直死の眼を持つ優しき少女   作:黄金馬鹿

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直死の魔眼は式と志貴が元から特別だからこそ手に入れれたのであり、電はどう頑張っても得られないとか、そういうマジレスはやめてね!作者は豆腐メンタルだからね!

予約投稿をミスってました。この一つ前の話が前編になります


姉妹のキズナ 後編

本日も快晴なり。鎮守府近海は平和である。それもこれも電と暁がはぐれ艦隊を倒してくれたおかげなのだが、それだけで終わるような戦いではない。

 今回も鎮守府近海のパトロールだ。まだ、ここが完全に安全になったとは言えないため、主力艦隊と思われる深海棲艦を倒さない限り、この海域のパトロールを止めて他の海域に出るわけにもいかない。

 鎮守府近海は駆逐艦の足なら半日もあれば一周出来る。前回は初めてだったため、すぐに帰投させたが、今回はこの海域を完全に攻略し、安全を取り戻す。

 駆逐艦三隻。衛星からの情報だと、残る相手、主力艦隊は駆逐艦一隻と軽巡洋艦一隻だけ。駆逐艦三隻、それも三隻とも相性完璧な姉妹艦だから、負ける通りが見つから ない。

 

「そんな訳で、旗艦を電。次いで暁、響で出撃してほしい」

 

 司令室にて、司令官が机の前に並ぶ電、暁、響に今回の作戦の概要を伝え、出撃してほしい旨を話す。

 電は初対面の時、戦いたくない、仲間が増えたら出撃しないとも取れる言葉を口にしていた。だからこその確認の言葉だった。

 目隠しで青い眼を隠す電は、目元以外の表情はまさしく無だった。だからこそ、ここで嫌だと言われるのでは無いかと不安になってしまった。

 

「……了解しました、なのです」

 

 電の言葉にホッとしつつ、準備が出来次第出撃する事を伝えると、三人に退室を促した。

 しかし、どうにも彼には嫌な予感がしていた。また、電が何かをやらかしそうだと。

 電はどこか、ズレているというか、可笑しい箇所がある。艦娘としてではなく、人として。これを同期に言ったら笑われるのだろうが、それでも彼は艦娘を兵器として割り切れていない。だからこそ、電の事を思う。

 せめて、怪我無しで帰ってきてくれと、彼は窓から青い空を眺めながら思う。

 一方、第六駆逐隊の三人は提督の命を受け、三人は同時に出撃。吊られて降ってくる艤装を上手く背中とドッキングさせ、艤装と神経が自動で接続される。装甲を動かし、主砲、魚雷管を動かし、異常がない事を確認する。

 目隠しを外し、電の視界に広がる光景は、今日も死に溢れている。海に、空に、自分に走る死が煩わしい。そして、狂いそうになり、この死をなぞってみたい殺人衝動が襲う。

 制御の仕方も分からない今、この眼は今すぐにでも潰したくなる。だが、目を潰したところで死が見えてしまうのは既に『経験済み』だ。頭痛も伴うのも、日に日に慣れてきているが、それでも痛い。

 この眼が、『眼』自体に死を見る力が備わってるのではなく、脳に備わった、一つの機能になってしまってるのは、何となくだが分かっている。そして、頭痛の理由も。

 既に肉の体を得てから一年以上経過している今、この眼について分かってきたことも多いが、分からないことだらけだとも言える。

 精神が擦り切れてきた辺りでこの眼は使い方によっては人を救えるのも分かった。もし、精神が擦り切れる前ならこの力で人を救ったのだろう。だが、今は心の中に渦巻く殺人衝動がそれを邪魔する。

 人を見れば無作為に殺したくなる。そんな衝動が彼女の優しかった心を擦り切れさせた。何度、初期艦として選ばれ、提督を殺しにかかり独房にぶち込まれた事か。つい昨日まで独房に居た自分が、この鎮守府でマトモな性格に戻れるのか、平和な日常を送れるのか、また独房にぶち込まれるのか分からない。

 

「……電、どうやら十時の方向に敵がいるみたいだ。数は二」

「分かったのです。司令官さん、敵を発見次第交戦に入ります。許可を」

『あぁ、許可する。存分にやってやれ』

 

 了解、と呟き提督との通信を切る。響には、先日電に装備させられていた電探を装備させているため、電は目視で敵を探す。線のせいでかなり分かりにくいが、発見が遅れればやられるのはこちらだ。電のナイフによる奇襲は、敵を早期に発見しなければ砲撃の雨に飲まれて沈むだけの無謀な作戦だ。

 

「電、近づいて来る。十二時の方向」

「……突貫するのです」

「何を……電!!?」

 

 近づいて来るのなら好都合。こちらからも全力で近付いて叩き斬ってやる。口元に笑みを浮かべて呟く。また殺せる。また殺す。最早生き物なら何でもいい。ただ殺したい。

 抑制されていた殺人衝動が、いや、ただ殺したいだけの衝動がフツフツと湧いてくる。殺したい、あぁ殺したい。そんな衝動がフツフツと。

 

