魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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37話 ガードマン

 いつかと同じ、声が聞こえる。

 

 いつかと違い、視界は良好だ。

 

――ああ、これは、いつもの方だ。

 

 何てことのない、大学での日常風景。

 

 ただし、海鳴大学ではない。前の大学だ。

 

 講義室、食堂、誰かの家。定期的に変わる景色のなか、顔のぼやけた誰かと話す『俺』。

 

 あいつはあんなやつだ。講義がだるい。飲みすぎた。レポートやらなきゃ。就活だ。

 

 内容は下らない、聞く価値のないもの。

 

 それを俺はしばらくの間、ながめ続けた。

 

 魔法も戦いもない、平淡な日常。

 

 

 

 やがて。

 

 視界は黒く塗りつぶされ始める。墨が染み込んでいくように。

 

 夢の終わりだ。

 

 定期的に見る、夢の終わり。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。カーテンの隙間から射し込む日光が目に染みる。

 

 朝の日射しが鬱陶しく、俺は思わず寝返り、枕に顔をうずめた。

 

 ここは…………自分の家だな。当たり前か。

 

 体を起こし、半目のまま枕元を見る。そこにはピカピカと点滅して自己主張をする、翡翠色の宝石があしらわれたネックレスが置いてあった。

 

『いい夢、見れましたか?』

「……何の皮肉だ、くそったれ」

『?』

「いや、なんでもない」

 

 インテリジェントデバイスに夢の内容が分かるわけないな。

 

 部屋を出て、洗面台へと向かう。顔を洗い、自分の顔に驚いた後、キッチンへ。朝ごはんを作るのだ。

 

 調理と平行して支度をしながら、ふと思う。

 

 未だに見る、前世の夢。

 

「……グリーヴァを作ったときは、色々忘れてきたと思ったんだがな」

 

 意外にも、覚えているものだ。2次元関係はもとより、その他のことも。

 

 

 さて、今日の予定を確認しよう。仕事が入ってたはずだ。

 

「………っと、ユーノの手伝いか」

 

 ユーノの仕事を手伝うときは地味に注意が必要だ。特に、無限書庫の司書長としてではなくスクライアの発掘員としての時は。ロストロギアが絡むことが多いからである。

 

 クロノと二人で女体化させられたのは一生忘れない。

 

『内容は護衛ですね』

 

 ジェイドが言う。護衛だったら慣れたものだな。月村やバニングスのボディーガードならよくやってるし。

 

 今日はロストロギアのオークションがあるらしい。勿論、危険性のない、安全が保証されたものである。そこでユーノはロストロギアの説明だったり、物品の鑑定を担当している。

 

 俺の仕事はユーノの護衛だ。一応、物品の方も頼まれてはいるが、あくまで優先順位はユーノが上である。

 

「オークション開催中とあるが」

『無限書庫から会場までの行き帰りはまた別の方が担当するようです』

 

 成程ね。恐らくその別の方は会場では別の用事があるのだろう。

 

 じゃあ俺は会場に直接向かえば良いわけだ。

 

『ある程度はフォーマルな服装が良いかと思われます』

 

 ま、ロストロギアは骨董品だからな。オークションに来る人もそれなりに格式の高い人が来るのだろう。

 

 ジェイドのアドバイスに素直に従い、スーツに着替える。グレアムさんからもらった一張羅である。

 

 家を出て、月村家の所有地へ。

 

「お、晃一!」

「……うげ」

 

 まさかの相良と遭遇してしまった。ジャージ姿で、ランニング中らしく額に汗がにじんでいる。

 

 なんでお前とここで遭遇するんだよ。

 

「恭也さんとランニングしてたんだよ」

「そういうことだ」

 

 別の人の声。

 振り替えると、いつのまにか恭也さんがいた。いちいち気配消して登場するの止めてもらえません?

