8月28日 サブタイトル変更
戦闘は熾烈を極めた。周りには砲弾の着弾音と血と肉が飛び散り、少し遠くからは艦娘の悲鳴や叫び声が響く。それは、雷の周りでも変わらない。
「くっ、数が違いすぎるわ!」
「流石に無茶あるぜオイ!!」
「後ろの仲間が退路は確保してるから、大破したらすぐに退却して!」
文字通り、彼女達は数の暴力に押しつぶされかけていた。
既にブイン基地連合艦隊の艦娘達は全員が大なり小なりの傷を負っていた。雷、暁、響、天龍、龍田、木曾、夕立が中破、龍驤、時雨が既に大破し退却。鈴谷、熊野、長門、陸奥は小破だが、大鳳は額から血を流し左手は半分炭化し、腹に穴が空いてもう大破寸前になっている。その瀬戸際で粘っているのは装甲空母故か。
そして、輪形陣の中心の艦娘達は全員が小破すらしておらず、全力を余すことなく出せる状況だった。
「……お姉様、これ以上は見てられません!私達も戦いましょう!!」
呉の艦娘、比叡が旗艦の金剛へと意見を放つ。彼女は、いや、彼女達は見ていた。自分達よりも弱い艦娘が盾となり、進軍している事を。龍驤の腕が千切れ飛び、時雨が全身に大火傷を負った瞬間を。夕立も、右腕が付け根から千切れかけ、天龍と龍田も足を引きずるように動いており、木曾も運悪く魚雷管に敵の攻撃が当たり、千切れかけ、今は深海凄艦の装甲を無理矢理括りつけて動かしている。
全員が満身創痍だ。これ以上は見ていられない。同じ戦場で戦う仲間として。
しかし、金剛は首を横に振る。
「彼女達は私達のビクトリーを信じて戦ってマス。ここは、彼女達を信じて、待つべきデース」
「で、でも!」
「比叡さん、金剛さんの言う通りです。ここで消耗してしまっては姫は倒せません。それは、先の作戦で分かった筈です」
同じく呉の艦隊の翔鶴が比叡に、金剛の言葉を代わるかのように口にする。それを聞いて比叡は口を噤む。
彼女も先の作戦で姫の一人と戦った戦艦だ。その強さは見に染みている。
「おいおい、呉の戦艦様が他人の心配事か?ご心配せずとも、オレ達はお前らを送り届けてやらぁ」
なんて言い返そうか。迷ってる中で天龍が比叡の隣に立っていた。
その姿は全身が血と返り血で汚れていない箇所が無いレベルだった。とても痛々しくて見ていられない。
だが、そんな彼女は刀を手に比叡の肩を叩いた。
「アンタ等は姫を倒す作戦会議でもしてろ。梅雨払いはオレ達の仕事だ。手ェ出したら斬り殺すからな」
「その通りですよ、比叡さん」
天龍の言葉に続き、大和が口を開いた。
大和は何も言わずに天龍を見ると、天龍はそうでなくちゃな。と言って再び前線へと戻って行った。
「私達の仕事は姫を倒す事です。それに、ここで彼女達を見離すのはお門違いです。頼もしい仲間も来たみたいですし」
「え?仲間?」
こんな時に援軍か?と思ったが、次の瞬間聞こえてきたのは航空機の音。まさか、龍驤が戻ってきたのか?と思い空を見たが、見えたのは見たことの無い艦載機。その艦載機は一斉に爆撃を行い、周囲の深海凄艦を吹き飛ばした。
その艦載機達は仕事を終えたのか後方へと戻っていく。
一体誰が。そう思い振り返ると、そこに居たのは見たことの無い艦娘だった。
白色の軍服に見を包んだ金髪の、明らかに日本人離れした容姿の艦娘。
「すまない、今しがた目が覚めたばかりでな。よく分からないが、私も援護させてもらおうか」
彼女の言葉に気がついたのか、雷が前線を離れて追いついてきた彼女の隣に立つ。
「えっと、貴女は?」
