直死の眼を持つ優しき少女   作:黄金馬鹿

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今回も繋ぎの回です

本日は七時頃にもう一話更新しています。先にそちらをどうぞ


帰ってきて、そして 後編

 鎮守府近海の哨戒任務。既に深海棲艦から支配を取り戻し、安全になった海。民間人もこの近海には近々近寄ってもいいように公表されるだろう。だが、それでも警戒は怠れない。まだ海軍が支配する海域は艦娘が現れるまでに支配された海域と比べれば十分の一程度。気を抜けばあっという間に侵攻されてしまう。

 失くしたナイフの代わりに包丁を手に持った電と天龍、龍田の近接攻撃を得意とする艦娘三人が近海を哨戒している。暁は休暇、響、雷は最近、かなり消費してしまった物資を補充するため、補給地へと遠征に向かっている。

 艦娘がもう少しいれば、哨戒か遠征に人手を割けるのだが、無い物ねだりは出来ないため、このようになった。

 明日は響の休暇、明後日は雷の休暇だが、第六駆逐隊全員の休暇が終わるまではこの生活が続くだろう。今日の建造は失敗し、暁型の艤装のみ建造されてしまったため、そこら辺の資材消費も痛い。

 

「天龍さん、電探に反応は?」

「ねーな。龍田、そっちはどうだ?」

「問題ないわ〜」

 

 昨日は駆逐イ級が一隻いたらしいが、今日は何もいない。この海域を諦めたのかは分からないが、戦いにならないのが一番だ。

 電探にも異常はなく、敵の影も無し。電の直死の魔眼にも、新たな死の線は現れない。それは、最初に戦闘した場所に加え、二回目に戦闘した場所でも、だ。

 あの時は初めての実戦で殺人衝動が抑えられず、突っ込んで行った。迷惑かけたなぁ、と思うがそれは今も変わっていない。この間もすぐにイ級を仕留められなかったせいで雷は腕を砕かれたのだから。

 流石に姉妹が傷付く場面は心に来るものがある。不甲斐なさを改めて噛み締め、電は索敵を続ける。

 すると、遠くの方に一つだけ、奇妙な死の線が見えた。動いている。小さな物が。いや、飛んでいる。

 天龍と龍田は気が付いていない。当たり前だ。二人の電探は水上電探。対空電探ではない。

 

「天龍さん、龍田さん、あそこに飛んでいる物体があるのです!」

「なに!?」

 

 電の報告に天龍が声を荒らげ、望遠鏡を手に持って電の指差す方へと先を向ける。

 天龍の視界には、確かに空を飛ぶ深海棲艦の艦載機が見えた。それと同時に舌打ちする。

 

「偵察機か!」

「龍田さん、槍を借りるのです!」

「もう無いわよ?」

「え?」

 

 艦娘としての力を使えば、数百メートル、槍を投げる事なんて容易い。だからこそ、龍田から槍を借りようとしたが、龍田はニッコリとしたまま、槍が無いことを知らせる。

 何処に?落とした?そう思い当たりを見渡したが、龍田はあっち。と指をさした。

 まさか、と電が視界を偵察機の方へと向ければ、死の線がまさに今、消えた。

 

「槍投げ、得意なのよ〜」

「……はわわ」

 

 どうやら、肉眼でも点にしか見えない的を一瞬で投擲した槍で串刺しにしたらしい。これには電も、子供っぽいからと封印した口癖が再発。天龍も妹のまさかの行動に口が開いたまま閉じない。

 下手すると、今の鎮守府の中では、龍田が一番強いかもしれない。電と天龍が全く同じ事を考えていると、龍田は一人で今さっきの出来事を提督に報告した。

 

「提督が帰ってこいって言ってるわよ?」

「……了解なのです。これより第一艦隊、帰投します」

 

 だが、電は腐っても軍人。すぐに切り替えてから呆然としたままの天龍の手を引いて鎮守府への帰路についた。

 

 

****

 

 

 一方、響と雷の遠征はとても快調だった。既に安全の確保された海路のため、深海棲艦は出るはずもなく、初めてのゆったりとした航海に入っていた。

 二人しかいないため、縦に並ぶか横に並ぶかの二択位しか無いため、隊列もそこまで気にせず、目的地へ向かって進んでいくだけだ。

 今回行くのは海軍の手によって作られた人工島。その人工島では主に海底から取れる鉄鉱石を鉄材に加工しており、それを響と雷が所定の量受け取って持って帰る、というのが今回の遠征内容だ。