 

「ほら透」

「あざっす!」

 

 どうやら相良のためにスポドリを買いにいってたようだ。ペットボトルを相良に投げ渡す。

 

「朝から一緒にランニングて。恭也さんはともかく、相良はどういう風のふきまわしだよ」

「弟子入りしたからな!」

「えまじで?」

 

 そういや前、弟子入りしてくるとか言ってたな。あれ本当に頼みに行ってたんだ。

 

「すすめたのお前だよ!?」

「いやまさかほんとにいくとは」

 

 そして恭也さんが受け入れるとは。

 

「御神流教えるんですか?」

「まさか」

 

 首を横に振る恭也さん。まあ、ですよね。後継者にしても雫がいるし。

 

「ボディーガードになりたいって聞かなくてな。正直、その辺りのことは教えたくはなかったんだが、どれだけ言っても意志を曲げないもんだから、結局、雫の練習相手として鍛えるってことで押しきられてしまったよ」

 

 肩をすくめながら説明してくれた。恭也さん相手に押しきるて。そこまで意志固かったんかい。

 

 相変わらず変なところで頑固な奴である。

 

「なのはを彷彿とさせたな」

「ああ、それは分かります」

 

 俺がつきまとわれてた時も似たような感じだった。

 

「それはそれとして、雫はどんな感じです?」

 

 相良だって運動神経はかなり良い。そんな大学生を練習相手にする6才児ってどうなんだろう。

 

「はっきり言って、やばいな」

「やばいっすか」

 

 それはやばいね。何がヤバイかって、恭也さんをしてヤバイって言わせるのがもうヤバイ。

 

「言っておくが、お前のせいでもあるんだぞ?」

「え?」

「晃一の血を小さいときから飲んでたからな。夜の一族としての力が忍やすずかちゃんよりもはるかに強くなってるんだ」

「…………マジすか」

「マジだ」

 

 将来は恭也さんよりも確実に強くなるらしいとのこと。どうやら私はあかん子に血を与えてしまっていたようだ。

 

「晃一はその格好、仕事か?」

「はい、あっち関係ですが」

「そうか、気をつけろよ」

 

 あいさー。

 

 

 会場に到着。ミッドチルダの首都であるクラナガンの南東。そこに位置するホテルだ。名前はホテル・アグスタ。

 

 受付にて手続きを済ませ、中へ。地図をもらい、ユーノが待っているであろう部屋へ向かう。

 

「あれ、ヴィータじゃん」

 

 ホテルの廊下を歩いていると、見慣れた赤い髪のチビッ子がいた。

 

「晃一じゃねーか。何でここにいんだよ」

「そりゃこっちのセリフだ」

 

 ヴィータの格好は管理局の制服。多分、六課の仕事だろう。

 

 今日行われるのは朝も言ったがロストロギアのオークションだ。そしてロストロギアはいくら安全を確認したといっても結局のところはアンノウン。危険物を紛れ込ませることもできるだろう。

 

 あとは、確か無人機はレリックの反応を自動でおってるんだっけか。ロストロギアにつられて来るかもしれないし、あるいは本当にレリックが骨董品に紛れてるかもしれないな。

 

「だからきっとそれ関係で仕事に来たのかな?」

「……ほとんどわかってんじゃねーか」

 

 六課の業務内容は知ってんだし、このくらいは少し考えれば分かるさ。

 

「晃一の方はどうしたんだよ、その格好。今日は六課に出勤してなかったよな?何でここに?」

「俺個人の仕事だよ」

 

 業務内容は教えない。ユーノの護衛だし、後で分かることだから、別に知られても構わないのかもしれないけどね。ささやかなプロ意識である。

 

「あ、ヴィータに……晃一君やん!」

 

 聞き慣れた声がした。

 

「はやてか……ってその恰好」

 

 一瞬言葉に詰まったのは、はやてが予想と全く異なる格好をしていたからだ。

 

「ふふん、似合うやろ?」

 

 管理局の制服ではない、ドレス姿のはやて。

 

