魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

43 / 53
最終章です。どうぞ。


Last.act 『Soul and Spirit』
40話 バイト


 

――…………。

 

 声がする。また夢だ。

 

――………………。

 

 でもこれは、いつものじゃないほう。最近になって、見るようになった夢。

 

――……………………。

 

 声はこちらに向けてのもの。それは分かるのに、肝心の内容が分からない。

 

 聞いたことがあるような無いような、そんな声。

 

 

 

 結局今回もよくわからないまま、夢は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだろうかね」

 

 目が覚め、首をバキバキと鳴らしながら呟く。

 

『? どうかしましたか?』

「いんや、ちょっとゆめにっきをつけた方がいいのか悩んでただけだ」

『それ大丈夫なんですか?』

 

 ジェイドに適当に答えながらも、物思いに更ける。

 

 音じゃなく、あれは確かに『声』だった。何故かそれは分かった。でも内容が分からない、理解できなかった。

 

 ……まるで、斬魄刀だな。内なる自分の力に気付いて、ついには霊も見えちゃったり?

 

 あ、でも十六夜だったらもう見えてるしなあ。あれは特別なんだっけか。

 

 十六夜ってのはリスティの知り合いの霊祓いの人の愛刀、霊剣だ。知ってた? 霊ってマジでいるらしいよ。

 

 てか十六夜ってまさに斬魄刀じゃん。卍解はなんだろう。

 

 思考が逸れてしまった。

 

「まあ、考えたところでどうしようもないことなんだろうな」

『頭、大丈夫ですか?』

 

 とりあえずは保留ということで思考を打ち切る。ピカピカと光り、失礼なことをのたまうジェイドは華麗にスルー。

 

 さ、朝練といきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 朝練はランニングが中心だ。距離は数キロ程度。重りも数キロ程度である。

 

「こういちだ!」

「おおう?」

 

 走ってると飛び付いてくる小さな人影。冷静にキャッチする。見ると、黒髪の少女、いや幼女が活発そうな目でこちらを見上げていた。

 

「雫か、おはよう」

「おはよう。血ちょうだい」

「脈絡が無さすぎるぞおい」

 

 何であなたはそう本能の赴くままなのさ。

 

 雫がよじ登ってきて首もとに噛みつこうとする。俺は血を吸われるのは何とも思わないのでされるがまま。

 しかしそこで、てし、と雫の頭に手刀をして止める人がいた。恭也さんだ。

 

 親子でランニングしてたみたいだね。気配がほとんどなかったのにはもう突っ込まないよ。

 

「こらこら雫。だめじゃないか」

「お父さん」

「外でそういうことしたら駄目だってお母さんも言ってただろう?」

 

 雫をたしなめる恭也さん。雫もあまり本気ではなかったのか、大人しく俺から降りた。残念そうではあったが。

 

 しかしこの子こんなに吸血行為をして大丈夫なのかね。こう、覚☆醒みたいなこと起きないんだろうか。カリスマが爆発するとか。

 

「そこんとこどうなんです?」

「俺も忍も問題無いと思ってる。元々必要な栄養補給だからな。それに、雫自身も一族としてのことは理解してるさ」

 

 そう答えた恭也さん。

 ま、この子もその辺はしっかりわかってるか。一族のことがばれるようなヘマはしないだろうな。

 

「力のことは確かに心配だが、血を摂取してれば発育も良くなるからな。俺達も晃一の血なら遠慮せずに飲んでいいと言っている」

「ちょっと」

 

 俺はサプリメントじゃないんですけど。

 

「お父さん大好き!」

「はっはっは、俺も大好きだぞ雫」

「こやつら……」

 

 ジト目で恭也さんを見る。

 娘のために知り合いの血を差し出す父親が目の前にいた。別に構わないけど、なんか釈然としない。

 

「こういちも大好きだよ!」

「はいはいありがと」

 

 まあ、雫の笑顔に免じて不問としますか。

 

 

 

 

 

 

 大学帰り、真っ直ぐ翠屋へと向かう。今日は久しぶりに翠屋でバイトの予定だ。休みの人が出て人手が欲しくなったので忍さんから来てくれとの連絡があったのである。

 

 従業員用の出入口から翠屋に入る。するとそこには、忍さんが仁王立ちして待ち構えていた。

 

「遅いわよ晃一君。五秒で着替えなさい」

「着替えました」

「よし」

 

 流れるような動作、もなくバリアジャケットを使って翠屋の制服に着替える。ジャスト五秒。我ながら完璧だな。

 

「振っといてアレだけど、迷わず魔法使ったわね」

「減るもんじゃないですしおすし」

「まあそうね」

 

 この場には魔法のこと知ってる忍さんしかいないし、別にいいかなって。

 それに今は特段忙しくて時間が無いわけでもない。つまり、忍さんのノリに合わせただけである。

 忍さんもそのつもりだったはずだ。でなきゃここで俺を待ち構えたりなんてしないだろうし。

 

「ま、あなたも来たことだし、これから混み始めるわよ。魔法じゃなくて、ちゃんと制服に着替えてから出て来て」

「あいさー」

 

 時間帯は丁度放課後となった頃。学生達がやってくる稼ぎ時だ。

 

 今度は魔法を使わず制服に着替える。カッターシャツの上にロゴつきの黒いエプロン。シンプルだが結構気に入ってるデザインだ。

 

 着替えたら厨房の方に出て、他の店員と軽く挨拶を交わす。

 

 翠屋の店員は基本的に身内というか、桃子さんや忍さん達の友人なので、全員と顔見知りなのだ。知り合いで固めてるのは、そちらの方が気楽にできるからとのこと。

 

「あら晃一君、来てくれたのね」

「どうも桃子さん、相変わらずお若いですね」

「あらあら、誉め上手ね」

 

 ニコニコと笑う女性。桃子さんである。若い。かなり若い。というか、初めてみたときからまったく見た目が変わってない。この人も実は夜の一族だったとかないよね?

