光陰は矢の如く流れ行くとは良く言ったもの、そして毎日が何らかのイベントに溢れるているようなそんな濃厚な人生は歩んでおりません。私です。ジャンヌ・オルレアンです。終戦から半月が経ちました、毎日がエブリデイです。ちなみに今日はイエスタデイです。え、違う、アフタヌーンだって?それはサムバディトゥナイやないかい!とぅでーい!
というわけで、グレートブリテン島にあった秘密基地は引き払いました。なかなか長い間住んでいた気もしますが、中身さえ持ってくれは用済みです。
基地にあったコジマ粒子の洗浄装置や整備ロボについてはアクアビットの皆様が大変気になっておいででした、ロボはともかく、洗浄装置は持って帰ることが不可能だったので、皆さん再現の為に四苦八苦されております。まぁ、神様に頼んだもんなのでどんな機構かは知らんし。
そして、金庫に入れてある大量の現金についてはアクアビット社に預けておきました。どうせ、個人で使うのには限界があるし、恭順の意思は所々で見せておく方が良い。
しかし、なんであんなもの見て、私はノーコメントで通しているのに、誰も深く突っ込まないのだろうか。なかなかに不思議なのだが。思考停止してるのか、それとも私という素体さえいればいいのかしら。
あ、ちなみに所属している会社が変わりそうです。トーラス社所属のジャンヌ・オルレアン(予定)です。
今回、アクアビット社は崩壊こそしませんでしたが、まぁ本土決戦までいっちゃうくらいにはボコボコにされました。その状況を立て直す意味も含め、リンクス戦争で消滅してしまったGAEの職員や戦力などを吸収しているようです、役員の編成などし直す為に名前も変えるのかな。
まぁ、ゲームとは母体とするものが変わっただけで、殆ど変わってないのでは?と思います。……いや、アクアビット本社が壊滅しなかったので、人材的にはこっちの方が豊富なのかしら。
あと、インテリオル・ユニオングループからの支援は無かったっぽいです。いやまぁ、詳しくは知らないけど、少なくとも私は気づかなかった。なんでだろう、アクアビットにレオーネ・メカニカの基地を襲撃しまくってそこのリンクスで遊んでたりした人間がいるわけでもないのに。ははは。
あ、諸事情により愛機が変わりました!またいつか紹介します!
「すー……すー……」
なお、私の横で寝ているリリウムはリンクスになりました。弱冠11歳、問答無用に最年少です。ただ、終戦後、アクアビットがリンクス・ネクスト部門の研究をする事を禁止されたので、公にはその事はまだ知られてない……はずです。
……リリウムがリンクスになって以来、なんというか、こう、強くなった気がします。いや、正確にはその直前から。
何があったのか?と聞いても「いえ」とはにかんでかわされてしまいます。
周りからは、「ジャンヌの方が被保護者のようだ」とよく言われます。まぁ、良いんですけど。楽ですし、そういうシチュエーション好きだし。ほら、ヤン・ウェンリーとか。
……まぁ、なんだかんだいって、無理してるようには見えないし、たおやかだし、普通に楽しそうだから気にしないようにしてます。
…………こんなものか。
さて、ここが誰もいない自室か観客で埋め尽くされた劇場なら「そして今は!」と高らかに叫び、明るい音楽に合わせてダンシング&ミュージカルと洒落込むのだが、残念ながらここは小さな同居人が出来た我が自室でも、ブロードウェイでも無く。極東行きのGA関連の航空会社が所有する人民輸送用航空機のファーストクラスの座席の一つだった。なんと!ジャンヌちゃんはいま出張中なのです!
