世にリリウムのあらん事を   作:木曾のポン酢

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皆さんから寄せられたアンビエント案試してます、どれもこれも楽しい。

コジマグリーンもいいし、片翼の破壊天気もなかなか……
近距離高速機もいけるし、なかなかバランスいいな063AN

ただ、ブレードだけは、勘弁な!


開戦

GAが行った内部粛清から始まった企業間戦争は、アクアビットの宣戦布告から三日も経たないうちに、六大企業全てが参加する世界大戦へとその姿を変貌させた。

各企業は、国家解体戦争時よりも更に強力で、豊富になった戦力でもって他社を潰しにかかる。

 

ノーマルや大型機動兵器が陣形を組み、基地へと進行してゆく。

数百もの艦船が、海上にてミサイルによる戦闘を行う。

護衛を伴った飛行要塞が飛来し、街へと空襲を行う。

 

それまでの当たり前が全て消え去り、非日常が世界を塗り替えていく。

 

企業の人間は、みな会社から出る事は無くなった。

兵器の製造、修理、同盟相手へのレンドリース、襲撃を受けた基地の被害状況の確認、人的被害の計算とその補填、さらに代替要員の選抜。

こなした仕事を上回る仕事が彼らを襲う。各企業のオフィスは、それこそ外の惨状と何ら変わらない地獄となっていた。

 

そして、そんな戦争において最も大きな働きをしたのは、国家解体戦争の功労者でもあるリンクスたちである。

 

彼らは戦った。その相手は、かつて国家の解体を成し遂げた仲間たちである。

 

 

 

「もうすぐ作戦地域に到達します、再度機体の確認を」

 

フィオナの声を聞きながら、男は三度目の愛機のチェックを行う。

 

全兵装に問題はない、AC本体の状態も万全、ネクストとの接続値が低いのは元々。

大丈夫だ、何の問題もない。

 

「ワルキューレよりオペレーター、ノープロブレムだ。」

 

「こちらシュープリス。大丈夫だ、すぐに作戦を始められる。」

 

「了解しました、それではもう一度作戦の確認を行います」

 

フィオナがそう言うと、男の目の前に立体地図が現れる。

 

「今回の目標は、ゼクステクス世界空港に存在するステルス輸送機の破壊。及び同機を護衛するノーマル部隊とネクスト〝タイラント〟の撃破となります」

 

地図上に、予測される敵戦力の位置が表示される。

 

「目標の機体は現在、機体トラブルのため離陸する事ができません。さらに、この機にはGA社の重要人物も搭乗しており、彼にコジマ汚染の被害を出さないためタイラントはPAの展開が不可能です。……速かなミッションの成功を祈ります」

 

何度も脳内でシミュレーションを行う。だが、失敗のイメージは無い。

相手のリンクスはGAの粗製、こちらはNo.1との協働。まさに朝飯前と言う奴だ。

 

戦争が始まった時、一番最初に男に依頼を出してきたのはレイレナード社である。

その後、GA等の他の企業からも依頼は来たが、彼はまずレイレナードの依頼に手をつけた。

 

もはや、今の男に企業の後ろ盾は不必要である。多くのミッション遂行により幾つかの企業から水面下で支援を受けている男は、自由に飛べるだけの立場を手に入れていた。

本能が告げる。この戦争は、今までの人生の中で最も多くの稼ぎを与えてくれるだろう。

男は笑った。そうだ、この感覚こそが傭兵だ。この生き方が好きだから、俺は戦場にいるんだ。

 

「こちら〝ファフニール〟、少し良いか?」

 

機長の声が聞こえる。

 

「どうした?なにか問題があったか?」

 

ベルリオーズが尋ねる

 

「あぁ、問題だ。作戦エリアで既にドンパチが起こっている」

 

「……なんだと?」

 

「……確認しました、先行した無人偵察機の映像によると既に戦闘が……まさか、バーラット部隊?」

 

「なんだって?なんでイクバールの精鋭がこんな所にいるんだ?奴らは同盟のはずだろ?」

 

男が頭を掻きながら聞く。イクバールは、オーメルとの関係もあってGAとは仲が悪くても同盟関係の筈だ。それなのに戦闘?戦争が始まった今?