 鉄材は最近、修理のために使いすぎていたため、不足していた。それを何とかするための今回の遠征だ。発足からまだ日が経っていないのに何度も出撃した結果だが、作戦が成功している今、文句をいう必要はない。

 

「響、いい加減ボルシチ食べるのやめないと海水が中に入るわよ?」

「ここら辺は波が荒くないし大丈……」

 

 その時、前方から来た大きめの波が響と雷の身体を濡らす。それ即ち、響が手に持つボルシチに海水がたらふく混ざり、さらに殆どが海に攫われたという訳で。

 

「……野郎オブクラッシャー」

「主砲を海に向けるな!」

 

 海にキレたのか、砲門を海へと向ける響。流石にそれを雷は頭を叩いて止める。

 泣く泣く紙皿を艤装に収納した響は溜め息をつきながら航海に戻る。

 

「今日は厄日だ」

「この程度で厄日なら殆どの人が今日は厄日よ」

 

 響の呟きにツッコミを入れる雷。このフリーダムな姉はどうにかならないのかと溜め息が出る。

 だが、雷が溜め息をついた瞬間、二人の電探に感があった。数は六。思わずその方を見ると、何やら黒い物が飛んできている。そう、飛んできているのだ。

 

「……ほんと、今日は厄日だ」

「同感。逃げるわよ、響」

「当然」

 

 空母の艦載機だ。そう判別するのに時間はいらない。響は背中の艤装に直接取り付けられた主砲と対空機銃を展開し、雷も手の主砲と背中の艤装の対空機銃を展開する。

 勝てる訳がない戦い。故に逃げの一手しかない。その場でUターンし、響と雷の一歩間違えれば死の鬼ごっこが始まった。

 

 

****

 

 

 司令室へとやって来た電、天龍、龍田が扉の前で聞いたのは、焦りと怒りとが混ざり合った悲鳴に近い指示を出す提督の声だった。

 上手く聞き取れなかったが、逃げろ、頼むから逃げろ、という旨の声が聞こえたのを覚えている。こんな提督の声を聞いたのは一番古参の電ですら初めてだった。

 ノックし、帰投した旨を扉越しに伝えると、提督は落ち着いた声で入れ、と言った。

 

「電、天龍、龍田以下第一艦隊、帰投しました」

「ご苦労だった……」

「……司令官さん、何があったのです?明らかに異常でしたが……」

 

 目線を下に下げる提督に電が若干の威圧を込めて聞く。黙られて何かあったら洒落じゃすまないからだ。

 

「……遠征中の響と雷が途中で空母ヲ級、重巡リ級二隻、軽巡ホ級二隻、駆逐イ級……恐らく、他の海域の主力艦隊と遭遇、逃げる間もなく交戦に入った」

「なっ……!?」

「空母に重巡、軽巡だと!?そんなの、駆逐艦どころか軽巡艦ですら一瞬で落ちるぞ!?」

「……マズイわね」

 

 電が絶句し、何時もは笑顔を絶やさない龍田が真面目な顔で呟く。そして、理解する。

 あの偵察機は響と雷を確実に沈めるため、周りに敵が居ないのを確認するために飛ばしたのだろう。そして、撃破されたものの、その前に見つけたのは駆逐艦一隻と軽巡二隻。別に合流された所で力押しできると踏んだからこそ、戦闘に入ったのだと。

 

「現在、響が中破、雷が小破だ。逃げるのに徹しろとは指示したが……沈むまでは、そう時間は……」

「ッ!!」

 

 その瞬間、電が走りだした。が、それを天龍が手を取って止める。

 

「どこ行く気だ」

「離すのです」

「今から救援か?間に合うと思うのか?それに、今から行っても死ぬだけだ」

「間に合うか間に合わないか、死ぬか死なないかじゃなくて助けるだけなのです」

「沈んだヤツをどうやって……」

「そんな御託はいらない!!止めたいんならここで足の一本や二本斬ってみろ!!その代わり、私も全力で殺しに行く!!」

 

 天龍の手を振り切り、包丁を天龍へ向ける。電の眼は殺意と闘志を孕んでいる。言葉では止められない。

 

