魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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正直に言うと、さぼってました。
申し訳ありません。


42話 強さ

 朝。

 

 六課に泊まった俺は、例のごとく朝の鍛錬をしていた。週末は基本ミッドチルダで、六課で寝泊まりしているのである。勿論何かあったときのために眠りは浅くしてるよ?

 

 場所は訓練場ではない。フォワード陣が朝練に使ってるからね。

 

 清々しい空気の中、素振りをする。

 

 黙々と続ける中、ふと、数週間前のことを考える。ヴィヴィオのことだ。

 

 あの後、キャロ達とヴィヴィオの面倒を見た結果、彼女になつかれた。少なくとも、顔を会わせたときに笑顔になってくれるくらいには。あの子超可愛いね。月村家といいハラオウン家といい、俺の子守りスキルが天元突破しそうである。

 

 もっとも、高町ほどではない。高町といるときは本当にベッタリだからな。

 

 そしてはやてからはヴィヴィオの事情について教えられた。こちらが中々深刻だったのである。

 

 ヴィヴィオは、プロジェクトFの技術によって造られた人造生命体だそうだ。しかも元になった遺伝子は何と古代ベルカ時代のもの。

 

 つまり、人造生命体であるヴィヴィオ自身の母親も、元の人物の母親も、存在しない。

 

「……世知辛いねぇ。なあ、高町?」

「わっ!?」

 

 ビクッと、俺の背後で驚く気配。振りむくと、にゃははと誤魔化すように笑う高町がいた。

 

「お、おはよう晃一君。……よく気付いたね」

「おはようございます。気配で何となくな」

 

 恭也さんに比べたら気配の消し方はまだまだだね。俺でも気付けたよ。まあ、消してるつもりもなかったんだろうけど。

 

 そうそう、高町といえば、彼女、ヴィヴィオの保護責任者になったんですよ。でもってテスタロッサがその後見人。簡単に言うと、二人がヴィヴィオの母親になったのだ。2つの違いはよく分からんけど、ヴィヴィオがママって呼んでたからまあ合ってるでしょう。

 

 ……母親が二人て。いやとやかく言うつもりはないけどさあ。……ユーノ、強く生きろよ。

 

「で、どうしたんだ?朝練もあったろうに」

「朝練ならさっき終わったよ。それでちょっと、晃一君にお願いがあって……」

 

 ほう、お願いとな?

 

「うん。ちょっと、訓練に付き合って欲しいんだ」

「えぇ……」

「うわ面倒そうな表情」

 

 だって面倒そうじゃありませんか。

 

 まあまあ話だけでも、と高町が話す。

 曰く、模擬戦の相手をして欲しいとのこと。普段は高町とヴィータがやっていて、暇があればシグナムも参加するとか。テスタロッサは基本忙しいので中々時間が合わず、参加できないそうだ。

 

 ただ新人達には色んな経験をさせたいというのが教導官としての心情。そんなわけで、俺に手伝ってもらいたいらしい。

 

「みんなメキメキ力をつけてきてるし、良い経験になると思うよ?」

「良い経験というか、普通に負けそうでやだ」

「えぇ……」

 

 うわ面倒そうな表情。というか面倒臭い人を見る表情。

 

「まあ模擬戦なら単純だし、ぶっちゃけ最近暇だしいいけど」

「ほんとにぶっちゃけたね。給料泥棒はダメだよ?」

「余計なお世話だ」

 

 しょうがないので了承する。

 

 じゃあ、そろそろ切り上げて朝御飯を食べに行きましょうか。

 

 

 

 

 

 

 約束通り、訓練の手伝いをしに来た。訓練場にはフォワード陣。高町、ヴィータもいる。

 

「というわけで、今回の模擬戦の相手は晃一君です!」

「お手柔らかにね~」

 

 高町はどうやら俺が相手をすることは秘密にしていたらしい。フォワード陣が驚いてる。

 

「晃一さんと、ですか……」

「頑張って勝とうね、ティア!」

 

 スバルが瞳を燃やしているが、ティアナは苦い表情だ。多分、俺とシグナムの戦闘を見たときのことを思い出しているんだろう。八門遁甲は使わないから、そんな心配せんでもいいと思うけど。

 

 ライトニング隊の二人は驚いたくらいだ。いや、キャロは中々にやる気を漲らせている。成長を見せたいのかな? ほほえましい。

 

「晃一君は本気で勝ちにいってね!全力全開で!」

「りょーかい」

 

 全力全開はあなたの専売特許だとは思うんですけど。そういうなら勝ちに行きますよ、ガチで。

 

