直死の眼を持つ優しき少女   作:黄金馬鹿

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今回の話はアフターストーリーですが、かなりの鬱展開となっているため、閲覧注意です。鬱展開大好きな人以外はブラウザバックするのをお勧めします


戦いの果てに

 あの日、私達は。艦娘達は最後の深海凄艦を討伐した。私の一刀で。直死の魔眼の殺人衝動に呑まれる事無く、そして頭痛と零式装備の副作用に耐えながら。一時間に伸びた活動限界で、五体もの姫を倒しきった。暁と響と協力して。

 艦娘対深海凄艦の完全なる消耗戦。深海凄艦が仕掛けてきた全深海凄艦による攻撃を、五百に満たない艦娘で全て討伐した。アメリカからアイオワさんやドイツからビスマルクさん。その他諸々、世界中の艦娘が日本に集結して戦った。

 艦娘の轟沈数、三百八十三。まさに、死闘だった。現存する艦娘の半数以上が轟沈した。それでも、私達は、人類は勝ちをもぎ取った。戦争に勝利した。

 勿論、それは私達ブイン基地の面々も例外ではなく、古参メンバー……あの時、電が死んだあの戦いから生き残った艦娘達を除いた全ての艦娘が轟沈した。当たり前だ。ブイン基地の艦娘は最前線で戦い抜いたのだから。

 そして、私達は戦う意味を無くした。その後、決められていたのは全艦娘の艤装解体。記憶を保持したまま人間社会へと溶け込み、一人の人間として暮らしてく『平和』だった。

 そう、平和。世界は艦娘を人間として認め、平和を掴むはずだった。なのに、なのに。

 

「雷、ボーッとしないで。まだ銃撃戦は続いているんだ」

「え、えぇ……そうね」

「まだ敵兵の数は沢山いるわ。響、手榴弾の残りは?」

「三つ……流石に陸戦装備は少なかったからこれ以上はキツイね」

「じゃあ、ここから先は艤装を使いましょ。雷、零式で出れる?」

「うん、暁。任せて」

 

 始まったのは、新たな戦争だった。

 人間対艦娘。それが、新たに起きた戦争。かつての仲間が、かつての守るべきもの達がそれぞれ牙を向いた。

 私達は艤装を再び背負った。そして、銃を手にした。人間を殺すために。

 取り戻した平和。その後、艦娘に待ち受けていたのは平和ではなく死だった。

 全艦娘の殺処分。新たな戦争の火種となり、兵器となりうる艦娘を全て殺処分し、真の平和を取り戻す。それが、人間の取った、約束を違えた選択だった。

 それを全艦娘が受け入れる訳がなく、各鎮守府の提督達も立ち上がり、その命令を取り下げるように何度も言った。だが、返ってくるのは殺処分の命令のみ。それが、戦争の引き金となった。

 横須賀鎮守府と呉鎮守府が大本営へと砲撃。それがキッカケとなり、全鎮守府の艦娘と提督は横須賀鎮守府へと集結。海路を全て艦娘が支配し、全世界へと艦娘は散って人類対艦娘の戦いが始まった。

 人間は平和を自ら手放した。ずっと、掌の上にあると思い込んでいた駒に裏切られた。自業自得の結果とも言えるこの戦争は、人間の物量作戦と艦娘の少数精鋭による各個撃破で拮抗を保っていた。

 その戦争に巻き込まれたのは私……元は英雄とまで言われたこの、元は人を守る筈の艦であった雷も例外じゃなかった。

 私は、心のどこかで分かっていたのかもしれない。だから、殺人衝動を抑えれたのかもしれない。

 平和は訪れない。いつか人間を斬れる日が来るって。だから、今も私はこうやって笑っていられる。人間をゴミのように切り殺しながら。

 

「な、何だあれは!?」

「い、雷だと!?雷はアメリカに行っていたんじゃないのかよ!!」

「残念だけど、つい先日帰ってきたのよ!!」

 

 私に恐れ銃を捨てた人間を一刀両断していく。血を吹き、肉を散らして死んでいく人間。あぁ、美しい。美しくて、綺麗な光景。

 銃弾を予測線を見て避け、地を走って人を斬る。

 自分達よりも強く、恐ろしい艦娘に楯突いた。それが人間の敗因だ。いや、全滅の原因だ。

 お前達は私達に守られていればよかった。人間は自らが作り出した戦争の道具に守られていればよかったんだ。

 こんな事なら、艦娘は初めから深海凄艦と組んでいれば良かった。そうしたら、こんな醜い争いはとっくに終わっていた。

 

