直死の眼を持つ優しき少女   作:黄金馬鹿

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更新がかなり遅れました。これも全部レポートってやつのせいなんだ……


助ける。そう決めたから 前編

 状況は最悪だった。敵の艦載機は殆ど撃ち落とせず、魚雷と銃撃が始まった。最初こそは躱せていたが、徐々に周りを囲まれる形で展開され、ロクに避ける事も出来ず、艤装の装甲で防ぐだけの防衛戦が始まり、補給に戻ったかと思えばヲ級、リ級、ホ級、イ級が既に射程圏内まで迫ってきており、逃げながらの砲雷撃戦が始まり、艦載機までが出てきた結果、響がリ級の砲弾をマトモに受け、雷も銃撃で傷付き、響が中破、雷が小破になってしまった。

 勝てない。虎の子の魚雷は既に撃ちつくし、出来たのはイ級を落とすことだけだった。主砲もホ級とリ級には豆鉄砲同然。ヲ級に関してはかすり傷程度しかおわせれない。

 響が中破し、機動力が下がった結果、二人は逃げる事も出来ず、ただ死を待つだけだった。

 

「流石に、これは無理ゲー……」

「救援は……来ないわよね」

「まず間に合わないさ。私達が沈むのも……おっと。時間の問題だ」

「笑えないジョークだわ」

「笑えたらよかったよ」

 

 クソッタレな反吐の出る状況にもう舌打ちも出ない。

 響に死ぬことへの恐怖はない。彼女は電と雷の見たあの世界を見ていない。気が付いたら艦娘になっていたから。ちょっと長い眠りに就く程度にしか考えていない。

 だが、雷は違う。もう、あの世界を見たくはない。あんな世界で孤独に寝ることも何かをする事も許されない一生は送りたくない。

 だから、抗う。だが、抗う敵は強大で、敵わない。

 敵のヲ級から再び艦載機が発射され、空から機銃の乱射と魚雷が放たれ、逃げ道の一部が塞がれる。二人は迫る魚雷を主砲で打ち抜き、機銃を装甲で防ぎながら魚雷の間を通り抜ける。

 しかし、その瞬間、二人の目はヲ級を囲むリ級の砲門が火を噴くのが見えた。

 雷への砲弾はギリギリで逸れた。だが、響への砲弾は真っすぐ進んでくる。

 

「まずっ……」

 

 瞬間、炸裂。炎が巻き起こり、その中から響の体が吐き出される。

 その響を見た雷は叫ぶ前に血の気が引いた。響の右腕が、体から離れて少し遠くの海面に落ちたから。

 中破なんて優に超えて大破としか見えない重症。いや、いつ沈んでも可笑しくはない。急いで駆け寄ると、響は肩の先から無くなった腕の断面を抑えながら苦痛に満ちた表情を浮かべて悶えていた。しかも、腹には砲弾の破片が突き刺さる留まることなく血が海へと流れ出て、響の周辺の海が真っ赤に染まっていた。

 言うまでも無く戦闘不能。沈むのすら時間の問題。

 

「ひ、響……」

「に、逃げるんだ……暫く、なら囮になる……」

「駄目よ!そんなの……」

 

 全身を真っ赤に染めた響はもう、長くはもたない。頑丈な艦娘であろうと、血を大量に流せば大量出血で死ぬし、ショック死だって普通に有り得る。

 抱き起そうとしても、傷のない場所を探す方が大変で、迂闊に触る事が出来ない。だが、触らないと運ぶことが出来ない。

 慎重に抱き上げるが、触っただけで響は苦痛に満ちた喘ぎ声を漏らす。

 

「だ、ダメ、だ」

「絶対に、助ける!!」

 

 千切れた右腕は拾わない。バケツなら再生させることが出来る。まず、そのためには逃げなければならないのだが、それでも雷の頭には響を助けるという物しかない。

 後ろから聞こえる爆音と銃撃音を聞いて左右にジグザグに動けば、真横やすぐ後ろに弾丸が着弾する。しかもそれは段々と近くなってくる。

 響を抱き上げているのも災いして、機動力は下がる一方。

 やがて、ホ級の砲撃が飛来し、背中の艤装に直撃する。身を焼く炎と艤装が破壊された事による脳を焼く痛みに響を手放してしまう。

 二人して海面を転がり、立ち上がる事も出来ずにそのまま空を眺める。

 艤装は完全に破壊された訳ではないが、それでも機関が停止するには十分な損傷。もう動くことは出来ない。それどころか、時期に浮力も無くなって海の底へと沈んでいくだろう。

 体が段々冷えてきた。それは響も同じのようで、響の顔色はもう真っ青だった。

 

