最近年のせいか涙腺が緩くて困ってます。
季節はもう初夏。気温は暖かいというよりも暑いという感じになってきた。セミはまだ鳴いてないが、もうすぐやかましくなることだろう。
暑くなってくると、クーラーの効いてる場所にたまるもんだよな、などとどうでもいいことを考える。
「となると定番は図書館だと思うんだよね」
「それでここに来るのはおかしいんじゃないかな」
あきれながらも言葉を返してくるのはユーノ。ここ、無限書庫の司書長である。偉くなったもんだ。
「だってここ涼しいやん」
「外よりはね。でも快適ではないと思うよ」
それはそうか。なんせ、地図の無い無限の空間だ。遭難者も出るらしいしね。ここを使えるようにするとはユーノ、やはり天才か……。
「それで、何の用だっけ?」
「ああ、デバイスの資料返しにきたよ」
何のデバイスかというと六課のフォワード陣の、だ。中々普通のデバイスにはない機能が多かったからね。ここから資料を借りていたのだ。地球には無いから必然的にここで借りることになる。他にもグリーヴァとジェイドの細かい調整のためのものもいくらか借りていた。
バッグから本を取り出す。どの本も専門書だけあって分厚く、重い。バッグが一気に軽くなった。
「データだけデバイスに入れて持っていっても良かったのに」
「本に関しては俺はアナログ派なんだよ」
そっちの方が雰囲気出るからね。
資料を渡す。ユーノは確認を済ませると魔法で元の場所へと返していく。流石、司書長だけあって仕事がスムーズだ。
「それで、晃一はこれから六課かい?」
「ああ」
「そっか、じゃあもう週末なんだね」
時間が経つのが早いなあ、などと呟くユーノ。お前はじいさんか。いや、ここに籠ってて曜日の感覚が麻痺ってんのか。
といっても休みはしっかり取っているらしい。最近は人員も増え、余裕も昔よりはあるとのこと。つまり、たまたま今忙しいのか。
「なんだ、急ぎの仕事でも入ったか?」
「急ぎって訳じゃないけど…………六課関係だよ」
晃一も知ってるでしょ?と言われるが首を横に振る。俺は六課の仕事にはノータッチだからね。今週は忙しかったのかはやてからの通信も無かったし。
六課について俺が知ってるのといえば、レリックを集めてるよーって程度だ。あとは無人機、ガジェットもレリックを狙ってて、そこと争ってることだな。
そう言うとユーノは相変わらずだね、と苦笑した。それに対して変わらないのが俺のみりき、何て返してみる。実際は多少変わってるだろうけどね。
「でも、知っといた方がいいんじゃない?」
ユーノが言う。曰く、敵対勢力に関してらしい。敵の情報か。それなら、聞いておこうかね。
「この前、六課のフォワード陣がレリックを狙う勢力と戦ったんだ。その相手、ガジェットじゃなくて、戦闘機人だったんだって」
戦闘鬼神?何それ強そ……何かこの流れにテジャビュが。
「…………ああ、戦闘機人か」
「あれ、知ってた?」
「一般常識程度ならな。あれだろ?クローニング技術使ったサイボーグ的な。確か、プロジェクトFだっけ」
思い出すのは変態科学者のスカさん。戦闘機人技術の生みの親とか言ってたけど、実際どうなんだろうね。天才っぽくはあったけど、天災っぽくもあったし。
俺が戦闘機人について知っていたことにユーノが意外そうな顔になった。
「プロジェクトFのことまで……よく知ってたね」
「まあ、たまたまな」
戦ったこともあるんだけどね。言わない方がいい気がするのは何ででしょうか。
とにかく、ユーノが今調べてるのは戦闘機人について。どうやら以前、ホテル・アグスタで回収した密輸品も戦闘機人関係だったらしい。そういえばそんなことをアコースと話してたような。
「まあ、晃一も知ってる見たいだし、大丈夫かな………あ」
思い出した、というようにユーノが手を叩いた。どうした?
