直死の眼を持つ優しき少女   作:黄金馬鹿

9 / 31
 このSSは一部だけリアル風に書いております。なので、海域への移動等は、横鎮などはヘリや飛行機を使っている設定にしております


第六駆逐隊 後編

 本日は晴天なり。まさに、航海日和だろう。海の上を悠々自適に進む四人の少女達は一人の少女を中心とした、三角形の陣で海の上を進んでいく。二人はかなりリラックスした様子で、もう二人は意識を張り詰め、何時敵が来てもいいように、一人は右手に装備した、連装砲を構え、もう一人は耳に手を当て、大本営から支給された33号対水上電探に意識を割いている。言わずがな、暁と雷である。残りの二人、響と電に関しては、響はボルシチを食べ、電は目を閉じ、艤装に内蔵した音楽プレイヤーから音楽を聞いている。

 既に航海開始から数時間。あと十数分で南西諸島沖に到着する。これが最後の警戒となるのだが、ここに来るまで、深海棲艦は一度も姿を現さなかったのは幸運だった。

 提督も、人工衛星から送られる映像で四人の様子を逐一確認しつつ、その周りも確認しているため、万が一の奇襲は有り得ず、暁と雷も何処か、少しだけ気を抜いていた。

 そして、南西諸島沖に着く。敵は目視では確認できず、水平線が広がるのみ。先頭の暁が機関を止め、それに続くように三人も機関を止める。雷が暁に視線をやれば、首を横に振る。どうやら、ここまで来て電探は何も反応しないらしい。それは響も同じで、敵の反応は無いと首を横に振る。

 

「司令官。目的のポイントに到着したわ。電探に敵の反応はなし。指示をお願い」

『衛星の反応から、お前達から見て十時の方向に敵艦隊が二つ。二時の方向には陸地が一つと敵艦隊が一つ見つかっている。どちらに進むかはお前達で決めてくれ』

 

 提督の声を聞き、暁があっち側とあっち側、と指を指す。どちらに行くか。それは、旗艦である雷に任せられた。

 

「……ここは羅針盤を回しましょう」

 

 が、運に任せる事にした。雷は羅針盤を取り出し、ついて来た妖精さんに渡す。妖精さんはそれを受け取り、海の上で一気に回す。

 羅針盤が指したのは、二時の方向。陸地がある方向だった。

 

「二時の方向ね」

『じゃあ、陸地に向かってくれ。そこは確か、深海棲艦が時折現れる小さな小島の筈だ』

「了解したわ」

 

 提督からの通信が切れ、暁に指でゴーサインを出すと、暁が機関を動かし、動き始める。それを雷達も追う。

 暫く四人で周りを警戒しながらも進んでいくと、小さな陸地。本当に小さく、直径で一キロも無いような、ただの岩場の密集地帯が見えてきた。そこに辿り着いた四人は機関を止め、岩場に上陸する。

 

「ここは……」

「ただの岩場みたいね」

「いや、待って。こんな所に弾薬が落ちてる」

 

 ただの岩場かと思い、通りすぎようとした暁と雷だが、響がそれを止め、足元に転がっていた弾薬を拾い上げる。

 それは、艦娘が使えるサイズの物で、自然に転がっている訳がない物だった。

 

「……大本営にいた頃、聞いたことがあるのです。深海棲艦は補給場としてこういった岩場を作り上げて、そこから湧き出す弾薬や燃料で補給してると」

「わ、沸き出す?そんな、温泉みたいな……」

「いや、沸き出すで合ってるみたいだ」

 

 響が指を指すと、その方向の岩場から、弾薬が一つ、岩場から打ち上げられ、地面に落ち、転がっていくのが見えた。

 

「何これ」

「深海棲艦に常識なんて通じないって事じゃない?まぁ、これなら、私達でも使えるわね」

 

 雷も弾薬を見つけたのか、一つ拾い上げて主砲に詰め込んだ。ガシャッと音を立てて弾薬は装填された。

 

「まぁ、貰えるものは貰っていくのです」

「そうだね。ウチの鎮守府の足しにはなるよ」

「それもそうね」

「……なんか、納得いかない現象よね、これ」

 

