魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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幕間です。
結構色々しゃべってます。


Interlude〜とーきんぐ・ナイト〜

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

「3名で」

 

 クラナガンにある、とある居酒屋。ここに、なのは、フェイト、はやての3人が集結していた。

 

 日本が意識されているであろう内装。ミッドチルダでは様々な文化が交わるため、この店のようなものもちらほらと見られるのだ。

 

 「わびさび」の文化は、ミッドチルダでも人気が高かったりする。

 

 なお交わりすぎて、リンディのように若干ずれた認識をしている者も少なくはないようだが。

 

 店員に案内され個室の席へ。

 

「3人で夕食ってのは久しぶりやな~」

「最近は六課の皆が一緒だったから」

 

 席に座りながら言うはやてに対し、そうフェイトが返した。

 

 はやては食事をとるときに六課のメンバー達に時間を合わせるようにしている。これはコミュニケーションを大事にしたいという彼女の意向だ。

 

 そしてなのはとフェイトも六課の食堂で新人達と食べることが多い。そのため3人が一緒に食事を取ることはあっても、今回のように外に3人だけで食事に行くというのは珍しいのだった。

 

「いい雰囲気のお店だね」

「ふふっ、そうやろ? ゲンヤさんに教えてもらったんや」

「外で和食って、久しぶりかも」

 

 先にドリンクの注文をする。なのはがオレンジジュース、フェイトがレモンソーダ、そしてはやてがジンジャエールだ。

 

 3人ともこっちの世界では成人してるのだが、酒を頼みはしない。皆真面目なのである。どっかの男は迷わず酒を頼むところだが。

 

 食べ物も頼み、程なくしてジュースが運ばれてきた。

 

「それじゃあ、かんぱーい!」

「「かんぱーい♪」」

 

 はやての音頭で、コップをつき合わせる。カラン、と氷が小気味のいい音をたてた。

 

「くぅー!! やっぱこれやなぁ!」

「はやてちゃん、それちょっと親父くさいんじゃ……」

「ひどっ!?」

 

 にゃはは、と笑いながら指摘をするなのは。フェイトもどうやら同じ事を感じていたらしく、苦笑いのみでフォローは無かった。神は死んだ。

 

 ちなみにではあるが、同年代の本当に親しい者達だけの時、なのはは昔のように猫言葉が出る。本人は意識していないようで、親友達の間でのちょっとした秘密となっていた。

 

 さて、喉を潤した3人。料理が運ばれてくるまでは、雑談タイムとなる。

 

「ティアナの調子はどうや、なのはちゃん?」

「うん、完全に吹っ切れたみたい」

「そっか。よかったぁ」

 

 あの夜の後、なのはとティアナはじっくり話し合った。教導の意味や、目指す未来について。お互いに納得がいくまでだ。

 

 でも、となのはがコップを置く。

 

「私の失敗談が知られちゃったよう……」

「あはは、まあいつかは知られちゃうものやったと思うで?」

 

 危険性については、古夜が教えてあげていた。それでもなのはとしては教導官としてのけじめとかプライドとかがあるわけで、苦渋の決断ではあったが、あの事故について教えることにしたのだ。

 

 これはティアナだけでなく、フォワードメンバー全員にである。俗に言う黒歴史の公開だ。

 

「まさかシャーリーが映像用意してたなんて……いや見られちゃったのは言葉だけで説明しきれなかった私の責任だけど……」

「なのはちゃん国語苦手やったもんなぁ」

「そ、そこは突っ込まないでよ!」

 

 あーうーと何かに悶えるなのは。本人は出来るだけ言葉で物事を解決したいとは思っているのだが、なかなかそううまくはいかないわけで。

 

 実際に言葉だけで解決できたことは少なかったりする。幼少期から今に至るまでずっと。

 

「なんか晃一君に負けた気分……」

「ほ、ほらなのは、料理きたよ!」

 

 がっくりとうなだれるなのは。隣に座るフェイトが必死に呼び掛ける。

 

「あ、おいしそう」

 

 運ばれてきたのは焼き魚。香ばしい香りに誘われて、なのはが顔を上げた。食べ物の力は偉大である。

 

 食事に入りながならも話は続く。

 

「でも、やっぱり晃一君て教えるの上手いよね」

 

 魚をつつきながらもなのはが言った。

 

「まあ、あれは言葉巧みって感じやな。あ、刺身も美味しい」

「私は刺身はちょっと苦手かな」

「フェイトちゃんはナマモノが苦手だったっけ」

「少しね。生臭いのが苦手なんだ」

 

 そう言うフェイトの前にはから揚げが。レモン汁をかけて頬張る。

 

「晃一には私もお世話になったからなあ……」

「ああ、執務官試験の時だっけ?」

 

 フェイトは執務官試験に一度落ちている。その時、知り合い達による特訓が行われた。

 

