世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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コメントでACVD編までやってくれという発破をかけていただきました。
その結果、なぜかACV編の導入が思いつきました。忘れないうちに投下しておきます。もし、ACfA編が無事完結したら、あるルートの内の一つの結末が、こんな感じにV編の始まりにつながります。でも多分絶対変わります。


外伝壱 狂人は世に平穏をもたらすことが出来るのか?

荒廃した大地

 

天は分厚い雲に覆われ、風が吹くたびに水気の無い砂が舞い、何十年もの間、雨風に曝され続けた人間のものと思われる骨が、カラカラと砕けながら転がる。

 

そこには何もなかった。かつては栄えた街のあったその場所も、ある人災により滅びた後は一切の人間が近づけず、そこに立っていたビルや民家も全て砂塵も化していた。

 

……その人災を巻き起こしたのは、閉ざされた空をも貫きかねない巨大な塔だった。いつかは詳しい事はわからない。だが、唐突に空を突き破って現れたそれは、その周囲に存在した営みを悉く、そして永遠に滅ぼした。とだけ伝えられている。

 

だが、それが何かはわからなかった。近づけば、一切の生命を拒否する汚染により身体が蝕まれ、たちまち果ててしまうからだ。

 

汚染が届かない地域で、その塔を眺めるもの達は、みな各々でその塔に対し想像を膨らませていた。

 

曰く、アレには旧世代の遺物が残っているのだと。

 

曰く、あの中には異なる空から来た化け物が巣食っているのだと。

 

曰く、あそこは理想郷である。あそこでは、日夜清浄な空気の中で宴が行われているのだと。

 

様々な、勝手な、出所不明の噂話。だが、誰にも確かめようの無いそれらは、時が経つごとに膨れ上がる事となった。

 

 

 

「…………………………」

 

そんな死の大地に、少女が立っていた。

 

少女は腕を組み、片側しか無い瞳で太陽の見えない天を睨んでいた。

その右腕は華奢ながら強靭、その左腕はこの時代では解明の出来ないほどに高度な技術で造られた義腕がはめられている。

 

少女は、息を吸う。まともな生物ならば一秒たりとも耐えられないそれを肺いっぱいに吸い込み、叫ぶ。誰もいないその地で、まるで世界中にその産声を聞かせるように。

 

 

 

 

「トーラスのクソ馬鹿技術者どもがァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!コールドスリープから起きたらテラフォーミングされた火星だって話だったじゃねぇぇぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

大地を震わすその罵声と共に、世界を滅ぼした原因の一人は、再び地球に立った。

 

 

おはようございます、朝起きたら目の前に崩壊した世界があったらどう思いますか?私?とりあえず壁を蹴りました。ジャンヌ・オルレアンです。

 

話が全然違います。違い過ぎます。全部説明したら広辞苑が完成するので控えますが、これは詐欺です。訴えます、誰を?今頃火星でほのぼの開拓ライフかましてる奴らを?どうやって?

 

もう一度壁を蹴る、ガキンという音ともに破片が飛んだ。ザマァ見やがれ。

 

……ただただ狂っていてもしょうがない。とりあえず、現状把握をするか。さて、まずは生き残りの捜索かね。

 

 

「はい!生き残り0!解散!どこにだよ!」

 

探した結果、同乗者全員墜落のショックで死んでいたか起きた瞬間汚染で死んでまちた!わーい!

 

壁を蹴る。

 

「あークソ、リリウムたちが同乗してなかったのは不幸中の幸いか。生きていてくれよ本当に……」

 

そう、私はリリウムたちとは別の宇宙船に乗っていた。理由は簡単、リスク分散のため。私たち優秀なパイロットは、AMS技術を施したハイエンドノーマルによりバリバリ火星でも仕事をする予定だった。え?その仕事道具はって?ボロボロ、コアはまだギリギリ無事だったけど、意味ないよね?

 

それが、これだ。

 

「しかし、この汚染は酷いな。大気圏脱出してコジマブースターを破棄する前に落ちやがったな。」

 

船内に残っていたコジマカウンターは、最大値をしめしたまま止まっている。計測不可能と言うことだろう。そりゃそうだ、みんな大好きトーラスのロケットだぜ?墜落して無事に済むわけないじゃないか。

 

「うーん、どうしよう。別にここで暮らし続けて死ぬまで待っても良いが……」

 

奇跡的なことに、食糧や私が娯楽として持って行くつもりだったゲーム、そしてロケットの炉心などは無事だった。それらと私の命が擦り切れるまでここにい続けても良いが……。

 

「それじゃあつまらんよなぁ」

 

とりあえず、此処から出て街でも探してみよう。折角なんだし、ポジティブに生きねばならない。

 