まぁ、出張といっても今回は私の存在は説明書代わりに過ぎないし。リリウムについては完全なるおまけである。今回の極東出張の本命は、既に有澤重工へと輸送されているであろう背部用大型グレネード〝OIGAMI〟だ。
アクアビットは、降伏に際し幾つかの技術の開示を要求された。
その殆どは同社が最前線を行くコジマ技術であるが、ソルディオスの基部などのその他の技術についても公開を余儀無くされた。
無論、アクアビット所属になったクレピュスキュールについてもである。しかし、社長や外交担当官の尽力により、他の企業に渡ったパーツは二つだけで済んだ。
一つ、ジェネレーター。多くの企業の狙いはこれだっただろう。イレギュラーの機動を支える鋼鉄の心臓。これを解析できれば、間違いなくネクスト部門で他社からリードすることが出来る。
まぁ、中身はただのアクアビット製のコジマタンクなんだけどね。私がいなきゃただのエネルギー供給も貯蔵も少ない小型ジェネレーターだ。え?これを掴んだ企業?オーメル・サイエンス。
そして、そのもう一つというのが、GAが情報の開示を要求したOIGAMIである。それを解析するのは当然ながらグレネードの有澤重工なのだが、その有澤からアクアビットにメールが来た。
前後に書いてある数多のビジネス用の慣例句を取っ払って要約すると「使用者の話も聞きたいからイレギュラーを招待したい」……といった内容である。
私は大いに賛成した。久しぶりに日本に行きたかったし、有澤は好きな企業だ。ここで顔見知りになっておいても損はない。
と、いうわけでここだ。結構な反対意見等もあったが、GAEにとって仇敵であるGAとは違い、極東の同類として戦友の様な想いを抱いている有澤重工が行き先だった為、最終的に行っても良いということになった。(
さて、到着の時は近い。私は、左腕で首すじを揉むと、シートベルトを閉めた。
……そう、左腕、左腕である。
素晴らしい事に、アクアビットの技術者が義手を作ってくれた。私の第二案の要望通りに作られた、渾身の逸品だ。AMS適性の高さとその繊細さから、利き手である右手よりも使いやすい。
いやーいいね、ホントいい。ランスタンの腕部を人間にくっつけるとここまで気味が悪いんだな!最高だと思う。色があのメタリックな水色なのも不気味で素晴らしい。
なお、第一案はコジマ武器腕でした。リリウムに怒られました。
流石にコジマは満ちてないが、起動しているときはコジマ色のLEDが妖しく光っている。かわいい。
本当は、色々と機能をつけてもらいたかったが、AC世界で生身の戦闘力を上げてもしょうがないとオミットし、精度や耐久性を追求してもらった。
いや、ほんと、いい、ほんとに、いい……
っと、そろそろだな。アナウンスも入ったし、リリウムを起こすか。
しかし、久しぶりだなぁ日本。牛丼とか食べたいなぁ。
「やぁやぁ遠いところからワザワザお疲れ様です!」
空港に降りた私たちを迎えに来たのは50代くらいのスーツ姿の男性、つるりとした頭は剃ったのものだろうか抜けたものだろうか。
「いやいや、わざわざありがとうございます。自分もこっちの方に来るのは楽しみにてしましてねぇ。」
英語での挨拶に、日本語で返す。
「おや、日本語がお上手で」
「そうですか?いやこっちの方に言ってもらえるなら自信持てますねぇ」
久しぶりのネイティヴなジャパニーズの会話である。いままで基本的に英語で過ごしてきたので、20年以上共に過ごした母語での会話に喉が喜びを感じている。うんうん、言葉を発する喜びという奴だ。
「あぁ、紹介します。こっちが私の連れで、名前はリリウムです。ほれ、リリウム挨拶挨拶。」
日本語と英語を器用に変えながらリリウムに挨拶を促す。この少女は、どうやら異国後を流暢に操る私に驚いているらしい。まぁ、日本語を喋るのは知っているのと実際にペラペラ喋っているのを見るのは違うか。
「り、リリウム・ウォルコットです。よろしくお願いします。」
二人の雰囲気にのまれたのだろうか。リリウムのたどたどしい反応を久しぶりに見た。こういうのを眺めてると、なんとなく安心する。
「やぁ、宜しくリリウムちゃん。話はアクアビットの方から聞いとります。何でもお目付役だとか」
「いや、若輩者のせいか全く会社から信用されてなくて」
というか、リリウムにこそ1番信用されてないんだけどな。がはは、なんか怖いんだけどこの娘、一緒に寝たりずっと付いてきたりするのはまぁわかるけど、最近、お風呂も一緒に入ってくるんだぜ?可愛いから問題ないけど。
…………あれ?これ病み入ってね?
