魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

44 / 53
遅れました。
最近年のせいか涙腺が緩くて困ってます。


41話 オッドアイ

 季節はもう初夏。気温は暖かいというよりも暑いという感じになってきた。セミはまだ鳴いてないが、もうすぐやかましくなることだろう。

 

 暑くなってくると、クーラーの効いてる場所にたまるもんだよな、などとどうでもいいことを考える。

 

「となると定番は図書館だと思うんだよね」

「それでここに来るのはおかしいんじゃないかな」

 

 あきれながらも言葉を返してくるのはユーノ。ここ、無限書庫の司書長である。偉くなったもんだ。

 

「だってここ涼しいやん」

「外よりはね。でも快適ではないと思うよ」

 

 それはそうか。なんせ、地図の無い無限の空間だ。遭難者も出るらしいしね。ここを使えるようにするとはユーノ、やはり天才か……。

 

「それで、何の用だっけ?」

「ああ、デバイスの資料返しにきたよ」

 

 何のデバイスかというと六課のフォワード陣の、だ。中々普通のデバイスにはない機能が多かったからね。ここから資料を借りていたのだ。地球には無いから必然的にここで借りることになる。他にもグリーヴァとジェイドの細かい調整のためのものもいくらか借りていた。

 

 バッグから本を取り出す。どの本も専門書だけあって分厚く、重い。バッグが一気に軽くなった。

 

「データだけデバイスに入れて持っていっても良かったのに」

「本に関しては俺はアナログ派なんだよ」

 

 そっちの方が雰囲気出るからね。

 

 資料を渡す。ユーノは確認を済ませると魔法で元の場所へと返していく。流石、司書長だけあって仕事がスムーズだ。

 

「それで、晃一はこれから六課かい?」

「ああ」

「そっか、じゃあもう週末なんだね」

 

 時間が経つのが早いなあ、などと呟くユーノ。お前はじいさんか。いや、ここに籠ってて曜日の感覚が麻痺ってんのか。

 

 といっても休みはしっかり取っているらしい。最近は人員も増え、余裕も昔よりはあるとのこと。つまり、たまたま今忙しいのか。

 

「なんだ、急ぎの仕事でも入ったか?」

「急ぎって訳じゃないけど…………六課関係だよ」

 

 晃一も知ってるでしょ?と言われるが首を横に振る。俺は六課の仕事にはノータッチだからね。今週は忙しかったのかはやてからの通信も無かったし。

 

 六課について俺が知ってるのといえば、レリックを集めてるよーって程度だ。あとは無人機、ガジェットもレリックを狙ってて、そこと争ってることだな。

 

 そう言うとユーノは相変わらずだね、と苦笑した。それに対して変わらないのが俺のみりき、何て返してみる。実際は多少変わってるだろうけどね。

 

「でも、知っといた方がいいんじゃない?」

 

 ユーノが言う。曰く、敵対勢力に関してらしい。敵の情報か。それなら、聞いておこうかね。

 

「この前、六課のフォワード陣がレリックを狙う勢力と戦ったんだ。その相手、ガジェットじゃなくて、戦闘機人だったんだって」

 

 戦闘鬼神?何それ強そ……何かこの流れにテジャビュが。

 

「…………ああ、戦闘機人か」

「あれ、知ってた?」

「一般常識程度ならな。あれだろ?クローニング技術使ったサイボーグ的な。確か、プロジェクトFだっけ」

 

 思い出すのは変態科学者のスカさん。戦闘機人技術の生みの親とか言ってたけど、実際どうなんだろうね。天才っぽくはあったけど、天災っぽくもあったし。

 

 俺が戦闘機人について知っていたことにユーノが意外そうな顔になった。

 

「プロジェクトFのことまで……よく知ってたね」

「まあ、たまたまな」

 

 戦ったこともあるんだけどね。言わない方がいい気がするのは何ででしょうか。

 

 とにかく、ユーノが今調べてるのは戦闘機人について。どうやら以前、ホテル・アグスタで回収した密輸品も戦闘機人関係だったらしい。そういえばそんなことをアコースと話してたような。

 

「まあ、晃一も知ってる見たいだし、大丈夫かな………あ」

 

 思い出した、というようにユーノが手を叩いた。どうした?

