朝。早く起きる。
「…………」
寝起きはあんまりよくない。眉間にしわを寄せたまま顔を洗いに洗面所へ。
「!? ……ああ」
鏡を見て自分の顔に驚く。未だに慣れない。
癖のない黒髪。二重にタレ目であまりやる気があるようには見えない。そしてオッドアイ。真っ赤な左目が激しく自己主張している。
パーツひとつひとつのわりに整って見えるのは母方の血のお陰だろう。
『古夜晃一』の母親は地球出身ではなく、どっかの魔法世界の生まれだったらしい。遺影に写っていたのは西洋風でオッドアイの美人さんだった。俺の目はこっちの血のようだね。
父親の方? まあ、日本人って顔だったよ。こっちがオッドアイだったらさぞかし似合わなかったろうね。管理局で出会っての職場結婚だそうだから、よく捕まえたものである。
閑話休題。
顔を洗い、ジャージに着替えたら朝のマラソンである。勿論、重りありありで。
朝のさっぱりとした空気の中、走る。
「お、晃一じゃねーか」
「お、ヴィータにザッフィーじゃないか」
「ザッフィー言うなと何度言えば」
朝の散歩中のヴィータ達に遭遇することもある。よくある。
「相変わらず阿呆みたいに鍛えてんな」
「阿呆とは失敬な」
これでも足りないくらいだと考えてるんだけど。
「そういえば、シグナムが模擬戦をしたいと言っていたぞ」
「まじですかい」
ザッフィーから天国行きのチケットを渡された。
「大袈裟だな。最近は良い勝負するようになってきたじゃねーか」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだがね」
わりと命懸けだから嫌なのよ。
まあ、色々と試すのにはもってこいだから、今度受けましょうか。
ランニングが終わったら朝食を食べ、学校へ。聖祥はスクールバスがあるが、俺は使わない。徒歩での登校である。
今日何かあったっけ?
『進路相談の面談がありますね』
面談か。懐かしいね。やったやった。
「古夜は……高校変えるのか?」
「はい」
進路指導室にて面談なうである。
「風芽丘か……レベルの高いところだが、なんでまた?」
「野郎だらけの環境に嫌気が差したので」
「お前先生なめてんだろ?」
結構重要だと思うけど。やっぱり華がないとね。ぎぶ、みー、おなご。
「で、真面目な方の理由は?」
「自分、工学系の仕事がしたくて。聖祥だと、工学部がありませんから」
エスカレーターで大学まで行かないのであれば高校は変えた方がいいかなって。高校も聖祥にする意味があまりないだろうし。
「意味がないって……。あながち間違ってないが……」
魔法とか環境の影響で、理系科目に関しては明らかに前世より出来る。それを活かさない手はないしね。
「はあ……先生お前のことがよく分からんよ」
「愚痴なら聞きますぜ」
「あまりふざけるなよ……削ぐぞ?」
「ヒッ」
放課後。部活に入ってない俺は、修行をしに行くか、翠屋に行ってから修行行くかである。今日は気分的に翠屋だな。
「という訳で美由希さん、いつもので」
「君頼むのランダムだよね……」
そうだっけ。そう言われればそんな気もする。
ここに来る客は聖祥の生徒が多い。放課後という事でお客もちらほらいるが、ピーク時に比べたら余裕がある。
カウンターの美由希さんと話をする。
「美由希さんのコーヒーも美味しいですね。さすが次期店長」
「たくさん修行したからね。お母さんにはまだまだ勝てないけど……」
最近は美由希さんはウェイトレスではなく厨房で働くことが多い。士郎さんによると、次期店長、桃子さんの後釜は彼女だとか。昔は料理下手だったが、桃子さんにしごかれたらしい。
「私、恭ちゃんの修行より辛いものはないって、思ってたんだ……」
遠い目になりそう呟く美由希さん。この戦闘民族のヒエラルキーの頂点が桃子さんとか、恐ろしいな。
「あ、そうだ晃一君。週末またうちの道場で模擬戦したいって」
天国行きチケットおかわりですか。
恭也さん魔法使ってないのに近接戦ならシグナムに勝ちそうだから怖い。だいたいなにあの神速ってやつ。見えなくなるとかマジ瞬歩じゃん。
「そんなこと言って初見で反応した晃一君は何なのさ……」
反応しただけで普通にやられたけどね。俺は速いのに慣れてましたから。八門遁甲を使ったときあれに近い状態になったし。
魔法無しであの速度とか。バグキャラじゃん。
「そういや美由希さんは神速出来るんですか?」
「数秒くらいなら」
もうやだこの家族。
翠屋に行った後はおまちかねの修行である。
夕飯前までひたすら筋トレ。昭和式熱血トレーニングだ。
素振りに正拳突き、最近は蹴りの訓練もしている。
ただひたすらに腕を、剣を、脚を振るう。一つ一つの動作を迅速に、でも疎かにしないよう意識する。回数はだいたい一万回が目標。夕飯までの時間を考えると無理なんだけどね。でも続けてればいつかは全部一万回こなせるようになるかもしれないじゃん。ネテロみたいに。
終わったら、直ぐに治癒魔法を使って休む。疲労を残さないようにするためである。俺の資質じゃ限度があるけどね。
俺はスポーツ医学になんて詳しくはない。ただ時間は有限なので、修行はとにかく密度を濃くするようにしている。トレーニングも、休息もだ。感じとしては、アイシールド21のデスマーチだろうか。
日が暮れてきたら夕飯の買い出しへ。今日はなに食べようか。メニュー考えんのめんどくさいんだよね。栄養バランスにはある程度は気を使わなきゃいけないし。なんだ俺、ボディビルダーにでもなる気か?
