直死の眼を持つ優しき少女   作:黄金馬鹿

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実は電も不憫枠。不憫というか不幸、なのかな?


初めての外出 後編

 自分で服を見て回れなかった事が若干不服だったが、それでも服を買えたのは嬉しい。今度は靴を買おうかと思ったが、また店員に全部選んでもらうというのも躊躇われるため、いつか姉妹の誰かと来れた時に行くことにし、今度は食事にしようとファミレスに向かう。

 ここ二日、昼食は全部無く、艤装から送られる栄養のみ。夕食は入渠で空腹ごと治され、その前の雷が魔眼を持っていた時は四人の雰囲気がかなり淀んでいたせいで電は一人、カロリーメイト等の栄養食を食べていた。最近の食生活酷いのですと呟き、電は初めてのファミレスに期待して見つけたファミレスに入った。

 が、ここでもまた災難が。目が見えない設定のせいで店員に席まで手を引いて案内してもらい、メニューどんな物が置いてあるのかも分からないので一から教えてもらい、とかなり迷惑をかけてしまった。それで適当に頼んだ物は一人では到底食べきれないパスタとピザ。残す訳にはいかず、最後は気合で全て胃の中に突っ込んで会計を済ませ、ファミレスを出た電は近くの公園のベンチで横になっていた。

 

「た、食べ過ぎたのです……」

 

 もう、サングラス掛けただけの歳頃の女の子な設定で来たら良かったと電は後悔した。流石に目が不自由な設定が付与されるだけでこんな事になるとは思わなかった。

 ワイワイと子供が遊具で遊ぶ音とボールを蹴る音が聞こえ、多少の気持ち悪さを紛らわすために閉じていた目を開ければ、子供たちがサッカーか何かをして遊んでいたり遊具にぶら下がったりして遊んでいる。

 目を開けたせいで襲ってきた頭痛の吐き気を収めるために目を閉じ、溜め息をつく。一人で来るんじゃなかったと。ついでに暁か雷を休暇にしなかった提督の評価を下げつつ、適当にブラブラしようと杖に手を伸ばす。が、杖が無い。何時もは気にするレベルでもない吐き気も今はこの満腹感と合わされば大変な事になるので本当に目が見えない人のようにベンチから離れないように杖を探す。

 すぐに杖は見つかったが、結構離れた場所にあった。そういえば、さっきボールがこっちまで飛んできてたな、と思い出せば、ついでに何かが吹っ飛ぶ音も聞こえたのを思い出した。

 あのクソガキ共……と電が心の中で口悪く罵り、立ち上がって目を閉じたまま歩き出す。

 

「あっ、危ない!」

「ぐへぅ!?」

 

 そして、頭にサッカーボールが当たった。倒れ行く体をどうにも出来ず、電は心の中で思った。

 こういう日って、厄日って言うんだっけと。

 

 

****

 

 

 結局、あの後サッカーボールのせいで軽く気絶し、もう部屋に帰ってやけ酒だとコンビニに酒を買いに行ったら年齢確認で確認出来るものもなく、かと言って電が二十歳以上に見える訳もなく。艦娘である事をバラせたら、艦娘には飲酒制限なんてないため買えるのだが、それは禁じられてるため酒は買えず。

 トホホと電は下を向きながら歩く。一人は結構寂しい物がある。と、言うか目が不自由という設定が全て悪い。この日ばかりは直死の魔眼がとても憎かった。

 

「あー……とっとと帰って提督にお酒をもらうのです……」

 

 司令室にある隠し扉の事を言ってやれば酒の一つや二つ出てくるだろうと電は服が入れてある袋を軽く振り回しながら杖をついて歩く。やはり暁か雷と来たほうが良かった。響と来たら何処に連れて行かれるか分からない。響の行動は自由に動かせる肉の体を持ってから予測不能回避不可能なフリーダムの域に突入している。艤装からボルシチを出すなんて誰が予想できようか。