 

「そういえば、その時に子供も一人、保護したんだって」

 

 

 

 ○

 

 

 

 空腹を感じる。思ったよりも長居してしまったらしい。適当な店で昼食を済ませてからのんびりと六課にやって来ると、時計はもう3時過ぎを指していた。

 

 取り敢えず一服するかな――煙草吸わないけど――と思いながら休憩室へと足を向ける。

 

「あ、晃一君!」

「ん、はやてじゃないか。それにテスタロッサも」

「こんにちは、晃一」

 

 はやてとテスタロッサだった。どうやら彼女達も休憩室に行くところのようだ。

 

 横に並んで歩く。こうすると身長差が目立つ。高い順に俺、テスタロッサ、はやてである。俺が180センチ近くで、テスタロッサが女性にしては高身長なのもあり、はやてがなお小さく見える。あと結局、俺の身長は180センチに届かなかった。かなしみ。

 

「……?」

 

 休憩室の前まで来たところで、異変に気付いた。なんだか騒がしい。これは……泣き声?

 

 休憩室の自動扉が開く。そこにはフォワードの新人達と、金髪の幼女に泣きつかれている高町の姿が。

 

 高町と目が合う。

 

「……隠し子?」

「違うよ!?」

「相手はユーノか、わんちゃんテスタロッサか」

「「違うよ!!?」」

「いやあああああ!!!」

 

 はやての説明によると、この子が先日保護した子供らしい。六課で面倒を見ることになり、病院から高町が連れて来たそうだ。その時に懐かれたのこと。

 

 金髪の幼女は高町に抱き着いて離れようとしない。どうしたらいいのか分からないようだ。新人達も子供の扱いには慣れていないのか、おろおろと様子を見るばかりである。まあこの子たち自身子供だものね。

 

「エースオブエースにも対処できないこと、あるんやなあ」

『ちょ、ちょっと、たすけて~』

 

 念話で高町が助けを求めてきた。狼狽える彼女を見かねたのか、テスタロッサが幼女の方へと歩み寄った。

 

「こんにちは。あなたのお名前は?」

「ひぐっ……、ぅ……?」

 

 床に落ちていたウサギのぬいぐるみを手に取り、幼女の気を引くテスタロッサ。手慣れている。うまく幼女の興味を引けたようだ。そういえば、テスタロッサはエリオとキャロの保護者だったな。経験が豊富なのだろう。

 

 テスタロッサとの会話を聞くに、幼女の名前はヴィヴィオというらしい。高町が困ってしまうという説得をうけて、次第におとなしくなっていく。相当高町が気に入ったんだね。

 

 やがて、高町からその手が離された。その様子を見ていると、ちょんちょんと誰かに触れられる感触が。はやてだ。

 

『晃一君、面倒見てくれへん?』

『はあ?なんで俺が』

『私、これから聖王教会に行かなあかんのや、なのはちゃんとフェイトちゃんと。年の近そうなエリオとキャロに見てもらうつもりやけど、晃一君がいると安心できるし。……な? お願い!』

『…………貸しだからな、高町』

『え私!?』

 

 当たり前だろう。

 ヴィヴィオに近づく。

 

「ちょっといいかいお嬢さん」

「……?」

 

 ヴィヴィオが怪訝な顔をしてこちらを見てきた。

 

 ――これは。

 

 改めて顔を見て分かった。この子、オッドアイだ。右目が翡翠で、左目が真紅。左目だけ俺とおそろいである。それに――いや、どうでもいいか。

 

 警戒している様子のヴィヴィオに視線を合わせるため腰を下ろす。

 

「ほ~らヴィヴィオ、ちょいと注目」

 

 そういって、ヴィヴィオの目の前で青い球を生み出す。魔力球である。大きさは手の平にすっぽり収まるサイズ。

 

「?」

「これをこうして」

 

 両手で魔力球を包み込み、隠す。そうした後、手を開いて見せると……。

 

「……わぁ!」

 

 ヴィヴィオの目が見開かれた。魔力球の色が黄色へと変わっていたのだ。

 

「……なにしたんですか?」

『俺のレアスキルみたいなもんだよ。戦闘で役立つことはほとんどないけど』

 