 

「わかりません。バーラット部隊はGAの防衛部隊を各地で押しています。タイラントも苦戦中、このままでは、GA側の敗北は時間の問題です」

 

「ベルリオーズ、確か本作戦の統括はお前だったな」

 

「そうだ、どうした?」

 

「報酬の上乗せをお願いしたい。バーラット部隊は強敵だ。」

 

「たかがノーマルだろう?それに、今の我々は漁夫の利の格好だ。ミッションの難易度が上がるわけではない」

 

「じゃあ、バーラット部隊の殲滅では?」

 

「なるほど、確かに長期的に見ればレイレナード社の利になるか。仕事が増えるが大丈夫か?」

 

「もちろんだとも。さて、じゃあ……」

 

「待ってください!空港に向けてさらに増援が……ノーマル部隊と……ネクストです!」

 

「どっちの増援だ?」

 

「機体照合完了、イクバールのオリジナルネクスト〝アートマン〟です! さらにレイレナード社からの情報によると、増援のノーマル部隊は特殊部隊バーラットアサドの可能性が高いとのことです」

 

「ベルリオーズ、元から三倍だ」

 

「了解した。魔術師は強敵だ、確実に潰すぞ」

 

「OK。ノーマルは任せた、ネクストは俺がやる」

 

「……生きて、帰ってきてください」

 

「勿論だ」

 

「ファフニールよりネクストへ、10カウントで投下する。準備をしろ!ナイン!エイト!」

 

「了解した。ワルキューレOK」

 

「こちらも準備は完了している」

 

「ファイブ!フォー!スリー!ツー!カーゴ開放!投下!投下!投下!」

 

輸送機から二機のネクストが投げ出される。黒く塗られた二機の死神は、空港にさらなる混乱を巻き起こすべく飛翔する

 

「ミッション開始です。二人とも、幸運を」

 

フィオナの声を背中に受けて、二機は飛翔する。

 

だが、彼らは知らなかった。タイラントのみでは護衛が不十分だと、GAが別のネクストを雇っていた事を

 

白い閃光が空を貫く。遅れてきた傭兵は、空港に展開する全ての部隊に対して通信を行った。あるものには安心を、あるものには恐怖を与えるため

 

 

「ベルリオーズ!四倍だ!」

 

「あぁ、向こうの相手はこちらがする。サーダナを撃破次第手伝ってくれ!」

 

 

こうして、本戦争屈指の戦闘であるゼクステクス世界空港防衛戦が始まった。

メガフロートの空港の上にて、二人のトップランカーと二人の傭兵、場違いな粗製や最精鋭のノーマル部隊、そして無数のGA製ノーマルが入り混じるこの戦いは、初期のオーメル陣営の苦戦の大きな原因となる。

 

 

 

エグザウィル内部。

アンジェは大股で、足早に歩く。

別に不機嫌なわけではない。彼女はいつだってそのような歩き方をしていた。有限な自らの時間を、少しも無駄にしないように。

 

目的地に辿り着くと、アンジェはノックもせずにドアを開けた。部屋の主はそんな彼女に驚きもせず、読書を続けている。

 

「真改、話がある。」

 

真改と呼ばれた男は、読んでいた本に栞をはさむと立ち上がった。

背はアンジェよりも高いが、身体つきが全体的に細いため、ひょろ長いという印象を周囲に与えていた。黒い髪を首元で束ね、目は糸のように細く、口は不機嫌そうに固く閉じられている。

 

アンジェがついて来いと言わんばかりに部屋を出、真改は黙ってついていく。

一切の会話なく二人が廊下を歩く。

周囲を一切気にしないこの二人組みの姿を、レイレナードの社員たちはまたかと思いながら眺める。

無駄な会話を好まないアンジェと、寡黙という言葉に脚が生えたような性格の真改。その二人が組み合わさると、近くにいる者でさえ口を開けなくなるようなプレッシャーを放つようになる。