 

「桃子がいつまでも若くて俺も嬉しいぞ」

「まあ、あなたったら」

「いきなりいちゃつかないでもらえます?」

 

 士郎さんの言葉でピンク色の空間が出現。目の前でいちゃつき始めた。万年新婚夫婦とはまさにこの二人のことだな。

 

ケッ

 

「どっち手伝います?」

 

 桃子さんに尋ねる。厨房か、ウェイターか、どちらを手伝うかだ。

 

 独り暮らしやはやての影響で、料理の腕もそれなりになった。その為、俺は人手が必要な方のシフトに臨機応変に入るのだ。

 

「じゃあ、ウェイターの方手伝ってくれるかしら」

「了解です」

 

 丁度お客さんが来たみたいなので、俺が出迎える。

 

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「3名です」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 

 笑顔で接客。手慣れたものだ。

 

 あ、この子達の制服聖祥のじゃん。懐かしい。子供から大人までいるけど、やっぱ立地的に学生のお客さんは聖祥生が多いね。大学生らしき人もちらほらといるな。

 

 そんなことを考えながら接客してると、ふと、視線を感じた。忍さんがこちらを見ていたのだ。

 

「どうかしました?」

「いや、晃一君の営業スマイル、気色悪いなって」

「普通に傷つく」

 

 丁寧な接客でしょうが。

 

「ごめんごめん、冗談よ」

「はぁ……あ、いらっしゃいませ」

 

 次のお客さんが来たので接客へ。今度は見知った顔だった。

 

「や、晃一君!」

「どうもエイミィさん。リンディさんにアルフも。カレルとリエラは久しぶりだな」

「こんにちは」

「おっす!」

「「こんにちはー!!」」

 

 ハラオウン一家である。カレルとリエラはクロノとエイミィさんとの子供。エイミィさんの髪の色にクロノと同じ瞳の双子だ。カレルが兄でリエラが妹ね。

 

「晃一君はバイト? 六課の方は大丈夫なの?」

「基本週末しか向こうには行きませんし。今日は臨時の手伝いです」

 

 エイミィさんの質問に答える。そっちも、今日はリンディさん休みなんですね。

 

「ええ。孫と触れ合える時間があって嬉しいわ」

 

 笑顔で言うリンディさん。

 リンディさんは提督を引退し、内勤中心となっている。提督の時と比べたら、そりゃ休みは増えるだろうな。ちなみにエイミィさんも今は育児休暇中だ。

 

「それとすいません、今はカウンター席以外空いてないので待ってもらうことになりますが、大丈夫ですか?」

「ええ、分かったわ」

「「はーい!!」」

 

 リンディさん達は快く了承してくれた。子供達はごねるかと思ったが、教育が行き届いてるらしい。ええ子たちやな。

 

「悪いなちびっこたち。アメちゃんやるから、これで勘弁してくれ」

「「ありがとー!!」」

「アルフはいる?」

「いるー♪」

 

 ちびっこ達にアメを配る。ここら辺はサービスだ。アルフは子供モード、正確には省エネのための子犬フォームの人間モードだが、まあ子供にカウントしていいだろう。

 

「やっぱり晃一君は子供に優しいね」

「子供に優しくするのは当たり前では?」

「いやいや、きっといいお父さんになれるよ」

「ツヴァイにはもうお父さん呼ばれてますけどね」

 

 エイミィさんの言葉に俺は苦笑しながら返した。相変わらずお父さん呼びは変わらない。

 

 席が空いたので掃除をし、ハラオウン家を案内する。

 

「六課の方はどう? 無茶してない?」

「無茶するほど仕事ありませんって」

 

 リンディさんが聞いてきた。実際、向こうに行ってもやることがあるわけじゃないので、無茶のしようがない。

 

 ランスターの件はあったけど。

 

 次のお客も顔見知りだった。バニングスと相良の二人である。月村はいない。この二人で来るのは珍しいな。

 

 忍さんも気になったらしく二人に聞く。

 

「いらっしゃい。すずかはいないのね。デートかしら?」

「やっぱ忍さんもそう思います!?」

「違います」

 

 相良のテンションが高い。あいつはその気で来たみたいだ。尤も、バニングスの方は完全否定してるけど。バッサリ切り捨てたな。相良が崩れ落ちてるぞ。

 

「あれ、晃一の格好。あんた今バイトしてるの?」

「まあな、助っ人だ」

 

 相良のことは放っておいて、バニングスが聞いてきた。

 ちなみにすずかはまだ大学にいるらしい。先に二人で来たとのこと。

 

「ご注文は何でしょうか? うさぎですか?」

「ここ喫茶店よね? あと私は犬派よ」

 

 流石バニングス。突っ込みがキレてらっしゃる。

 

「スマイルください!」

「500円になります」

「そこはプライスレスじゃないのね」

 

 相良にイラッときたんでつい。野郎に言われるとムカつき5割り増しだよ。

 

「ほら透。男の見せどころよ。甲斐性見せなさい」

「アリサ……! よし、その笑顔、買ったぁ!!」

 

 うわこいつマジで払ってきやがった。バニングスに乗せられすぎだろ。男の見せどころが500円っていいのかそれ。

 

 まあ払うと言うなら仕方ない、100%の輝く笑顔を見せてやろう。

 

 キラッ☆

 

『…………うわぁ』

 

 不評だった。

 




不評だったのは普段の主人公と違いすぎるから。初対面の人からは違和感はないです。
頑張って終わらせます。よろしくどうぞ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。