 ランスターの呟きに念話で答える。

 通常、魔力光というのは個人で決まっていて、変えられるものではないらしい。だが俺はある程度はこれを変えることができるのである。ロッテリアに指摘されて気づいた。二次元の技を再現するのに重宝している。

 ただ、自由自在ではない。変えれる色には制限がある。変えれなくて悔しい色筆頭が黒だ。月牙天衝と叫びたかった。

 

「ほ~れほれほれ」

「すごい!すごい!」

 

 テスタロッサから受け取った人形を操り、魔力球でジャグリングをする。時折、赤、緑、紫と魔力球の色を変えるのも忘れない。球も魔法で操ってるだけだが、まあ大事なのは見栄えだ。

 

 ウサギのぬいぐるみのジャグリングにヴィヴィオは顔を輝かせる。喜んでいただけたようで何より。

 

「晃一さんも、子供の扱い上手ですね」

「……なんか、すごく意外」

『おいおい、一か月弱とはいえ、キャロの面倒だって見てたんだぞ?』

「……うぅ」

 

 昔を思い出したのか、恥ずかしがって顔を赤くするキャロ。

 

「……ほら、さっさと行ってきな」

 

 ヴィヴィオの機嫌がいいうちに。

 

「ありがとうな、晃一君」

「ヴィヴィオのこと、お願いね」

 

 そうして、はやて達は休憩室を出ていった。

 

「ヴィヴィオ、飴ちゃん食べる?」

「食べる!」

「飴ちゃん常備ですか……」

 

 何とも言えない視線を送ってくるランスター。俺じゃなくて隣見ろよ。飴ちゃん見てナカジマがよだれ垂らしてるよ?

 

 

 

 ○

 

 

 

 聖王教会。永く続いた古代ベルカの戦乱を終結へ導いた人物、聖王を祀っている教会である。

 

 そこに仕える騎士であるカリム・グラシア。はやて達は彼女の元へと来ていた。クロノ・ハラオウンとシスターのシャッハ・ヌエラも同席している。

 

「……それで、話は六課の本当の設立理由、でしたね」

 

 お互い自己紹介を含めた挨拶を済ませた後、カリムが切り出す。そしてクロノが話し始めた。

 

「まずは表向きの理由。これはレリックの対策と独立性の高い少数部隊の試験運用だ。後見人は僕と騎士カリム、そして僕の上官でもあるリンディ・ハラオウン。言わずもがな、僕とフェイトの母さんだね」

「ですが裏では、かの3提督も設立を認め、協力を約束してくださっているんです」

 

 レオーネ・フィルス、ラルゴ・キール、ミゼット・クローベル。時空管理局黎明期の功労者として伝説視さえされてる3人である。ヴィータは普通の老人会などと言っているが、正真正銘、管理局の重鎮だ。

 思わぬ大物が背景にいることを知り、なのはとフェイトの目が見開かれる。

 

「その理由は……私の能力、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフケン)

 

 レアスキルについて説明される。彼女のレアスキルは、半年から数年先の未来を預言書として生み出すというものだ。預言の中身は古代ベルカ語の詩文形式であり、解釈によって意味が異なってしまうため、本人曰くよく当たる占い程度とのこと。しかし、大規模事件に関しては的中率が高く、信頼度は高い。

 

「……そして、現在解読を進めている預言がこれです」

 

 カリムが預言を読み上げる。

 

 

旧い結晶と無限の欲望が交わる地

 

死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る

 

死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち

 

それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる

 

 

 

「……これは」

「……まさか」

 

 

 

――管理局地上本部の壊滅と、管理局システムの崩壊

 

 

「気を付けてください。今回の予言は、少し、変なんです」

 

 神妙な面持ちで、カリムが言う。

 

「もとの古代ベルカ語の文章。これの文法が滅茶苦茶というか、支離滅裂というか……解釈以前に、解読が正しいのかも、正直自信がないんです。ただはっきりと分かるのは、何か大きな事件が起きようとしていること。そして……」

 

 

 

「それは管理局の、次元世界の危機であるということ」

 

 

 




ヴィヴィオとご対面。なお主人公、地球の子供たちのために飴ちゃんを常備してます。
預言はそのままになりました。ただぶれっぶれです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。