魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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はやてちゃん視点です。
時系列は高校生の劇場版的なものと思っていただければ。


Interlude~古夜晃一という男について~

 晃一君について、私はどれだけ知っているのだろう。

 

 他の人よりは知っている自信がある。何せ一番長い付き合いだ。生まれてから今まで、彼と知り合ってからの方が長い。

 

 彼には、幼い頃の記憶が無いそうだ。

 

 これはグレアムおじさんから内緒で教えてもらったことだ。私が知っているのを彼は知らない。恐らく、周りでも知っているのは私くらいではないだろうか。

 私と初めて会ったときはちょうど記憶を無くして間もない頃だったらしい。何でもない出会いだったので、正直もう殆ど覚えていないのだが。

 

 そんな彼は、普通の子供のように振る舞っている時もあれば、私たちよりずっと大人びている時もある。

 何やら秘密もあるらしいが、聞いてものらりくらりとかわされてしまう。

 

 ……もう少し、話してくれてもいいじゃないか。幼馴染みなんだし。

 

 ……とにかく、だ。

 

 彼のことを、もっと知りたい。

 

 だから私、八神はやては古夜晃一という人間について、知り合いに聞いてみることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 シグナムの場合

 

「古夜ですか?」

「せや。シグナムから見てどうなんかと思ってな」

 

 まずは一番身近なシグナムから聞いてみた。

 

「私は、模擬戦のことしか語れませんが……」

「いいからいいから」

 

 私は晃一君とは模擬戦を滅多にしないから、それはそれで貴重だ。

 

「そうですね……古夜と戦う時は、毎回が初見のようで、楽しいです」

「毎回が初見?」

「はい。戦い方が戦う度に変わるのです。当然のことですが、人は戦いなれていくと共に自分の戦い方というものを完成させていきます」

「まあ、せやな」

「ですが古夜は、戦いなれることはあっても、完成されていくという気配が無いのです。毎回新しい技を繰り出し、戦い方が変わる。もちろん、古夜は近接が中心ではありますが」

「なるほど」

 

 確かに、晃一君はいつも新しい技を使っている気がする。あまり使えそうになかったり、えげつない技だったりと様々だが。

 

「もっと言えば、戦っている最中にも変わります。戦いの中で成長しているというよりは、戦いの中で別人になっているのです」

 

 シグナムの言う別人とは、見違えるように成長しているということではないのだろう。戦い方が別人のものになる、ということか。

 

「ですから、読みづらい。だからこそ、戦っていて楽しいのです」

 

 目を爛々とさせながら語るシグナム。相変わらず、バトルジャンキーである。

 

 

 

 

 

 恭也・忍夫妻の場合

 

「晃一君?」

 

 今度は翠屋にて、なのはちゃんのお兄さん達に聞いてみた。

 晃一君は翠屋の常連だし、最近はバイトを始めたらしいので、話す機会は多いのではないだろうか。

 

「気になる彼について知りたいのね?」

「ぅえっ!?」

「こらこら忍。あまりからかいすぎるなよ」

 

 不意打ちだった。どこを打たれたかとか、忍さんの真意については、まあ、流そう。

 

「晃一といえば、修行の量がすさまじいところ、だな」

 

 恭也さんが言う。……うん、私もあの特訓には色々言いたい。ぶっとんでるのも本人は分かってるみたいなのに止めないのだ。心配するこっちの身にもなって欲しい。

 

「あの修行のお陰か、単純な身体能力なら、そのうちに俺や美由希を追い越すかもしれないところまで来てるな。……ただ」

 

 恭也さんはそこで言葉を区切る。

 

「その分、体を壊さないか心配ではある。……あいつはかなり気を使ってるようだから、大丈夫だとは思うが」

 

 恭也さんの言う通り、無茶をするわりには身体を壊さないよう自分で治療魔法をかけてるようだった。

 

 さて、忍さんの場合はどうだろう。

 

「そうねぇ……ソウルメイト、かしら」

 

 あ、忍さんもその認識なんですか。

 

「ロマンというものを良く理解してるわ。ネタを振ればネタで返してくれるのは、話していて楽しいわね」

 

 晃一君も前に同じようなことを言っていた気がする。

 

「私達の体質のことも、まったく気にしなかったしね。心置きなくすずかのボディーガードを頼めるし、助かるわ」

 

 確かに。すずかちゃんの体質について聞いたとき、私達は皆驚いた。晃一君も驚いてはいたらしいけど、驚きの度合いというか、ベクトルというかが、私達と違っていたみたいだった。

 

「こーいち?」

「あら雫、どうしたの?」

「こーいちってきこえた」

 

 話してると、いつの間にかちっちゃな子が近くに来ていた。恭也さん達の子供、雫ちゃんである。可愛い。可愛い、けど。

 

 ……まったく気配を感じなかった。何それ怖い。

 

「こーいち、いる?」

「残念、今日はいないわ」

 

 忍さんの言葉を聞いてしゅんとなる雫ちゃん。何この子、天使か。

 

「雫はほんとに晃一君になついているわね」

「俺よりもなついてそうで、少々心配だが」

 

 恭也さんが苦笑する。

 そういえば、何故か晃一君は雫ちゃんに良くなつかれている。ヴィータとも直ぐ打ち解けていたし、もしかしたら、小さい子の扱い方が巧いのかもしれない。

 

 ――別にヴィータが子供とか思っとるんやないんやで?

