世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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どうにもならん話になりそうだったので二日寝かせたら、マシな案が出て何とかなったという顔をしている。




戦士たちの墓標

私は常々私こそが私の紡ぐ物語の主役だと思っている。

当たり前だ、私が見る事が出来るのは、私の視点のみであるし、私が直接操作できるのも私だけだ。

 

そんな私の物語は、それを発表するのならばコミック、小説、舞台演劇、アニメ、TVドラマを想定している。

これらは、私の意志、私という作者の想いのままに動く事ができる。

第三者たる読み手は、観客は、視聴者は、私の行動を邪魔することは出来無いし。そもそも干渉する事すら不可能だ。(ただ、舞台演劇は演じる私に対して欠伸などによってその気力を奪ったり、ゴミを投げつける事によって危害を与える事が出来る。これは、まぁ、天災の類と考えよう)

 

しかし、ゲームは違う。ゲームは、その世界とは関係無い第三者であるプレイヤーが、私の行動を大きく操る。その後のルートに関係無いような些細な選択肢から、その世界を滅ぼすような虐殺まで。プレイヤーの気紛れによって自分の意思と関係無く行ってしまう。

だからこそ、私はいつも、私の物語はゲームでは無い。と思い続けているし、思い続けていなければやっていられない。

 

さて、なぜ私が、唐突に、大真面目に、そんな独白を、漫画だとすると思考の吹き出しや白枠の中に、小説だとすると地の文に書き。舞台演劇だとするとスポットライトの中で、アニメやドラマだとすると別撮りし加工した声で語り。そして現実として脳の中で思考しているかというと言うと。いま現在、この世界が少なくともアーマード・コアというゲームの世界では無い事が証明されたからだ。

 

そう、これはアーマード・コアではない。現実だ。少なくとも、私がプレイしたACでは、こんな状況はありえなかった。

 

 

 

 

作戦領域到達前に、作戦が失敗している事など。

 

 

 

 

そう、私の初めての任務は失敗していた。分厚い吹雪のカーテンのかかったBFF社最大のコジマエネルギー発電施設であるスフィアは、サイレントアバランチと思われるノーマルの亡骸、力無く項垂れる二脚機に、コアに大穴を穿たれた四脚機のみが立つ墓地へと姿を変えていた。

 

「まーじか……」

 

絶望の表情を浮かべながら、崖を下る。巨人の死骸には、幾分かの雪が積もっていた。

 

どうやら、すべてが、大分遅かったらしい。

 

確かに、主役は遅れてやってくるとは言う。

だが、間に合わなければ何の意味もない。

 

ため息を、吐いた。臓腑が凍えるのを感じる。

 

 

どうすればいいのだろうか。私は、何と言えば良いのだろうか。あの娘に、あの幼い娘に。

言い訳をすれば良いのだろうか、謝罪をすれば良いのだろうか。

 

そんなもの、肉親を失った娘に何の意味があるんだ。

 

あぁ、くそ、ストレスで吐きそうになってきた。そりゃそうだ、そりゃそうだ、世の中そう都合良く回らないというのはわかっている。わかってはいるが、何もいまここで躓かなくっても良いじゃあ無いか。

 

 

私は、ゆっくりと二脚機……ヘリックスⅠに近づく。

もしかしたら生きているのでは?という淡い期待を抱いての行動だ。

BFF製ネクストに密着し、そのコアに乗り込むためにコックピットから出る。

 

「クソ、寒すぎるだろうが」

 

パイレットスーツに包まれた私の身体を、容赦無く吹雪は襲う。この薄く見えるスーツには、幾ばくかの防寒機能は備えてはいるが、これ程の雪は想定してはいないようだ。

 

雪を払い、ヘリックスIのコックピットを開く。

 

「……チッ」

 

暖房機能の働かなくなったコックピット。一眼で、そこにあるのは魂の抜け殻である事がわかった。

 

首が、あり得ない角度を向いている。首から、骨と、血のツララが飛び出ている。

 

「クソ、幾ら美人だからって。死体に欲情する趣味は持ってないんだぞ、私は。」

 

見開かれた目を閉ざす。その下に流れる一筋の薄い氷を見て、やりきれない気持ちになった。

 