 実技試験対策の先生はクロノ。そして筆記試験対策の先生がユーノと、まさかの古夜だったのだ。

 

「『お前は馬鹿正直に挑みすぎだ』って、最初はなんのことか分からなかったよ」

 

 若干遠い目になるフェイト。

 

 古夜が教えたのは勉強というよりは『試験の受かり方』だ。大学受験までを経験した上での、知識を詰め込むだけでない点を取るテクニックを叩き込んだのである。

 

「晃一君、エスカレーターで中学にあがってた割には、やけに試験慣れしてたしな」

 

 そう言うはやてもデバイスマイスターや上級キャリア試験の際、古夜からテクニックを教えてもらっていたりする。

 

「そういえば、ハチモントンコウ、だっけ?初めて生で見たなぁ。すごかったねあれ」

 

 フェイトが思い出したように言った。

 

「私もかなり久しぶりに見たなぁ」

 

 なのはも頷き、フェイトに同意する。

 

「まさかシグナムを一瞬で倒しちゃうなんて……」

「あれ、ストライクアーツなのかな?」

「師匠がリーゼロッテさんだし、そうなのかも?」

 

 二人で話が進んでいく。黙ってないのははやてだ。

 

「ちょ、ちょい待ち。晃一君、全力で戦ってたん?」

「ハチモントンコウ使ってたし、多分……ね?」

 

 ふるふると、若干様子がおかしいはやて。どうしたのかとなのはとフェイトがハテナ顔になる。

 

「私、生で見せてもらったことないんやけど……」

「「えっ?」」

 

 空気が、固まった。

 

 実は、そうだったりする。はやてが八門遁甲状態の古夜の戦いを見たのは、映像でのがほんの数回のみだ。本人はどれだけいっても見せてくれないのである。

 

「てっきり、はやてちゃんはいつも見せてもらってるとばかり……」

「わ、私も」

「何で私には見せてくれないねん……」

 

 なのは達は意図せずして地雷を踏んでしまったらしい。はやてが机に突っ伏す。

 

 もぞもぞと身じろぎし、コップ片手にいじけモードへ。

 

「最近全然話す機会ないねん……せっかく同じ部隊に勤めてんのに……」

 

 愚痴るはやてを苦笑いで眺める二人。飲んだくれのように見えてきたと内心思う。酒は飲んでないのでシラフのはずなのだが。

 

「この際だから聞いてみるけど、はやては、晃一のことが好きなの?」

「ちょっ、フェイトちゃん!?」

 

 いきなりドストレートの質問。なのはが驚きの声をあげた。

 

「……そりゃ勿論」

「おお……」

 

 特に躊躇う様子もなく、意外にもあっさり言ったはやて。思わずなのはが感嘆の声をもらす。

 仕事ばかりとはいえ、まだ十代の女の子だ。興味をもってしかるべきなのである。

 

「え、と、なんで?」

 

 おずおずと、フェイトが尋ねる。隣のなのはも興味深々といった様子だ。

 

「……特にきっかけらしいものは無かったんやけどな。晃一君はずっと私の憧れやったし、小さい頃からの知り合いやったし。まあ自然と、な」

 

 最初の気持ちは憧れだった。彼のように強くあろうと、その気持ちが心の支えにもなった。

 

 だが成長するにつれて、彼の強さに疑問を持ち始めたのだ。彼は、彼の生き方は、本当に強いものなのかと。

 

 自分はアコースに生き急いでいると言われたが、古夜のそれは、まるで死に急いでるようで。

 

 それからはどうにも古夜のことが心配というか、そんな感じで。

 

 結局終始古夜のことは気になっていたわけで。

 

 一番付き合いの長い異性の幼馴染み。それに対する気持ちが恋慕となるのは、自然なことであったのだった。

 

「つ、付き合いたいとは思ったり?」

 

 今度はなのはが質問する。

 

「関係を変えたいとは、思っとるんやけどな」

 

 本当に山も谷もない関係が続いてきたと、はやては思う。

 

 はじめましての頃から特に進展といえるものはない。距離は近づいてはいると思うが、それと非常に緩やかなもの。

 

 また、雰囲気が暗くなってきたはやて。どうしたものかと二人が考える。

 

 そこで、はっと、フェイト気になっていたことを口にする。

 

「……でも、同年代の女の子で晃一が名前で呼ぶの、はやてだけだよね」

「そうそう。私、名前で呼んでって言っても聞いてくれなかったもん」

「……そうかなぁ」

 

 にへら、となのは達の言葉を聞いてはやての顔がだらしなく弛んだ。

 

 そう、古夜はあまり人をファーストネームで呼ばない。正確には同年代の異性を、だ。年上か年下しか下の名前で呼ぶことがないのである。

 そんな中で自分だけが名前を呼んでもらえる。これははやてにとって優越感に浸れるものであった。誰にたいしてかは知らないが。

 