 

アンジェ達が来たのはシミュレーションルームである。そこにある向かい合わせに置かれたネクストシミュレータにアンジェは乗り込む。彼女らにとって会話とはそれだった。渾身の一振りは万の言葉より価値がある。アンジェはそう信じていた。

 

真改も何も言わずに、アンジェの向かいに置かれているシミュレーターに乗り込もうとする。

と、アンジェから声がかけられた。

 

「本気で来い」

 

元よりそのつもりであるし、そもそもアンジェは訓練でも本気以外の戦いを認めていなかった。

そんな彼女が、わざわざそう口にする。ということは……

 

今持てる全ての力でもって、私を殺しに来い。そういうことか

 

「了…………」

 

真改は頷くと、シミュレーターに乗り込んだ。

 

 

 

無機質な空間の中、二種類のレーザーブレードが交差する。

アンジェは本気だった。彼女の両手には、それぞれムーンライトが装備されている。

 

必殺

 

その心構えが、こちらにプレッシャーとして襲ってくる。国家解体戦争でも見せなかった程の迫力で、女剣士は向かってきた。

 

ドラゴンスレイヤーを構える。真改は落ち着いてアンジェの攻撃を見極める。専用のブースターとFCSによって成される踏み込みは、いわゆる縮地の域を超え、瞬間移動の領域に入っていた。

 

嵐のような猛攻。それを捌き、捌き、捌き、捌く。一瞬でも気を抜けば、この風に食い殺される。

 

マシンガンを放つ。だが、アンジェはすぐに距離をとり、射線を外し、距離を詰め、斬る。

レイレナードの標準機であるアリーヤは、特に機動力に重きを置いた機体だ。その上、専用のメインブースターによりQBの推力を上げているオルレアのヒット&アウェイは、下手な鉄砲など当たらんとばかりに動く。

 

「………………!」

 

ムーンライトの一撃が、浅くはあるがスプリットムーンに届く。

PAが吹き飛び、白いネクストが丸裸の状態になる。

そんな中で、容赦なくアンジェがもう一振りの刀を振りかぶる。

 

咄嗟に真改は、腕の中にあるマシンガンを投げつける。

一瞬、ほんの一瞬ではあるが、アンジェはそれに気をとられた。

 

その間に後部にQB、距離を……

 

周囲を光が包む。

視覚にノイズが走る。恐らく、フラッシュロケット。

離脱する瞬間に咄嗟に撃ったという事だろう。

だが、真改はその動揺を表に出すことなく距離をとる。アンジェとは、それこそ何十、何百とシミュレーターで戦ってきた。その全てが惨敗ではあるが、彼女の戦いは真改の中に刻みついている。

動揺を見せてはいけない、それごと彼女は斬り裂く。

 

オルレアが突進してくる。その様子を見ながら、今こそが勝負を決する時だと真改は考えた。

 

二機が同時にQBを行う。相対速度にして時速2000km以上の速さで接近した二機。

オルレアの懐の中で、真改は自らの刀に全てを乗せて、全てをかけた。

 

今までで最高の一撃が、オルレアの腹を抉る。

いままで、一度も触れることの叶わなかった絶対的存在に、刃が、届く。

 

 

オルレアの刀は止まらない。浅かったのだ、恐らく、彼女の持つ天性の勝負勘が真改の一振りに気付き、機体を少しではあるが後退させたのだ。

 

一撃必殺を狙う大振りによる隙を、アンジェはあっさりと切り捨てた。

結果はいつも通りの、アンジェの勝利だった。

 

 

「踏み込みが足りん」

 

シミュレーターから出てきたアンジェの第一声はそれだった。

 

真改は頷く。確かにアンジェに触れられた達成感はあるが、それよりもやはりまた負けたという想いの方が強い。

 

次は、負けない

 

