世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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誰でも一度はやってみる

・オルレアのアセンでVSスプリットムーン

楽しい。


騎士達の庭園

薄暗い廃工場の中。以前、テロリストに占拠され、その攻撃によって大規模な破壊を受けたこの場所は、いまは放棄され、朽ちるままに放置されていた。

 

そこで、いま、無数の光線が舞う。

 

オレンジ色の光が走る。

 

我流の剣技を実戦にて研磨し、一流と呼ばれる腕を手に入れた男は、右腕の長刀を低く薙ぐ。

 

それを止めるのは、交差する紫光。

 

多くの鴉を殺し、屠り、討ち取り。数多の山猫を突き、薙ぎ、そして斬った女が、男の一撃をギリギリで受け止める。

 

と、男は気付く。視界の端から接近する影に。

男は目の前に立つ剣士を蹴り飛ばすと、その影に対処する。

その背中には、小型の追加ブースターが装備されていた。高出力のメインブースターを、チューンと追加ブースターにより更に出力を上げた事によって、瞬間移動とも感じられるような速度でその機体は突っ込んできた。

構えから軌道を読み、機体の姿勢を低くする事により、かわす。次の瞬間、渾身の一撃は空間を切り取る。

 

だが寡黙な男は焦らない、そのまま二の太刀を喰らわせるべく。紫色の月を振り上げる。

 

が、その後方からは不規則な動きで接近する四脚機が現れる。二段QBを二段QBでキャンセルしながら一瞬で間を詰めたその機体は。QBターンによる高速回転斬りを放つ。凶暴な煌めきを放つ月光が、満月の軌道でもって襲いかかってきた。

 

しかし、横から接近してくる蒼い機体に気付くと、少女は無理矢理二段QBにより機体を横に吹っ飛ばして、距離を取る。

 

黒い機体に乗る男は、白い機体に乗る男からの二の太刀を何とか逸らすと、こちらもQBによって距離を取った。

 

一瞬、4機が向かい合う形となる。

 

その時、男は口笛を吹いた。

その時、女は微笑を浮かべていた。

その時、男は表情を変える事無く相手を見据えた、

その時、女は悶えんばかりに笑っていた。

 

四者四様のリアクション。だが、その心に無限の歓喜が巻き起こっているという点では一致していた。

 

 

時は、三時間程前に遡る。

 

GA社からオルレア、及びスプリットムーンの討伐依頼を出された男は、レオーネ・メカニカ社から購入しワルキューレの新たな腕部のチェックを輸送機で行いながら、昨晩の事を思い出す。

 

あの後、返事を答える間も無く飛び込んできた緊急依頼の為に、フィオナからの告白が有耶無耶になってしまった事を男は後悔していた。

別に、今すぐに無線を開いて返答を行っても良いのだが、昔の傭兵仲間から聞いた「戦いの前に色恋の話をした奴はだいたい死ぬ」というジンクスが気になったのと、この状況にムードもへったくれもない事から、男は躊躇っていた。

 

とりあえず、男はこの考えを思考の外に放り出し。寝る事にした。先程も睡眠はとったのだが、これから待っているであろう激戦の事を考えると、少しでも休息をとった方が良いと男は判断した。

 

 

二時間後、男はフィオナの声で目覚めた。

 

「そろそろ、作戦地域に到達します」

 

「……あぁ」

 

クソ、気まずい。

脇に置いてある水を飲み、再び固定する。

こんなにやきもきしたのは、ガキの頃以来の気がする。

 

機体が投下され、作戦地域として設定されているハーゼン工場へと接近する。

すでに陽は落ちかけ、夕焼けが空を支配していた。

ネクストのレーダーの性能を考えると、この距離でもこちらの存在には気付いている筈だ。だが、アクションは無い。

誘っているのだろう。ご丁寧に、正門が開いている。

 

「嫌になるねぇ」

 

男は笑いながらそう言った。こんな状況では傭兵たるもの、正攻法では無く搦め手で攻めるべきであろう。馬鹿正直に正門をくぐって侵入するなど、愚の骨頂だ。

 

しかし、男は正門を通った。最低限の警戒は一応していたが、やはりそこに罠などなかった。それどころか、ご丁寧な事に敷地内に入った途端にハーゼン工場のゲートが開いた。

 

「これは…」

 

「どうやら奴さん達は、客を歓迎する準備が出来ているらしいな」

 

男は一度深く呼吸をすると、ゆっくりと前を見据えた。そこにいるであろう強敵の姿を、男はしっかりと感じていた。

 

「ワルキューレ、これより作戦を開始する。」

 

男はそう宣言すると、ハーゼン工場内部へと侵入した。

 

 

男が入った途端、後ろのゲートがゆっくりと閉まった。

成る程、どちらかが倒れるまで続けるという事か。何の問題も無い。

男は構えた。目の前には閉じたゲート。

 

「内部、高エネルギー反応を二つ確認。一機が前進して……オルレア、来ます!」

 

目の前で、ゲートが交差に斬られる。

 

バターに熱したナイフを入れたように簡単に切断されてゆく様子を見ながら、男はブレードを展開した。

 

ゲートが崩れ落ちる。

 

蒼いネクストが、男に襲いかかる。

 

その両腕には紫光の双月。その瞳には紅の殺気。

 