 模擬戦の相手は俺一人だ。つまり1対4。戦闘フィールドはビル街で、俺は空中に飛んでる状態からスタートである。

 

「ジェイド、準備はいいな?」

『イエス、マスター』

 

 フォワード陣を見下ろし、構える。

 

「それじゃあ、スタート!」

 

 高町の掛け声で模擬戦が始まる。

 

「スバル! エリオ! 打ち合わせ通り――」

 

 

 

「 死 ぬ が よ い 」

 

『――「紅色の幻想郷」』

 

 

 

 空間が、ルナティックな「紅」で埋め尽くされた。

 

 

 

 弾幕が止み、視界がクリアになると、そこには目を回して倒れている4人の姿が。

 

 右手を掲げて、Ⅴサインをして叫ぶ。

 

「勝オオオォォォォ利!!」

「阿保かァ!!」

「あべしっ」

 

 ヴィータにグラーフアイゼンで殴られた。

 

「何すんだよヴィータ。痛いじゃないか」

「思ったより平気そうで腹立つなおい! じゃなくて、開幕ぶっぱしてんじゃねえよ! 模擬戦だぞ!?」

「だって全力全開で行けって高町が言うから……。それにテスタロッサと模擬戦やるときは大抵開幕ぶっぱだぞ?」

「マジかよ……」

 

 マジマジ。高速機動で防御力の低いテスタロッサ相手だと弾幕はかなり効果的だからね。勝ちたいときは大抵使う。

 

 今のはレミリアたんのスペルカードを再現したものである。威力は控えめ、八門は開いてなかったからね。ただしその分、量は申し分なく、難易度ルナティックである。ひたすら物量で押した感じだ。4人もれなくもみくちゃにしてやってぜ。

 

 いやぁ、魔力ほとんど使い切ったわ。実は飛んでるのがやっとだったり。八門遁甲抜きでスペルカードを使おうってんだからしょうがないことだけど。

 

「まったくもう……」

 

 ヴィータに遅れて高町も飛んできた。

 

「どういうことか、説明してよ?」

「どうもこうも、勝ちに行っただけよ?」

「へえ……」

 

 あ、やべえ。これはちょっと怒ってる。なんか目が据わってきた気が。

 

「まあ冗談は置いていて。こういうの経験しとくのも大事だとは思うぞ? 実戦じゃあ何あるかはわからないってのはその通りだと思うし。予想外の事態ってのは絶対に訪れる。そういう時、こういう理不尽なのを経験してりゃ、呆けて動けなくなるのも無くせるだろうからな」

 

 とってつけたように話してはいるが、正真正銘本音だ。実戦で硬直しちまうってのはかなり危険だからな。こういうのに「慣れる」ってのは必要なことだと思う。

 

 ちなみにだが、硬直時間はランスターが一番短かった。ある程度は予測してたんだろう。守りきれてはいなかったが。一人で防ぎきれるほどじゃあないが、それでも3、4人がかりでプロテクション張ってれば防げてた。

 

 一度八門遁甲を見ただけのランスターでも効果は出てる。てんで的外れって訳じゃあないだろう。

 

「……成程ね。……確かに、その通りかも」

 

 高町も納得してくれたようだ。高町の所属する教導隊は打ちのめすのが基本らしいし、納得はしてくれると思ってたよ。

 

「じゃあ私も今度、スターライトブレイカーを経験させようかな。私の一番の大技といったらあれだし」

「お前それは」

「やめてさしあげろ」

「ええ!?」

 

 ヴィータと2人で高町を止める。お前は教え子にトラウマを刻み込むおつもりか。威力控えめの俺の弾幕とは訳が違うぞ。

 

 以前一度だけあれ経験したけど、やばいねあれ。こう、視界がピンク一面になって、気が付いたら医務室だよ? 軽く星をぶっ壊せるってあれ。

 

 納得のいってない不満顔の高町は置いといて、ヴィータがこちらを向く。

 

「高町は置いといて、今度やる時はもうちょい戦えよ?」

「今度あんのかね」

「なきゃ呼んだ意味が無くなっちまうだろうが」

 

 ため息をつくヴィータ。もっと違う戦闘を予想してたのだろう。それはまたの機会に、ということか。

 

 まあ気分転換になったし、たまにならいいかな?