「電ッ!」

 

 姉の声が聞こえるが知った事か。この衝動に勝るものなどない。ナイフを引きぬき、自分では分からないが快楽を得ようと躍起になる、まさに麻薬中毒者のような表情をしながら海を突き進む。

 見えた。黒色の、死の塊。ああ、頭が痛くなる。あんな死が形を成して動いているとしか思えない物を見るだけで頭が痛くなる。全身に、人や艦娘とは比べ物にならない程死の線を走らせ、断末魔のような呻き声を上げ続ける二つの死が殺人衝動を加速させる。そうだ、このために。このために海まで出てきた。死を、相手に死を、自身に快楽を、この衝動を、伽藍堂な心を満たすために、殺すために、ここまで来た。右手のナイフを牙に、死の塊であるあの子羊達を狩ろうではないか。

 だが、相手もジッとはしていない。砲塔をこちらに向け、火を吹く。だが、遅い。そして、精度が悪い。二発の内、一発は確実に外れるが、一発は当たりそうだ。

 その弾薬、死に塗れている。どこを触ろうと死の線がある。

 危険だと感じたのか、脳内で脳内麻薬でも生成されたのか、何なのかは分からないが視界がスローモーションになる。頭が痛くなる。目の前に来た砲弾に向けてナイフを一閃。たったそれだけで砲弾は『死』を迎え、その機能を果たさず深い海へと沈んでいく。そして、至近弾が水柱を打ち上げるが好都合。身を隠し、一気に前進。そして、敵の目の前に踊り出るが魚雷が来る。知った事か。死の線を確認しナイフを目の前の海水に浸け、当たる寸前にナイフを動かし、当たる筈の魚雷を殺す。それだけで魚雷が不発弾となり、深海へと落ちる。

 全ての攻撃が、当たる筈の攻撃が無効化され、敵は混乱する。馬鹿め、それが命取りだと言わんばかりに電は敵との距離を完全に零にする。

 

「死ね」

 

 驚くほど冷酷に、しかし笑みを浮かべ、軽巡ホ級へとナイフを振るう。それだけで切られた場所は死に、ほぼ大破と変わらない状態となる。さらに、砲塔を殺して真っ二つにし、頭と思われる、死の線が集中している場所にナイフを突き刺す。

 そしてホ級は完全に殺され、轟沈する。それを横から見ていたイ級が砲門をこちらに向ける。が、無駄。沈みゆくホ級に足を乗せ、跳躍。自由に動く装甲を盾にイ級の目の前へと着地、盾を退かす代わりにナイフを振るい、砲塔を切り裂く。

 

「死が……私の前に立つな!」

 

 さらに全身に走る死の線をナイフでなぞっていく。本来効かないはずのただのナイフが安々と装甲を切り裂き、イ級が悲鳴を上げる。が、その悲鳴を全ては聞かず、脳天と思わしき死の線が集中している場所に突き刺し、殺す。

 

「……敵艦轟沈確認。電、暁、響、共に損傷無し」

 

 機械のようにこちらから通信機の電源を入れ、呟いてからすぐに切る。あぁ、頭が痛い。

 

「電ッ!!」

 

 頭を抑え、ナイフを懐にしまった時、暁と響が追い着いた。敵はどこだと辺りを見渡すが、ふと真下を見たら沈みゆく二隻の深海棲艦を確認した。

 響はやはり信じられない物を見た顔をする。暁は二度目だが、それでもやはり信じられない。懐にしまったナイフで深海棲艦を轟沈させるなんて。

 

「……報告はもう終わらせたのです」

「そう……でもね、電!」

 

 暁は無表情に、無感情に呟く電の胸倉を掴み、引き寄せる。

 

「こんな戦い方、危険だし、いつか殺されるわよ!?それを分かってるの!!?」

 

 その言葉は、自分に対しての怒りでもあった。妹を、無茶な戦いをする妹を止められなかったという。だが、それでも電に対する怒りはある。やっと、やっと姉妹三人で戦えるのに、こんな無茶な戦いをしたらいつ轟沈するか。

 だから、分かって欲しかった。こんな戦いをしたら、心配すると。あの優しかった妹があんな表情をして敵に突っ込んでいくのが、心配でならないと。

 

「……うるさい」

 

 だが、電は暁の手を振り払った。

 

「勝てばいいのです。これは戦争……別に何隻船が轟沈しようと……」

「電。歯、食いしばれ」

 

 鬱陶しく呟く電の言葉を遮り、響が呟く。今度は響が電の胸倉を掴んで引き寄せ、思いっきりぶん殴る。

 

「ちょっ、響!!?」

「暁、今の電には何言っても聞かないよ。だから、殴って聞かせるしかない」

 

 殴り飛ばされ、海面に浮く電の胸倉をさらに掴み、無理矢理立たせる響。

 

