世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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私の中で、本作品がその場の思い付きで進行しているということの象徴となる話になりました。本話だけで数キャラくらいのその後の生き死にの運命が変わった。

これ、AC4編が完成したら一回全話形整えた方が良いかもなー。


疾駆する山猫達

西ヨーロッパ、旧イタリア領のパルマコロニー付近に存在する野戦基地。そこのテントにて休んでいたメノ・ルーは、孤児院から来た手紙に目を通していた。

 

神父様の怪我はもう良くなったらしい。怪我と言っても避難の際に転けてしまった為のもので、重いものではなかったのだが、心配していたメノはその報告にホッと息を吐いた。

 

開戦して三ヶ月が経った。欧州にてオーメル社と協同で作戦を行っていたメノ達は、この地にて大きな戦果を挙げていた。

 

アクアビット陣営の軍事インフラの二本柱。その一つであり、GA社にとっては天敵とも言えるエネルギー兵器を主兵装とするインテリオル・ユニオングループは、この戦争において勝利する為には早期に叩いておく必要があった。

 

GA社とローゼンタール社は、インテリオル・ユニオンを構成する企業を集中的に叩いた。対BFFやアクアビットだけで無く、目の上のたんこぶである対レイレナード前線に配備される筈だった戦力をもインテリオル・ユニオンに向け、その早期脱落を目指し行動をしていた。

 

メノも、その対インテリオル・ユニオン作戦に従事していた。ここで、彼女は一機のネクストAC撃墜を成し遂げていた。

レ・ザネ・フォル。移動要塞ともあだ名される彼女の愛機との戦いは一瞬で決した。

 

楽勝というわけではなかった、プリミティブ・ライトは半壊し、基地へと戻るのもやっとという状況だった。

 

彼女も、かつて共に戦った事のある戦友だ。どんな時も冷静な人だった。顔も、声も、ハッキリと思い出す事ができる。だが、それらの幻想を振り払って、メノは引き鉄を引いた。

 

迷いは判断を鈍らせる。迷いを抱かないため、覚悟を持つ為、彼女は孤児院からの手紙を読んでいた。

血の繋がっていないきょうだい達の言葉は、自分にとっての生きる理由に、戦う理由になっている。皆を悲しませない為に、私は生き続けないといけない。そして、いまの彼女にとって生きるということ戦うという事だった。

 

ふと、昔読んだある例えを思い出した。暴走する路面電車の例え、5人を轢くか1人を轢くかを選ぶ例え。小さかった自分は、これを選ぶ事は出来なかった。だが、今は進んでその答えを出している。私という1人を救う為に、何千もの人を殺す。

 

手紙を読み終えたメノは、それらをカバンの中にしまうと、持ってきた十字架に向けて祈りを捧げた。

自分が手をかけた人間に向けたものだ、日課にしているこの行為は、しかしルーチンとはならず、彼女はいつも真摯な姿勢でこれを行っていた。

 

「メノ、いま入っても大丈夫か?」

 

それを終えて彼女が立ち上がると、後ろから声がかけられた。

振り返ると、テントの前に人が立っている。

 

「はい、どうされたのですかローディーさん」

 

かつて粗製と呼ばれていたこの男は、メメントモリの共同撃破以来、メノと共にGAにとって掛け替えのない戦力と認識されるようになっていた。

コジマ防護服に身を包んだローディーが入ってくる。気のせいか、顔はいつもよりも厳し見える。

 

「すぐにここを出る、最低限の荷物だけまとめてプリミティブ・ライトに乗れ」

 

「どうしたんですか?」

 

男の突然の言葉に、いったい何があったんだとメノは尋ねる。

 

「インテリオル・ユニオンがこの戦争から脱落した、それは聞いてるな?」

 

「はい、ですから今週の内にはドーバ戦線へと移動になると……」

 

「それに対し、レイレナードが報復部隊を送った」

 

「報復……?」

 

「鴉殺しの部隊だ、どうやら、ブラインドボルドが奴らにとっての5機目の獲物になったらしい」

 

「ヤンさんが!?」

 

