世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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前書き1
お気に入りが1000突破していて頭がおかしくなったのかと思いました。
皆さま、ありがとうございます。今が序盤なのか中盤なのか筆者にすらわからない本作です。せめて、失踪しないよう頑張りたいです。

前書き2
執筆に使ってる携帯の挙動が不安定です。壊れたり治ったりを繰り返しており、今後どうなるか全くわかりません。なんとか、2日に1話程度のペースは維持したいのですが。

前書き3
携帯を触らない期間プロットを練り直したのですが。この作品、時間をかければかけるほど死者数が増えるのでは?となってる。

前書き4
脱字大量発見により修正。うーむ。


アクアビットは成長する そのACNX

下層の一通りの散歩を終えたので、エレベーターに乗り込んで中層の研究棟へと踏み込む。ほとんどの技術者が休んでいるか下層でお楽しみの為に、廊下は薄暗い。

 

ここはあんまり面白いものが無いかなと思いながら歩いていると、会議室がやたらと騒がしい。培養室の横を通り抜け、ひょこっと開いた扉から顔を出す。

 

「おぉジャンヌ良いところに」

 

そこには、ルーク率いるリンクス班と、色々あって最近お世話になっている生物理工学班。そして数人の軍人がいた。プロジェクターをいじりながら顔をこっちに向けたリンクス班主席研究員ルークは、にこやかに私を部屋に招く。

 

「今から面白いものの上映会をやるんです是非見てください」

 

句読点の聞こえない声からルークの興奮が良く分かる。部屋に入り、座った場所の右横にいた技術者に何を上映するのか尋ねてみる。

 

「例のノーマルACのヘッドパーツに搭載されていたブラックボックスに記録されていた映像です。AIなどの他の詳細データの解析はまだですが、映像は見ることが出来たので、その分析等も含めて今から見ようとしていたのです」

 

「……本来なら、軍部のみで確認する筈だったのだが、どこからかこいつがやってきて無理矢理この場の全員での視聴を決めたんだ」

 

ジャンヌの左横にいた軍人の呟きも聞き、成る程何が行われるのかを理解する。ようするに、今から楽しいドミナントの一生が始まるというわけか。

 

「それは楽しみね」

 

私もワクワクしながら画面に注視する。ポップコーンとコーラが欲しくなってきた。

 

「よしでは始めるぞ……!!」

 

ルークが興奮した様子でスイッチを押す。私は席に深く身体を預けると、リラックスしてその映像を眺め始めた。

 

 

 

 

映像には彼がレイヴンになった頃からの、戦いの全てが記録されていた。

 

彼の最初の戦いは、ミラージュのMT部隊の襲撃だった。リニアライフルや月光を駆使して何の問題もなく成功させ、そこで一端映像が途切れる。

 

研究員や軍人達は動揺している。見たことも無い場所で、見た事も無い敵に戦いを挑む謎のノーマル。CGにしては余りにも精度が高すぎる。同じものを作るには、いったいどれくらいの金がかかるのだろうか。

 

エヴァンジェは、次々と任務やアリーナでの戦いを勝利していった。さすがアライアンスの隊長だ。その自信溢れる声やAIのボイスからは殆ど危機的な情報は流れて来ず、彼は仕事をやり遂げる。てかこいつOP級にキビキビ動いてるぞ。

 

任務は敵を見た限りクレスト、キサラギ、ナービス、そしてミラージュと、どの仕事も満遍なくやっているらしい。これから先にクレストに与する……もしくは、もう契約しているのかもしれないが、そんな風には到底思えない。レイヴンとして理想的なバランス感覚と思えた。

 

アリーナにいたな程度の微かな記憶しか無いレイヴンとの対AC戦や、見知らぬ場所での輸送部隊護衛など、主人公とは違う仕事を多く行っているのがわかる。こういう風に、あの時代では色んなACが戦ってたのだろうな。そんな風に私が思っていた時だ。

 

 

 

すごく見覚えのある場所が映し出された。

 

 

 

別に、良くACNXで戦場になった場所というわけではない。ただ、私があるものに会いたくてフリーミッションでやりまくってだけだ。あぁ、そうか、お前この任務受けたんか。やめてくれよ……

 

次の瞬間、画面に映し出されたのは。アクアビット社の存在以上に非常識なモノの姿だった。

 

「何だあれは!?」

 

何人かの技術者や軍人が思わず声を上げてしまう。中には、露骨な嫌悪感を表情に出している者もいる。というか、私も少し気分が悪い。画質が良すぎる。

 

ダンゴムシのように段差のある深い緑色の外殻、前方から伸びた紫がかった3対の関節肢、不気味に光る6つの瞳は、見た物に言いようの無い恐怖を心の中に植え付ける。

 

 

AMIDA。キサラギをキサラギたらしめた最悪の生物兵器であり、その容姿の可愛さからレイヴンのマスコットとして愛されるムシキングである。

 

おいリアルに見るとクソキメェぞこいつ。あ、オラクルがリニアライフルを…………あれ、でもNXのAMIDAって…………

 

「爆発したぞ!?」

 