 

 

 

 

 

 なのは・フェイトの場合

 

 今度は私の魔導師仲間であり親友、なのフェイコンビだ。

 

「晃一君かぁ~」

 

 魔導師としての彼を知ってる二人の印象はどうなのだろう。

 

「たまに、すっごく大人っぽく見えるよね」

 

 なのはちゃんが言う。

 

「なんといいますか、お兄ちゃんと同じ雰囲気に感じる時があるといいますか」

「うん、確かに」

 

 うん、私も同感だ。なのはちゃんは特にあの事件で晃一君にお世話になったから、余計にそう思うのだろう。

 

「フェイトちゃんは?」

「私は……えと、その……」

 

 少し言いづらそうなフェイトちゃん。

 

「その……苦手ってわけじゃないけど、凄いびっくりした時があって……」

 

 これは珍しい。なのはちゃんも意外そうな顔をしている。理由が気になる。

 

「その、私が何かされたわけではないんだけどね。あの事故の時、クロノに頼まれて、晃一のところにお見舞いの品を届けに行ったことがあったんだ」

 

 あの事故とは勿論、なのはちゃんと晃一君が入院した時のことだろう。

 

「私が病室に入ったとき、晃一は寝てたんだ、ぐっすり。それでお見舞いの品を置いて、何となく、晃一の寝顔を見てたんだけど」

 

 晃一君の寝顔はレアである。お泊まり会には絶対参加しないし、入院中も人と会うときは殆ど起きてたようだった。私も彼の意識が無かったときしか見たことがない。

 

「ちょうどそこで、晃一が起きたんだ。……それで、その時の晃一が、その……寝起きが悪かったみたいで」

 

 その時のことを思い出しているのか、フェイトちゃんが腕をさする。

 

「すごい無機質な目でこっちを見て、聞いたことがないくらい低い声で、『誰?』って言われて……」

 

 思わず敬語で自己紹介をしてしまったらしい。直ぐ後に晃一君が覚醒したらしく、その後はいつも通りだったらしいが、どんだけ恐かったのだろう。

 

「でもフェイトちゃん結構晃一君と模擬戦してるよね」

「せやな」

「晃一との接近戦は参考になるから」

 

 それはそれ、これはこれらしい。

 

 

 

 

アリサ・すずか・透の場合

 

「はやてが一番知ってるんじゃないの?」

 

 アリサちゃんに言われた。一番知ってたいとは思うけど、晃一君を見てると、何か自信が無くなってくるといいますか。

 

「そういえば、学校での晃一君ってどうなのかな」

 

 それだ。さすがすずかちゃん。丁度相良君もいる。

 

「つってもなー。アリサ達が知ってる小学校の頃と殆ど変わってねーぞ?」

「基本的に自分からは話しかけず、独りでいる感じ?」

「そうそう。基本独りでいるのに、浮いてるわけじゃないんだよなあ。ありゃすげーわ」

 

 それはきっと、無愛想というわけではないからだろう。話しかけないだけで、話しかけられたら丁寧に返事をしている。悪印象を抱かせないようにしている。大人の対応というやつだ。

 

「あと、そういえば、この前告白されてたな」

「「「何それ詳しく」」」

 

 えなに晃一君が? 告白された? 女子?

 

「いやーいつも通り晃一にからみに行ったらさ、あいつが翠屋のお客さんの内の一人に告られてんの見ちゃったんだよ」

「かわいい?」

「年は?」

「学校は?」

「ちょっ、食い付きすぎ」

 

 質問攻めにした結果、告白は断ったということが分かった。『誰かと付き合う気がない』とのこと。修行優先なのかこら。

 

「ていうか、晃一ってそもそも空いた時間何してんだ?」

 

 魔法のことを知らない相良君が言う。修行か、魔法関係の仕事のはず、だけど。

 

「私生活が気になるね」

 

 激しく同意。

 

「この前はSEENAの新曲聞いてたけど、あの曲、探しても見つからないのよね」

「草薙まゆこのサイン色紙も持ってたよね」

「あの銀髪のお姉さんとの関係も気になるな」

 

 謎が謎を呼んでいる気がする。

 

 

 

 

 

 

 色んな人に聞いてみたけど、収穫があったのか無かったのかは微妙なところだった。『分からないことが分かった』的な部分も多い。

 

「なーんで教えてくれんのやー」

「まあまあいいじゃないか。謎の多い人の方が魅力的だろう?」

「かっこつけんなや」

 

 まあでも、今のこの距離も心地いいし。

 

 しばらくは、このままでもいいか。

 




ここで一旦、区切りとなります。高校編はカットの予定。
正直ここまで続くとは思ってませんでした。皆様の感想や評価のおかげです。本当にありがとうございます。
これからもエタらないよう頑張ります。

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