レイレナードのリンクス、アンジェと真改の2人で構成された特殊部隊の噂は、メノも聞いていた。対ネクストに特化した精鋭部隊。息の合った2機のコンビネーションは、BFFのウォルコット姉弟と共に兵士の間で恐怖と共に語られる存在だった。GAでも、有澤重工のワカが襲撃されていた。乗機の頑丈さもあり、彼はなんとか生きていたが、それでもこの戦争の間には完治しないであろう重傷を負っている。

 

「その後、スプリットムーンはオーメルの基地へ向かっているらしい。狙いは、間違いなくアンズーだろう。そしてもう一機、オルレアはこの基地に向かい移動を開始した」

 

「アンジェさんが……」

 

「鴉殺しが相手だ。グローバル・アーマメンツ社は我々の手に余ると判断した。機体の準備はいま急ピッチで行なわれている。他の部隊もすぐに撤退を開始するだろう」

 

「そう……ですか。なら、すぐに出ます」

 

とは言っても、メノは余り荷物は多くない。先程読んでいた手紙に聖書と十字架、それに下着や着替えの類だけだ。どれもこれも基本的にカバンの中に入れたままなので、用意はすぐに終わった。

 

ローディーと共にテントを出る。兵たちは慌ただしく走り回っている、既に幾つかの部隊は出発の準備も出来ているようだ。目の前に止まっているジープに乗り込み、ネクストの整備場へと向かう。

車の中には、メノ用のコジマ防護服が入っていた。それに着替えながら、ローディーと話を続ける。

 

「だけど、粛清だなんて……」

 

「噂だが、アルドラの中で一部の者がこのままこちらの陣営への鞍替えを考えたらしい。」

 

「噂程度でですか?」

 

メノが訝しげに尋ねる

 

「火の無い所に、とも言う。まぁ、この一撃でそんな話も吹き飛んだだろうがな」

 

車が到着し、プリミティブ・ライトとフィードバックが並んで置かれている大きなテントに入る。コジマ汚染の除染や封印が満足に出来ないこの様な場所では、ネクストは必然的に離れた場所で整備を行う事になっていた。

 

「出発の準備は既にできています!」

 

ネクスト整備員の士官が、到着したメノ達に向けて叫ぶ

 

「ご苦労さま、君達はこれからどうするんだ?」

 

「2人が出発し次第、我々もヴァローニュの基地に移動します」

 

「わかった、その時はまた宜しく頼む」

 

「すいません、ありがとうございました」

 

メノが頭をさげると、いえいえ良いですよと整備員が手を振った。

 

「さぁ、早く出てください。すぐにでも出なきゃ鴉殺しが……」

 

『警報、警報、マッターホルンレーダーより緊急入電。BFFの長距離爆撃コマンドがアルプス山脈を超えた。VTOL機及び対空装備を持つ部隊はすぐに迎撃準備を行え。残りはただちに移動を開始せよ。繰り返す、マッターホルンレーダーより……』

 

「なるほど、向こうも連携を取ってきたか」

 

恐らく、足止めの部隊だろう。1分1秒を争うこの状況でこの類の攻撃は嫌になる程有効だ。

 

「バズーカをガドリングに換装してください、私も迎撃を行います」

 

「了解しました、すぐに」

 

整備員が走り出す、武装を変更するだけならすぐに終わるだろう。

 

「BFFめ、焦らないでも次はそっちの番だというのに」

 

ローディーは表情を変えずにそう言い、フィードバックへ向かい歩き始める。メノは、一度大きく何かを振り払うかのように頭を振ると、プリミティブ・ライトへと駆け出した。

 

 

 

「クソッ……姿が掴めん」

 

ノイズだらけのレーダーに唾を吐きたくなるのを抑え、クレパスの中で息を潜める。

コジマ濃度の高さからPAが意味をなさないというのはブリーフィングで聞いていたが、この馬鹿みたいなECMは想定外だ。

 

「無線も出来ん。逃げるにも敵は狙撃型……頭を出せばそれまでか……」

 

BFFのネクストとは何回かシミュレーターでやった事があるが、実戦だとここまで面倒だとは思っていなかった。

 

「こんな戦いばっかやってるからスナイパーは嫌われるんだよ」

 

言葉を吐き捨てる。現状はまさしく蜘蛛の巣に絡まった哀れな羽虫だ。この装備は遠距離の相手と相性が悪い。損害覚悟で突っ込んでも、PAが無い今はその一撃が致命傷になりかねない。

 

とりあえず、どう行動するにも射手の位置を特定せねば動けない。

使い古された手だが、試さないよりはマシだろう。

マシンガンを地表にそっと出す、さて、かかるか……?