 

 

 

 

 

 

「――なんてことがあったのさ」

「なるほどなぁ」

 

 部隊長室にて、はやてに模擬戦のことを語る。ツヴァイは俺の肩に乗ってビスケットを頬張り、グリフィスははやての後ろに控えていた。

 

「なのはちゃんのスターライトブレイカー体験、フェイトちゃんがおったら必死になって止めてたろうなぁ」

「違いない」

 

 はやての話に笑いながら頷く。昔アレを喰らったせいで、テスタロッサはピンク色が少し苦手らしい。

 

「フォワード陣を瞬殺かあ……自慢の子達やったのに」

 

 はやてがジトッとこちらを睨んできた。実際問題、あれ防がれてたら負けてたけどね。魔力なくてフラッフラだったから。

 

「だからやろかね。六課最強候補に、晃一君も上がってたで?」

「んな馬鹿な」

「本当本当。なあグリフィス君」

「はい。挙げたのはティアナのようですね」

 

 はやてに振られて、グリフィスが答えた。

またランスターか。あいつは俺を過大評価しすぎなんだよなあ。

 

「だいたいなんだその六課最強って」

「言葉通りやね。だれが六課で一番強いかーって、フォワードとメカニック陣が盛り上がってたで」

 

 私のところにもティアナが来たんよ、とはやてが話す。

楽しそうで何よりです。

 

「で、なんて答えたんだ?」

「私は弱いよーって。フルバックやしな」

「歩くロストロギアが何言ってやがる」

 

 魔力量は高町すら凌ぐ夜天の主様じゃないですか。

 

「ツヴァイもいるしなー」

「はいです!」

 

 耳元で元気な返事が帰ってくる。はは、愛い奴め。

 

「晃一君だって、聞かれてたら弱いよーって答えてたんやろ?」

「事実弱いだろ。隊長陣との模擬戦は余裕で負け越してる」

「うちのシグナムのこと吹っ飛ばしといて何言うとんねん」

 

 同じようにはやてに返された。グリフィスが目を見開いて驚いてる。やっぱり俺が隊長陣に勝てるってイメージは無いんだろうね。いや、どちらかというと隊長陣が負けるイメージが無いのか。

 

 それにシグナムの件というか、八門遁甲は例外だろ。『死門』まで開けば、多分八神一家まとめて相手にしても勝てると思うけど、反動が大きすぎる。

 

 そんなことを考えてると、はやてがパンと手を叩いた。

 

「あ、それじゃ晃一君。『自分より強い相手に勝つためには、相手よりも強くなければならない』ってどういうことでしょう」

「『勝てるとこに勝負どころを持ってくる』ってことだろ」

「即答かい」

 

 俺の即答を受け、少しだけ残念そうにはやてが言った。答え知ってたからね。ヒル魔がそう言ってたもん。あれ言ったのヒル魔だったっけ?よく覚えてないや。

 

 カードの弱さをカードの切り方でカバーする。はやての質問の答えにはなってるだろう。

 

「でなに?その言葉遊び」

「なのはちゃんとフェイトちゃんが昔教えられた言葉なんやって。なのはちゃんがフォワード陣に言ってたんや」

「へえ……先生してんだね、高町」

「ずっと教導のこと考えてるですよ」

 

 仕事熱心だこと。

 

「それにしても、晃一君がフォワード陣の相手をしたんやね。珍しい」

「最近は暇だったしな」

 

 デバイスルームでデバイスいじんのにも飽きてきたというか、やること無くなってたからね。

 

 それに、とコーヒーを一口飲んだ後、話す。

 

「来月、でかい仕事があんだろ?そんくらいは手伝うさ」

「……晃一君」

 

 地上本部公開意見陳述会。来月のビッグイベントだ。詳しいことはよく分からんけど、管理局のお偉いさん達が地上本部に集まるらしい。

 

 六課もこれには関わっている。はやては部隊長として参加するし、フォワード陣はこれらの警護の仕事があるのだ。

 

 はやてによると、この時のために六課が設立されたと言っても過言ではないらしい。なんでも、カリムさんのレアスキルで大規模テロが予測されたとか。それが起こるタイミングとして、陳述会が有力なのだとか。

 

 管理局員じゃない俺はこれには関われない。関わるつもりもないけど。ただ念のための戦力として、六課には待機する予定だ。もとよりはやてはそのつもりで俺を雇ったそうだ。

 

「だけどまあ、付き合い長いしな。少し手を貸そうってくらいは、俺だって思うさ」

「ありがとうです、お父さん!」

「はいはい、どういたしまして」

 

 ツヴァイを撫でる。

 

「……なんや、晃一君には世話になってばっかりやなあ」

「……こんだけ付き合い長いのに、今更だろ」

 

 自然と目が合い、笑う。いつかもあったやり取りだ。

 

 

 

 大丈夫。お前らなら、どうせ大丈夫だよ。

 

 

 




フェイトとの模擬戦に使われるスペルカード筆頭が勇儀姐さんの「三歩必殺」です。初見殺しの極み。

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