魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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3話 旅行をする

「馬鹿じゃないの?」

 

いきなり罵倒とはなんですか。

 

「5才の子供が山にひとりで籠りたいとか、イカれてるわ」

 

 ひどい言われようだ。まあ、その通りだとは思うけど。

 

 無人世界でサバイバル生活できないかなってロッテリア姉妹に聞いてみたらこれだよ。

 

「魔法だってまだまだ未熟なのに、焦るんじゃないの」

 

 そうなんだけどさあ。

 

「馬鹿言ってないでとっとと準備しなさい」

 

 はい。何の準備かというと、魔法の資質の検査とのこと。

 

 ミッドチルダっていう異世界で魔力量調べたり魔力変換資質、簡単に言うと属性魔法の適正を調べたりするらしい。

 

 初の異世界旅行である。正確には次元世界っていうらしい。

 

「どうやって行くの?」

 

「転移魔法で近くの次元航行艦に飛んで、ミッドチルダまで乗せてもらうのよ」

 

 次元航行艦とな。

 

「そ。次元空間航行艦船アースラ。知り合いがそこの提督をしてるの。あんたの兄弟子も居るはずよ」

 

 兄弟子が居たんすか。初耳なんだけど。

 

「クロスケっていってね。頑固だけど弄り甲斐があるのよ」

 

「確か今年執務官試験を受けるって言ってたわね」

 

 執務官って?

 

「事件の捜査で現場の指揮をとったり、裁判にも関わったりするわね。簡単に言うとエリートよ」

 

 随分と簡単に言いましたね。

 

 てか仕事多そうだな。クロスケって何才よ?

 

「たしか今、11才だったかな?」

 

「管理局がどう考えてもブラックな件について」

 

 こっちじゃ元服すらしてない歳じゃないですか。

 

「長く続く、管理局の問題なのよ。人材不足でね」

 

 へえー。まあ、異世界には異世界の事情があるってことか。

 

「そろそろ行くわよ。こっちに来なさい」

 

 ほーい。

 

 お、すげえ。結構大きめの魔法陣。

 

 うわっ!! 眩しい! 急に光った! 目が! 目があああああ!

 

 

 

 

 

 気がついたら景色が変わってた。

 

「知らない天井だ」

 

「涙目で何言ってんの?」

 

 フラッシュに目をやられたんだよ。

 

 

 

 

 

 そんなわけでアースラの中。提督のリンディさんにご挨拶。

 

「久しぶりね、リンディ。元気?」

 

「ええ、元気よ。久しぶりね。そちらの子が、新しいお弟子さんかしら?」

 

「そうよ。ほんとに無茶ばっかするんだから」

 

 …………髪が、緑色、だと?

 

「こんにちは。あなたのお名前は?」

 

 それに何この部屋。ジャパン文化を履き違えてない? どこのエセ日本通外国人だよ。

 

「何ボケッとしてんの」

 

「……はっ! 古夜晃一5才です。どうぞヨロシク」

 

 インパクトが大きすぎて呆けてたわ。

 

「ふふっ、よろしくね」

 

 穏やかに笑うリンディさん。美人やなあ。

 

「クロスケの調子はどうだい? 執務官試験、受けたんだろ?」

 

「ええ。……でも、落ちちゃってね。今は、大分荒れてるの。エイミィが一生懸命慰めてるわ」

 

「あちゃー。やっぱ厳しかったか」

 

「手応えはそれなりにあったみたいでね。尚更悔しかったみたい」

 

「そっかあ、今回はちょっかい出すのは止めて、そっとしとこうか」

 

 落ちてしまったのかクロスケよ。まあ、どんまい。

 

「この後はどうするの?」

 

「時間に余裕はあるし、ちょっとこの子を鍛えようと思ってるわ。訓練室は空いてる?」

 

「ええ。場所は分かるわね?」

 

「もちろん。行くわよ晃一」

 

 ここでも修行ですか。いいぜ、やってやんよ。

 

 

 

 

 

 てなわけで、訓練室。なんと今回はロッテリア姉妹と実戦訓練だそうで。

 

「準備はいい?」

 

「もうちょい待って」

 

 いきなり訓練用のストレージデバイスを渡されて戸惑ってる。デバイスってのは、持ち主の魔法の補助をしてくれる、「魔法の杖」のことである。一人じゃできない魔法もできるようになったりするとのこと。

 

 ちなみに今俺ができんのは、射撃、誘導弾、身体強化に治療魔法。基本的な魔力の操作のみ。

 

「もういいでしょ。……それじゃあ、始め!」

 

 ロッテは審判をしてくれる。そこはかとなく心配なんだけど。

 

 試合開始。身体強化をかけて、アリアに突っ込む。

 

 おお、確かにいつもよりも力が漲ってる感じがする。デバイスすごいな。

 

 そしてアリアはというと、空中に飛んだ。……って、え?

 

「アリア飛べたの!? ていうか、飛ぶのありなのかよ!」

 

 初めて知ったよ! つくづく魔法すげえな。そしていきなり超不利になったんだけど!

