世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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つなぎ


はじめてのおつかい

ガンガンにクーラーの効いた部屋。

最高の戦いも終わり、風呂に入った狂人は一気に疲れが出てきたのを感じた。

 

あーめんどくせぇ、パンツは……ステテコ……シャツは……あ、この一番くたびれた奴を……

 

なんとか布団に辿り着き、毛布にくるまる。

…………うん、もう、騎士の庭園以降は何もやらなくて良いや。ちかれた。とりあえず、リンクス戦争終わるまで寝ても良いかもし……………………………ぐーーーーすぴーーーーZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んが?

あ、なにか、なってる?

めざまし……?んなもんかけたっけ?

まったく、こっちは、よいきもちで、ねてたのに、ど、どこ…………だ、あ、ねむい、ねたい、でも、うるさい、いや、このおとがなってるなかでもわんちゃんねれる………?ねれそう……………いや、でも…………やはり、すこやかなねむりのために…………とめ…………けいたい…………これか…………おと…………なになに…………とうろくされているぼうはんぶざーかられんらくが…………?ふーん…………はぁ………………

 

 

 

は?

 

 

 

布団から飛び起きあ身体いてぇ硬ぇ整体行きたいヨガやりたい。腰を捻れあすっげぇゴキって音がすっげぇこれあいやでも脳が起きたぞ。

ハンガーにかけられた服をいくつか適当に取り、それを全部車の中に投げ込み、乗り込む。

 

ドアロックよし、シートよし、ルームミラーよし、ドアミラー右よし左よし、エンジンよ……面倒クセェ、エンジン始動、出発だ。

 

 

何があったんだ?リリウム……

 

 

 

 

唐突に脳に思いついたセレン・ヘイズとアンテのsunsの共通点をでっち上げてたらウォルコット邸に到着した。Gルートとか人類種の天敵ルートみたいなもんやし、地下世界……AC3だな。まてよ、ということは……アンテはACの完全新作だった……?あとマフェットはシャミア。てててってーてってってーてててててってーてってってー

さてさて、状況はどんな感……じ……

 

リリウムと目があった。

 

あれ、もしかしてブザー鳴らしてからずっと待ってた?私の事?結構時間かかったと思うけど。まーじか、まじか、まじか。

 

うわ、表情こっから見ただけでもわかるよ。笑顔が明るい、可愛い。パァーっていう効果音が出そうなほどの満面の笑みだ。

 

と、とりあえず中に入るとするか。いつも通りのルートを通ったらイイんですかねリリウムさん。あ、いい?なら通ります。はい、それでは。

 

 

泣きじゃくる少女を胸に抱く。というのはお姉さんパワー高いなぁと思う今日この頃。はい、ジャンヌ・オルレアンです。

 

部屋に入った途端こうなりました、これがライトノベルなら暴力系ヒロインに殴られるかクール系ヒロインに嫉妬されるかヤンデレ系ヒロインに刺されるかしていたでしょうが。私が主役を務めるこの人生においてそのようなヒロインは存在していないので何の問題もないです。

 

いや、しかし、うん、いい、強く抱きしめたら壊れてしまいそうなこの繊細さ、きゃわゆい。うむ、王大人、政治的センスだけでなく女選びのセンスもあるとは……流石カラードのランク8か……。

 

とりあえず、リリウムの第一声は要約すると御守り強く握ったら大きな音がしてビックリした。だった、うん、あの御守り、御守りと言いつつ実際は防犯ブザーだからね、鳴ったら登録してある携帯番号に連絡行くタイプの。

もう一度強く握ったら止まったので、多分、家人には気付かれて無い……と思うらしい。ならいいか。

 

「で、どうしたのリリウム?何かあったの?家の警備も薄いみたいだし」

 

女同士という事もあり、ナチュラルかつ大胆にリリウムの背中の感触を楽しみながら、ジャンヌは聞く。あ、髪の毛いい匂い。

 

「ジャ……ジャンヌ…様……に……お…お願いが……あ……あり……ありま…………す……」

 

んー?なんだいリリウムー可愛い君の為ならなぁゆでも聞いてあげるよー。むふふー、美人の涙はズルいよー、あー髪がツヤツヤ、髪フェチの人の気持ちがわかるよこれは………

 

「お姉様……達を……お姉様達を……たす……助けて………下さい………」

 

前言撤回。無茶言うな。てかまだ死んでなかったのかあいつら。

 

 

「お姉さん達がBFFを裏切った?」

 

「はい……」

 

やっと落ち着いたリリウムをなだめると、衝撃の真実がわかった。

 