「もう、無理みたいだね」

「どうなっちゃうのかしらね」

「沈むんじゃないかな?あ、敵が近づいてきた」

「捕虜にするのかしらね」

「それなら敵の本拠地で自爆するまでだ」

 

 死は刻一刻と近づいてくる。だと言うのに、二人の思考はヤケにすっきりとしていた。いや、諦めたと言うべきか。もう、ここから生き残る術はない。

 撃たず、近づいてくる深海凄艦達。もう、ここから打つ手は、子供みたいに錨を振り回すだけだが、もうその力も残っていない。

 捕虜にされるのか、はたまた処刑されるのか。分かりはしないが、あの鎮守府にはもう戻れない。敵が意思のない、思考回路を持つだけの兵器でよかったと思う。これが人間やそれに近い物なら、慰み者にでもされていただろう。

 とうとう目の前に敵の旗艦であろうヲ級が来た。ここからどうする気なのか、もうどうにでもなれ。そう思い、瞼を下ろそうとしたとき、直上に何かが現れた。

 影が差し、陽の中をその影は滞空し、何かが落ちてくる。

 大の字に広がり、減速せずに落ちてくるそれをヲ級も確認し、杖を振って何かの指示を出すと、リ級とホ級が主砲を放つ。が、砲弾は爆発しない。

 こんな芸当が出来る兵器は聞いたことがないし、大の字に広がっていたそれは形がさっきまでとは違う。

 まさか。雷は期待する。この、落ちてくるものは。棒状の物を振りながら落ちてくるそれは。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 叫びながらそれは落ち、その手に持つそれを着水と同時にヲ級に振りぬく。

 波が生まれ、雷と響の体がさらわれる。波が収まった直後、今度は生暖かい、血とは違う何かを撒き散らしながらヲ級は沈んだ。

 銀色に光るソレを手に、鋼鉄の艤装を身に着け、腰には鞘を吊るすその少女。この状況を打破できる、ブイン基地唯一の近距離完全特化型艦娘。

 

「私の、私のお姉ちゃん達は、絶対に殺させない!!」

 

 銀色に光る刀を手に彼女は吼える。もう二度と、姉を殺させないために。

 

 

****

 

 

 吉報は舞い降りた。丁度提督が電達に響達の現状を伝えたとき、ずっと遅れていた大本営からの支給が届いた。それは、工作艦明石と給糧艦間宮の着任。そして、艦娘の輸送専用ヘリコプターの支給。

 まさに神がかったタイミングだった。故に、提督はすぐに出撃命令を出し、明石にはヘリのパイロットを頼み、間宮には艦隊帰投後の食事を作らせた。

 そして、出撃命令から僅か数分で電達は手動で艤装を装着、休暇中の暁も途中で合流し、ローターを回すヘリと合流した。コクピットにはピンクに近い赤色の髪の毛の艦娘、明石が乗っていた。彼女は電達に気が付くとコクピットからインカムを取り出し四人に投げ渡し、耳に着けるように促した。

 

『挨拶は後。司令官からすぐに発進するように命令を受けたからすぐに出せるようにしておいたわよ!』

「助かるのです」

 

 すぐに電達は背面のハッチから乗り込み、中にあった椅子に腰を下ろしてシートベルトを着ける。準備完了。それを明石に伝えると。すぐにハッチが閉められ、轟音と共に機体が揺れ始めた。

 機体にある窓から見ると、確かにヘリは上昇していた。だが、はしゃぐ余裕はない。間に合ってくれという一心があるのみだ。

 

『海域まで数分で着くわ。だから、先にパラシュートの準備をお願い』

 

 パラシュート。探してみると、吹雪型の主砲から砲塔を取ったような物が置いてあった。それを腕に着けると、自動で装着され、神経接続され、使い方が勝手に頭に流れ込んできた。

 普通なら腕に着けるパラシュートなんて、腕が外れても可笑しくはないのだが、艦娘なら可能だ。

 調子を確認していると、再び明石から通信が入る。

 

『それと、電ちゃん。大本営から貴女宛に武器が届いているわ。壁にかけてあるやつ』

 

 明石からの通信に周りを見渡すと、確かにそれはあった。

 長さは大体一メートル。それよりも少し短いが、それはまごうことなき刀。日本刀だ。シートベルトを外して壁にかけてあるそれを手に取り、抜けば、その銀色の刀身が姿を現す。

 美しく、そして妖しい。刀身に吸い込まれそうな程の魅力を感じる刀。

 

『銘は『迅雷』。正式名称は『電専用試作対深海凄艦刀『迅雷』』。まさに貴女だけの刀よ』

「……なんでこんなものを大本営は?」

『さぁ?けど、それは試作品だから一本だけ。気を付けて使うように、だってさ』

「……分かりました」

 