 ただ、少しばかりこれから面白い事が起こりそうな気がする。

 車道側を歩いている電だが、真横をピッタリと、窓から中が見えないワンボックスカーがついてきているのだ。時折どこかへ走っていっているが、それでも真横をピッタリと。

 

「……もうちょっと芋っぽい感じにしたらよかったのです」

 

 どこかの国のエージェントとかではない。そうだったらもっと気づかれないようにやってくる。素人、と言うかアマチュアの尾行と言うよりも誘拐目的の尾行だろう。

 自分では可愛いとは思わないが、同年代、というか十三〜四歳の男子とすれ違うと大抵チラチラ見てきたのを覚えているため、それなりに人から見たルックスはいいのだとは思う。目が見えない美少女なんて誘拐して犯して放置するには格好の的だろう。特に行動に移してしまったロリコンには。

 面白い事にはしてやるが、厄日だと思っていると、周りに人影がなくなる。あ、これはと思った瞬間、横のワンボックスカーの扉が開き、手を掴まれ口を塞がれて車の中に連れ込まれる。

 

(手際はまぁまぁ。けど、非力なのです。まぁ、軍人と比べたらですけど)

「ん?何だコイツ。ヤケに大人しいな」

「ならいいじゃねぇか。おい、とっとと出せよ」

(こんなのタダの盛の付いた猿なのです)

 

 車はすぐに発車される。完全に誘拐、というかハイエースだ。後部座席は既に倒されており、人が一人か二人は寝れるようになっており、電はそこに両手を抑えられて押し付けられている。

 数分間黙っていると、後部座席の男二人は自分をどうやって犯してやろうか下衆な会話を始め、車は完全に人気のない場所へ向かっている。

 

「……警告しておきます。この手を離して私を降ろせば何もしないでやるのです」

「なんだ?やっと口開いたと思ったらヤケに反抗的じゃねぇか」

「目が見えねぇから俺達の事分かってねぇんじゃねぇの?」

「……忠告はしたのです。少女と思ってナメるなよゲス共」

 

 電は溜め息をついてから押し付けられている手を簡単に振り払って顔面に拳を叩き込む。

 

「ぐへっ!?」

 

 さらにその顔面を掴み頭突きを鼻っ面に叩き込んでから男を蹴り飛ばし、もう一人の男を杖で横殴りにする。

 艦娘は艤装が無ければただの少女でしかない。だが、電は軍に所属している身。艤装を着けたらという甘えが許される訳がない。大本営に居た頃に一年間ミッチリと鍛えた電はただのゴロツキなら簡単に倒せる程の白兵戦の能力はある。これも大本営の、艦娘が艤装を着けてない状態で他国に拉致られ無いために最低限の自衛をさせるという名目でやらされた訓練のおかげだ。今回は相手が油断していたから拘束なんて無いもののように行動できた。

 

「いっつつ……こ、このガキ!」

「軍人ナメるな、なのです」

 

 最初に蹴り飛ばした男が動く前に胸にエルボーを叩き込み、気絶させる。まずは一人

 

「おい、車止めろ!お前らも……」

「舌噛め」

 

 もう一人の男が喋っているうちに斜め下から蹴りを叩き込んで舌を噛ませる。さらにそこから踵でこめかみを蹴り、怯んだ所で体勢を変え顔面を窓に叩きつける。

 その一撃で窓が割れ、男の顔が窓の外に出る。ちょうどその辺りで車は完全に止まった。が、相手に行動を起こされる前に電はドアを開けて外に飛び出し、サングラスを投げ捨て、素早く髪型を何時ものに直す。

 ほんの数分で車は近くの山道まで来ており、時間も相まって人は確実に来ない。ハイエースして青姦するなら最高の場所だろう。

 気絶させた男二人とは別の、助手席と運転席にいた男二人が車から出てきて拳を構える。

 

