少し詰まっておりました。
「もうすぐ、卒業やねえ」
そうですねえ。
もう冬も明けそうな頃。
翠屋でまったりしているとはやてたちが来たので、相席で寛いでいる。
高町とテスタロッサは居ない。はやて、月村、バニングスの三人である。この組み合わせは地味に珍しい気がする。
あ、そうそう。高町は無事に退院した。今は現場復帰の前段階的な感じの事をしているらしい。
恭也さん曰く、体も少し鍛え始めたんだとか。運動神経が無くても、体を鍛えるのは大事だから、良いことだな。
テスタロッサは執務官試験の勉強をしているそうだ。前に一回受けて落ちてた。
まあ、高町の事故のすぐ後だったから、タイミングが悪かったとしか言いようがないね。
それにクロノだって一回落ちてるし。
まあ、次は受かるんじゃないかな(適当)
閑話休題。
「中学生になったら、学校で晃一君と会うこともなくなっちゃうね」
月村が言った。
聖祥は中学から男女別の校舎となる。だから、月村の言う通り、学校で会うということは殆んど無くなる。
一部のイベントは男女混同で行うらしいので、全く会わないわけでは無さそうだが。
「まあ元々学校でもそんな話さないし、変わんないだろ」
「またあんたはそういうこと言って」
ジト目でそう言うバニングス。
だって、月村とはやては同じクラスだったから話すこともまだあったが、バニングスなんかは翠屋で会った時くらいしか話さんだろう。
「他に話す人は相良くんくらいやな」
「まあ、あいつはなんだかんだいって長い付き合いだし」
ずっとクラス一緒だったわ。
あいつも飽きずによく話しかけてきたな。
「そういえば、晃一君は相良くんに魔法のことは話さへんの?」
「え? 話す必要があんの?」
「即答なんだね……」
別に隠してるつもりは特にないから、見られたら話すと思うけど。
でもこっちから話すようなことでもないだろうし。
「話したところで、『で?』ってなんない?」
「それは晃一君くらいじゃないかな……」
そうかね。割りと皆そうだと思うが。
あ、コーヒー無くなった。
「すみませーん、おかわりお願いします」
「はーい」
美由希さんが返事をしてきた。
「中学行ったら唯一の友達になるんやで? それでええの?」
「どうせクラスは別になるだろうし」
でもあいつのことだから、それは関係なく絡んでくるんだろうな。
「あんたってやつは……。透もよくこいつと話せてたわね」
「高町並みの不屈の心だったな」
結構ぞんざいに扱ってたんだけどな。マゾなんだろうか。
ちなみに透というのは相良のファーストネームである。
「はい、コーヒーお代わり」
「どうも……ってあれ、忍さん?」
コーヒーを運んできたのは今は翠屋を休んでるはずの忍さんだった。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
月村が驚いた顔で忍さんに尋ねた。
「ちょっと、家で大人しくしてるのにも飽きちゃってね」
「あんま恭也さんを困らせないようにして下さいよ」
「大丈夫大丈夫」
忍さんは翠屋のチーフウェイトレスだったが、現在は休んでいる。その理由は忍さんを見れば一目瞭然。
お腹が大きく膨らんでいるのだ。
「あとどんくらいで出産でしたっけ?」
「2ヶ月ないくらいね」
丁度中学に入ったくらいに出産の予定なのか。
恐る恐るといった感じで忍さんのお腹を撫でながら、バニングスが尋ねた。
「名前は、もう決めたんですか?」
「ええ。『雫』って名前にしたの。かわいいでしょ?」
「はい。とっても」
月村雫、いや、正確には高町雫か。どんな子になるのかね。金髪碧眼のスーパーサイヤ人とかでもおかしくない気がする。
「それはそうと、晃一君。女の子三人とお茶してるなんて、モテモテじゃない」
ニヤニヤしながら忍さんが言ってきた。
「恭也さんほどじゃないでしょう」
俺は特に反応することもなく返す。
あの人、かなりのイケメンで頼りになる人だから相当モテるんだろうな。
リスティの知り合いも何人かは恭也さんの事が好きだったらしいし。