グロいどころの騒ぎではない。外殻やら肉やら体液やら酸やらハードの関係上演出をオミットされたであろう様々なものが飛び散る。あ、誘爆した。うわぁ、スプラッタ。

 

というかこれ、ACの視点から見てるから大型犬程度の虫に見えるだけで、実際は民家程度の大きさがあるんだよな。ふざけてんのかキサラギは、頭おかしくなるぞ。

 

「対AC用の生物兵器ということか?」

 

「さっきまでの映像もワケがわからなかったが、いや、だが、これは……」

 

「しかし、理に適ってはいる」

 

かなってねぇよ、どこにもかなってねぇよ。

 

「昆虫の高い繁殖力を上手く活かす方法があれば、それをこのように巨大化して兵器にする事が可能なのでは?」

 

「しかし、そんなノウハウは生理班には無いぞ」

 

「そうだ、それにコジマ汚染下で活動できる生物だなんて……」

 

「ノウハウが無ければ引き抜いてでも作ればいい。いま、どこの企業だってこんな分野を考えているとは思えない。在野の研究者だって相当な数になるだろう」

 

「おいまて、冗談だろ。流石に、流石にこれはやめてくれ」

 

「それに、だ。そんな生物がいないのなら新しく作れば良いんだ」

 

……なんで私を見たのカナ?

 

「話を聞け!正気とは思えんぞ?」

 

「だが!我らの悲願達成の為にはどんな手でも取れるものは取るべきだ!!」

 

「お前らその言葉を言えばなんでも許されると思ってるな!?」

 

うん、絶対そうであろう。悲願が何かについて私は説明を受けていないが(どうせ宇宙)、研究者たちは何かを無理矢理通そうとする場合、この言葉を印籠の如く掲げて反対意見を抑え込んでいた。

 

軍人たちと生理班の面々の終わりそうに無い口論を無視し、映像を目を戻す。他に、ルークも目を離さずにオラクルの一生を食い入るように見ていた。

 

AMIDAとのランデブーは間も無く終了し、また通常の任務に戻る。嫌だなぁ、こっから更に跳ねたり飛んだりするんだろう?見たく無いんだけど。

 

さて、まぁ、こんな感じに戦いは進んでゆく。っと、またアリーナ任務か。どれどれ次の相手は〜……

 

……ナインボール?アリーナのトップがどうして…………

 

よくわからないが、どうやらACMoAの世界に紛れ込んでしまったらしい。ははは、へへへ、うん、カラーリングやエンブレムもナインボールだ。ははは、にょほほほ。

 

おいまじか、ACNXの主人公はハスラーワンかよ、どういう事だ。わけがわからんぞ。なんか頭の中に9が流れて来たし。てかなんでこいつ再現機体なんか組んでるんだよ。うわ始まっ……きゃー!!小ジャンプにょわぁ〜〜!!!こいつレイヴンにゃぁぁぁぁぁ!!!!!

 

目の前のナインボール君は、目にも留まらぬ機動でエヴァンジェを翻弄する。鬼ロックでエヴァンジェはナインボールにリニアを放つが、やはり火力不足か……んにゃ?

……なんでこのナインボールは止まってグレネードを構えてるんだ?え、まじ?未強化?いやそらN系なんだから当然なんだろうけど。え?なに?未強化ナインボール?なにそれカッコ良い。え、じゃあこの雨のように放たれるパルスは何なの?んでもってこの機動力はなんなの?どんなエネルギー管理してるんだこいつ。あ、ブレード来た。うーむ、オラクルの負けかぁ。エヴァンジェの悔しそうな声が聞こえる。まぁ、仕方がないよね。こんなの勝てるわけないよね。というか結構削ったじゃん。敢闘賞ものだよ。だってこいつ、自分のN系の愛機〝ミッドナイト〟でも勝てるかどうか微妙だ。

 

「凄まじい機動だこれがノーマルだと?」

 

いいえ、イレギュラーです。ルークの言葉に思わずそう返しそうになる。

 

アリーナでの敗北後も、エヴァンジェは変わらず任務を遂行する。少しばかり動きが良くなった。まぁ、同期とあれだけ差を開けられたのだから、意識の変化があっても仕方ないのかもしれないが。

 

再びナインボールとの再戦。だが、同様に相手も強くなっている。うーん、差が縮んだかどうかこれもうわっかんねぇなぁ。ただ、やはりその後の戦いでは前よりも動きにキレがある。

 

さてさて、ミッションは進む。未だに後ろで殴り合いに発展しかねない罵倒合戦を繰り返す研究者・軍人達を置いて、エヴァンジェは戦い続ける。……っと、対ミラージュ系の任務が多くなって来たな。いや、そうか、たしかこの時期か、エヴァンジェが追放されたのは。ということは、今はクレストの専属としてやっているのだろう。ミラージュ側の部隊やACを次々と狩っていく。その姿を見て、自分こそがドミナントだと勘違いしても仕方の無いなと思ってしまう。間違いなく、このエヴァンジェはナインボールを抜いて最強格のレイヴンであろう。ジノーヴィーがどんな動きをするか見ていないが、所詮ジノーヴィーである。ジノーヴィーのような動きをするに決まっている。……っと、これは、クレストの反乱軍か?なるほど、エヴァンジェは本社側だったのね。ポコポコと狩られて行く支社の羊達に、哀れみすら覚える私。そういえば、任務ごとに映像が切り替わるとはいえ中々の時間が経過したな。少しばかり疲れが溜まってきた気がする。部屋に戻ってもう一眠りしようかな?などと考えて、一度腰を捻ってパキリと音を出す。そして、ビル群にて、支社のMT相手に無双しているエヴァンジェに目を戻し