 

乾いた発砲音が響く。銃弾は空気を切り裂き、マシンガンを出した場所から一m近く離れた場所に着弾する。

どうやら、だいぶ離れた場所から攻撃しているらしい。恐らく、射程ぎりぎりからの攻撃だろう。

 

「慎重も過ぎればただの臆病だぞ」

 

着弾した角度から、おおよその位置を割り出す。最初のブリーフィングで見たこの辺りの立体図を思い浮かべ、確かあのあたりに狙撃に最適な丘があったなと目星をつける。

 

さて、ならば……。ふと、一つ作戦を思いついた。上手くいくかはわからないが、まぁ、ここで氷漬けになるよりはマシだろう。

 

ブレードを展開、目の前の氷へと突き刺す。その熱量により一気に水蒸気へと昇華した目の前の氷壁を見て、溜息を吐きながら男は進み始めた。

 

「まるでモグラだな、こりゃ」

 

 

ザックザックと氷を斬り続ける。既に5時間以上経過していた。これだけ時間が経てば移動しているかもしれない。その時はその時だ。

 

「お?」

 

手応えが浅い。壁を思いっきり蹴ってみると、氷が崩れて外が見えた。足元には海が広がり、空は未だに闇の中。

 

さて、上手くいったらしい。なんとか狙撃手の注意から脱する事ができた。

ここからは時間勝負、息を吸い。集中力を研ぎ澄ます。

 

定着氷の外縁を飛び、なるべく丘に近い場所まで身を隠しながら進む。

いつ気づかれるかわからない。相手はオリジナルだ、臆病者とはいえ舐めないほうが良いだろう。

 

機体の速度と記憶の中の地図から、おおよその位置を計算する。

ここか?とあたりをつけた場所でブースターで一気に飛び上がった

 

「ここだったか……なぁ!」

 

ビンゴ、間抜けな事に未だにクレパスを眺め続けるバカがいた。

 

OBを機動、一気に接近する。

と、その音でやっと気がついたのだろう。驚いたように旋回し、こちらを向く。

だが、遅い。この機体は機動力と剣での一撃に特化したアセンブルとチューニングを施している。

 

「お……?」

 

敵ACがブレードを構える。どうやら接近戦を挑むらしい。

 

「接近戦の備えがあるのは良いが……」

 

敵の脚部を思いっきり踏みつけ、ブレードを構える左腕をおさえる。

 

「その腕じゃあ俺は斬れないぞ」

 

渾身の突きを敵ACのコアに食らわせる。PAの手応えもなく、まるでバターでも斬るかのようにするりと刃が入る。

糸の切れた操り人形のように、敵ACが力無く項垂れる。

 

「スナイパー対策もやるべきかもな」

 

終わってみれば呆気なかったが、それでも苦戦したことは間違いない。このような開けた場所でスナイパーを相手にする時の事も考えておいた方が良いだろう。

 

さて、敵ACを討ち取った証明に、肩部に貼られたエンブレムを切り取る。

 

「レッドキャップねぇ……まぁ、嫌らしい戦い方ではあったな」

 

男はそう言うと、まずECMの環境下から逃れるために飛行を始めた。この後は、レイレナードからの依頼がある。貧乏暇なしとはよく言ったものだ。

 

「さて、次はローゼンタールが相手か……」

 

そう呟くと男は、すぐに次の戦場へと意識を切り替えた

 

 

 

「アンシールがやられたか」

 

「時代遅れ……か」

 

「何がだ?」

 

レイレナード本社、ベルリオーズの部屋には主の他に出撃から帰ってきたばかりのアンジェの姿があった。既に外は暗いが、エグザウィルはどの部屋も灯りがついていた。

 