 そう言いながらも、艤装にある小さな収納スペース一杯に弾薬を詰め込む四人。だが、その最中。暁と響が同時に空を見上げる。

 

「ヤバッ……響!」

「分かってる!」

 

 暁と響が捉えたもの。それは、敵の反応。そして、山なりに落ちてくる敵の砲弾。それに気がついた響が雷を上から押し倒すように伏せさせ、暁がその二人の盾となるように艤装の、かつて軍艦だった頃の装甲の一部をモチーフにした艤装の一部を前面に展開し、盾とする。幸いにも、電の方に弾丸は行っていない。これなら、中破程度で何とかなる。

 そう思い、襲うであろう痛みに備え歯を食いしばる暁だが、その前に電が動いた。

 暁が盾代わりとしている装甲の部分を、電はパージ。バシュッと音を立てて艤装からパージされた二つの装甲を手に持ち、構える。パージした際に感じた脳を焼くような頭痛は気にもしない。既に、魔眼の副作用で何度も感じたような痛みだ。

 その二つの装甲をブーメランのように右、左と順に投げ飛ばす。回転しながら飛んで行った装甲は、敵の砲弾の死の線をなぞり、殺し、岩場に突き刺さるだけとなる。

 

「ごめんなさい、先に突貫するのです!後方で砲弾をありったけばら撒いて魚雷で足止めを!」

 

 電の突貫するという言葉。今までの暁なら止めていたが、こうやって奇襲された今、体勢を整える術は少ない。だが、電が囮となれば話は別。電が突っ込み、暁達が陣系を整え、後から突貫。電が魔眼の射程距離までに撃ち倒せれば万々歳。出来なければ電に任せるしかできない。

 電に負担がいってしまう作戦だが、それでも、缶を積んだ電なら何とかなると思えた。だから、暁は頷いた。

 

「分かったわ!すぐに梯形陣で追いかけるわ!」

 

 旗艦は雷だが、雷も魔眼の事を理解しているため、この作戦を却下する事は無かった。

 

「司令官さん、敵の奇襲を受けたのです。電が小破後突貫しています。残りの三隻で援護をさせます」

『何だと!?分かった。ただ、あまり無茶はするなよ!』

 

 電が岩場を蹴って水面に着地。直ぐ様通信を入れつつ機関を最大にし敵へと突貫。その最中、空から落ちてきた装甲をキャッチし、盾として前面に出しながら突貫する。

 その数秒後、残りの三人が主砲を撃ちながら電の後を雷、響、暁の順に梯形陣、突撃用陣形で電を追う。

 電も主砲をばら撒きつつ、深海棲艦へと突撃。軽巡ホ級と駆逐イ級の三隻。なら、勝てない道理はない。

 主砲を、敵の砲塔の向きから着弾点を予測し回避し、魚雷を飛び越え、着地を狙った主砲は機関を止め、一瞬だけ海中に潜る事で回避する。そして、装甲を一つ放棄し、懐からナイフを取り出そうと意識を割いた瞬間、軽巡ホ級の二つ目の主砲が火を吹いた。

 

「しまっ……!?」

 

 直後、炸裂。爆炎が舞い起こり、煙が舞う。ホ級は電を殺ったと思い込み、後ろの雷達へと照準を向ける。暁達の足は止まらず、逆に煙の中に突貫しようとしている。隙だらけだ。タイミングを合わせて魚雷をお見舞いしてやろう。

 その考えは電の轟沈を確認しなかったホ級にとっての決定的な隙となる。

 

「勝手に、殺すな!!」

 

 電が、煙をその身で割いて飛び出してくる。その服はボロボロで、焼け焦げ、額からは血を流し片目が見えない状態だが、それでも片目は見えている。

 予想外の生存に、深海棲艦三隻は対応が遅れる。その隙に電はボロボロになってゴミ同然となった装甲をイ級に投げつけ、隙をさらに作り、ホ級に肉薄する。

 

「死ねッ!!」

 