 

「無しとは言ってないでしょ。はい攻めるわよー」

 

 誘導弾を4,5個操って撃ってくる。

 

 目を凝らして、弾道を見極める。一番に飛んできた弾を避けて、それと同時にこちらからも攻める。

 

「フォトンバレット!」

 

 初球の射撃魔法。誘導弾のように操る必要はないので、スピードは出せるし、段数も増やせる。

 

 俺の撃ったレモン色の弾がアリアに向かってく。

 

「甘いわ!」

 

 アリアは空を飛び回り、全ての弾を避ける。2発目、3発目が来る。先に来た方をかわし、もう片方はデバイスで受け止める。畜生、重いなっ。

 

「ほら、当たるわよ」

 

「ぐっ!?」

 

 痛っ! どっからだ!?

 

「誘導弾なんだから、避けた弾にも意識は残しておきなさい」

 

 避けた1,2発目か! クソッ、忘れてた!

 

「まだ残ってるわよ」

 

 弾は追加されて襲ってくる。

 

 跳ね回りながらデバイスで防御し続ける。攻める余裕なんざない。

 

「攻めてこないと勝ちの目は出ないわよ」

 

分かってて言ってんなちくしょうめ。

 

 ……どうする? このままじゃジリ貧だ。アリアの言う通り、なんとかして攻めなければ。だが、アリアは空中だ。この距離じゃあ、フォトンバレットはさっきみたいに避けられる。誘導弾を使うか? 俺の練度で当てるのは難しいな。

 

 やっぱり、空中のアリアになんとかして近づく必要がある。飛行魔法は使えない。全力で身体強化して跳べば……厳しいかな。……いや、待てよ?

 

 ……覚悟を決めるか。

 

「っぐうっ!」

 

 全力で身体強化をする。そっちに集中する分、防御は疎かになる。どんどん当たる。いだだだだだだだ!!

 

「もう限界かしら?」

 

 言ってろ。吠え面かかせてやる。

 

 誘導弾の間を掻い潜り、距離を詰めていく。そして、俺はアリアに向かって思いっきり跳んだ。

 

「足りないわ、これで終わりね」

 

 やはり高さが足りない。アリアが笑っている。

 

 ……いいや、こっからだ!

 

「ぅお おォ!!」

 

「なっ!?」

 

 俺は足元にプロテクションを展開、それを足場にしてもう一度全力ジャンプ。二段ジャンプである。

 

 アリアは飛行魔法が使えないので極端に距離を詰められることがないと思っていたはずだ。それに俺は防御魔法は習ってなかった。プロテクションを使うとも思ってなかったはず。デバイスさまさまだ。

 

 すぐ目の前に、驚いたアリアの顔。

 

 今しか、ない!!

 

 強くイメージしろ、あの技を。重要なのは、回転、威力、留める。手に魔力を。集中しろ、他のことは考えるな。魔力の操作に意識の全てを。この一発に、全部の魔力をつぎ込め!

 

「 螺 旋 丸 ! 」

 

 

 

 

 

 どうだ!!?

 

「……惜しかったわね。いい攻撃だったわ」

 

 目の前にはプロテクション。……そりゃあ、アリアも使えて当然、か。

 

 俺の攻撃は、届かなかった。

 

「……ちっ、くしょう……め……」

 

 やべ、魔力、残って、ねえ。

 

 ……あ、着地のこと、考えてなかった。

 

 これは……本格的に……マズ……

 

 そこで俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 目の前で、魔力を使い切って気絶した晃一が落ちていく。

 

「ロッテ、お願い」

 

「はいよ。……っと」

 

 ロッテに頼んで、晃一をキャッチしてもらう。

 

「いやー、最後のは結構焦ってたでしょ?」

 

 ニヤニヤしながらロッテが話しかけてくる。

 

「……そうね、ちょっとヒヤッとしたわ」

 

 飛行魔法は教えてなかったし、デバイスを使っても近づかれることはないと思っていた。まさか、あんな特攻をしてくるとは。

 

 プロテクションを足場にするなんてね。防御魔法自体初めて使ったはずなのに、本当に無茶をする。

 

「……にしても、こいつの攻撃、思った以上だったね」

 

「ええ。予想以上の衝撃だったわ」

 

 最後の攻撃。とっさのことだったので手加減してなかったのに、私のプロテクションにはヒビが入って砕かれる寸前だった。

 

「掌に魔力を圧縮、だけじゃないわね」

 

「そんなので破られるほど、私の防御は甘くないわ」

 

 ということは魔力を操作して、それを圧縮、か。それなら私にもできるかもしれない。……でも、気になる点がもう一つある。

 

「あの魔力の玉は青色だった」

 

 今まで晃一が魔法を使う時、魔力光は鮮やかな黄色だった。魔力光の色は変わったりしない。この子のレアスキル、なのだろうか。

 

「ほんとに、変な子だよねー」

 

 まったくよ。

 

 父様から魔法を教えてやって欲しいと頼まれた子は、はっきり言って変な子だった。

 

 なんというか、言動の予想がつかないのだ。年相応にはしゃいだり、妙に達観してみせたり。魔法の才能は無いと思っていたら、急にコツを掴んだり。

 

 今回の模擬戦もそう。突然予想外の動きをして、教えたことのない魔法の使い方をしてくる。

 

 ただ、

 

「面倒見てて、退屈はしないわね」

 

 どうなるか分からない。だからこそ、将来が楽しみな子だ。

 




この主人公、全然勝てねえな(笑)

戦闘シーンって書くの大変ですね。おもしろい掛け合いなんかも書けるようになりたいです。

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