「晃一君はからかい甲斐が無いなあ」
「いやそんなつまらなそうな顔されても」
俺はからかわれるよりからかう側の人間だからな。
「そういうのは高町とかテスタロッサの役でしょう」
「そうね。なのはちゃんもフェイトちゃんも、毎回すごくかわいい反応してくれるわ」
毎回て。会う度からかってるんですか。
「すずか達、男子から人気でしょう?」
「そうですね。美少女五人組って認識されてるらしいですよ」
「ふふん、なんせ私のかわいい妹だからね」
俺の言葉を聞いて忍さんは誇らしげに胸を張った。
「その割りに、男子は話し掛けてこないのよね」
「私たちは特に拒絶してるつもりはないんだけどね」
そんなことを言う月村にバニングス。
「相良くんも晃一君と知り合うまでは話したことなかったもんね」
そういやそうだっけ。
「まあ、お前らの場合、男の方が気後れして寄ってこないだろうな。全員かわいいわけだし」
仲良し五人が五人ともレベルが高い。内二人はモノホンのお嬢様。残りの三人は魔法使い。なんだこの五人組。
近寄り難いんだろう。本人たちにその気は無くても。
相良もそんなことを言ってた気がする。
話すようになってからは気にしなくなったようだが。
そう思ってると、場が静かになっているのに気付く。
どうしたのかと見ると、三人がポカンとした顔でこちらを見ていた。
「何さ?」
「……晃一君の口から、かわいいって言葉が出てくるなんて」
「……あんた、普通に人のこと誉められたのね」
「……心臓が止まるかと思ったわ」
「よろしいならば戦争だ」
何を言っとるかこの小娘どもは。俺だって誉めることくらいできるわ。
バニングスとはやてはともかく、月村まで言うか。
「晃一君は口説くのが上手そうね」
「そこは誉め上手と言って頂きたい」
誑しみたいに言われるのは不本意です。
翠屋からの帰り。
俺とはやては夕飯の買い物に来ていた。
「なあ、晃一君」
「どうした?」
買い物が終わり、袋を両手に持ちながら歩いていると、
「私、中学校を卒業したら、ミッドチルダの方に引っ越そうかと思ってるんよ」
不意に、はやてがそう切り出した。
「……もしかして、高町とテスタロッサもか?」
「うん。私は守護騎士の皆と、なのはちゃんはフェイトちゃんと暮らすつもりや」
はーん。
……高校には行った方が良いと思うけどなぁ。青春時代を捨てちゃあいかんでしょう。
「それでな、晃一君も、どうかなって」
「……」
どう、というのはミッドチルダで暮らさないか、ということだろう。
まっすぐにこちらを見てくるはやて。
「俺はミッドチルダで暮らす気は無いよ」
きっぱりと断らせてもらった。
「……そっか」
はやても断られるとは思ってたようだ。やっぱりかといったように笑う。
「言って無かったっけか。俺、嘱託の仕事は辞めるつもりなんだよ」
元々、グリーヴァを造る為の金が欲しくて、バイト感覚で始めたものだ。グリーヴァが完成した今、続ける理由は無い。
「気紛れにクロノとかからの依頼は受けるかもしれないがな」
それでも、管理局に所属するつもりはない。だから、ミッドに引っ越す意味が無いのだ。
「……じゃあやっぱり、今みたいに会うことも減ってしまうんやろうなぁ」
少しだけ寂しそうに、はやてが呟いた。
「何言ってんだ」
「え?」
一生会えなくなるわけじゃないだろうに。中学を卒業するまでは買い物で会うだろうし、卒業してからも俺は月村達とは違ってミッドチルダに遊びに行ける。
結ばれた縁は消えないって、侑子さんも言ってたし。意味は違うのかもしれないけれど。
「どうせ今日みたいにばったり会って、話をするんだろうさ」
「……そうかな」
俺はもう帰るぞ。
別れを告げて、はやてに背を向ける。
「晃一君!」
「何だ?」
「……中学生になっても、皆でお話ししよな!」
「……はいよ」
第3部、完!!的な。
次回からは時間が飛び飛びになると思います。
相良透君。ついにフルネームが明らかに。そして地味に原作キャラと仲良くなってるという。
学校では彼の方が主人公よりも原作キャラと話してます。