「そういえば、その時に子供も一人、保護したんだって」
○
空腹を感じる。思ったよりも長居してしまったらしい。適当な店で昼食を済ませてからのんびりと六課にやって来ると、時計はもう3時過ぎを指していた。
取り敢えず一服するかな――煙草吸わないけど――と思いながら休憩室へと足を向ける。
「あ、晃一君!」
「ん、はやてじゃないか。それにテスタロッサも」
「こんにちは、晃一」
はやてとテスタロッサだった。どうやら彼女達も休憩室に行くところのようだ。
横に並んで歩く。こうすると身長差が目立つ。高い順に俺、テスタロッサ、はやてである。俺が180センチ近くで、テスタロッサが女性にしては高身長なのもあり、はやてがなお小さく見える。あと結局、俺の身長は180センチに届かなかった。かなしみ。
「……?」
休憩室の前まで来たところで、異変に気付いた。なんだか騒がしい。これは……泣き声?
休憩室の自動扉が開く。そこにはフォワードの新人達と、金髪の幼女に泣きつかれている高町の姿が。
高町と目が合う。
「……隠し子?」
「違うよ!?」
「相手はユーノか、わんちゃんテスタロッサか」
「「違うよ!!?」」
「いやあああああ!!!」
はやての説明によると、この子が先日保護した子供らしい。六課で面倒を見ることになり、病院から高町が連れて来たそうだ。その時に懐かれたのこと。
金髪の幼女は高町に抱き着いて離れようとしない。どうしたらいいのか分からないようだ。新人達も子供の扱いには慣れていないのか、おろおろと様子を見るばかりである。まあこの子たち自身子供だものね。
「エースオブエースにも対処できないこと、あるんやなあ」
『ちょ、ちょっと、たすけて~』
念話で高町が助けを求めてきた。狼狽える彼女を見かねたのか、テスタロッサが幼女の方へと歩み寄った。
「こんにちは。あなたのお名前は?」
「ひぐっ……、ぅ……?」
床に落ちていたウサギのぬいぐるみを手に取り、幼女の気を引くテスタロッサ。手慣れている。うまく幼女の興味を引けたようだ。そういえば、テスタロッサはエリオとキャロの保護者だったな。経験が豊富なのだろう。
テスタロッサとの会話を聞くに、幼女の名前はヴィヴィオというらしい。高町が困ってしまうという説得をうけて、次第におとなしくなっていく。相当高町が気に入ったんだね。
やがて、高町からその手が離された。その様子を見ていると、ちょんちょんと誰かに触れられる感触が。はやてだ。
『晃一君、面倒見てくれへん?』
『はあ?なんで俺が』
『私、これから聖王教会に行かなあかんのや、なのはちゃんとフェイトちゃんと。年の近そうなエリオとキャロに見てもらうつもりやけど、晃一君がいると安心できるし。……な? お願い!』
『…………貸しだからな、高町』
『え私!?』
当たり前だろう。
ヴィヴィオに近づく。
「ちょっといいかいお嬢さん」
「……?」
ヴィヴィオが怪訝な顔をしてこちらを見てきた。
――これは。
改めて顔を見て分かった。この子、オッドアイだ。右目が翡翠で、左目が真紅。左目だけ俺とおそろいである。それに――いや、どうでもいいか。
警戒している様子のヴィヴィオに視線を合わせるため腰を下ろす。
「ほ~らヴィヴィオ、ちょいと注目」
そういって、ヴィヴィオの目の前で青い球を生み出す。魔力球である。大きさは手の平にすっぽり収まるサイズ。
「?」
「これをこうして」
両手で魔力球を包み込み、隠す。そうした後、手を開いて見せると……。
「……わぁ!」
ヴィヴィオの目が見開かれた。魔力球の色が黄色へと変わっていたのだ。
「……なにしたんですか?」
『俺のレアスキルみたいなもんだよ。戦闘で役立つことはほとんどないけど』
ランスターの呟きに念話で答える。
通常、魔力光というのは個人で決まっていて、変えられるものではないらしい。だが俺はある程度はこれを変えることができるのである。ロッテリアに指摘されて気づいた。二次元の技を再現するのに重宝している。