「自己紹介が遅れたな。私はグラーフツェッペリン。グラーフツェッペリン級航空母艦一番艦だ。中々クレイジーな事をしてるから、つい手を出してしまった」
グラーフツェッペリン。聞いたことの無い艦娘だ。もしかしたら、ドロップ艦か。
だが、戦力が増えるのは心強い。
「……戦える?」
「当然だ」
「じゃあ、私達の指揮下に入って。一応、私が旗艦。あそこの大和さんが総旗艦よ」
「なるほど、了解した。ならば、一暴れさせてもらおうか」
彼女、グラーフは右手の銃型の艤装から駆逐艦や軽巡の主砲並の砲弾を放ちながら艦載機の準備をする。
「行くぞ。攻撃隊、発艦始め!Vorwärts、蹴散らせ!!」
グラーフの飛行甲板から艦載機が飛び出す。その艦載機達を見た瞬間、近接戦闘していた艦娘は一斉に飛び退き、その瞬間に爆撃が入る。そして、その爆撃を耐え切った深海凄艦にはグラーフの連装砲がお見舞いされ、沈んでいく。
「援護ならこの通りだ、任せてくれ。私は後ろをついて行くことにする。ついでに、退路の確保もやらせてもらおうか」
「えぇ、助かるわ。大鳳さん、グラーフさんと協力して皆の援護に回って」
「分かったわ」
雷の指示によって後退してきた大鳳と入れ替わりで雷が再び前線へと上がる。
グラーフは絶え間なく艦載機を発艦させながら連装砲で敵を撃ち続けている。大鳳もクロスボウ型の艤装から艦載機を出し続けている。
「お前が大鳳、か。ボロボロじゃないか」
「この程度、傷の内に入らないわ」
「いや、流血して腹に穴が空いてる時点で重傷だと思うんだが」
「腕か足が千切れなきゃ軽症です」
「その考えはおかしい」
だが、ここまでボロボロになった艦娘に負ける訳には行かない。なるべく大鳳を庇うように動きながら艦載機と主砲で敵を攻撃していく。
しかし、どれほど高性能でもつい先程目覚めたばかりの艦娘。どれだけ過去に偉業を成し遂げてきたとしても、人の体で訓練してきた艦娘よりも強い訳がなく、徐々に被弾していく。
歯を食いしばり艦載機を発艦させ、連装砲を放っても徐々に被弾は増していく。数の暴力がここまで酷いものだったのか、とグラーフは歯を食いしばるも、それで結果は変わらない。だが、仲間は徐々に前へ前へと進んでいく。ならば、とグラーフは飛行甲板を構える。
「前衛部隊、離れろ!全航空隊発艦!絨毯爆撃で一気に正面の敵を吹き飛ばす!!」
「……なら私も、一枚噛ませてもらいます!!」
グラーフの飛行甲板から一斉に艦載機が発艦していき、大鳳のクロスボウからも艦載機が一瞬で展開される。それを見た前衛部隊が一瞬で後退。
その瞬間には深海凄艦が勢いを押し返そうと突っ込んでくるが、その前に艦爆が、艦攻がその深海凄艦達を吹き飛ばし、沈ませ、傷付け、一気に真正面へと飛んでいく。
絨毯爆撃のように爆炎が一直線に上がっていき、轟沈した深海凄艦も多ければ傷付いただけの深海凄艦も多い。
だが、その時大鳳の艦載機が落とされる。その寸前に来た情報には、島のようなものを発見した、という物だった。間違いない、そこに姫がいる。
「皆さん、あと少しで姫がいます!すぐにこちらも補給して第二陣をごふっ!?」
叫んだ大鳳の口から物凄い量の血が吐き出され、海面を真っ赤に染める。
「無茶をするな!すまない、私は大鳳を連れて下がる!」
それを見かねたグラーフが大鳳に肩を貸して雷へと叫ぶ。
「勝手な事を……まだ戦えます!」
「流石にこれ以上は見過ごせぎゃふん!?」