 近くにあったベルトをスカートの上から巻き、そこに刀を吊るす。最早艦娘としての砲撃能力も雷撃能力もないタダの時代遅れの侍になった感じがするが、そこは気にしない。

 ソワソワと落ち着かない暁と電を天龍と龍田が落ち着かせている間にヘリは戦闘海域へ到着した。が、勝敗はついたのか、響と雷は海面に力なく浮いているだけで、深海凄艦は二人に向かって近づいていた。

 

「明石さん!早く下して!」

『こんなところで!?狙い撃ちにされるわよ!?』

 

 今の地点は丁度二人の真上。深海凄艦の注意を完全にヘリに向けさせてから安全に電達を下すつもりだった明石だったが、明石の言葉を聞いた電は舌打ちして内部から扉を開けるための緊急ボタンを押してハッチを開ける。

 外から空気が入り込み、さらに中の空気が漏れる。引っ張りだされそうになるが、電は出口から距離を取る。

 

『ちょ!!?』

 

 コクピットに伝わる、ハッチの異常を感知して明石が声を上げるが、もう遅い。

 

「電、降下します!!」

 

 電は出口へ向かい、そのままジャンプしてヘリから飛び降りた。

 

『電ちゃん!!?』

「わり、オレ達も出るぜ」

「待ってよ電!!」

「とか言ってる間に暁ちゃんは行っちゃったわよ?」

『……頭痛くなってきた』

 

 コクピットで明石は頭を抱えた。まぁ、これも仕方のない事だろう。

 一方、電は高高度からのスカイダイビングの真っ最中だった。本能的に大の字の手足を開いて空気抵抗を受けて降下速度を落とす。

 このままだと間に合わない。電がそう判断した瞬間、ヲ級がこちらに気が付き、目が合ってしまった。

 これでパラシュートは使えなくなった。使えば狙い撃ちにされる。だが、どっちみち使うつもりはない。このまま強襲する。

 だが、それを見逃す深海凄艦ではない。すぐにリ級二隻とホ級二隻が主砲を向けて発射した。

 空中での体の使い方なんてしらない。だから、避けることは出来ない。が、刀を振るう事はできる。

 主砲が発射されると同時に電は空中で刀を抜刀。銀の刀身が太陽の光を反射する。妖しく光るその刀を砲弾と交差する瞬間に振るう。

 一刀。それだけで砲弾は斬りさかれ、爆発もせずに空へと昇っていく。さらに来る砲弾も、時に返す刀で、時に体を捻って無理矢理切り裂く。そして、砲弾の雨を抜けた。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 横に体を回転させ、落ちていくごとに徐々にスピードが増す。そして、回転しながら放たれた斬撃はヲ級に当たり、体を真っ二つに割いていく。

 そして、着水と同時に波と水柱が撃ちあがる。その間に電は血払いをしてから立ち上がる。

 全身に異常なし。戦える。守れる。まだ殺せる。

 

「私の……」

 

 水柱と波が引き、電の姿と真っ二つになったヲ級の姿が現れる。

 青い眼を妖しく煌かせ、電は姉二人を背に、その刃の切っ先を残り四隻の深海凄艦へと向ける。

 

「私のお姉ちゃん達は、絶対に殺させない!!」

 

 決意を胸に、電は立ちはだかる。その眼は、殺すためではなく。その殺人衝動は殺すためでなく。新たな力は殺すためではなく。

 全ては、守るために。己が肉親と仲間を守るために、振るう。

 銀色と青色の光が煌く。それは無垢なる殺意。守りたいという意思の表れ。

 唯識をすべて、戦闘用に、守るために、暗示だけで再構築し、刀を構える。何時の間にか頭痛は消えている。好都合だ。これで戦いに集中できる。

 体の唯識を、無垢なる部分を戦闘用に作り替え、今、舞う。守るために殺す、優しき殺人鬼が。




高高度から刀ぶん回してパラシュートも開かず水面に着水して無傷の電さん。そして電さんに刀を渡すという、鬼に金棒を体現させる大本営。あと、明石さんと間宮さんは以前書いた十六人には含まれません。この二人はバックアップ係なので

そして、完全に式さんに刀持たせた状態みたいな事やらかしている電さんですが、体が丈夫なだけで、刀装備の式さん(式バーじゃない)みたいに未来予知とかは出来ません。直死の魔眼の頭痛を暗示で無理矢理消して普段より少し機敏に動ける程度です。それでも、敵からしたらタダの悪夢だって事には変わりませんが

あと、最後に。響と雷が一方的にボコられるキツイ描写をしてしまいましたが……だが私は謝らない。あ、石とかボーキとか投げないでくださいお願いしますなんでもしますから

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