「ふふふん、なんたってわちきには、この神から与えられた天性の肉体が有るんだからね!」

 

なお、これは転成とかけた爆笑ギャグである。私の脳の観客はいま腹を抱えて倒れてる。死因はコジマ汚染だろう。

 

「さて、行くかぁ。歩きでどんだけかかるかなぁ。食糧も割ともっていくかぁ」

 

そう呟き、私はロケットへと戻った。

 

 

 

 

うっふぅん、あっはぁーん。どぉーもぉー、じゃぁんぬ・おるれぇあんでぇーす。歩き続けて半月経って見つけた街で商売初めて3ヶ月でぇーす。え?なんのしごとしてるかって?

 

売ってるのよ、はーるーを

 

「や、やめてくれ…………!」

 

「じゃ、これ最後ね」

 

そう言って客の頭を叩き潰す。しゃ、終わり。いや良いね、無法地帯って、死体がそこらに転がってるから隠す必要が無い!

 

というわけで、わちきの美貌につられて路地裏に来た客を殴り殺して身包み剥ぐ仕事してます。ストレス解消と金稼ぎが同時にできる天職です!ヤクキメてるイカれ殺人男からレズの姉さんまで美味しくいただきました!!いやぁ!労働!!最高!!!

 

「さぁて、今日はあと一人くらい剥いでからホテルに戻るか。うーん、最近なかなか効率良くなってきたねぇ」

 

そんな風にブラブラと街を歩いていると(血なんか気にしない。ここにいるこはどいつもこいつも身なりの汚い奴らばかりだ)また一人見事にフィッシングされた。

 

「おい姉ちゃん、お前ヤレんだろ?幾らだ?」

 

「気持ち良くさせてくれるんなら幾らでも」

 

「マジかよ最高だな!へへへ、俺のなんか食らったら一銭も払わせようって気は起きないぜ」

 

最高に小物なセリフだ

 

「それは楽しみね、どう?ホテル代もったい無いし、あそこの路で……」

 

「良いねぇ、俺そっちの方が興奮するんだ……」

 

「ふふふ、じゃあ行きましょう」

 

 

 

ほんと、なかなかに耐えやがるなこいつ。こりゃ、楽しい。

 

「やべでぐれぇぇぇ!!」

 

そう言う人間殴ると楽しいって知ってる?

 

「お願いだッ!!何でもヤルから!!!そうだ!!昨日見つけたアレをヤルから!!どうが!!どうがだじげでぐでぇぇぇ!!!!」

 

「アレって?」

 

腹を蹴る。男の身体が浮かぶ。楽しい。

 

「ACだッ!!スクラップ場でうごぐのを一機みづげだんだッ!!」

 

……お?

 

 

全身腫れ上がった男を案内させると、崩れた建物に隠されるように一機のACが隠されていた。

 

…………あれ?やたら見覚えあるぞこのジャンク塗れの機体。というか、エンブレムが、これは……

 

「ぐぞ…………武器もあづめだら一旗あげる積りだったのに……」

 

「あんた、名前は?」

 

「え、なんでぞんなごど……」

 

「名前は?」

 

「ジャ、ジャッグ・ゴールディング……」

 

なるほど。私は、ポケットをまさぐる。そこには、私が根城にしているホテルの鍵が入っていた。

 

「ほれ、これ上げるよ。私の部屋の鍵。金たんまり貯めてるから、それを治療費と今後の生活費にしな」

 

「へ……?」

 

「代金よ」

 

いままで殺しまくった分のな。

 

「あぁ、あとあんた傭兵なんて絶対向いてないからやめたほうが良いよ。それじゃ、ありがとね!」

 

 

 

 

「いた、3機。あれは……トラック?」

 

目を凝らしカメラに映る情報を読み取る。うん、ジャンクでもそこそこ見やすいじゃん。見えたのは、3機のACが一台のトラックを追ってる様子。

 

軽量二脚二機、四脚一機。三対一、まぁ、リハビリには良いだろう。

 

「よっと」

 

グラインドブーストを起動する、うーん、無理矢理AMSを取り付けてみたけど、やっぱりネクストほど上手く動けんなぁ。なんか、関節の節々が痛い感じ。

まぁ、ちゃんと思い通りビュンビュン動くからええけどね。

 

さて、接敵した。遅いよゴーミ。俺より遅いよ。

トップスピードで蹴り飛ばす、衝撃によりトラックが吹き飛んだが、まぁいいや。ここでやっと残りの奴らも気づきやがった。さて、蹴った相手の装備を見る。お、ムラクモ持ってんジャーン!

 

背中に置かれたブレードをもぎ取る。おーけ、馴染む、じゃ、もらってくよっと、それ!がっきーん!