「あの男がレイヴンに対して言っていた言葉だ。まぁ、奴らしい言葉ではあるな。」

 

コーヒーを飲み干し、アンジェがそう吐き捨てる。そしてベルリオーズを見ると、仲間がやられたとは思えないほど楽しいそうに言った。

 

「しかし、大活躍だな。お前の友は」

 

「あぁ、彼一人の活躍でこの戦争は誰にも予測出来ないものになっている。どの会社も、使い勝手の良いジョーカーとして彼を雇おうと必死だ」

 

「どこにも属さず、ただその力のみで自らの存在を守り続ける。かつてのレイヴンそのままだな」

 

「血が騒ぐか?」

 

「騒ぐ、が。今は抑えよう」

 

アンジェが口元だけで微笑む。彼女の目からは闘志が溢れているのをベルリオーズは見逃さなかった。

 

「今、彼はローゼンタールの部隊を追撃している。ネクストも含まれた部隊だが、まぁ、楽勝な内容だろう」

 

「酷い話だ。私達より働いてるんじゃないのか?」

 

「休暇なら戦争が終わった後にまとめて取ると笑っていたよ。」

 

「成る程、なら、私もそろそろ休憩を止めにするか」

 

さて、とアンジェが立ち上がる。

 

「もう出るのか?」

 

「あぁ、面倒な報告書も出したしな。メノ・ルー達を逃しておいて本社でのうのうとしているのも性に合わん」

 

「なら、アンデスに向かってくれ。そこにレイレナードへ加わりたいと言っているリンクスが戦っている。彼の救援に向かって欲しい」

 

「アンデス……あぁ、例のゴキブリ男か」

 

「腕は確かだ、そんな言い方は良くない」

 

「褒め言葉だよ、あのしぶとさは見習いたい程だ」

 

そう言いながら、アンジェはベルリオーズの部屋から出て行った

 

報告書を見る。アルドラのヤン、オーメルのパルメット。ここにあのメノ・ルーの名前が載っていないのは意外だった。読み進めていくと、もう一人のリンクスによって足止めを食らったと書いていた。

 

「あのローディーという男、どうやらどの企業も見誤っていたらしいな」

 

この戦争では、低いAMS適性のリンクス達の活躍が目立つ。彼しかり、このローディーしかり。

結局、ネクストの価値を決めるのは腕という事なのだろうか。

 

「この戦争はどう転ぶのだろうか」

 

彼らを含め、この戦争には不確定要素が多すぎる。インテリオル・ユニオンの早期脱落など、誰が予想できただろうか?もし、これでBFFまで脱落してしまえば、まちがいなく、我々は負ける。

 

そのBFFには、現在不穏な動きがある。No.5の温存などがその最たるものだ。あの女帝に限って、戦場へ行く事を渋るなど考えられない。何か、何かBFFの中で起こっている。

 

最早、自分の命という駒ではどうにもならない状況になっていた。レイレナードの解体という最悪の場合も考えておいた方が良いだろう。

 

ベルリオーズは椅子に深くもたれかかり、天窓から夜空を眺める。

 

彼は、その景色へ向かって手を伸ばした。

 

「宇宙……か」

 

ベルリオーズは何かを決心したかのように内線の受話器を取る。

 

「すまん、オッツダルヴァへ伝えてくれ。クローズ・プランはフェーズ0へと移行した。と」

 

受話器を置き、息を吐く。本当なら、彼には宇宙へ行く最初の男となって欲しかった。

 

「大人が成せなかった夢を、子どもへと受け継ぐ……か。全く、なんと無責任な」

 

ベルリオーズはそう呟くと、ゆっくりと立ち上がる。

 

種はまいてしまった。ならば、その種が成長しやすいように土壌を整えねばならない。

 

部屋の灯りを消すと、彼はシュープリスの待つ格納庫へと向けて歩き出した。

 

 

 

「すいません、私です」

 

「イアッコスか……。構わん、入れ」

 