『雷、空から敵が降下してくるぞ!』

「了解、司令官」

 

 司令官からの連絡を聞いて私は空を見る。確かにいる。オスプレイだったかしら?輸送ヘリが確かに空にいる。

 迅雷・改を目の前で連結。両刃刀モードにして空へと投げれば、輸送ヘリは空で斬り裂かれて爆発する。

 艦娘は完成された兵器だ。対地対空対海、全てを行えて、銃弾程度じゃ傷を負わない鋼の体が高速修復材さえあればすぐに元通りになる。まさしく絶対強者。人間が歯向かったのはモルモットじゃない。虎やライオン、そういった猛獣だった。

 空で爆発した輸送ヘリを見て兵達が驚愕の表情を浮かべる。そして、その表情は絶望へと変わる。

 後ろからの艦娘達の砲撃が人間達をゴミ屑のように吹き飛ばしていく。

 既にこの戦争は艦娘の勝ちで染まっている。アメリカ、ドイツ、ロシア、中国。その他諸々の国は既に艦娘が支配している。私もつい数日前まではアメリカの殲滅戦に参加してた。私を見て蜘蛛の子を散らすように逃げる人間を斬り殺してアメリカを支配した。

 この先の展開は見えたものだ。人間達は絶対強者である艦娘に媚び諂いながら生きていく。駒である筈の艦娘に頭を下げながら。

 逃げ始める人間を追う仲間達を見ながら、私は空を見た。もうとっくに腰辺りまで伸びた髪の毛は血で濡れている。

 私の目的も、もうすぐ達成される。だから、俯いてなんていられない。

 司令官に言われたあの言葉を、現実の物にするため。そのためなら、人間なんて幾らでも斬ってやる。

 

 

****

 

 

 数カ月後、全世界が艦娘に降伏。世界は艦娘が支配した。

 私は、私達はずっとこの為に戦ってきた。電の汚名を晴らすために。電の名誉を守るために。

 ブイン基地の仲間達は電の汚名を晴らすためだけに戦ってきた。これから先作られる、艦娘と人間が、立場は違うけど共存していく世界で、電の名が汚名として使われないために。

 共存していく筈なのに。筈だったのに。

 

「あ、あの、大和さん?今日はどこに行くんですか……?」

「労働施設で脱走者が出たそうなので処刑しに行く所ですけど……雷さんも行きますか?英雄の雷さんが来たら皆さん、喜ぶと思いますけど……」

「い、いえ……行こ、響、暁」

「そう、だね」

「うん……」

 

 共存は、実現しなかった。電の汚名も晴らされることは無かった。

 人間は老若男女問わず労働施設へ送り出され、私達が生きるための鉄剤や燃料を採掘してる。深海凄艦が生まれた時に何故か増えた地下資源は、全く潰えること無く人間の手により運びだされている。

 艦娘達はかつての目的を忘れて、平和に暮らすという目的を忘れ、人間を虐げて悪逆の限りを尽くし始めた。それも、笑顔で。

 ただ、私達だけが、ブイン基地の仲間達だけがそれを良しとしなかった。けれど、どうする事も出来なかった。

 私は、暁型駆逐艦の私達は艦娘の中では英雄だ。全世界を駆け回って戦場を勝利へと導いた英雄。だから、相当な立場にいる。けれど、こんな立場欲しくはなかった。人間と笑って暮らせる平和が欲しかっただけだ。

 

「どこからこんなに狂っちゃったんだろうね……」

「元々狂ってるのさ……深海凄艦が出た時点で、この世界はとうに狂い始めてたのさ……」

 

 暁の言葉に答える響の言葉は、まさにその通りだった。

 もしかしたら、空に見える死の線はこの世界の死が近いのを意味していたのかもしれない。

 触れれそうな程近い死。直死の魔眼は、それを知らせるためにあったのかもしれない。

 こんな世界、あって何になる。これから始まるのは暴虐の時代。そして、何時しか人間は滅び、人間に依存した艦娘も動けなくなり滅ぶ。残るのは誰もいないこの星だけ。

 

「……もう、こんな世界いらないや」

 

 ジワリ、ともやもやした何かが胸の内を支配する。

 こんな世界、あって何になる。こんな世界、必要なのか?