 

鉄が鉄を切り裂く不快な音、抜いてみると剣先に油と血の混合液がぴっちゃりと。あ、ついでにこの実弾ライフルも貰ってくよ。

 

もう一機の軽量機に向けライフルを撃ちまくる。おや、まだ混乱してるぞこいつ。トーシローが、そんなんじゃこの先生きのこれないぜ、なんたってここで死ぬんだからな!

 

ドドドと撃ちまくる。あ、弾切れた。まぁ、いい、やっと!それ!

 

ハイブーストからのムラクモ突き。いや良いねぇ!柔らかいコアを突き抜けるこの感触!!

 

あっと、残りはいっきと……

 

お?残りの四脚がコアを開けて何か叫んでるぞ?なんだろ、あ!両手あげてる!降参してるのか!

 

ならそれ相応の対応をしないとね!よっこいしょ、テクテク……えい!ぷちっ!

 

はい、三分クッキング!!

 

 

「なぁんだこれ、女ばっかじゃねぇか」

 

ACから降りて転がったトラックを見学してみる。運転手は見事に死亡、貨物に何が入ってみるかと眺めてみると、粗末な格好の女性の死体がゴロゴロと転がってる。さっきの衝撃で死んだんだな、南無三。

 

ちららと死体の一つを見てみると焼印が押されていた。奴隷か何かかな?どっかの有力者への貢ぎ物とか?流石世紀末やな!俺たちが頑張ってそうしたんだけどな!!

 

まぁ、こんなもの見ててもどうにもならない。とりあえず武装とか剥ぎ取ろう。四脚のACも無傷でゲットしたし、アレに乗り換えて気ままなライフを……

 

「……た……………………………す……………………」

 

「ん?」

 

気のせいだろうか、声が聞こえた気がする。うん、気のせいだろう。さ!お家に帰ろう!

 

「…だ………だれ…………………………か…………………」

 

……………風の音かな?なんか日本語に聞こえる風の音だ。

 

うん、風の音だな!!

 

…………………………そういや、最近何か人に対して冷たかった気がする。最近というか、この世界きてからだけど。

 

……しょーがないにゃあ。

 

 

声が聞こえた方の死体の山を掘る。何が出るかな、何がでるかな!

 

「お」

 

「………………あ」

 

美人だ。

 

 

死体の海から出てきたのは黒髪ロングの涼やかな瞳の美人だった。肌は白く見えるが……黄色人種か?

色々と粗末かつ不潔な格好なのに、こんだけの美しさは相当だ。

 

「ありがとう………ございます………………」

 

ぺこりと礼をするその美人に(背は170ほどだろうか、胸?なかなか)かまへんかまへんと言って、ほなそれじゃあと手を振る。いやぁ、良いことをすると気持ちが良い!

 

「あ…………あの…………………………」

 

「ん?どしたの?」

 

「た、たす……たすけて………くだ……………さい…」

 

「……それは、どういう意味の?」

 

「わ、わ、我は………」

 

「我!?」

 

「え、あ、は……はい……」

 

なんやこいつ、こんな身なりで一人称が我って新しすぎて逆に使い古されてるぞ。

 

「は………え、えっと……我は…元いた街でも独りで…………それで……………家が……家を用意してあげるからと…………乗せられて…………でも………ひっくりかえってしまって…………………」

 

把握、要するにどっかの誰かがホームレスの女を騙して大量に攫ってたのね。羨ましい。

 

「我は………ここがどこか………わからなくて………どうか………たす…………たすけて…………………」

 

うーん、そう言われてもなぁ

 

「別にいいけど、私の家って汚染まみれのところよ?私はともかく、あんたらみたいなのが来たらすぐ死ぬよ?」

 

「そ………それでも………それでも良いです………………もう…………………こんな……こんな世界…………もう…………嫌………………」

 

あー、完璧に心やられてんなこいつ。ずっと身体震えてるし。こりゃ相当酷いことされてたんだろうなぁ。

 

「うーむー、そうだなー」

 

ちらり、と後ろを向く、先ほど倒した四脚機と、わちきのフレイムフライ。ふむ、まぁ、せやな。

 

「じゃ、死ぬまで運搬係しもらおう。あの四脚のACに乗って」

 

「へ……………?」

 

「私の家まで荷物運んでもらうから、死んだらその場所で埋めてあげるし、もしも万が一生きてたらそのまま私の家で暮らして良いよ。それでどう?」

 

「えっと……でも…………我はあんな…………」

 

「あぁ大丈夫、動かすだけなら簡単極まりないし、四脚ならコケることもないでしょ。それとも、ここでそこらに転がる死体の腐臭にまみれて死ぬ?」

 