と、アンジェはそんな真改の眼を見て笑った。

 

「成長したな真改。お前の闘志と、それに見合うだけの腕は見せてもらった。」

 

女はついて来いと真改に言い、シミュレーションルームから出た。

 

 

「戦争が始まった。それぞれの国家が持っていた力を吸収した企業の全面戦争だ。これの勝利は、我々の理想の為に絶対に必要なものだ」

 

エレベーターを降りながらアンジェが口を開く

 

「勝たねばならない、テストパイロット上がりのお前を戦場に出してでもな」

 

「…………」

 

「今回の模擬戦で、お前の戦いは見せてもらった。凄まじい成長だな、そしてまだまだ底は見えん。」

 

心底嬉しそうに、アンジェは話し続ける。彼女の口が滑らかになる時は、機嫌がとても良い時だ。

 

エレベーターが目的地に到着する。ネクストのガレージがある階層だ

 

「真改、お前は私の下について貰う」

 

アンジェがそう言う。真改は驚く事も無く頷く。先程の模擬戦で、そのような雰囲気は感じていた。

 

「我々は、対ネクスト用の特殊部隊となる。レイレナードの刃として、山猫共の首を奪る」

 

ガレージの中を歩く。いま、ここいるネクストは、並ぶように立つオルレアとスプリットムーンのみ。ほかのACは、全て戦場に居る。

 

その前まで移動すると、アンジェは振り返り真改の顔をジッと見つめた。彼女の愛刀のように鋭く、万物を貫く瞳。この前では、自らの心を覆う全ての鎧は意味を成さない。

 

「私の装備を、全てお前に譲る。お前が次の殻を破るには、それは間違いなく必要だ」

 

「応…………」

 

「これからは実地訓練だ。生きるか死ぬかの場所で、私に劣らぬ戦士相手に戦って貰う。生き残れよ、真改」

 

そう言って、アンジェは視線を外して自らの愛機を眺めた。

真改も、スプリットムーンを見る。

 

並び立つ二機の剣士、蒼色と白色の師弟は、ただただ静かに佇んでいた。

 

 

 

あたまが、うるさい

 

GA本社、ネクスト専用の医療施設の中でメノ・ルーは苦しんでいた。

 

命はまだある。だが、それが悪魔の気紛れによって残されていただけだ。

 

あの惨劇の後、GAの人間に回収されたメノはそのままアメリカ大陸に戻り、GAの本社にて治療を行っていた。

 

身体的には大きな問題は無い。

だが、心には大きな爪痕が残っている。

 

あの楽しそうな声が、頭の中を跳ね回っている。

圧倒的な力と、破綻しているとしか思えない心。それを正面から受けた彼女の精神は、壊れていてもおかしくなかった。

プラチナに近い色の髪の生える頭を、メノは押さえる。青い瞳を隠すように伸びた前髪の為に見えないが、彼女の目元には、深い隈が刻まれている。腰まで伸びた髪が、揺れる。

 

だが、彼女はまだ自分を持っている。

その理由は、メノはわからない。

 

白い部屋の中で、メノは時間を過ごしていた。

戦争が始まった事は聞いた。

GAが、早く私に戦って欲しいという事も知っている。

 

だが、まだ戦えない。

メノは、戦う意味を見失いかけていた。

あの少女、楽しそうに私を殺そうとしたあの悪魔。

本当に、いままでの私はあぁでは無かったと言えるのだろうか?

 

私は心の底から戦いを忌避している。

しているつもりである。

だが、本当に、そうなのだろうか?

楽しんでなかったと言えるのだろうか?

いままで、笑って人を殺したことが無いと言えるのだろうか?

