世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
理由としては大きなもので二つ。

・モンハンストーリーズにハマった為。
・脳のクールダウン。

創作やりたい欲も戻ったので、のんびり再開します。絶対に失踪なんてしない。たぶん。


アクアビットは成長する その隊長ルート

少し前から狂人に対するソレから、重要人物に応対する際のソレへと態度を変えたアクアビットの調査員との会話の後、エヴァンジェは体感にして数日ほど前の自分の行動へと想いを馳せた。

 

成人してからの麻疹というのは将来に致命的な傷を残すとはよく言ったものである。他者を見下し、自らが特別であることを確信してしまっている。運が悪ければ、間違いなく日を跨ぐことも許されずに死んでいたであろう。

 

そう、あれは運が良かったのだ。運が良かったから、レイヴンとして死ぬことが出来た。

 

 

 

「ドミナント……?」

 

サークシティ

旧クレスト本社に設置してあるバーテックス本営。各地から届く戦況報告は、一人のレイヴンの本格的な介入によりバーテックスに有利なものへと少しずつ、だが確実に傾いていった。

その報告を横目で眺めながら、バーテックス主宰であるジャック・Oは、目の前の男へと言葉を続ける。

 

「ドミナント仮説……という論文がある。聞いた事は?」

 

「いや、聞いた事は無い」

 

エヴァンジェ。アライアンス戦術部隊を裏切ったこの実力派レイヴンは、こちらの真意を伺うような視線を向けている。

 

「先天的に戦闘に対して才能のある人間……つまり、戦闘の天才が存在するという事を提唱したい論文だ。発表されたのは今から30年ほど前。だが、肝心の内容を証明できずに廃れた論文でもある」

 

「戦闘の天才……?」

 

エヴァンジェの目の色が変わったのを、ジャックは見逃さなかった。自己顕示欲の強い男、何よりもレイヴンとしての名誉を追い求める男。やはり、興味を持ったか。

 

「だが、私はある理由によりこのドミナントを探し求めている。」

 

ジャックはそう言うと、ちらりと右に貼られたレイヴンリストを見た。既に、10機のレイヴンの撃破情報が送られていた。その内の3機を、このエヴァンジェは撃破していた。

 

アークの時代から、彼には目をつけていた。企業との癒着による追放が無ければ、間違いなくジノーヴィーを超えてランク1となっていたであろう。

それほどの実力者だ。

 

彼には、その可能性がある。

 

そう考えたジャックは、エヴァンジェに対し未だ誰にも伝えたことのないドミナントについての話をした。エヴァンジェは、アライアンスからのモグラの可能性もある。ならば、早い内に自分の真意を伝え、アライアンスから完全に心離れさせる必要がある。

 

予想通り、功名心が強いエヴァンジェはドミナント理論に乗ってきている。

もう一押し、そうすれば彼という駒は自分の物になる

 

「私は、君がドミナントかどうかを見極めたいと考えている。今後君には、アライアンスやその他の武装勢力のみじゃなく、バーテックスのレイヴンとも戦って貰いたい。」

 

「……バーテックスの掲げていた理想は、ドミナントを探すためのフェイクだったという事か」

 

「そうだ。彼らは、君や彼女たちのような可能性ある者の養分となるだけの存在だ。」

 

「彼女たち……?」

 

予想通り、エヴァンジェは彼女たちという言葉に反応した。

 

「可能性あるものは、22人の中で3人いると私は考えている。君とジナイーダ、そして君も良く知っているであろう彼だ」

 

「あいつも……」

 

エヴァンジェはそこで言葉を止める。無理もない、彼には、あのレイヴンに対して並大抵ではない因縁が存在している。

 

「だが、ドミナントは同じ世代にそうそう多くは存在していない。この三人の中で、真のドミナントはただ一人。私はそう考えている。」

 

そう言うと、ジャック・Oは立ち上がった。ついさっき新たに来たメールには、アライアンスのモリ・カドルが撃墜されたとの情報が書いてあった。

これで、残りのレイヴンは半分になった。

 

「エヴァンジェ、君にはこれからある手術を行ってもらいたい」

 

「手術?」

 

「あぁ、強化人間手術の発展系だと思ってくれて構わない。……成功率は、それよりも低くなるがな」

 

 

それは、未だ三企業が地上を支配していた時代の末期に、ミラージュ系の子会社から考案されていたものだった。

成功すれば、更に効率的にACを動かす事が出来る革新的な強化人間。パイロット保護の為にかけられている各種パーツのリミッターを解除しても問題無く操作できるように人間を徹底的に作り変えるその技術は、しかし成熟する前に特攻兵器によって考案した子会社と共に叩き潰されてしまった。

 

ジャックがその技術を手に入れたのは偶然だった。バーテックスとして数多の人材を雇用していた際に、偶然その子会社の人間が資料と共にやってきたのだ。

その資料を閲覧し、ジャックは頭を抱えた。

確かに、その手術によって産み出される戦士は彼の目的達成のために魅力的だった。

だが、余りにもリスクが高すぎる。

特攻兵器による蹂躙爆撃以前に行われたテスト、五三名の被験者のうち無事に手術が成功したのはただ一人であった。

その一人さえ、特攻兵器の混乱の最中にロストしていた。成功率は2%に満たず、その成功例さえ何故成功したかの原因がわからずに失ってしまった。

 

しかし、そんな計画にさえ縋らなければいけない程、状況は悪い。

 

