえてはいけない声が、耳に入ったからだ。

 

驚いて、声の方向に顔を向ける。そこには、家で留守番をしているはずの彼の妹が立っていた。

 

「ジャンヌ!何をやってるんだ!家で待っているように言ったじゃないか……。それに、どうして病院にいることが……」

 

「だって、家、一人だから、寂しくて……。お姉ちゃん、最近具合悪そうだったから。病院にいったのかなーって。」

 

ユージンは言葉に詰まる。フランシスカの秘密を広げないために、父と母の死以降、全ての使用人を解任していた。名門といっても、今持っている土地はそこまで大きなものではない。ユージンやフランシスカだけでも、十分に手入れができるという判断であった。

 

しかし、妹からの一言によって、ユージンは自らの身勝手さに気づかされた。そうだ、姉と、自分のことばかり気にしていて、妹のことを……、一夜にして、両親を失ってしまったこの少女のことにまで気を付けていなかった。

 

ユージンは、不安そうにこちらを眺める妹の方に歩み寄ると、その体を抱き寄せた。

多くの障害を抱えている子だった。生まれた時から左腕を欠損し、右目は光を喪っていた。

だが、そんなハンデを感じさせないほどに、彼女は元気で有った。ユージンも、フランシスカも、この年の離れた妹のことが大好きであった。

 

「ごめんな。ジャンヌ。姉さんが元気じゃなくなっちゃって、いっぱいいっぱいになっちゃったんだ。ジャンヌは、寂しがり屋だもんな。ごめんな。いまから、一緒に姉さんが元気になるように待ってような」

 

父の思い付きによって、何故かフランス系の名前をつけられた少女は、ならしょうがないなぁと微笑んだ。

 

良く食べ、良く動いているからだろうか。細く見える外観と、五歳という年齢にそぐわない重さを感じながら、ユージンはゆっくりと、手術室の前、自分が座っていたベンチに戻った。

 

「お兄ちゃん。お姉ちゃんは、大丈夫なの?」

 

「あぁ、きっと大丈夫だよ。」

 

「本当?また、料理作ってくれる?お母さんやお父さんみたいに、いなくなったりしない?」

 

不安そうな、本当に不安そうな声。ユージンは、自らの心を襲う痛みを甘んじて受けながら、頷いた。

 

「あぁ、大丈夫だよ。それにな、ジャンヌ。もしお姉ちゃんが元気になったら。一緒に、新しい妹も来てくれるんだぞ。」

 

妹。その言葉を聞いて、ジャンヌの顔はぱぁっと明るく輝いた。

 

「妹!妹が私にもできるの?どうして?コウノトリさんが運んできてくれるの?」

 

「あぁ、そうだよ。」

 

一度、ジャンヌの頭を強く撫でる。くすんだ金髪がわしゃわしゅとかき乱され、くすぐったそうに少女は喜ぶ。

と、何かに気づいたのか、唐突に天井を眺め、そのままユージンの顔を見つめた。

 

「ねぇ、その妹は、何て名前なの?」

 

「名前かぁ。そうか、名前かぁ……」

 

そういえば、まだ考えていなかった。ここ数か月、いろんな工作の為に走り回っていて、そんな余裕がなかったのだ。

 

うんうんと悩みだした兄を見て、ジャンヌは、「じゃあこういう名前はどう?」と言った。

 

「どんな名前だい?」

 

ユージンは尋ねた。

 

「リリウム!」

 

「リリウムかぁ……」

 

リリウム・ウォルコット……言われてみると、これ以外に選択肢は無いように感じられるほど、すとんと体の中に入ってきた。リリウム、リリウム……

 

「うん!お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、ジャンヌも、百合の花好きでしょ?だから、リリウムもきっと百合の花が好きだと思うの!だから、リリウムなの!!」

 

「うん、そうだね。新しい妹の名前は、リリウムだ」

 

きっと、姉さんも気にいるだろう。ユージンは確信した。

 

その時だった。手術室から、赤ん坊の声が聞こえてきた。

 

「あ!この声、リリウム?コウノトリさんが、リリウムを運んできたの?」

 

「あぁ、そうだよ。」

 

ユージンは、天真爛漫に笑う妹のお陰で溶かされた自分を自覚しながら、そう頷いた。

 

ありがとう、ジャンヌ。君のお陰で、ちゃんと前を向けそうだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生先の兄が姉を犯す近親相姦変態野郎な上、あまつさえ妊娠させてしまい、バレるのが怖くなって両親を殺しちまうような鬼畜野郎なんだけど質問ある?

やべぇなこれ、字面だけ見たらアウトの中のアウトだぞ、実際の行動もアウトの中のアウトだけど、これあれでは?わっちもいつか犯されちまうのでは?こわいわー。怖すぎるわー。一回り以上離れた妹に欲情は無いわぁ。近親相姦ロリコンとか救いの無さが天上天下唯我独尊だわー。

ま、とりあえず貞操の危機は置いておこう。

やっと、わたくしジャンヌ・ウォルコットの、転生目的の一つであるリリウム・ウォルコットちゃんがこの糞ったれな世界に生まれてくれました。

楽しみだー。これからいっぱい可愛がって、依存されちゃうぞー!きゃっわいいーリリウムたんを、味わい、しゃぶり、むさぼりつくすぞー!!

 

ウフフ……アハハ……イヒヒヒヒ………

 

世にリリウムのあらん事を

 

世にリリウムのあらん事を

 




今回の変更点

・ジャンヌ・オルレアンが、ウォルコット家の一員になりました。(唐突な設定大規模改変)

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