 

………………ジノーヴィーがいる。

 

……………………………………ジノーヴィーがいる。

 

わけのわからなさがここに極まってしまった。ナインボールがこんな奴に負けるとは思えない。考えられる事としては、ミッション放棄かミッション放棄かミッション放棄の三択である。マジで意味がわからん。なんでこんなピンチベック野郎がこの先生きのこってるんだ……てか森よ、こんな機体だから負けるんだよ。

 

『今 この瞬間は、力こそがすべてだ!』

 

NX屈指の名言である。相手が相手なだけにネタセリフでもあるが。

 

『私を超えてみろ!』

 

はいはい、すぐ超えるすぐ超え……え?え、え??

 

画面の中のジノーヴィーが躍動する。重量過多だとは到底思えない高い機動性だ。フロムマジックどころの話では無い。例のミッション失敗時のジノーヴィーすら霞む動きでジノーヴィーが動いている。じょ、冗談じゃ……!

 

何が起こったか、このフロムマジックの原因を探る。アセンブルや腕部武装は変わっていない。ということは内装に何か秘密が?そして背中には彼を産廃たらしめている大グレが変わりなく……

 

まて、違う。あれは両肩グレだ。まさかジノーヴィーは自分の弱点に気づいたのか?なんだこれ、なんだこの世界観。わけがわからんぞ。なんでランク1がランク1の動きをしてるんだ!?お前もしかしてマジにナインボールに勝ったのか?

 

降り注ぐグレネードとライフル弾。ビル群を駆け抜け、死角からタガーを構えて斬りかかる。イケメン機体がイケメンな機動をしているなんて、もしやこれはACでは無いのでは?そんなことすら考えるようになってきた。

 

しかし、エヴァンジェも負けていない。ジノーヴィーがフロムのデモムービーならこいつはOPである。凄まじい高機動で動いている癖に、一切ロックは外れない。なんちゅう鬼ロックだ。タガーの一撃をかわし、オラクルのリニアライフルが、リニアガンが、唸りを上げてピンチベック……いやもうデュアルフェイスだな、こりゃ……に殺到する。

 

激動は30分に渡り続いた。口論をしていた者達も口を止め、この戦いを息を潜めて観戦する。

 

デュアルフェイスが両肩グレをパージさせる。すると、更に速度が上がる。その動きに、その戦いに、なんとなく、私はネクストの姿を重ねてしまった。

 

だが、決着は唐突についた。アサルトライフル、そして格納グレネードすらも撃ち切ったジノーヴィーが、火花を散らしながら特攻してきた。エヴァンジェは、それを落ち着いた様子で迎撃する。リニアライフルを二発、そしてガンを一発受けたデュアルフェイスは、その動きを止めた。震える声で、ランク1は第二の名言を放った。

 

『小さな存在だな……私も……君も……』

 

どっちも私にとっちゃ大きな存在すぎるんですが。そこらへんはどうなんでしょうか?というかあんたその後にセリフ無かったでしたっけ。もしかして君もなんちゃらかんちゃらって。

 

そして、デュアルフェイスは爆散した。謎を残したまま死んだランク1、だがエヴァンジェは自らの実力をやっと証明できたと喜んでいる。いや、喜んでいいよ。お前はドミナントだよ。ここのお前はパルヴァライザーに乗り込んだって許されるよ。でもここのエヴァンジェは私の希望通りなら漢の中の漢だからなぁ、実力と性格両方が揃ったレイヴンの中のレイヴンと言うことになってしまう。主役かな?

 

…………と、次の映像から特攻兵器との戦いが始まった。どうやら、ナインボール君が起動させちゃったらしい。特攻兵器の雨あられを迎撃しながら、悪態を吐くエヴァンジェ。これからLRまでの数ヶ月間は、こんな映像ばかりになるだろう。

 

「この兵器はいったい……?」

 

「くそ、映像だけじゃあ何をやってるか全くわからない。CPUの解析を早く進めなくては……」

 

短調な映像の連続に、先程の戦闘で吹き飛んだ眠気がまた戻ってきた。とりあえず、一眠りする程度の時間はあるだろう。私は軽く腰をあげると、研究者達の間を抜けて会議室を出る。

 

 

部屋に戻る。真っ暗な室内を暗視センサーでもって危なげなく進み、微かな寝息を漏らすリリウムの隣に再び潜り込む。明日は暇な時はNXでもやろうかな、などと考えながら私は寝た。

 




クレスト中量二機はイケメン集団

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