サークシティに作られた特殊研究棟でかつて強化人間手術に関わっていた者と共に、かつてを上回るペースで人体実験を繰り返した結果。成功率は3割を上回るまでに改善した。

 

しかし、そのどれもが戦場では目立った戦果を挙げる前にアライアンスによって潰された。

理由は明白、それら成功例はどれもレイヴンでは無く。人的資源の少なさから、素材を低コストで済む

MTにすら搭乗した経験の無い底辺の戦闘員を使ったこと。

訓練を行えば、一流の戦闘力にはなるだろう。しかし、そんな時間は存在してなかった。

 

ならば、待つしかない。彼が求めるレイヴンが来るまでに。

 

ジャックは、計画実行のタイミングまで、技術の熟成のみに努めた。

多くの人間を喰らいながら成長した新しい強化人間手術は、エヴァンジェがバーテックスに参加する頃には成功率が5割を超えていた。

 

 

「わかった、受けよう」

 

手術の説明を行うと、欲に燃える男は一も二もなく頷いた。

 

「ならば付いて来てくれ、既に準備は整っている。」

 

ジャック・Oは立ち上がると、返答を聞かずに実験棟へと歩き始めた。

 

時間は無い。インターネサインから生産された〝自衛用の機動兵器〟の活動も、既に本格的なものになっている。

エヴァンジェ、ジナイーダ、そしてあのレイヴン。

はやく、本物を探さなければならない。

エヴァンジェに行う手術は、成功さえすればレイヴンの剪定の為に素晴らしいカードになるだろう。

仮に、失敗しても構わない。ジャックは、あの三人の中で彼は本物である可能性が一番薄いと考えていた。

 

世界を救う為に、世界から孤立した男は進む。

既に、多くの死者が出ていた。人類を救う為に、数多の人が死ぬ矛盾。もはや、戻る事など不可能だろう。

 

赦しを求めるつもりは無かった。結果がどのような形になろうとも、あの予告から24時間後には、彼は死ぬつもりであったからだ。

 

せめて、レイヴンとして死にたい。

ふと、そんな気持ちが心に浮かんだのを感じた。真の強者と戦い、果てる。はじめてレイヴンとしてACに乗った日から考えていたその願いを、だがジャック・Oは自らの使命の陰へと押し込んだ。

 

残りおよそ12時間。それまでに、全てを終わらせねばならない。

 

 

 

アライアンスは斃れた。

戦術・戦略面において劣り、早期に全てのレイヴンを失い、最後の大駒であるレビヤタンはタートラス司令本部跡地にて散った。

 

エヴァンジェは1人、サークシティ地下に立っていた。ジャック・Oはパルヴァライザーをおさえるべく囮として地上に出ていた。彼の計画を知る一部の腹心が、ここからインターネサインへの道を切り開くべく調査を行なっている。

 

決戦の時は近い。しかし、エヴァンジェの心は不思議なまでに落ち着いていた。

彼の自信は、最早揺るがないものとなっていた。

 

ここ数時間、ドミナントのテストとしてあらゆるACを排除した。

 

ジャックの友人、バーテックスの古強者、レイヴン嫌いの一匹狼、そして、あの女。

 

新しいオラクルと、新しい自分。その前に、最早敵は存在しない。それを確信した彼は、来たる最後の戦いに向けて、一人その時を待っていた。

 

そう、敵はいない。もし、いま、ここに彼奴が現れても。間違い無く私が…………

 

「……ん?」

 

瞑想をしていたエヴァンジェが、片目を開く。

前方、地上と此処を繋ぐエレベーターが始動している。

 

「誰だ……?」

 

心の中で、インターネサインに向けていた闘気を、未だ見ぬ侵入者へと向ける。

 

ゲートが開いた。反応はAC、現在データ照合中。

 

エヴァンジェは、その正体を確かめるべく振り向いた。

 

「…………!」

 

そこには、見知った相手がいた。

 

「……なにをしに現れた?」

 

エヴァンジェは尋ねる。恐らく、目の前の男は答えないだろう。

 

「ここはただのレイヴンが来るべき場所ではない。」

 

そう、お前はただのレイヴンだ。私とは違う。お前にも、可能性はあったかもしれない。だが、選ばれたのは私だ。

 

「ドミナントである私が……私が為すべきことなのだ!」

 

強く、そう宣言する。だが、目の前の男はこの言葉に何の反応も示さない。

 

彼奴は、いつもそうだった。最初も、二度目も、無数の戦いの中でも、決して何も語らず、ただその圧倒的な力だけで自らを証明し続けていた。

 

「理解できんと見える……」

 

静かに、闘志に殺意を混ぜる。そうだ、こいつだ、こいつは殺さねばならない。自分が特別である為に、私がドミナントであると証明する為に。私は、私を踏み越えたお前を、何としても踏み越えねばならない。

 

「ならばその証を見せてやろう!」

 

システム、戦闘モードを起動。

新生 オラクルの末端、その隅々まで自らの神経が行き渡っていく。

 

そうだ、私は、もうお前とは違うのだ。ドミナントとして相応しい肉体と、相応しい機体を手に入れた。

 

今までのような敗北を喫する気は無い。

 

エヴァンジェは叫ぶ。

かつての敗北を清算するために。

 

「決定的な……違いをなッ!!」

 

 

 

 

 

『敵ACを確認 ナインボール・ルシファー・ノワールです』

 




AC力を高めなければならない。

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