 青色のドレス。この色のはやては珍しいな。ハイヒールを履き、耳には十字架の、恐らくはイヤリングを付けている。チョーカーも装備している上、外行き用に丁寧に化粧をしているようで、いつもよりも大人の雰囲気だ。

 

 上から下へ、頭からつま先までじっくりと見る。

 

「……うん、似合ってるな」

「……ストレートに褒めんなや」

 

 悔しそうに、若干頬を染めて顔を背けるはやて。はは、まだまだだね。

 

「晃一君の方は……なんや、着なれてる感じがするなあ」

「ああ。なんせ着なれてるからな」

 

 ボディーガードはよくやってたし。

 まあでも魔法関係で着ることは滅多に無かったし、はやてにスーツ姿を見せるのは初めてか。

 

「もしかして、晃一君もオークションに?」

「まあ、そんなとこだ」

「そっか、奇遇やね」

 

 ほんの少しだけ雑談をしたあと別れる。あまりユーノを待たせてもいけないからね。

 

 そんなわけでクライアントと対面。

 

「晃一、久しぶり!」

「おう、久しぶりだなユーノ」

 

 待機室の様なところでユーノと合流。隣にいるのが護衛してきた人だろう。知ってる顔だ。

 

「ヴ……ア……久しぶりだな」

「君今名前思い出すの諦めたよね?」

 

 ヴェロッサ・アコースだよ、と緑髪のロン毛が名乗る。そうそう、そんな名前だった。

 

 だって義弟だっつってカリムさんと苗字も名前も違うじゃんか。カリムさんの苗字は……確かグレイシア。ん? それポケモンか?

 

「まったく。かわいい妹分の幼馴染みなのにつれないねぇ、晃一君」

「宗教関係はお断りしてるので」

「僕は査察官なんだけど……」

 

 苦笑するアコース。

 

「じゃあ、今日はよろしくね」

「ん?交代じゃないのか?」

「いや、その予定だったんだけどね」

 

 なんでも、アコースの用事は六課の仕事と被る部分もあるらしい。はやてと仕事のすり合わせをした結果余裕ができたので、そのまま俺と二人でユーノの護衛をすることになったのだとか。

 

「ごめんね、連絡が遅れて」

「いやいい。俺の方は雇われだしな」

 

 俺はユーノに個人的に雇われている立場だ。管理局との都合を優先されても別に構わない。

 

 真面目な話をすると、護衛は二人の方がいいし。一人が護衛対象を守っている間、もう一人が危険物の確認もできるからね。

 

 俺は面倒なことは嫌だが、仕事をするとなればそれなりに真面目になるのである。

 

 

 オークションが始まった。ステージ上で、ユーノのスピーチが始まる。

 

 アコースはユーノのすぐ後ろに控えている。俺はというと、会場を静かに見て回っていた。ほとんど警備員に近くなったね。

 

 どうやらはやての他に高町とテスタロッサもホテル内の警備のようだ。はやてと同じようにドレス姿で徘徊している。

 

 そしてオークションが進み、しばらくたった頃。

 

 空気が変わった。

 

 いや、正確にははやて達の表情か。

動きは変わっていないが、何か別のこと、恐らくは念話に集中してる様子だ。

 

『はやて。なにかあったか?』

『晃一君。無人機がこっちに近づいてるって連絡があったんや』

 

 来たか。

 

『会場内の動きは?』

『進行を遅らせはするみたいやけど、混乱を防ぐためお客さまに伝えるのは控えるみたいや』

 

 外の警備をしているフォワード陣が迎撃に向かったそうだ。守護騎士が四人勢揃いしてるようなので、そちらは任せて大丈夫だろう。

 

 会場内もはやて達がいる。ロストロギアでも投入されない限り……いやされても大丈夫か。

 

『アコース。ユーノの方は問題ないな?』

『うん、ノープロブレムさ』

 

 だったら俺はサブの方の骨董品の警備に回ればいいのかな?でもあくまでユーノ優先だし、どうしようか。

 