…………………………あれれ?
有澤製の高級車に乗り、やって来たのは富士のお山の麓の演習場。アクアビットにいたときは、あまり季節は気にならなかったが、外に出てくると懐かしい不快な暑さと降り注ぐ蟬しぐれが全身を襲う。そうか、夏なんだな。
「いま、担当のものは彼処のプレハブで見とります。」
そう指差されたのは演習場の端に建てられたプレハブ小屋だ。ならばと案内のままに入る。
…………あぁ、クッソ懐かしい日本の風景だ。名が机にパイプ椅子、クーラーはガンガンに効いており、扇風機からはヒラヒラとビニールテープが待っている。テレビは薄型だけどなんだろう、京都とか奈良よりも、こういう光景に日本を感じてしまう。
中でテレビを見ていた作業着の男たちが、こっちを見てガヤガヤと立ち上がる。
「初めまして有澤重工の皆さん。アクアビットから来たジャンヌ・オルレアンと申します」
これまた、ネイティヴの日本語を話してみると大人気だ。いやぁ、ちやほやされるって楽しい。
そこにいた人たちと一通りの挨拶を終える。ここにいるのは有澤の根幹たるグレネードの開発部門の設計者たちらしい。どうやら隆文社長はおられないらしい。
「で、グレネードの試射は……」
「あぁ、いま彼処でやっとります」
そう言って指差されたのは、並べられた薄型テレビ。そこには、我が愛しきOIGAMIを搭載した有澤重工の標準機体、霧積の姿があった。
「あれで試射を?」
「えぇ、いまはウチのリンクスが動けない状況なんで。外部からのコンピュータ入力でやっとるんです。撃つだけならそれだけでも大丈夫なので」
なるほど、と画面を見る。うん、やはり良く似合う。流石に有澤の精神なだけはある。
霧積の砲撃、目標として置かれているのは……あぁ、有澤製のタンクタイプのノーマルだ。たしか、銭がめだっけ?……うん、一撃で吹き飛んだ。何度見ても思うが、榴弾の威力ではない
その場で見ていた有澤の人間たちは、皆渋い顔をしている。
「いやぁ、しかし、ありゃほんと凄まじいですなぁ」
」
「両背部を使用することによって本来ネクストに搭載不可能な大口径火砲の装備を可能とするとは……」
「ジャンヌさん、本当にアレがどこから提供されたかは教えて貰えんのですか?」
「すいません、コレだけはどうしても言えなくて……」
「んー、これ程重火器に通じている企業は限られてくるのだが……アルドラが本当にこのレベルのものを製造できているとすると……間違いなく、この分野において我が社と遜色ない技術力を持っていることになる」
「本格的に奴らが重火器市場に参入してくると、ネクスト部門だけでなく通常兵器についてもいままでのシェアが奪われかねないぞ」
「…………少なくとも、次の製品はアレを超えんといかんわけか」
……あれ?何かおかしな事を言っていないかこいつら。
「やってるな」
ガラリ、とプレハブ小屋の戸が開く。入ってきたのは矢鱈とゴツいガテン系の男。背は190程だろうか、作業着から露出した肌は黒々と陽に焼けて、顔つきは…………ゴリラ……うん、ゴリラだな。精悍なゴリラ。
「あれぇ、若。もう怪我は良いんですか?」
私を案内してくれたツルピカさんが声を上げる。
「あぁ、さすがにこれからの有澤の方針を決めようという時に寝てはいられん」
…………会社の方針とグレネードの砲身をかけた激ウマギャグやな。ジャンヌちゃんわかるで。
さて、若か。と、なると……
「初めまして、アクアビット社のリンクス、ジャンヌ・オルレアンです」
立ち上がりニコリと笑って手を差し出す。それを見て、若と呼ばれた男も笑みを浮かべてその手を握った。
「有澤重工、副社長の有澤隆文です。ご足労いただきありがとうございます」
………………………あぁ、そっか。私の立場は客人か、唐突な敬語に動揺してしまった。
長ければ3話、短ければ次話で日本編は終了します。