「譲ちゃん……大人を怒らせるとどうなるかそのちっちゃな身体に叩き込んでやる」

「ふん。やれるものならやってみるのです。あと、お前達みたいな粗チンに犯されるほど私の身体は安くは無いのです」

「……どうやらこの譲ちゃんは人を怒らせるのが好きらしいな」

「その後になんとも言えない屈辱を味合わせるまでがセットなのです。で、早くかかって来ないのですか?」

「……おい、折角の上玉だ、あんま傷付けんなよ」

「分かってるっての」

 

 撮影でもする気なのかと電が呆れていると、男二人が同時に走ってくる。素人丸出しだ。

 電は一年間の訓練で培った物を思い出しながら体に染み付いた徒手空拳の構えを取る。半身を軽く前に、両拳を軽く握り右手を前に、足をベッタリと地に付けるのではなく軽く浮かせて。ステップを踏めるように構え、顔は避け腹へと振るわれるアッパー気味の拳を楽々と避ける。この程度、砲弾を斬るのと比べたら簡単すぎる。

 避けただけでは勿論終わらず、体の小ささを活かして懐に潜り込み、鳩尾に二発、左右と拳を叩き込み、バックステップで距離を取る。だが、それだけではやはり沈まない。

 幾ら電が鍛えようと、その外見はただの少女。そんな子供の拳なんてタカが知れている。体重が少ないから、思った以上のダメージを叩き出せない。そして、相手の攻撃で吹っ飛びやすい。だが、そんな電の攻撃でも鳩尾に当たれば怯む。そして、無力化するには人中へ攻撃を当て続ける、金的を潰す、頭を地面に叩きつける……大体この位だろう。

 だからこそ、電はもう一人の拳を避けて、

 

「EDにでもなれ、なのです!」

「おうっふっ!!?」

 

 体勢を低くして思いっきりアッパーを金的に叩き込んだ。

 

「うぇっ、ぐにってしたのですぐにって!!」

「ぐぅ……おぉ……」

 

 電は金的に叩き込んだ拳をばっちぃ物を触った時のように振りながら男の顔面を執着に蹴り続け気絶させる。敵には容赦しないのが電のスタイルだ。

 残り一人。未だに鳩尾に入った拳が効いているのか蹲っている。やれやれと溜め息をついてから顎にアッパーを叩き込んでひっくり返った所で胸を思いっきり踏んで気絶させた。

 

「ふぅ……呆気なかったのです」

 

 軽く成人している男四人を戦闘不能にした電は髪の毛を下してからサングラスを回収して男の懐からスマホを抜き取って電話を掛けた。

 電話をかけた先は鎮守府の指令室。数コールの後に提督は電話に出た。

 

『もしもし。こちらブイン鎮守府指令室です』

「あ、司令官さん?電なのです」

『電?どうしたんだ?』

「ハイエースされたのでハイエース犯全員ぶっ潰したので後始末お願いしたいのです」

『えっと……ハイエースって、誘拐って事か?』

「はい。まぁ、ガタイのいいだけのロリコン集団だったので簡単に潰せました。生かしてはいますので後始末お願いします」

『……分かった。こっちで何とかしておく。電は鎮守府に戻ってハイエース未遂について聞かせてくれ』

「了解なのです」

 

 電はスマホを投げ捨てて上を向いた。

 ここに来るまでの道なんて覚えていない。と、言うか見れていない。つまる所、電は迷子と言える。

 

「どうやって帰ろう、なのです……」

 

 面倒な事を引き起こした男の一人を蹴り飛ばしてから電は自分の荷物だけを持ってとっとと下山にかかった。鎮守府に辿り着いたのはこの三時間後だったりする。

 

 

****

 

 

 大本営。そこのとある会議室の一室では軍のお偉いさん方が一堂に会していた。それぞれの机の前には紙でできた資料。それを見ての緊急会議だったのだが、彼らは皆、顔色が優れていない。重苦しい雰囲気も漂っている。