夕飯を食べ終わったらまた修行。
「よし、やるぞージェイド、グリーヴァ」
『はい』
『いきます』
空中にて、グリーヴァを構え、魔力を集中させる。
――凍符「パーフェクトフリーズ」
色とりどりの弾幕が俺の前方に現れ、俺めがけて襲いかかってきた。
それに驚くことなく、身体強化をかけ、かわしていく。
一つ一つの弾の動きは全て直線。
だが向きは違う。
弾をできるだけ多く目に捉え、弾筋を読む。どれが当たるか。どこに避けるか。考え、動く。
少し避けていたところで、突然弾幕が停止する。その状態のまま、蒼色の次弾がやってきた。
弾が静止しているせいで、動きが制限される。
避けにくくなるが、隙間を縫うように動き続ける。
そこからもうひとつの変化。静止していた弾幕が動く前とは違う方向に動き始めた。
周り全体から弾幕が襲いかかる。
何回か当たりそうになるが、グリーヴァは使わない。
首を曲げ、体を捻って回避する。
一度全てを避けきってからは、先程のパターンを繰り返しである。
『残り10秒』
ジェイドからのアナウンス。それを聞き流しながらも、動くのは止めない。
三次元に向かってくる弾を避けるのには、空間を三次元に把握しなければならない。前後左右、そして上下。故に意識を研ぎ澄まし、全ての弾を意識する。
やがて、
『2……1……0、終了です』
カウントがゼロになったところで弾幕が消えた。
『お疲れさまでした』
身体強化を止め、地上に降りる。
今のは修行のひとつ。自分に向けて弾幕を張り、自分で避ける。スペルカードの動作確認と、回避訓練である。
『このレベルは余裕を持って避けられるようになりましたね』
「つっても、弾道が真っ直ぐだからな」
出来て当たり前という感じである。
『弾幕の方はどうでしたか?』
ジェイドが聞いてくる。
んー。チルノのはほぼ完璧に再現できたと思うんだよね。
スペルカードの再現というのは、他の近接技の再現よりもいくらか楽だ。方法が、魔力弾の動きをプログラミングしていくという簡潔なものだからである。
勿論、動きに変なところがでないよう、細かい調節は繰り返す。
「じゃあ次、近接技だな」
これが難しい。まだまだ模倣の域を脱してないんだよね。螺旋丸とかはやり方がわかってるけど、それでも失敗は多いし。三刀流とかは単純っちゃ単純だけど、技として成り立たせるのが大変だ。
何回も何回も同じ事を繰り返す。技として昇華させるために。確実に成功させられるように。
『マスター、そろそろ時間です』
「ん? もうか、早いな」
夜も大分ふけてきた頃に帰宅。
帰ったら風呂に入って汗を流す。少しの間、アニメやゲームをする。魔法で体を癒しながらだ。
アニメやゲームは、前世とは若干違っていて面白い。技名だったり、ストーリー進行だったり、名言だったりだ。前世と通じるものもあるのでネタが分かるってのはいいな。
睡眠時間は取りたいので、あまり遅くなりすぎないうちに寝る。
「おやすみ、ジェイド、グリーヴァ」
『良い夢を』
『夢日記はつけますか?』
つけるわけないだろう。なぜ聞いたし。怖いわ。
わたくしはこんな毎日を過ごしております。
聖祥大に工学部がないってのは独自設定です。
作者的に聖祥大は女子大ってイメージだったので工学部はないのかなと。
……あれ?これってすずかも聖祥大じゃなくなる?