「え……………あ……………………」

 

「どうするん?」

 

美人さんは数秒ほどうつむくと、そのままこくんと首を下げた。

 

「それはOKの意味?」

 

「は、はい…………………」

 

「大変結構、ほれ、じゃすぐ乗りな。こっちは腹減ってんねん。そっちもどうせ腹ペコだろ?生きて来れたら飯食えるぜ」

 

「しょ、食事が……………」

 

「そうだ、ほれ、早速行くぞ」

 

自分があのコックピットで潰れた死体を取り除くために四脚機に近づくと、美人も歩いてきた。……裸足か、痛そうだな。少しだけ、スピードを緩める。

 

 

諸々の準備に時間がかかった。出発したのは、あれから約30分後。使えそうなものだけ貰っていって詰め込んで、トーラス製ロケットのもとへと向かう。

 

「あーあー、聞こえるか?」

 

先ほど、取り決めたチャンネルに合わせて無線をかける。と、向こうも応じた、

 

「は………はい……………」

 

「OK、死ぬ時は死ぬって言ってから死んでね」

 

「はい……………」

 

「じゃ、行こっか」

 

そう言って、二人の旅が始まった。向こうがブースターを使うことが出来ないので、歩いての旅である。まぁ、ここはまだ比較的近いからそこまで時間はかからんと思うが…………

 

「あ………あの……………」

 

「ん、なに?」

 

「貴方の……お名前は…………?」

 

「ジャンヌ・オルレアン」

 

探偵さ

 

「ジャンヌ……さん……」

 

………久しぶりにさん付けされた気がする。だいたいどいつもこいつも呼び捨てか様付けだし。

 

「うん、そっちは?」

 

「え…………?」

 

「そっちの名前は?」

 

「え、えっと……我は…………な、名前が……なく……て…………」

 

「ふーん、そりゃ相当悲惨な生まれなのね」

 

凄い時代だなぁ、あの時代が夢のようだ

 

「じゃ、私が名前をつけてあげよう。せやな、一人称が我なんだから姫やな!姫ちゃんと呼ぼう!」

 

「姫…………?」

 

「うん、姫ちゃん。それでいいでしょ?」

 

「は、はい………………ひ、ひめ……か………」

 

 

「ジャ、ジャンヌさんって……どうして……ACに?」

 

「ん?あぁ、いや、なんというか、まぁ、元々こういうのに乗る仕事してたから」

 

「そ、そうなん……ですか…………。あの、なにか、理想とかそういうものの、為じゃなくて……?」

 

「あぁ、理想?うん、そんな尊いものはないね。好きなように生き、好きに死ぬ。ただそんな生き方がしたいだけなの」

 

「そ、そうなの………です………か…………」

 

「どしたん、いきなりそんなこと聞いて」

 

「いえ…………あの………………我が、我が行こうとして、していたところは…………ACに乗る人が、い、いて……それで、それで………戦争をする人たちを………倒して……それで戦争を終わらせようと………して、してるって………………」

 

……………どっかで聞いたことあるなそいつら

 

「わ、我も、それを聞いて…………こんな、こんな世界を変えられるならって………トラ、トラックに………トラックに乗ったのに……………」

 

…………もしや、とは思うが。

 

「こ、この世界に……平和を………… 平穏を…………それを……………求めて………………でも………でも………………」

 

「世に平穏のあらんことを……」

 

「…………へ?」

 

……ビンゴか?

 

「なんで……それを……?」

 

ビンゴね

 

「私も好きなフレーズよ。ふむ、良いね。あーんまりこの世界でどう生きるか考えて無かったけど、この世界の平穏を求めるってのもいいかもね」

 

「え…………あ……………」

 

「ま、とりあえず今は帰ろうや。ここから先は汚染もだいぶキツくなる。死ぬ時はちゃんと報告しろよ」

 

「は…………はい………………」

 

ん?なんだ?少しばかり声に元気が出たぞ?希望でも持ったか?

 

まぁ、希望を持ったとしても、悲しい事にこっから汚染で死んじゃうのよねーん。ま、できるだけ歩いてちょ

 

 

 

この時、ジャンヌはまだ知らなかった。

姫が、この汚染された大地を歩ききり、ロケットまでたどり着くことを。

 

そして、彼女こそがこの世界におけるジャンヌのパートナーになる事を。

 

遠くで、狼煙が上がった。

ある支配者に対して、一人の腹心が反乱を起こしたのだ。それは、名もなき傭兵達こそが主役の時代、その始まりを示す狼煙だった。

 

 

 




あくまで予定です。さて、このパートナーの娘は誰なんだろうね!(Vのキャラです)

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