旧アーガイル・アンド・ビュートに存在するビル。イアッコスと呼ばれた細身の男は、その言葉を聞くとゆっくりとドアを開いた。

そこには、スーツを身にまとった一人の男がいた。既に年齢は老年に差し掛かり、頭の殆どが白髪へと変わっているこの男は、一見すると気の良い好々爺のようにも見える。だがその目は未だに鷹のように鋭く、気力に溢れていた。

 

「失礼します。アンシールの件についてです」

 

「どうなった?」

 

「アナトリアの傭兵は見事、あの男を撃破しました」

 

「そうか……」

 

くっくっく、と楽しそうに老人は笑う。

 

「あの小僧、腕だけは確かだったが。流石はレイヴンと言った所か」

 

「えぇ、ウォルコット姉弟もスウィア防衛の為に動けません。事を成すなら今かと」

 

「あぁ、レイレナードから援軍なんて来たらまた面倒な事になるからな」

 

老人は、一度だけ目の前に置かたブザーを鳴らす。するとイアッコスの後ろの扉から一人の女性が出てくる。

 

「アレを流せ、相手は決めていたままで構わん」

 

「了解しました」

 

一礼をし、女性は去っていった。その後ろ姿を見送ると、イアッコスは再び老人の方を向いた。涼しい顔である、自分の会社を売ったとは到底思えない。

 

「やはり、GAに?」

 

「あぁ、新生BFFを育てるには、あの資本力が必要だ。ちょうど、向こうは新しいヨーロッパへの窓口を探している最中だ、利害の一致だよ」

 

「なるほど。で、その新しい象徴はシェリー様だけなのですか?」

 

「いや、もう一つ必要だ。BFFをこれまで以上の組織にする為には」

 

「……例の、ウォルコット家の」

 

「あぁ」

 

その言葉を聞いて、イアッコスはわざとらしく息を吐いた。

 

「あの姉弟も頑なでしたな。あの強情ささえ無ければ、彼女らも生き残ることはできただろうに……」

 

「実の娘だ。やはり、大事なのだろう」

 

「……あの噂は、やはり真実で?」

 

対して驚きもせず、イアッコスが尋ねる。老人は頷くと、カーテンの閉まった窓を眺めながら言葉を続けた。

 

「間違いない。そもそも、私とウォルコット家の先代は古くからの友人でね」

 

「あぁ、そうでしたか」

 

「あの事故の2日前だったかな。忌々しそうに語っていたのを今でも覚えている」

 

「それはそれは……あれほどの美少女になるのも納得ですな」

 

「監視はどうなっている?」

 

「順調です。戦争が始まったせいで警備は厳しくなっていますが、そのお陰かあの隻腕の仔猫はもう出て来ていません」

 

「そうか。」

 

「……本当に、放っておいても良かったのですか?あれがイレギュラーになる可能性も……」

 

「構わない。どうせ、あと数ヶ月もしたら別の檻に入る事になるんだ。その前に友達と楽しい時間くらい過ごさせてあげようじゃないか」

 

老人が笑う。だがその目には、少しも優しさは見えない。

 

「わかりました。あぁそれと、同業者についてはどうします?」

 

「それもそのままだ、私達の存在を気取られてはならない」

 

「了解しました。それでは……」

 

一礼をし、イアッコスが退室をしようとする。

その後ろ姿に、老人は言葉をかけた。

 

「すまんな、イアッコス。便利屋のように使ってしまって」

 

「いえ、傀儡とはいえBFFの社長の椅子に座れるのです。これくらいの苦労は何ともありませんよ」

 

パタリ、と扉がしまる。

その背中を見送ると、老人は立ち上がり、カーテンの隙間から外を見た。

其処には、出港しようとするクイーンズ・ランスの姿があった。

 

「あの馬鹿馬鹿しい艦でも、見納めとなると少し寂しいものがあるな」

 

そう言うと、彼は再び椅子に座った。そんな感傷に浸る時間も、今は惜しい。

オリジナルのNo.8、王小龍の目の前には、膨大な仕事が積み重ねられていた。戦後の絵図を書く為に、新生BFFの繁栄の為に、彼はその仕事に取り掛からねばならなかった。

 

 




勝手にキャラが動くので、これもうどうなるかわからないなって顔してる。

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