 

メノは悩み、悩み、悩み。そして疲れて寝てしまった。

 

夢の中でもあくまは出てくる、彼女は囁く。戦いを楽しめと、笑って人を殺せと。

メノは必死にそれを否定する。だが、自分を見失いかけている彼女の声は小さく、すぐに狂った言葉に掻き消されていく。

 

悪夢は消えない。永く、永く、メノを誑かす。

必死に否定する。涙を流し、暖かい人々を思い浮かべながら。そんな筈はない、そんな筈はないと。

 

だが、そんな決意すらも無駄だというように、悪魔は大声で笑いかける。

 

メノは、一瞬諦めかけた。

 

そうだ、闘争を楽しめば、あの苦しみから逃げられるかもしれない。

 

でも、それは逃げである。いままでの私と同じ、何も受け止められないくらい弱いから、逃げているだけ。

 

それではいけない、でも、それでも、これから、こんなに辛い世界から、にげ、ら、れるな、ら……

 

 

爆音が響く。悪い夢から覚醒したメノは、反射的に呟く

 

「敵……!?」

 

ベッドから出て、近くにいた医師に何があったか尋ねる。

 

「レイレナードの部隊です!奴ら、まさか本社を襲うとは……!」

 

それを聞いたメノは、自らの愛機に向かって駆け出した。

すでに、プリミティブ・ライトは搭乗可能な状態になっている。全てのパーツがすぐに手に入るというのは、企業のネクストの特徴とも言える。

 

メノは走る。自分を誘惑する者から逃げるように。

GA本社、このビッグボックスはまさに要塞だ。各所に設置された砲台や、本社直轄のノーマル部隊によって守られたここは、難攻不落と呼ぶに相応しい場所である。

だが、安心は出来ない。レイレナードの部隊という事は、間違いなくネクストがいる。

山猫達は、どんな不可能をも可能にする力を持っている。あの恐ろしい兵器の前に、絶対は存在しない。

 

エレベーターに駆け込み、一息をつく。そして、目指すべき階層を押し忘れたことに気づいてボタンを押そうとした時に……

 

一人の男が乗り込んできた。

 

スーツ姿のその男性は、すぐにネクストの格納庫がある階層を押すと、直立不動の体勢をとった。茶色の髪をオールバックにし、鼻の下には整えられた髭がある。その整った顔は険しく、さらに加齢によるものと思われる皺も幾つか見られる。

 

メノは必死に彼の事を思い出そうとする、確か、同じリンクスの筈だ。あの戦争の後に来た人で、名前は、えっと……

 

駄目だ、思い出せない

 

エレベーターが目的地に辿り着く。男は歩きながら、メノに対して状況の説明を行う。

 

「敵集団は10機のネクストACで構成されている。うち9機は恐らく自律型、残りの1機はオリジナルの〝メメントモリ〟だ」

 

オービエさん……か。

確かに、このような襲撃作戦にはうってつけだろう。味方が無人機なら尚更だ。

 

「対してこちらにいるネクストは、君と私だけだ。ノーマル部隊は既に全滅状態。砲台はその半分以上が自律ACによって切り刻まれている。状況は絶望的という奴だな」

 

「…………」

 

「ようするに、我々が奮戦しないとGAは早々とこの戦争から退場することになるということだ。」

 

男は振り返ってメノを見る。

その瞳に迷いはない。いままで見た誰よりも、軍人の目をしている。

 

「どうやら君は、いま再び戦いに迷いを抱いているらしい。だが、敵は待ってくれない。君が力を行使しない限り、我々の仲間達に多くの犠牲が出る。まぁ、その方が戦争全体としては死人の数は少なくなるかも知れないが。」

 

「それ……は……」

 

「迷っている人間には何も出来ない。……大事な者を守ることすらもな」

 

「……どういう、意味ですか?」

 

「君のお義父さんは優しいな、という事だ。会社が連絡を入れたらすぐに飛んで来てくれたらしい」

 

「まさか!?」

 

神父さまが……ここに……?