 今回の会議内容は、新たに発見された深海凄艦に支配された海域についてだ。深海凄艦は艦娘が取り戻した海域以外は全て支配していると国民には報告してあるが、その実は、一部の海域は支配されず、しかし何時支配されても可笑しくないようになっている。

 そして、今回は新たに海域は支配され、深海凄艦の巣窟が新たに誕生した。

 

「しかし、この物量……艦娘でもどうにもできないぞ」

 

 人工衛星からの写真。そこには、海のほとんどが黒に塗りつぶされている画像だった。

 深海凄艦が八割、海が二割。それがその海域の画像だった。その数、約千。今確認されている艦娘の約十倍。それも、戦艦に空母も百隻以上が確認され、その中心には明らかにオンリーワンの姿形を取った深海凄艦、姫がいた。さらに、その随伴艦には姫とは違うが、鬼のような角がある事から鬼と呼ばれるようになった深海凄艦までいた。

 姫は単体でも驚異の戦闘能力を持ち、先の大規模作戦では旧日本海軍の誇った大和、武蔵に加え、金剛型四隻、一航戦、二航戦、五航戦の計十二隻による飽和攻撃すら平然と耐え切った化け物だ。そんな化け物が千の大軍をつれていずれ進行してくる。

 これを悪夢と言わずに何と言おうか。

 

「……降参を許さぬ相手がこんなに厄介とはな」

「どうする。戦っても負けは見えているぞ」

「……いや、姫を倒せば可能性はある」

 

 前回の大規模作戦も姫を倒した直後、他の深海凄艦は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。今回も同じなら、可能性はある。

 しかし、今回の姫が前回と同じ戦力をぶつけて倒せる保証はない。

 

「……あの駆逐艦の……電の『零式装備』を作らせる。そして、姫と一騎打ちをさせる。これしか方法はない」

「馬鹿な!電がそれで反旗を翻せばどうなるか、分かって言っているのか!!」

 

 一人の男の言葉に猛反対が飛ぶ。

 電は、彼らの知る電は決して今の電ではない。目につく生き物を全て殺しにかかり、その眼の力で殺戮の限りを尽くす、文字通りの狂人だった。そして、艦娘の中で唯一の『提督殺し』でもある。ブイン基地の提督には知らせていないが。

 史上最悪にして最低の艦娘。それが電だ。落着きを得てからは戦闘訓練もさせたが、それでも、電の事を信用なんて彼らにはできなかった。

 だが、それでも電の眼を最大限に生かすため、考えられた新艤装というのはあった。

 

「待て。彼のいう事は最もだ。電なら、姫を倒せるかもしれない。沈んだら沈んだで懸念が一つなくなるだけで、後でまた前回同様に大和達に戦わせればいい」

 

 一番階級の高いであろう男の声に全員が黙る。異論は、ない。

 それしかない。あの狂人をぶつけるしか、頼みの綱は残されいない。

 

「決まりだ。白露型駆逐艦の改二装備の研究ラインを一つ潰して電の改零式装備に回す。異論はないな」

 

 再びの沈黙。頷くしかない。それしか残っていないのだから。

 彼らの持つ資料には電の新たなる装備の計画案が載っていた。

 『D-000型特攻兵装、零式』。それを電の艤装に組み込んだ改造計画。『駆逐艦『電』改零式装備』の計画が。艦娘にはありえない、まさに電にしか扱えない装備の計画が。




ハイエースされてエロ同人的な展開にはなりません。ここの電さんはそんじょそこらのゴロツキ相手なら無双できるレベルの武術の腕はありますし、砲弾の死の線を切れるレベルの反射神経もありますし

そして少しだけ語られた電の過去と改造計画。改二ではなく改零。駆逐艦としての力を伸ばすのが改二なら改零は……?

あと、この新たな海域での戦いがこのssの最終話になります。そこではブイン基地に集まった十六人の艦娘に加えて他の鎮守府の艦娘の総力戦になります。十六人の艦娘に関してはすぐに集まるかと思います。それまでは予想していてくださいね

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