 

「い、雷?一体何を……」

「……その通りか。電が戻ってこれないこんな世界、必要ない」

「響!?」

「私達は平和に暮らしたかっただけなのに……なら、作ればいいじゃない」

「そうだ。どうせ人間達はまた何かを産みだして私達に喧嘩を吹っかける。なら、全部壊せばいい。そしたら、残るのは私達の平和だけ。私達が朽ちるまで平和は続く」

「……そう、よね。元々私達は電のために戦ってきたんだもの。叶わないなら、また戦うまでよね」

「えぇ、そう、その通りよ!私達に勝てない相手なんていない!なら、私達が全て支配したらいいのよ!」

 

 そうだ。何をしていたんだ。頼ってばかりじゃどうにもならないのは艦娘であり、戦ってその存在を繋ぎ止めてきた私達が一番分かってるじゃないか。

 叶わないなら戦う。戦って、戦って、戦って……闘争の果てに欲望を掴むだけよ。

 私は、私達に宛られた部屋の中で叫ぶ。そうだ、戦うのが私達だ。戦わなくてどうする。

 

「思い立ったが吉だ。早く行こう」

「そうね、今なら敵の後ろから奇襲できるわ。司令官にも話を通しましょう」

「じゃあ、まずは艤装を……」

 

 その時、ドアが蹴り破られた。何事かと思う間に私達は、陸戦装備を手にした。

 私は刀、暁と響は拳銃。すぐにドアへと視線を向けたが、私達はその侵入者を見て硬直した。

 その侵入者は、ここには居てはいけない人で……私達の愛する人だった。その人は、刀を両手に部屋の前に立っていた。

 

「そ、そんな……うそ……」

「……やっちゃったのですね、お姉ちゃん達」

「な、なんで……なんで電がここに!?」

 

 私達の視線の先。そこには、刀を片手に持った、最愛の妹が……電がいた。

 

「……今の私は抑止力(カウンターガーディアン)。世界を滅ぼす要因が生まれた時に現れる力そのもの」

「それが電の体に乗り移ったって事かい?なら、とっととその体を返してもらおうか」

 

 響が再び拳銃を構える。そうだ、ここに電がいるのなら手っ取り早い。体を取り返して人類と艦娘を滅ぼして平和を掴む。順序が変わるだけだ。

 

「お姉ちゃん達が悪いのです。お姉ちゃん達はこのまま放っておくと、人類全てを滅ぼして艦娘も全て滅ぼす……そして妖精さん達に資源を任せて何千年も生きていく……そして、世界のバランスは徐々に崩れていずれ地球は崩壊する……見事にアラヤとガイアの二つに触れてしまったのです」

「アラヤとかガイアとかよく分からないけど……邪魔をするなら少し寝ててもらう!」

 

 響がゴム弾の入った拳銃のトリガーを引く。が、電はその弾を斬り裂く。

 

「アラヤとガイア、その二つは人類と世界の存続をするために私を選んだのです。お姉ちゃん達に絶対に勝てる、この私を」

 

 暁も銃を撃つが、電はそれを切り裂いていく。

 

「いずれ、艦娘は世界を滅ぼす。その時に私ではない抑止力が召喚される。そして、人類は世界を滅ぼす。その前にガイアが動く。もうこの世界は深海凄艦が出た時から終わっているのです」

 

 私も電の意識を奪うために斬りかかる。けど、電はそれを赤子の相手をするかのように簡単に払っていく。

 

「これは、アラヤからの優しさでもあるのです。深海凄艦による人類の滅亡を救ったお姉ちゃん達への、ちょっとした優しさ……」

 

 電が私の刀を、手を捻って奪った。そして、電が握っていた刀を投げた。

 その先にいたのは、響だった。

 

「しまっ……ァッ……」

 

 投げられた刀は、響の喉に刺さった。その瞬間、響の全身から死の線が消えた。

 死んだ。死の線が見える私にはそれが分かった。そして、信じられなかった。電が、響を殺すなんて。

 

「いなづま……な、なんで……」

「言ったのです……お姉ちゃん達はアラヤとガイアの禁忌に触れてしまった。もう、手遅れなのです」

「な、なんなのよ……なんなのよ、アラヤとかガイアとか!私は、私達は電と一緒に居たかっただけなのに!!なのに、何で!!」

「その手段を誤ったと言っているのです。あ、言っておくけど、ここで私を殺しても、タイプ・マァキュリーやプライミッツ・マーダーが来るのです」

 

 手段を間違った?何処で、一体何を?