「ほんと、美人だわ。近くで見ると本当に似ているな」

 

自分の愚かさに対し吐きたい気分を抑えながら、コックピットを出ようとする。

 

が、嫌な物が見えてしまった。

 

「…………」

 

戦争映画でよく見る物が、コックピットに貼ってある。仲の良い家族写真。ウォルコット姉妹に挟まれて、リリウムが立っている。みんな、楽しそうに笑っている。

 

自分は全力で向かった、それで間に合わなかった、仕方ない。そう自分を弁護する言葉は、空虚に吹雪に吸い込まれていく。自分に対する無限の怒りがハラワタから煮え繰り返り、歯を食いしばった。

 

私は、その写真を剥がすと。フランシスカの胸に置いた。これ以外、やれる事は無かった。

 

 

ヘリックスⅡの胸には、月光に貫かれたと思われる穴が空いていた。コックピットの少し下あたりだろうが、間違いなくこれが致命傷だろう。

 

ここも、コックピットを同じ要領で開く。

 

「うっ……」

 

それは、さらに壮絶だった。

私が、コックピットの下を通ったと思っていたムーンライトは、ちゃんとパイロットにもダメージを与えていた。

ユージン・ウォルコットは。この金髪白肌の美男子は、下半身が消滅していた。

コックピットに床は無く、脚部を直接見る事が出来てしまう。彼の身体が落ちてない無いのは、流れ出た血が凍り、彼と座席を離さないでいるからだろう。

 

誰かの言葉を思い出す。生などと言う汚さの終着点である死が美しいことなどあり得ないというあの言葉。

 

私は、イライラにより歯軋りを立てる。本当に、全ての歯を砕きたい。

 

その時だった。

 

「だ……れか、いるのか……?」

 

ユージン・ウォルコットが声を発した。

 

驚いた私は、一瞬衝動的に駆け寄ろうとし、すぐに下に地面が無いことを思い出した。

 

「います!すぐに助けを……」

 

思わず叫んでしまう。

 

「……すま……ない。どうも……めも………みみ………も…………やら…………れた……よ………う……だ……」

 

「マジかよ……」

 

思わず口にしてしまう。とりあえず、安心させようとコックピットの傍に足をかけ、ユージンの身体を触り、人が居ることを伝える。

 

「あぁ……ほんとうに…………い、いるん……だ……な…………」

 

ユージンの目から、とめど無く涙が溢れ、次の瞬間には凍る。やめろ、やめてくれ、泣くな、こっちは何も出来てないんだ。

 

「た………たのむ……………きみが……だれかは…わからないが……………り、りり、りりう……むを…………むす…………めを…………たの…………む」

 

マジかよ。こんな状況で最悪のカミングアウトを聞いちまったぞ。おい、託すな、重すぎる、重すぎるぞ。おい。

 

だが、私の手は、自分の脳に反し、任せろとでも言いたいのか、強くユージンの手を握った。

 

「そう…………か…………あ……り…………が……とう。それ……………と…………す………ま…………………ない………………が……………ねむ…………………らせ………………てく………れ…………………さむ………くて…………いた……くて…………ねむ……………れ……………な………………」

 

ユージンの右手が、微かに動く。あぁ、おい、お前、なんで拳銃なんかに手を置いた。まさか、そういうことかよ。クソ、勝手すぎるだろ。おい、フザケンナよ本当によ。

 

私は、怒りのままに右を離し、その拳銃をとった。

 

「あり……………が………が………と………………う………………………………」

 

やめてくれ、本当に自分が情けなくなる。くそ、これ程聞きたくないお願いは初めてだ。何だよこれ、いままで好き勝手やってきたどの戦いよりも殺人が辛いぞ

 

「り………りう…………………む………………ご……めん………………………………………ねえさ…………ん…………い……………ま………………………い…………………………………………………………く…………………………………………………………………………………………」

 

クソが

 

 

 

 

 

クレピュスキュールの中で、私は息を吐いた。

ユージンの胸にも、同じ写真を抱かせた。

 

どんな顔をして会えばいいんだ。助けられもせず、それどころか、兄を……親を殺したその面で、リリウムに会えるのか?