グラーフが無理矢理連れて行こうとするが大鳳は火事場の馬鹿力なのか耐える。グラーフがもう大鳳を持ち上げていこうかと思った所で顔面に砲弾が直撃。
あっ。と大鳳が声を漏らし、グラーフの方を見ればグラーフの顔面が若干黒くなり、プスプスと煙が上がる。その直後に顔面が真っ赤に染まる。
「……すまない、一緒に下がってくれないか。前が見えない」
「……え、えぇ」
ギャグ漫画のような光景に思わず大鳳が頷いてしまう。勿論、雷はそれを止めることなく、随伴艦に夕立をつけて二人を下がらせた。
そんな事があったが、それでもこれはチャンスだ。一気に押し込んで姫の所まで突っ込む。それを理解してか、前衛部隊が集結する。
「大鳳さんとグラーフさんが作ってくれた道よ!全力で駆け抜けるわよ!!」
『了解ッ!!』
「全艦、突撃!!」
手負いの深海凄艦など、彼女等の敵では無い。後ろからの長門、陸奥、鈴谷、熊野の砲撃が敵を吹き飛ばし、残った敵を雷達が切り捨て、それでも漏らした敵を暁とヴェールヌイが撃ち落としていく。
まさしく一騎当千を現すような進軍をし、やがて雷の眼の前から敵の群れが消える。その先に見えるのは一つの島。いや、離島。
ル級とヲ級がその島を守るように配置され、稀にしか確認されなかったタ級に加えて新種の、尻尾が生えているようなフードのような物を被った少女のような深海凄艦までいる。どこか、雷に似ている気がするのは気のせいだろうか。
そして、離島の中心には、いた。ゴスロリ服を纏った深海凄艦。いや、姫。
その気迫は並の深海凄艦とは一味も二味も違い、思わず体が硬直してしまう。
「……大和より司令部へ。姫を発見。これより姫を離島悽姫と呼称します」
『離島悽姫……了解しました。これより今作戦の駆逐目標である姫を離島悽姫と呼称します』
「はい。では、ここからは私達の出番です」
固まる雷達を押しやり、大和が、武蔵が、赤城が、加賀が、前へと出る。人類最強の戦艦と空母達が戦う。
「赤城さん、加賀さん、お願いします」
「はい、行きますよ、加賀さん!」
「赤城さんとならこの程度、鎧袖一触よ」
「行くわよ、飛龍!」
「えぇ、蒼龍!」
「翔鶴姉、五航戦の力、見せつけるわよ!」
「えぇ、瑞鶴。ここで離島悽姫は落とすわ!」
『第一次攻撃隊、発艦開始!!』
六人の弓から放たれた矢は空中で艦載機へと変化し、空を飛んでいく。それを見た離島悽姫は手を上げると、その艤装から球体の物体を発進させ、ヲ級も艦載機を発艦させる。
そして始まる空中戦。敵と味方の艦載機が互いに敵を落とし合い、制空権を取ったのは、艦娘達だった。
生き残った艦載機がル級やヲ級へと攻撃を行う。それを見て動いたのは、戦艦達だ。
「主砲用意!撃てェ!!」
「バーニング、ラァァァァァァブ!!」
大和、武蔵、金剛、比叡、霧島、榛名の主砲が火を吹き、空を飛ぶ。そして、ル級とヲ級数隻を爆破。そのまま轟沈させる。
「陸奥、私達も行くぞ。私達ならまだ戦える」
「えぇ、そうね。ドカンとやっちゃいましょうか」
そして、長門と陸奥も雷達の前に出て主砲を放つ。
まさしく日本の、人類の総戦力。これ以上の戦力を姫へとぶつけるのはほぼ不可能だろう。
手に汗握りながら、雷は呟いた。勝てる、と。数を減らすル級とヲ級を見ながら雷は勝利を確信していた。
不気味に笑う離島悽姫に気付くことなく。
え?台詞が少ないキャラがいる?そりゃあ、この作戦カット無しで書いてたら何万文字になるか分かりませんし……
続きは明日、大体七時くらい