「確かに、止められなかった私も悪い。だけど、電……私達は電を心配しているんだ。姉妹だし、仲間だから」

「……それで勝てるのですか?それで、敵を殺せるのですか?」

「少なくとも、一人で突っ込むよりは」

 

 響の言葉に、言葉を詰まらせる電。確かに、この戦術はいつか痛い目を見る。戦艦の副砲にでも晒されれば、すぐに轟沈だってしてしまう。

 だが、それすら構わないと電は思っている。また『あの場所』へ行くだけなのだから。

 

「電……私はもう、目の前で妹が沈むのを見たくないんだ……だから、もうあんな戦い方はやめてくれ……」

 

 電を抱き締め、耳元でそう呟く響。声が震えている。泣いているのだとすぐに分かった。

 過去の駆逐艦『電』は、駆逐艦『響』と持ち場を交代し、僅か三十分。駆逐艦『電』は潜水艦の雷撃により沈んだ。駆逐艦『響』の目の前で。

 その時の悲劇を、今の『響』は覚えている。あの悲しみを、真っ二つになり海底へと沈んでいく『電』を。

 あの悲劇を、二度と目の前で見たくない。だから、守れる位置に。共に戦える位置にいてほしい。そう、願っての言葉だった。

 

「……でも、これが一番確実で……」

「敵に真っ正面から突っ込んでいくのが確実なの?電が沈んだら、私達まで沈む可能性もあるのに?」

「……」

「電がやってる事は電だけが危険になる訳じゃない。皆が危険になるの。電に死の線が見えてようが、それをなぞったらどんな敵も倒せようが、敵艦と文字通り殴り合い出来るのは硬い装甲を持つビックセブン位なのよ。それを分かって言っているの?」

 

 暁が淡々と紡ぐ言葉。それは、反論の余地も無いほどだった。いくらビックセブンでも殴り合いはそうそう出来ないが、それでも電のような、装甲が薄い駆逐艦は零距離でのドッグファイトなど、一撃貰えば沈んでしまう、メリットとデメリットが釣り合わない行為だ。

 

「……電。何があったのか、その眼で何が見えているのか、何でそんな眼が電にあるのか、私には何も分からないわ。だけど、私達は電と一緒にいたいの。それだけは分かって」

 

 暁は顔を逸らすと、響を電から引き剥がし、鎮守府とは逆方向に移動を始めた。おそらく、新しい艦娘が現れたため回収に向かったのだろう。

 電は海面に映る自分の顔を見る。酷い顔だ。無表情で、頬が腫れている。そして、その眼は青く、自身の顔に死の線を映す。そして、頭に、いや、脳にあるのであろう、無数の死の線。その中で一際目立つ、一つの線。

 おそらく、これが己の眼を死の眼にしている機関。一年近く見ていれば何となくわかる。これが、人を殺すのではなく、自身の何か、違う物を殺す線なのだと。

 

「ここを、刺せば……」

 

 ナイフを取り出し、自身の頭に添える。これを斬れば、死の線は消える。だが、手は動かない。怖いのではない。本能がこの眼を消す事を拒否している。

 

「……私、どうすればいいの……?」

 

 戦闘になれば衝動に飲まれ、感情は擦り切れ、姉達の言葉をロクに受け止めれず。全部、全部この眼が悪い。この眼が無ければ泣いて謝り一緒に戦うのに。この眼のせいで、自分の全てが崩れていく。

 戦いたくない。戦いたい。殺したくない、殺したい。助けたい、助けを呼ぶ間もなく殺したい。葛藤していた自分の心が崩れていった、数ヶ月前から性格は歪み、感情は擦り切れ、殺しを楽しむ機械になりかけている。

 

「……まぁ、いいや」

 

 別に、殺せればいい。考えた結果がこれだった。

 彼女は長い間死に触れ続けてしまった。死を見過ぎてしまった。もう、手遅れに近かった。

 その時、通信機から通信が入った。

 

『し、司令官!雷が……雷が!!電と同じ眼を……眼を潰して……!!』

「え……?」

 

 電の、マヌケな声が水平線へと飲まれていった。




読んでて分かる通り、電はかなり情緒不安定な状態です。それもこれも全部直死の魔眼と付属品の殺人衝動が悪い

別に、殺したいだけだから一緒に来た仲間が沈もうがいいやという殺人衝動が色濃く出た状態と電本人の優しい感情がぶつかり合って、さらに暁に正論突きつけられて何も言えず……と、自分でも訳分かんない事になっているのでかなり情緒不安定です

それと、艤装は艦娘の神経と接続されているという設定なので、艤装が破壊されると死ぬより痛い眼に合います。ボロボロになる程度なら問題はありませんが、一部が切断されたり原型を留めないレベルで破壊されると死ぬより痛いです

そして、最後の暁のセリフ……これについては次回

あと、電の一人称が「電」から「私」に変わってますが、特に深い意味はありません。強いて言うなら、性格が変わってしまったせいです

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