 

「脅す形になるかも知れない。だがまぁ、君は敵襲を察知してすぐに走り出せる程には軍人が身に沁みている。それなら、これだけの理由があれば戦うだろう」

 

「あの……あなたは……」

 

「ただの粗製だ。憶えておく必要はない」

 

そう言うと、男は自らの機体の元へと近づいていった。

両腕が手の代わりにバズーカ砲になっている、焦げ茶色のサンシャイン。整備員たちの間を抜けて、男はその機体に乗り込む。

 

メノも急いでプリミティブ・ライトに乗り込んだ。整備員に礼を言い、AMSを接続する。

 

視界がリンクした。そして、男の乗り込んだ機体のデータを読み取る。

 

フィードバック……

 

男の機体は、動きだしたプリミティブ・ライトを確認すると、静かにメノに向かって言った

 

「では行こう。これから我々は反撃を開始する」

 

 

 

「来た、ローゼンタールの輸送部隊だ」

 

遠距離からその様子を監視していたユージン・ウォルコットが、姉に伝える。

 

「わかった、まずは護衛を相手にしましょう。輸送部隊はその後でもなんとかなるわ」

 

フランシスカ・ウォルコットが頷く。彼女らがBFFから与えられた任務は、この輸送部隊の殲滅だった。

 

「わかった姉さん。援護は僕に任せて」

 

弟は笑いかける。そう、なんとしても姉は、自分が守る。そういう決意を含んだ笑みを

 

だが、そのすぐ後。ユージンはある事に気づく。

 

「待って姉さん!これは……」

 

「どうしたのジーン?」

 

「護衛の中にネクストがいる。それも……あれは、レオハルトだ。」

 

「ノブリス・オブリージュが……?」

 

ノブリス・オブリージュ。ローゼンタールの最高戦力で、No.4のオリジナルネクスト。

 

「どうするの?」

 

「やろう、姉さん。いまの僕たちの装備でも十分対ネクスト戦はできる。それに、二人なら勝てない敵はいない。……そうだろう?」

 

「えぇ、そうね」

 

「それに、あのランクのネクストを倒すことができたら。この戦争をはやく終わらせることができるかも知れない」

 

ユージンが呟く。そうだ、私たちは早く戦争を終わらして帰らなくてはならないのだ。あの暖かな家へ、あの、愛しきリリウムが待つ家へ。

 

「駄目だと思ったら引いてくれ。僕が前衛をやる。」

 

「わかったわ、ジーン。……なんとしても、帰りましょう。」

 

「うん、じゃあ、行こう」

 

身を隠していたヘリックスⅠが跳躍する。すでに、背中のコジマキャノンの充填を完了していたヘリックスⅡが、ノブリス・オブリージュに対して砲撃を行う。

 

二人は戦う。愛しき者のために、そしてその結晶のために。

 

 

 

「もぉーえろよもえろぉーよ、ほのおよもぉーえーろーーー」

 

狂人は歌う

 

「ひぃーのこをまきあーげー、てぇーんまでこがせーーー」

 

そこは、燃えていた。施設も、テントも、兵器も、機械も、そして、人も

 

「さてさて、これは狼煙の大きさとしてどんな者だろうか」

 

彼女にとって価値の無いものと化したそれらを踏みながら、黄昏は歩く。

 

「まぁ、こんなもんを色んなところで燃やしたら、流石に向こうも対策をうつでしょう」

 

機体が浮かび、もはやここには用は無いとばかりに飛び立った。

 

「楽しみだ。さて、どっちが先に来るかしら。できれば、とっとと本命の方に会いたいんだけど……」

 

そんな言葉を残して、機体は夜の闇の中に消える。

 

後には、炎と死のみが残されていた。

 

 

戦争は始まった。

 

その姿は、少女が知っていたものからかなり形を変えていた。

 

だが、少女は気にしない。いや、そのことを楽しんですらいた。

 

これくらいわけがわからない方が楽しいと。

 

そしてこれくらい滅茶苦茶じゃないと、こっちも動きにくいと。

 

少女は戦う。

 

自分のために、自分が楽しいと思えることの為に。

 

 

後に、リンクス戦争と呼ばれるこの戦いは、未だ始まったばかりである。

 




貴族VSコジマ、貴族は負ける。(例 アルテリア・カーパルス)

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