数時間ほど前、BFFの軍人が来た。

リリウムがこっそりと盗み聞きした所によると、BFFの降伏後、ウォルコット姉弟はそれに応じず、未だに少数の部隊と共に戦っているらしい。その軍人は、これは明確なBFF社への裏切り行為である。と、宣言し。ウォルコット家にいたBFF系のガードマンや警備兵、ガードロボットを引き上げた……と。

 

え、まじ?どういうことそれ。あれBFFとか関係なく奴らが勝手にやってたの?マジで?なんかわかんなくなってきたぞ。

 

「お姉様達は……絶対……裏切りなんかするわけがありません……それなのに……あの人達は……」

 

どうやら、あの二人の事をだいぶ口汚く罵ったらしい。それを思い出したのか、またリリウムの瞳に涙が浮かんでいた。

 

その雫を拭きながら、静かに私は思った。

ありがとう、見知らぬBFFの人。リリウムの涙をありがとう。これは萌えだ。マジ萌えだ。

 

よしよし、大丈夫だよ。リリウムちゃん。お姉ちゃんはそんな罵倒とかしないからねぇー。今の所はねー。うふふふふー。ドメスティックバイオレンスー。

 

「その時……き、聞いたんです……す、速やかな講和の為に……お姉様達は邪魔だって……だから……お、姉様を……お兄様を…………こ、こ、ころ、ころすって………その人が…………」

 

熱くなりすぎだろBFFの人。そこまで口走るか、正義感とか会社愛とか強い人なのかな?

リリウムの頭を撫でながら、さてどうやって諦めるように説得するか考える。人間いつか死ぬんだから、それがすぐ来るだけだと考えよう!とか?ん、どしたリリウム、そんないきなり顔をあげ…………

 

「お願いします!ジャンヌ様、お姉様達を、お姉様達を助けて下さい!!ジャンヌ様はリンクスなんでしょう?リンクスなら、リンクスなら、お姉様達を助ける事もできるのでしょう!?」

 

リリウムが、思いっきり自分の腕を掴む。あぁくそ、目が、目が真剣だ。必死だ。紅い瞳が涙で血走ってる。これが藁をも掴むという事なんだろう。姉たちが生き残るには、自分しか手段はないと本気で信じてる。ここまで信用されたか、それとも、リンクスという肩書きがこの信用を与えたのか、どっちだ?わからん。女心はハードウェアが女になったくらいじゃ理解できない。くそ、目を背けられない。くそ、向き合ってしまう。

 

だが、あー、しかし、なんだ。なんというか、これはギャルゲーで言うと間違いなくルート内で一番重要なイベントだ。選択肢によって、エンドが決まる類の。

 

あぁくそ、死にたくないな。最高に死にたくない。どう考えても相手は奴である。伝説の鴉。ちょっと前に工場で見たばかりだが、あの動きはヤバい。AMS適性なんてモノの高さに、価値が無くなるのでは?というレベルでやばかった。

 

しかし、まぁ、あぁ、くそ。泣くなよリリウム、可愛いけど、可愛いけどなんか、あぁ、ちくしょう、こういう事か。こういう事なのか、おい、ウィン・D。俺にも涙の一つを見せてくれても良かったんじゃないか?そうすれば、ロイの兄貴みたいにホイホイついてったよ。今わかった、今確信した。くそ、ずりぃ、ずりぃよ、俺もいつか泣いてやるよ。

 

ジャンヌは、掴まれた右腕をリリウムの腰に回し、そのまま抱き締める。驚いた事に、この行為に邪な気持ちは無い。

 

そして、リリウムの後頭部を撫でながら、内心イヤイヤ、表面ではやさしくわちきは言った。

 

「わかった、リリウムのお姉さんを、お兄さんを、助けてくるよ」

 

この世界に来て初めてのミッション受諾である。ただ働きで。そして最悪な事にリセットボタンは無い。一発勝負だ、わお、ハードコア。

 

リリウムは顔を上げなかった。それどころか、また彼女は泣き始めた。先程よりも、ずっと強く。

 

私の胸で、彼女は呟き続ける。ありがとうございますと、ありがとうございますと。

 

あぁくそ、もうこれが報酬でいいよ。何百万コームの価値があるよこれには。クソ。

 

結局、私はリリウムが泣き疲れて寝てしまうまで、ずっと彼女を抱き続けることとなった。その間、彼女の感謝の言葉は途切れる事は無かった。それどころか、寝ながらも彼女はありがとうと言い続けていた。

 

狂人は、久しぶりに自分の中に他人が信じる通りに動こうという気持ちが芽生えたのを自覚した。




UA数やらお気に入り数が増える度にやる気が増える今日この頃


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