 

だが、会わなければならないだろう。逃げる事はできない。ユージン・ウォルコットの今際の言葉は、強力な呪いとして私の心を囚えていた。

 

 

ふと、レーダーが目についた。

数百メートル先に、二つの白点。数キロ先に、無数の白点。

 

GA本隊か。

スフィア占領用の部隊だろうな。

 

私は、イライラしていた。

 

この爆発に、指向性をつけなければならない。

 

それに、あれだ。

 

死者には、平穏な眠りが必要だ。

 

 

 

あるノーマル乗りの少佐は、旅団長周りが騒いでいる事に気づいた。

 

クエーサーに乗り込んでいる旅団長の少将が、部隊に警戒態勢のまま待機を命じたのは10分ほど前だった。今回の作戦目標である、スフィアへはそう距離もない。

 

「どうしたんだ?スフィアの防衛部隊は全て排除したと聞いたが……」

 

一瞬、タバコを吸いに外に出ようかとも考えたが、いま自分が着ている対コジマ用の分厚い防護服と、外の猛吹雪を思い出し、止めた。

 

少佐は、後ろを振り向いた。彼の部下達も、何が何だかわからないといった様子だ。

 

彼の所属する旅団はノーマル二個中隊に、多数の戦闘車両、支援車両、そして機械化歩兵という編成だ。クエーサーも、指揮車両を含め三機はある。これは、その後の防衛の事も考えた装備だ。現在、スフィア内の職員はその全てが脱出しており、撃破されたBFF製のノーマルやネクストしかいないと聞く。

 

何か、たまらなく悪い予感がした。男はベテランだった、こういう時の予感はだいたい当たる事を知っていた。

 

「おい、戦闘準備しておけ。嫌な予感が……」

 

ちょうどその時、旅団本部から通信が入る。

 

「スフィア方面より高エネルギー反応が接近中。偵察小隊は全滅。総員、戦闘準備を……」

 

高エネルギー反応だと……?

 

まさか……!!

 

しかし、少佐が反応するよりも早く、旅団長が乗るクエーサーは爆発音と同時に巨大な火の塊と化す。

 

通信がノイズのみとなる。少佐は叫んだ。

 

「総員、対ネクスト用のマニュアルを思い出せ。マシンガンを持つ奴らは前進してプライマル・アーマーを…………」

 

レーザーに貫かれ、二機目のクエーサーが沈黙する。さらに、機械化歩兵中隊のど真ん中で爆発が起こる。装甲車が爆風によって飛び上がり、付近にいた戦車は横転するか、その熱量に耐え切れずに火を噴いた。三機目のクエーサーは車体を旋回させながら、攻撃してきた相手を探そうとする。

 

が、それは叶わなかった。残った最後の巨大兵器は、吹雪を貫いてやってきたネクストにより真っ二つに斬り裂かれた。弾薬庫もやられたのだろう、車体は爆風によって吹き飛び、四つの脚のみが雪原に突き刺さっていた。

 

「何だと……?」

 

更に、ネクストは雪原を滑りながら全てを消していく。レーザーブレードが、戦車や装甲車、そして歩兵達を蒸発させ。高出力レーザーがパワードスーツを着た兵士達がこの世にいた痕跡を綺麗に消し去り、そして背中に装備された巨大グレネードは数百人単位の人名を一撃で奪い取る。

 

「散開して撃ちまくれ!何とか奴を止めろ!!」

 

男は叫んだ。そいつが何であるか、彼にはわからなかったが、とんでも無い化け物である事は確かだった。

 

ノーマル達は一斉に武装を構え、動き始める。しかし、目にも留まらぬ速さでネクストはその中央を突っ切ると、一気に六機のネクストを切り捨てた。

 

「あ、あんなんに当たるか!!クソ!助けてくれ!!」

 

「止めろ!クソ!何が簡単な仕事だ!!ふざけ…………」

 

「おいロイ!ふざけんな!!なに黙ってんだ!!死んだとか言うなよ!!」

 

無線が混乱する。旅団全体から阿鼻叫喚の声が聞こえる。

 

「落ち着けお前ら!それじゃあ何にもならない!すぐに陣形を組み直せ!!」

 

この中で、落ち着いているのはこの少佐ただ一人だった。一兵卒から叩き上げで佐官の階級を手に入れた男は、焦りこそが死への近道だという事を知っていた。

 