ただ、自由自在ではない。変えれる色には制限がある。変えれなくて悔しい色筆頭が黒だ。月牙天衝と叫びたかった。
「ほ~れほれほれ」
「すごい!すごい!」
テスタロッサから受け取った人形を操り、魔力球でジャグリングをする。時折、赤、緑、紫と魔力球の色を変えるのも忘れない。球も魔法で操ってるだけだが、まあ大事なのは見栄えだ。
ウサギのぬいぐるみのジャグリングにヴィヴィオは顔を輝かせる。喜んでいただけたようで何より。
「晃一さんも、子供の扱い上手ですね」
「……なんか、すごく意外」
『おいおい、一か月弱とはいえ、キャロの面倒だって見てたんだぞ?』
「……うぅ」
昔を思い出したのか、恥ずかしがって顔を赤くするキャロ。
「……ほら、さっさと行ってきな」
ヴィヴィオの機嫌がいいうちに。
「ありがとうな、晃一君」
「ヴィヴィオのこと、お願いね」
そうして、はやて達は休憩室を出ていった。
「ヴィヴィオ、飴ちゃん食べる?」
「食べる!」
「飴ちゃん常備ですか……」
何とも言えない視線を送ってくるランスター。俺じゃなくて隣見ろよ。飴ちゃん見てナカジマがよだれ垂らしてるよ?
○
聖王教会。永く続いた古代ベルカの戦乱を終結へ導いた人物、聖王を祀っている教会である。
そこに仕える騎士であるカリム・グラシア。はやて達は彼女の元へと来ていた。クロノ・ハラオウンとシスターのシャッハ・ヌエラも同席している。
「……それで、話は六課の本当の設立理由、でしたね」
お互い自己紹介を含めた挨拶を済ませた後、カリムが切り出す。そしてクロノが話し始めた。
「まずは表向きの理由。これはレリックの対策と独立性の高い少数部隊の試験運用だ。後見人は僕と騎士カリム、そして僕の上官でもあるリンディ・ハラオウン。言わずもがな、僕とフェイトの母さんだね」
「ですが裏では、かの3提督も設立を認め、協力を約束してくださっているんです」
レオーネ・フィルス、ラルゴ・キール、ミゼット・クローベル。時空管理局黎明期の功労者として伝説視さえされてる3人である。ヴィータは普通の老人会などと言っているが、正真正銘、管理局の重鎮だ。
思わぬ大物が背景にいることを知り、なのはとフェイトの目が見開かれる。
「その理由は……私の能力、
レアスキルについて説明される。彼女のレアスキルは、半年から数年先の未来を預言書として生み出すというものだ。預言の中身は古代ベルカ語の詩文形式であり、解釈によって意味が異なってしまうため、本人曰くよく当たる占い程度とのこと。しかし、大規模事件に関しては的中率が高く、信頼度は高い。
「……そして、現在解読を進めている預言がこれです」
カリムが預言を読み上げる。
旧い結晶と無限の欲望が交わる地
死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る
死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち
それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる
「……これは」
「……まさか」
――管理局地上本部の壊滅と、管理局システムの崩壊
「気を付けてください。今回の予言は、少し、変なんです」
神妙な面持ちで、カリムが言う。
「もとの古代ベルカ語の文章。これの文法が滅茶苦茶というか、支離滅裂というか……解釈以前に、解読が正しいのかも、正直自信がないんです。ただはっきりと分かるのは、何か大きな事件が起きようとしていること。そして……」
「それは管理局の、次元世界の危機であるということ」
ヴィヴィオとご対面。なお主人公、地球の子供たちのために飴ちゃんを常備してます。
預言はそのままになりました。ただぶれっぶれです。