直死の眼を持つ優しき少女   作:黄金馬鹿

29 / 31
これにて完結です。それでは、どうぞ


英雄『雷』・大罪人『電』

 超大規模作戦、通称PT作戦は犠牲を出しながらも成功した。

 五つの鎮守府の、ほぼ全ての艦娘を総動員し本土への進行を全て抑えこみ、横須賀、呉の第一艦隊とブイン基地の全艦娘による敵軍の中央突破及び姫狩り。これを成功させた海軍及び艦娘の地位はそれなりに回復し、政府の艦娘運用廃止案は撤回された。

 敵の姫、離島悽姫は想定外の力を持っていた。戦った艦娘達は皆、その力を歪曲の魔眼と呼び、あの大和や五航戦を無力化し、横須賀、呉の第一艦隊は無力化され、敗戦が濃厚となった。その時、その数を半分程まで減らしたブイン基地の艦娘の一人、雷が直死の魔眼と呼ばれる、歪曲の魔眼と同種だと思われる魔眼を開眼し、敵戦艦と空母を次々と倒していき、新種であり、姫並の力を持つ深海凄艦、レ級を下し、そのまま離島悽姫を日本の魂とも言える日本刀で一刀両断。そして、生還した。

 たった一人で敵深海凄艦の大将首を取った雷は海軍内での英雄的存在となり、同時に彼女の要望で、同じ艦娘、若しくは人間内で魔眼を開眼した者がいたら、手厚く保護するという条例も出された。

 犠牲は出たものの、此度の作戦は日本の、人類の完全勝利で終わった。例え、これから先、どのような深海凄艦が来たとしても、艦娘の力があれば人類は決して負けないだろう。

 

「……これ、どこの大本営発表?」

「っていうか私、そんなに立場大きくなっちゃったの……?確かに色々聞かれたから答えたけど……」

 

 そんな報告のような物が書かれた新聞をブイン基地の提督と、その秘書艦でもあり英雄に祀りあげられた雷は読んでから、溜め息をついた。

 既にPT作戦が終わってから一ヶ月が経った。艦娘側は何人かの轟沈は出したものの、深海凄艦は離島悽姫討伐後、抵抗したもののすぐに何処かに消えていった。そして、離島悽姫のいた離島は海の底へと沈んでいった。

 

「まぁ、何も言うまい……」

「そうね……」

 

 提督と雷の何度目かに及ぶ溜め息が部屋の中に木霊する。

 英雄となった雷は様々なメディアで写真やら何やらが公開され、最近になっては大和や金剛、赤城といった有名な艦故によくメディア露出をしていた艦娘に加えて雷とその姉妹の暁、ヴェールヌイも写真を雑誌に載せられたりしている。一種の芸能人のようだった。

 たまに鬼やら何やら言われているが、まぁこの報告通りに内容を受け取っているのなら、一人でレ級に加えて姫まで討伐した上に自力で帰ってきた雷はそれはもう鬼みたいな扱いにもなるだろう。

 

「いや、もっとこう……美少女戦士!みたいな感じなら文句ないのに、こう、血の中で笑う鬼!とかそんな感じだから、こう、沸々と殺意が……」

「こらこら。まぁ、そこら辺は上に文句言ってくれや」

 

 軽く怒りに震える雷を手で抑えながら、提督は一人の少女を思い出す。

 電。彼女の活躍は報告書にも書いたが、彼女が戦場に出た事に関しては緘口令が敷かれ、姫を倒したのは雷。電は作戦の最中、鎮守府が手薄になったのを知って脱走したが、銃殺されたという事になった。

 ブイン基地の面々に加えて命を助けられた横須賀、呉の第一艦隊はそれに激怒したが、取り合ってはくれない。電は英雄ではなく、犯罪者として歴史にその名を刻んだ。刻まれてしまった。

 

「……はぁ、世の中はこんな事じゃ無かったって事ばかりだよ」

「……ホントね」

 

 彼等は一人の少女を思って、再び溜め息をついた。

 

 

****

 

 

 深海凄艦の本土進行。それは、まさしく電撃的な事であった。

 PT作戦以降、ほぼ全ての作戦において出てきた姫は英雄、雷が一刀両断してきた。深海凄艦はそれを見かねてか、電撃的な本土進行作戦を行った。

 艦娘の数も三百を超え、海外艦も増えてきたが、それでも日本全土を守るには足りない。主要な都市や人が密集する場所を重点的に守り、他は陸軍が避難をさせるという体勢を取っていた。

 しかし、深海凄艦は数の暴力で艦娘の防衛ラインを押し切っていき、とある街へと上陸を許してしまった。

 正しく地獄絵図。艦娘達も戦ってはいるが、数が違い過ぎる。

 何人もの人が殺され、親を殺された子供もいた。逃げる事もできず、建物の影で身を潜めていたが、深海凄艦はやって来た。

 

「ひ、ぁ……」

 

 親を殺された少年は目の前に立つ戦艦ル級の眼光に声を殺された。悲鳴も出せない。もう、死が目の前にある。

 

「た、助けて……」

 

 声を捻り出した。だが、誰も来るわけがない。

 ル級の主砲が向けられる。死ぬ。本能がそう決め付けた時、奇跡は起きた。

 空を走った飛行機。そこから飛び出した何かは少年の目の前に降り立ち、その手の刀でル級を一刀両断した。

 

「え?」

 

 間抜けな声が漏れる。

 その後ろ姿は、かつて本で見た改零式という、あの英雄である雷が装備していた艤装で、濃い茶色の長い髪をストレートにして風に任せて靡かせるその姿は、文字通り少年にとっては英雄だった。

 

「……大丈夫だよ」

 

 目の前の艦娘は少年に向かってそう、背中を向けて語ると両手に刀を持ち走り出した。

 大丈夫。そう言った艦娘はすぐに居なくなってしまった。だが、すぐに他の艦娘が少年を助けに来た。いつか本で見た気がする艦娘だ。

 

「君!大丈夫か、怪我はないか!?」

「う、うん……それより、あの艦娘って……」

 

 少年は走り去り、敵を文字通りバッタバッタと斬り捨てている茶色の髪の艦娘を指さした。

 艦娘はその姿を見ると、あぁ。と声を漏らした。

 

「彼女はな、英雄だよ。正真正銘の」

「英雄……」

 

 少年は艦娘の返した言葉に納得したように呟くと、艦娘に持ち上げられ、そのまま避難所へと運ばれた。

 英雄。自分も、そんな風に言われる艦娘と戦いたい。少年はそう、心の中で思った。

 茶色の髪の、青い眼をした英雄は、戦う。罪なき人を守るため、深海凄艦を殺すために。果たしてその英雄は一人なのか二人なのか。その真実は知る人ぞ知る。




 はい。これにて直死の眼を持つ優しき少女は完結です。見てくださった皆様、完結まで読んでいただきありがとうございました。
 特に説明するべき事等は無いかと思いますが、最後、電は死んだのか死んでないのか、という件に関しては皆さんの想像にお任せします。
 あと、雷の直死の魔眼復活は最初から考えていました。この先、彼女が殺人衝動に飲まれる可能性は……まぁ、無いとは言い切れませんね。
 それでは、短な後書きでしたが、ここまでありがとうございました。またどこかでお会いしましょう

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。