「オレだって助けてぇよ……それに、お前の気持ちだって分かるが……もう一人、出さなくていい犠牲は出したくねぇんだよ」

 

 天龍が刀を抜き、電へと突きつける。天龍とて、譲る気はない。息を荒らげ、獣のように殺意をばら撒く電を止める。簡単なことではないが、止めなければ電すら死んでしまう。

 直死の魔眼は相手に触れれなければ意味がない。艦載機で攻撃する空母とは相性が最悪だ。だから、電が死ぬのは目に見えている。

 一触即発の空気。提督が止めるために立ち上がった所で今度は龍田が動いた。それも一瞬で。

 天龍に突きつけた包丁を手刀で落とし、電が後退したところを距離を詰め、足を払い、側頭部を手刀で殴りぬく。

 

「あがっ!?」

「ごめんなさいね。どっちにしろ、司令官から指示は飛んだと思うから、先にやらせてもらったわ」

 

 顔から地面に叩きつけられた電は側頭部を殴られた事による軽い目眩のせいで立てない。

 そんな自分に苛つくのか、床を殴る電。このままだと、響と雷が死んでしまう。なのに、助けに行けない。力があるのに、助けに行けない。

 何が近接戦闘の訓練を受けた、だ。何が直死の魔眼だ。死に瀕する姉妹すら助けれないじゃないか。

 

「……すまない、電話だ」

 

 涙を流す電。そんな彼女に関係なく、司令室の電話が鳴り響く。提督は天龍に電に目隠しを着けさせるように指示してから電話に出る。

 目隠しを着けられ拘束され、電は自由を奪われる。前は手の届かない所で暁が死に、今度は手が届くはずの場所で響と雷が死ぬ。その事実が電の心に深い傷を付ける。

 

「……あぁ、そうか。じゃあ、工廠に……すまない、もう一度……なに!?それは本当か!?……あ、あぁ。すまない。こっちの話だ。後で伝えるから今は何も言わずにそれの準備を……頼んだ!」

 

 いきなり声を荒げた提督。そんな彼の事を電は何も感じていない。真っ暗に閉ざされた視界の中で何も考えずに流されるままにされようとしている。

 

「電、天龍、龍田。出撃準備だ」

「……え?」

 

 電話を切った提督の口から出た声は、先程までの行動の真逆を意味していた。

 

「おい、まさか……」

 

 電に情が移ったんじゃ無いだろうな、と天龍は言外に提督に問うが、彼は首を横に振った。

 

「輸送ヘリが来た。これより、休暇中の暁を含め、第一艦隊は今すぐ艤装を装着しヘリに乗り込んで出撃。響と雷が戦闘している海域へ直接降下して護衛に入れ」

 

 希望の光が、一筋。電へと差してきた。




時には仲間を見捨てることで得る利益、というのもあります。今回、電を独断で出した場合、雷と響の救出には間に合わず電一人で少ししか削れていない敵艦隊を相手する事になり、奥の手とも言える電が沈む可能性もありました。もし、駆逐軽巡のみなら提督も情が移って許可しましたが、空母がいる以上、敵が仲間を囮にして背後から神風でもさせたら電は防戦に移る必要があり、艦載機の攻撃に加え、敵艦からの一撃必殺級の砲撃と雷撃にもさらされる事になります。その場合、いつか捌ききれなくなり、沈むのは明白です。それ故に、提督と天龍、龍田は電を止めるという選択をしました。例え、天龍と龍田が共に行って雷と響を救出できたとしても、空母と重巡に五人全員が沈められる、という可能性の方が高いわけですから

ですが、今回は都合よくヘリが来ました。これにより、電を敵艦隊の目の前に投下できる可能性が出てくる訳です。空からの奇襲が成功し、ヲ級を沈めれたのなら、後は味方のアシストを受けつつ一隻ずつ確殺していけば、ハイリスクですが、敵を殲滅できる可能性が出てくる訳です。それに、ヘリの足なら雷と響の救出にも間に合う可能性があり、収納さえさせれば、確実に生還させられます

これがゲームなら、ワンパン大破でも撤退ボタンさえ押せば安全に生還出来たんですけどね……

次回は雷、響の救出作戦です。例え、間に合ったとしても距離を取られれば勝ち目はほぼゼロ。それは六人であっても変わりません。しかし、魔眼さえあれば、話は別です。一太刀浴びせることが出来れば……そんな、ギリギリの状況での戦いになります

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