だが、彼一人が落ち着いていても、どうにもならなかった。

 

瞬く間にノーマル部隊は削れていき、ついに少佐含め残ったノーマルACは四機のみとなった。

 

「チィ!」

 

少佐はバズーカを構えた。せめて、一矢でも……

 

正面から突っ込んできたネクストに対して、バズーカを撃ち込む。

 

だが、化け物はそれを余裕の動きでかわすと、ブレードを構えた。

 

「こんな……」

 

こんな馬鹿な事があってたまるか……。

迫ってくるネクストを見ながら、男は呆然と呟いた。

 

「死ぬってのか?俺が」

 

やっと、やっとここまでたどり着いたのに……

 

次の瞬間、少佐の視界は暗転した。

 

 

 

「う……んん………」

 

目を開ける。そこには、すべての電源が死んだコンソールが見えた。

 

「助かったってのか……?」

 

少佐が信じられないように呟く。

 

周囲は静かだ。とりあえず、男は状況を確認するために、自衛用のサブマシンガンを持ち。コックピットを開ける。

 

「なるほど……生き残りは俺一人か……」

 

自分がどれほど寝ていたかわからないが、とりあえず、そこにいたのは死体のみだった。

パチパチと火を上げる戦車、雪原にに突き刺さった装甲車、黒く焦げたノーマル。輸送用のトラックも、燃えるか、消えるかしていた。無事な兵器は無く、辺りに人影は見えない。

 

自分の愛機を見ると、ちょうどコックピットの真下が消えていた。ネクストは、どうやら自分を殺り損なったらしい。

 

「なるほど、この俺の悪運はまだ尽きない……か」

 

呆れたように男は呟いた。自分の悪運には自信があったが、まさか、ここまで死神めいたものとは思わなかった。

 

後方を見ると、そこでも大きな火の手が上がったいた。

多分、旅団を運搬した揚陸艦だろう。ご丁寧なこった。

 

「さて、どうするか……だ」

 

恐らく、いま現在南極にいるGA部隊は俺一人か、もしくは極少数だろう。南極の外にいる部隊に連絡を取れるような強力無線機を積んだ兵器が生きているとは、到底思えない。

 

男は、ニーボードについた戦術地図を取り出した。そこから、近くの陸地までの距離を測る。

少佐は溜息を吐いた。どうにも、絶望的な距離の物しか見当たらない。

 

「ふん、まぁいい。何としても俺は生き残ってやるからな。」

 

男は戦術地図をたたむと、沈んだ揚陸艦の方を向いた。まずは、他に生き残りがいないか探す事が先だろう。大声で周囲に声をかけながら、歩みを進めた。

 

男……周囲から、尊敬の念を込め〝ドン・メイジャー〟と呼ばれている少佐は、決して諦めるという事を知らない男だった。

 

 

 

ジャンヌ・オルレアンは、失意のまま基地へと戻っていた。パイロットスーツのまま機体から降りると(付着したコジマ粒子を確認したのか、整備ロボたちが纏わり付いて何かを噴射してきたが、気にとめるほどの余裕はなかった。)自室に向かい、そのままベッドへと倒れこんだ。

 

リリウムに会う勇気がわかなかった。GA部隊を皆殺しにしたが、何の気力も身体にわいてこなかった。

 

脳内に、あの時みたリリウムの泣き顔がフラッシュバックする。あんなもの、見たくない。絶対に見たくないのに。

 

溜息をつき、ジャンヌは手を放り出した。

 

しかし、それではいけない。私は、依頼主に報告をする義務がある。

 

心の中で、五つ数字を数えようとする。それを数え終えたら、着替えて、リリウムの所に行こう。

 

一つ

 

 

 

 

二つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

携帯が、鳴った

 

 

ジャンヌは怪訝な表情を作る。こんな時間に、何だ?

時は丑三つ時、草木も眠る深き夜だ。こんな時間にシンさんが電話をしてくるとは思えないが……

 

携帯を手繰り寄し、画面を見る。

 

そこには、こう書かれていた。

 

 

「登録されている防犯ブザーから連絡があります」

 




なお、戦争の様子が大きく変わってるので、fA時代の新型標準機が色々と変わる事になりますが、ご容赦ください。

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