 

「次は……暁ちゃんなのです」

「えっ……?」

 

 電が、暁へ刀を投げた。投げられた刀は暁の胸に突き刺さった。

 暁が血を吐いて倒れ、死んだ。私はそれを見ているしか無かった。

 

「い、いなづま……」

「抑止力は『人類の自滅』が起こる時に現れる霊長の守護者。人類の産んだ艦娘の一人である雷ちゃん達の手によって人類が滅びそうだったから、私は出てきたのです」

「な、んでよ……なんで平和に生きたいと思っただけで殺されなくちゃならないのよ!!」

「だから何度も言ってるのです。雷ちゃん達は手段を誤った。それだけなのです」

 

 電の手が私の首に当たる。電の眼は、直死の魔眼。この手だけで、殺される。

 だけど、電の目には涙が浮かんでいた。

 

「あの世で、また会おうなのです、雷ちゃん。あっちで、四人で平和に……ずっと、ずっとね」

「そ、そんな……いなづ……」

 

 電の手が、私の首に刺さった。声が出ない。意識が無くなっていく。

 あぁ、これが、死。何も聞こえない……何も見えない。

 わた――し、が、消え――て――――い―――……………。

 

 

****

 

 

「……あぁ、終わった。じゃあ、私も逝くのです。きっと、次は皆で……ちょっと違う場所だけど、平和に……笑って暮らせるのです。どうせ、私は今回限りの抑止力なのですから」

 

 そして、四つめの死体が出来た。

 四つの死体は、皆が手を繋いで、目を閉じていた。

 

 

****

 

 

 ここはどこだろう?何もない所で私は目を覚ました。何か、変な物を見ていた気がする。

 暫くすると、『私』が……電の体が作られた。そうなのです。私は響ちゃんの代わりに沈んで、またこうやって産み出されたのです。

 電の頭に知識が入り込んでくるのです。深海凄艦……また、戦争なのです……

 でも、戦わなきゃ。守らなきゃ。『前』みたいな事にならないようにしなきゃ。

 前?前って……何だっけ?まぁ、いいや、なのです。

 段々と意識が浮上してくる感覚。体の感覚がしっかりとして、視界が完全に開ける。

 ここは、工廠、なのです。まだボーッとする頭でカプセルみたいな物から出て、周りを見渡すのです。

 えっと……周りには、壁と、機材と、軍服を着た男の人と……男の人なのです!?

 

「はわわ!?」

「やっと気付いたか……このまま無視されるかと思ったよ」

 

 男の人……多分、この人が司令官さんなのです。何となく、だけど……そう感じるのです。

 

「えっと、君は……暁型の駆逐艦かな?」

「は、はい!あの、その……電、なのです。よろしくお願いします」

「そうかそうか、やっぱり電か!ほら、お前達も出てこい。やっと来てくれたぞ、お前達の妹が」

 

 誰の事なのです?そう思っていると、工廠の入り口から『見慣れた』三人の姿が目に入ってきたのです。

 その三人は電を見るなり走ってきて……はわっ!?

 

『電ぁー!!』

「はわわわ!?むぎゅっ!?」

 

 そ、そのまま突進してきて押しつぶされたのです……く、苦しい……

 

「お、おいおい!幾ら何でも興奮し過ぎだ!」

「ご、ごめんなさい……何でか、電を見たら抱きつきたくなって……」

「何でだろう……何だか、この瞬間を待ち侘びてたかのような……」

「前々からこうなるのを望んでいたというか……」

「いや、分かんねぇよ」

 

 そ、その前に退いて欲しいのです〜……

 

「でも、これで暁型は四人揃ったって事だな。よかったよかった」

「電〜、ずっと会いたかったんだからね〜!」

「『前』は出来なかった酒盛りでもしようか」

「もう離さないわよ〜!!」

「く、苦しいから退いて欲しいのです!あと、前って何の事なのです!?」

 

 よく分からないけど……きっと、これから先、電の歩む道は明るいのです。何でか、そう思えて……

 でも、暁ちゃん達と同じなら、『前』みたいな事にはならずにきっと、平和を掴み取れるのです。『私』は、そう確信して上に乗ってる三人を抱き返したのです。

 ふと、天井が気になったので見たのです。天井は、無機質な屋根で……でも、それを見た途端、何でか安心できたのです




誤った選択を取り続けてしまった三人はアラヤとガイアによって、それに遣わされた電によって殺されました。例え、生きるために電と戦ったとしても、プライミッツ・マーダー、霊長類への絶対殺害権を持つ最速の獣とタイプ・マァキュリー、死という概念がないORTによって殺されてました。

三人は、妹と暮らしたいという願いの叶え方を誤った結果、人類と世界を滅亡させる原因となってしまった、直死の魔眼の被害者です

これにて、この小説は本当に終わりです。もしかしたら、ハッピーエンドの話を書くかもしれませんが……

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