 嬉しそうにジンジャエールを口にするはやてだったが、ふと気付いたようにその動作が止まった。

 

「……というか何で私だけこんなこっぱずかしい話してんねん!」

 

 大分ぶっちゃけてしまった。思い直すとすごく恥ずかしい。

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんも暴露しいやああああ!!!」

「「キャー!?」」

 

 この後、おっぱいマスターはやての手腕が遺憾なく発揮されたとか。

 

 

 

 

 

 

 

「で、あんたはどうなのよすずか?」

「え?」

 

 すずかは唐突な親友の言葉にまぶたをぱちくりとさせた。

 場所は月村邸のすずかの自室。アリサは久しぶりにすずかの家に泊まりに来ていたのである。

 

「え?じゃないわよ。晃一のことよ。実際どうなの?」

 

 用意されたベッドに寝転がりながら、ニヤニヤと笑うアリサがすずかに尋ねる。

 

「うーん……どうかな?もっと仲良くなりたいとは思ってるけど」

 

 よく分からないかな、と苦笑しながらもそう答えるすずか。

 そんな彼女をアリサはじっと見つめる。どうやら嘘をいっているわけではなく、本音らしい。

 こんな様子ではからかおうにもからかえない。

 

「なぁーんだ、つまんないわね」

「……あとは、たまに襲いたくなっちゃうくらいかなぁ」

「え?」

「うん?どうしたの?」

 

 今、親友の口から信じられない言葉が出てきたような。

え、襲う? すずかが? 晃一を? いやいやそんなまさか。

 

「教えてなかったっけ?私たちの一族って、発情期があるんだよ」

「は、ハツジョウって……」

 

 あの発情のことよね? と自問するアリサ。夜の一族のことは知っていたが、そこからさらにカミングアウトがあるとは。

 

「じゃあ、ちょくちょくあんたが熱っぽくなって生活してたのって……」

「うん、発情期だったんだよ?」

 

 なんてこったい、とアリサは頭を抱えた。体調が変な時があるとは前から思っていたが、まさか親友が、その、アレな状態だったとは。

 

 様々な習い事をしているモノホンのお嬢様といえどやはり生娘。そっち方面に鋭いわけもなかったのだった。

 

「今まではそうでもなかったんだけど。大学生になってから『重く』なってきちゃったんだよね」

「おお……」

 

 『重い』とは、つまり……。アリサの顔が赤くなる。からかうつもりが思わぬ反撃を受けてしまっていた。

 

「お姉ちゃんが言うには好きな人がいるとそうなるって話だけど……」

「けど?」

 

 核心に迫るかと、アリサが続きを促す。

 

「私としては、夜の一族の本能なのか私の本心なのか、どっちなのか自信がないんだ」

 

 すずかはそこで困ったように笑った。

 

「もっとガツンと距離縮めに行けばいいんじゃないの?」

「それは駄目なんだよ、アリサちゃん」

 

 アリサが言ったが、すずかは首を横に振った。

 

「晃一君はね、誰かと深く関わることを避けてるの。たとえそれがはやてちゃん相手でも。彼はそうなることがないように行動してる」

「それは……確かに……」

 

 古夜はいつものらりくらりと放浪している。いつも特定の誰かといることはない。

 

「理由は分からないし、無意識の部分もあるみたいだけど。そんな彼に急に迫ったら、きっと彼は逃げちゃうと思うんだ」

 

 多分、嫌われることはないけど、距離を取られてしまうだろうなと、すずかは思う。他人に興味を持たないのとは違うところで、彼は人との接し方に気を張っている。

 

「だから今は、今まで通り。ゆっくり距離を詰めたいと思ってるよ」

 

 笑顔で言うすずか。

 

「……あんたも色々大変なのね」

 

 アリサはそう言うのが精一杯だった。

 

「……ああでも、晃一君の血は美味しかったなあ」

「とりあえずこの話はここまでにしましょうか」

 

 パンパンと手を叩き、トリップしそうになった親友を先んじて引き戻す。これ以上この話題はまずい。

 

「ほら、飲むわよ今日は!」

「ジュースだよ?」

「気分よ気分!!」

 

――この子、結局は本能でも本心でも晃一が好きなんじゃ?

 

 そんなことを思うアリサであった。

 

 

 




なのははオレンジジュース、フェイトはレモンソーダが好きそうなイメージ。はやては特に思い付かなかったので作者の好きなジンジャエールとなりました。

みんな女の子してる。作者の精神が削られていく。

総合評価が7000を越えました。皆様のお陰です。書き始めたころはここまでに多くの方に読んでいただけるとは思ってませんでした。昔より文章が上手くなっていれば良いのですが……。

とにかく、皆様、本当にありがとうございます。

次話から最終章です。頑張るぞい。

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