 逆手に持ったナイフがホ級の砲塔を切り裂き、使えなくする。さらにそこから回し蹴りが炸裂しホ級を吹き飛ばすと同時に体の一部の死の線がなぞられ、殺され、沈みはしないものの大破同然となる。

 だが、それを見ている事しか出来ないイ級ではなく、ほぼゼロ距離でその砲門を電へ向ける。が、電は魚雷管から魚雷を一本抜き取り、イ級の砲門へと投げ込む。スポン、と砲門に入った魚雷。このまま撃てば誘爆して沈む。そう一瞬の内に考えたイ級は、下を向いて魚雷を取り除こうとするが、その前に電が動き、イ級を下から蹴り上げ、海面から浮かせ、主砲を空中にいる間にお見舞いする。爆炎が舞い、さらに口の中の魚雷が起爆。イ級は木っ端微塵となって海の藻屑と消えた。

 まずは一隻。だが、その間にもう一隻の駆逐イ級が復帰に、電へ砲門を向ける。だが、電はバックステップをして距離を取るだけで突っ込まない。

 これは仕留めるチャンスだと思ったイ級は砲門から砲弾を発射。それは、真っ直ぐ電へと向かっていったが、急に電は水中へと少しの間だけダイブし、砲弾を躱す。そして、その砲弾の先には動けないホ級。ホ級はイ級の砲弾をマトモにくらい、轟沈。その隙に電は水中から飛び出し、右手でナイフを構え、空中でイ級の死の線をシッカリと目に収める。

 

「直死……!!」

 

 電の青い目が、逆光となり表情の見えない電の顔から妖しく光り、イ級を捉える。そして、電がイ級の隣に着水すると同時に死の線を一本切り裂く。さらに、イ級へ振り向きざまにもう一本切り裂き、ナイフを死の線に突き立て、足で蹴り飛ばすと同時に一気に死の線を切り裂く。

 三本の死の線を切り裂かれたイ級は四分割され、何も言えずに深海に沈んでいった。

 

「ハァ……ハァ……状況、終了!」

 

 額から流れる血を拭いながら、緊張によって口から無意識に吐き出された二酸化炭素の代わりに酸素を体が求め、息が荒くなるも、電が声を出す。それは、勝利の宣言だった。

 

「電中破、敵艦、軽巡ホ級一隻並び駆逐イ級二隻の轟沈を確認……」

 

 ナイフを懐にしまった電は倒れこむように海面に片膝をついた。

 幾ら直死の魔眼を持とうと、素の身体能力は変わらない。だからこそ、視認なんて到底できない砲弾飛び交う戦場では、意識を少しでも割くことが命取りだと、近接戦を仕掛ける自分こそが一番分かっているのに、意識を割いてしまった。それが、今回の傷が教える未熟な点だった。

 

『暁、響、雷!すぐに電の救助だ!』

「もう行ってる!」

 

 提督の叫びが聞こえた直後、暁達が電の元へ辿り着く。電の様子を見た雷が提督に報告を入れる。

 

「……本人の報告通り、電は中破。航海は出来るけど、とても戦闘に参加は出来ないわ」

『そうか……なら、撤退だ。入渠の準備はしておく』

 

 今の状態では、駆逐イ級の砲撃で轟沈してしまう可能性もかなり高い。装甲を捨て、耐久力も体力も削られてしまった今では、とても、また突貫も、マトモな砲雷撃戦も出来ないだろう。

 

「……ごめんなさい。私が被弾したせいで……」

「そんな事言ったら、電探を積んでたのに気が付けなかった私のせいよ。電は何も悪くないわ」

「いや、それを言うんだったら私のせいでもある」

「いいえ、私が指揮出来なかったのが原因よ」

『いや、俺がサポートしきれなかったのが原因だ』

「あー……なんかエンドレスになって仲が悪くなる気がするので止めにするのです。あと、始末書は私が書くのです」

「いえ、それなら私が書くわ」

「いや、私が」

「それだったら私が」

『……いや、俺が』

『どうぞどうぞ』

『ダチョウ倶楽部か!!ってか、お前ら何で知ってんだよ!特に暁響雷!!』

 