『晃一、骨董品の警護頼めるかい?』

 

 少しだけ迷ってる俺を知ってか知らずか、アコースの方から言ってきた。ただ、先程とは声色が若干違う。

 

『何かあったか?』

『倉庫で爆発があったみたいだ』

 

 成程。外に意識を持っていかせてから中を攻めるか。

 

『無人機って割には理性的だな』

『きっと今回は誰かが意図的に操ってる。気をつけてね』

 

 オークション会場を出て地下にある倉庫へ。構造としては地下駐車場と言った方がいいかもしれない。

 

 異変はすぐにわかった。煙が立ち込めている。モヤの中には機械の影が。

 

「無人機だから、とりあえず壊すぞ」

『サーチアンドデストロイ!』

 

 なんでテンション高いのこの子。

 

 セットアップし、グリーヴァを構える。

 

 突っ込んで破壊したいとこだが、向こうもこっちを捕捉してるはず。視界も悪いし、下手に戦って骨董品を傷つけてしまうのも不味い。

 

 面倒だな。煙をはらさなければ。

 

 とそこで、煙の中から、触手のようにケーブルらしきものがつき出されてきた。

 

 避け、これを切断する。

 

 続々と無人機が出てきた。とりあえずは近いものから破壊していく。

 

 戦闘をしているうち、煙がはれてきた。骨董品を狙っている無人機があらわになる。

 

 見ると、骨董品が入っていると思われる木箱をケーブルを使って運ぼうとしているようだった。便利ねそのケーブル。

 

 優先順位を変更。近い敵を無視し、箱にまとわりついているケーブルを切断する。

 

 無事、目標を確保できた。

 

 取り返そうと無人機が襲いかかってくる。

 

「ちっ。庇いながらは戦いにくいな」

 

 舌打ちをしながら呟く。いちいち箱に触手を伸ばしてくるから鬱陶しい。闇の書事件の時のしつこさを思い出す。

 

 多少燃費は悪いが、仕方ない。

 

「ジェイド」

『はい』

 

 箱を置き、プロテクションを張る。壊れないよう念入りにだ。箱が緑色のドームに包まれる。緑色なのはユーノから教わったからだったり。

 

 防御魔法を恒常的に結界を張るのは疲れる。一気に決めなければ。

 

――八門遁甲 第五 杜門 開

 

「グリーヴァ」

『はい、カートリッジロード』

 

グリーヴァの刀身が赤い魔力光で輝く。

 

――フェイテッドサークル

 

回転。

 

魔力を圧縮した斬撃を全方位に飛ばす。

 

八門を使った上、カートリッジを使い威力を底上げした一撃だ。無人機達のAMFを貫通し、そして破壊する。

 

多数の爆発。同時に多数の無人機が破壊されたことによるものだ。

 

直ぐに八門状態を解除し、構える。また視界が悪くなってしまった。

 

少し時間がたった後、視界がクリアになる。敵の影はない。

 

訪れる静寂。第2波もないようだ。

 

「……お仕事、完了」

 

お粗末。

 

 

「おや?破壊されてしまったのかい」

「はい。申し訳ありません」

 

 場所はどこかの研究所。女性から報告を受ける白衣の男は、それが良くないものでありながらも気にした様子は無かった。

 

 別にあってもなくても計画には支障はない。趣味の範疇だったのだ。あったら良かった程度にしか思っていない。

 

「ドクター。これを」

「なんだいウーノ」

 

 女性がモニターに映像を送る。そこで映されたのは、翡翠のモノクルをつけた高身長の男。

 

 それを見た白衣の男は、

 

「成程。これはこれは、面白いことになってきたじゃないか」

 

可笑しそうに、愉しそうに笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白いことじゃないですよ思いっきり邪魔されてるじゃないですか」

「クククッ。これだから世界は面白い」

「…………はぁ」

 

 

 

 




頑張って今年中には終わらせる所存です。

感想批評誤字報告お待ちしております。

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