一撃で決める気か。

 

男は、オルレアから放たれた一撃を二つの月光が重なる瞬間に受け止め、マシンガンを構えようとする。

が、アンジェはそれを予想していたかのように、右脚を操作し、マシンガンを思いっきり踏みつけた。

マシンガンを落とす。男はそれを気に留めず、そのまま、右腕を思いっきり振り切る。

 

オルレアは後ろへと飛び退く、と、その後ろから白い機体が接近してくる事に気付いた。

 

スプリットムーン、しかし、装備はシミュレーターの中のものとだいぶ違い、どちかというと、オルレアのデータと酷似している。違いはカラーリングと、背中に背負った小さな翼だけ。

その翼が派手な焔を噴き上げているのを見て、男はそれが追加ブースターである事を見抜いた。レイレナードの試作品か?

 

次の瞬間、急加速したスプリットムーンは、ワルキューレの喉元を噛み砕くべくムーンライトを展開する。

 

縮地だな、まるで。

下手に構えれば、速度とムーンライトの威力によりブレードごと叩き斬られかねない。構えから太刀筋を見極め、最低限の動きでそれを躱す。

 

一閃。三日月の残像のみを残し、月光が振り下ろされる。

残心、その姿に一瞬の隙も無い。男はQBを噴かし、距離を取るためにも工場内に侵入する。

 

そこには、かつて大量に設置されていたノーマルACは存在していなかった。

オルレアと、スプリットムーンと、ワルキューレ。三機の戦士だけが、そこに立っていた。

 

「やはり、お前だったか」

 

オルレアの声が聞こえる。いままで会った中で、一番上機嫌な声だ。

 

「すまんが、やらせて貰うぞ。降りかかる大火は振りはらわねばならん」

 

「そう嬉しそうに言われると、こっちも手加減できねぇな」

 

男がいう、オルレアとスプリットムーンに囲まれた現状は、相当に不味い。だが、それなのに不思議と男の中には高揚感があった。

 

「何、私達に相応しい戦場で。最高の剣士と戦える。これ程までに滾ることは無いだろう」

 

「相応しい戦場……ね」

 

思わず、男は笑う

 

「何がおかしい?」

 

「いや、な。どこぞのイレギュラーが言ってた事を思い出した。俺やお前と戦うのには、もっと相応しい戦場がある……ってな」

 

「ふむ……そうか……」

 

アンジェはそう言うと、少し思案にふける。

その隙に斬ろうなどという無粋な事を、男は考えなかった。ワルキューレの後ろに立つ寡黙な男も、黙って二人の話に耳を傾ける。

 

「お前と戦える事を楽しみで忘れていた。うむ、そうだな。あいつも斬らねばなるまい。……だとしたら、尚更ここで果てるわけにはいかないな」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

男は構えた、双方の殺気が増大する。だが、そこに濁りは無い。純粋な、清廉で澄み切った殺気。真水のようなそれは、男にとっては心地良くさえあった。

 

3機は動かない。それぞれが、対する相手の隙を探す。

 

オルレアは嬉しそうだった。二対一、そんな状況でも男は一切の隙を見せずに此方の出方を伺っている。

 

須臾の、しかし永遠にも感じられる時間が過ぎた。

 

最初に気づいたのは、この場にいないフィオナだった。

 

「……高エネルギー反応?」

 

「何?」

 

男が思わず呟く。アンジェと真改も、レーダーに新たな反応が現れた事に気付いた。

 

「何か、これは……ネクスト?高速の……まさか……!?」

 

「成る程」

 

男は、女は、その正体に気付いた。

 

寡黙な男はわからない。だが、それが強者であることはわかった。

 

「間違いありません!これは…………」

 

ゴウンと、重い音が響く。

 

天井を貫き、一機のネクストが舞い降りた。

空は、黄昏。紅く照らされるその機体は、しかし、誰か尋ねる必要は無かった。

 

その右腕に光るは、黄金の月のみ。左腕の恒星も、背中の大砲も、持って来てはいない。どうやら、何もかもお見通しらしい。

 

「遅かったじゃ無いか」

 

男は語りかけた。二度しか会った事は無い。が、シミュレーターで幾度も斬り会ったことにより、ある種の親近感が生まれていた。

 

「いやぁ、ゴメンね。迷っちゃって。果たし状とか送ってくれたら良かったんだけど」

 

狂人はその場にいる全ての者に謝罪の言葉を述べた。そして周りを見渡すと、楽しそうに言う。

 

「どこにいるかもわからん奴に、そんなモノを送れるか」

 

アンジェが応える。その殺気は更に研ぎ澄まされていた。

 

「それもそっか。うん、で、二対二が良いと思うけど、どう?」

 

「無論、構わんさ」

 

オルレアはブレードを構えた。ちょうど、クレピュスキュールが現れたのはオルレアの真後ろだった。

 

「じゃあ、そうね」

 

クレピュスキュールがムーンライトを展開する。気のせいだろうか、オルレアやスプリットムーンの物よりも、光が濃い

 

そして狂人は言った。

 

「殺ろっか」

 

黄昏が跳躍した。オルレアがムーンライトを出す。同時に、スプリットムーンも動いた。目標はワルキューレ。

 

こうして、四人の至高の戦いは、過激な動の中で幕が開かれた。




後編に続く

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