 若干、締まりは悪かったが、初めての第六駆逐隊揃っての出撃は、少しだけ失敗した所はあったものの、敵全艦轟沈、味方轟沈艦無しの、勝利を飾る事ができた。

 暁と雷が電に肩を貸し、響があったかいボルシチをパンに浸して食べさせながら、四人は帰投のための進路に入った。勿論、消費した分の弾薬を回収するのを忘れずに。

 

 

****

 

 

 あの長い帰路を通って第六駆逐隊は無事に帰投した。電のほぼ大破に近い艤装を妖精さんに引き渡した所で提督がドタバタと駆け寄って大袈裟にリアクションを取ったが、それを電は軽く受け流した。

 結局、始末書は代表して提督が書く事となり、四人は仲良く夜中の入渠に入った。

 

「気持ちいいのです〜……」

「今日の疲労が取れていくぅ~……」

「うらぁ〜……」

「うっわ、響、クラゲみたい……」

 

 電、暁、響がもうこのままお湯に溶けてしまうんじゃないがと思えるほどだらけきり、雷はそんな暁と響の髪の毛をお湯に浸からないようにせっせと拭いて纏めている。やはり、雷はオカン気質だ。ちなみに、電は自分で纏めた。

 

「そういえば、この鎮守府、女湯は見た事あるけど男湯は見た事ないわね?どこにあるのかしら」

「確か、司令官さんの私室に小さな浴室があるのです。そこを使ってるとか聞いたのです」

「大浴場とかないの?」

「そりゃあ、ここには男手一人だからね。一人のために大浴場なんて作れないだろう」

「何気に司令官さんは苦労する立場なのです」

 

 ようやくお湯に浸かった雷が一息ついて体を伸ばす。今、電達がいる大浴場……と、言うよりもドッグは四人で使うにはかなり広く、羽こそ伸ばせれる物の、四人で競泳出来そうなほど広かった。

 やはり、これから先、艦娘が集まってきての事を想像しての広さなのだろうけれども、やはり広すぎて多少違和感がある。

 

「電の入渠時間、何分だっけ?」

「十分も無いのです。これなら、普通にお風呂入ってれば治ってるのです」

 

 電が腕に取り付けられた小さな腕時計型のタイマーを確認しながら言う。このタイマーから音が鳴るまでお湯に浸かれば、艦娘の傷は治る。艤装に関しては妖精さんにかかっているのだが、それでも艦娘として戦える程度には入渠だけで回復する。

 

「でも、流石に出撃の度にあんなに長い距離航海するのはダルいわねぇ」

「近々大本営からはヘリが貸し出されるのでそれを待つのです」

「それなら、楽になるね。で、操縦者は?」

「……操縦者は付属しないのです。ゲームの通信相手の友達が付属しないのと同じなのです」

「ダメじゃない!!」

 

 結局、何処か締まらない第六駆逐隊だった。なお、本来操縦は大本営から貸し出される工作艦が行うとはつゆ知らず、四人は誰が操縦をやって誰が戦うかという不毛な争いを、電の腕のタイマーが鳴るまで繰り広げていた。




 電さん、初の中破。無意識の内にナイフを抜けないとは……まだまだ未熟。こう、仕込み腕みたいにしないと……

 あと、何気に身体能力は高めの電さん。まぁ、ここの電は電ちゃんではなく電さんなので、多少はね?それに、直死の魔眼持ちなら身体能力が高くないと直死の魔眼は完全な死にスキルになりますからね。というか、デメリットにしかなりませんし

 ただ、電さんの身体能力を空の境界の式や月姫の志貴と比べると、かなり劣っています。十七分割とか、無垢識とか唯識とかは出来ません。精々頑張っても五分割が限界です。本来、射撃戦しか想定されていないのに近距離戦挑んでいるのですから、当然と言えば当然ですね。しかし、飛び道具で相手の死の線をなぞるという行為限定なら、式と志貴よりも優れています。これで死の点が見えていたらスナイパーライフル持たせて芋砂させるのが一番なんですけどね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。