魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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主人公が説教もどきや助言をしてるときは、九割九分漫画やゲームの言葉だと思ってください。


23話 青空とエース

 高町の容態は、あまり良くは無かったようだ。

 刃物はバリアジャケットを貫通し、神経を傷つけてしまっていたらしい。

 医療技術は地球よりはるかに進んでいるので治りはするが、歩けるようになるにはきついリハビリが必要なのだとか。

 

 疲労の蓄積も祟った。

 

 高町は闇の書事件だけじゃなく、その前のジュエルシード事件の時からずっと無茶をし続けてきたそうだ。

 

 カートリッジシステムもエクセリオンモードも、幼い高町には大きな負担である。リンカーコアも酷使してきた。

 それが今回の怪我で爆発してしまったということだ。

 

 その為、精神面でも問題が残った。

 かなり動揺していて、危うい状態らしい。

 あそこまでの大怪我を負うのは初めてらしいのだから無理もないが。

 

 今は、ほとんど人に会わず、落ちつくのを待っている状態らしい。

 らしい、とつくのは俺自身入院しててリンディさんとかから聞いたからである。

 

 ちなみに俺や高町の怪我の原因は世間的には伏せられている。知っているのは魔法関係で親しい一部の人のみ。

 高町は将来有望な若手エース、俺は多少なりとも陸のトップと親交がある。変に話が広がらないように、リンディさんが根回ししてくれたのだ。

 

 俺は良いとして、高町の怪我のことは、あまり知られない方が良いだろう。この配慮はありがたかった。

 

 

 

 

 それから一週間ほどして。

 俺は無事、退院した。

 シャマルからはもっと安静にしてろと言われたけど、リハビリとかは地球でもできるし。

 経過観察に定期的に検査に行くのを条件に、俺は地球に帰った。

 

 

 

 

 

 そんなわけで大体二週間振りの学校。

 

「おお! 晃一! 久しぶり……ってなんだその怪我!?」

 

 教室に入った途端、相良が騒ぎだした。お前は相変わらずやかましいな。

 相良だけでなく他のクラスメイトも少しざわついている。まあ、右手右足に包帯がぐるぐる巻きにされてて松葉杖突いてんだから、無理はないとは思うが。

 

「どうしたの? 大丈夫?」

 

 月村が話しかけてきた。月村は原因は知らないが、高町が怪我したことだけは知っている。俺のも魔法関係というのは察したのだろう。

 

 そういうのも込みの心配といった感じだ。

 

「問題ない。ちょっとトラックに吹っ飛ばされただけだ」

「それで問題ないって言えるんだ……」

 

 

 

 

 

 利き手利き足の使えない生活というのはとても不便である。文字は書けないし、歩くのも大変だ。

 

「食べさせてあげよっか?」

 

 昼。慣れない左手での食事に苦労していると、月村がそう言ってきた。

 

「いやいやそれなんて羞恥プレイだよ」

 

 左手でもなんとか食えるし、遠慮しますよ。

 

「晃一お前すずかちゃんがあーんしてくれるチャンスを棒に振るのか!!」

 

 相良やかましい。

 

「くそぅ晃一ばっか……アリサちゃん俺にあーんしてください!」

「あン?」

「ちょっ」

 

 相良にガン付けるバニングス。惜しいけど違うね、それ。

 

 この通り、今は月村、バニングス、相良と弁当を食べている。

 

 はやて達魔導師組が皆居ない時はこのメンツで食べることが多い。クラスの関係上バニングスが一人になるからだ。寂しがりやなのである。

 

「何変なこと考えてンの? ぶっ飛ばすわよ?」

「ちょっ」

 

 あなたの機嫌悪すぎィ!

 

「あ、アリサちゃん、落ち着いて……」

 

 月村が必死に宥める。

 バニングスの機嫌が悪いのは、勿論なのは絡みである。

 バニングスに月村は魔導師ではないから、なのはが怪我をしたということしか知らないし、お見舞いにも行けていない。

 親友としては、気になるのは当然だよね。

 

「晃一! あんたは知ってんでしょ! 教えなさいよ!」

 

 教えろ、とは勿論高町のことだろう。

 相良が居るのにあんまその話に触れちゃダメでしょうが。気持ちはわかるけどさ。

 

「俺からは言えないよー」

「ぬああああああ!」

 

 首をガックンガックンやんのは止めて下さい。俺だって怪我してるんですよ?

 

 

 

 

 

 そんなことがあった放課後。

 修行に行こうかと思っていた時。

 

『マスター、通信です』

 

 ジェイドが通信を知らせてきた。誰だろうと思い見てみると、クロノ・ハラオウンとな。

 

「もすもすひねもす~どったのクロスケ?」

『突然済まないな、晃一』

 

 通信してきたのはクロノだった。アースラの提督となってかなり忙しい日々を過ごしてたはず。まさか雑談しようとかで通信してきたりはしないだろう。

 

『少し、話があってな』

「エイミィへのプロポーズの仕方とかだったらお断りだぜ」

 

 最近やっと付き合い始めたらしいよ。

 

『そんなんじゃない、それは自分で何とかする』

 

頬を赤くしながらもそう言う。ちっ。みんなしねばいいのに。

 

「で、話って? 今なら安くするよ?」

『金を取るのか』

「クロノって金の使い道なさそうだから」

『なんで僕は君の友人をやってるんだろうな』

 

 不思議だね。

 まあ、値段の話は冗談として、本題に入ろうか。

 

『なのはのこと、どうすれば良いかと思ってな』

 

 へえ、なのはのことか。

 

「何か問題でもあるのかい?」

『……中々、立ち直らないんだ』

 

 ほう。結構時間が経ったが、まだへこんでんのか。

 

『今まで、何があっても折れる事が無かったんだ。皆、どうしたら良いか分からなくてね』

 

 ふーむ、そうかい。

 

「特に、何もしなくて良いんじゃないか? 早く立ち直れば良いってもんじゃないだろう。時間を掛けるのが大切ってこともあるぞ」

 

 それはお前だって分かっているだろうに。

 

『それは、そうだが……』

 

 なんだい、渋って。

 

『せめて、愚痴を聞くくらいはしてあげてくれないか。良くやってるだろう?』

 

 確かにレジアスさんの愚痴を聞いてるけどさ。

 まったく、そこまで気にするか。

 

「過保護だねぇ、くろすけ」

『うるさい、自覚はしてるさ』

 

 ……しょうがないから、少しは気にしてあげるよ。

 

 

 

 

 

 それから少し時が経って、俺が怪我の経過観察に本局の病院にきた時。

 そのついでに、高町のお見舞いに来た。

 

「よっすよっす」

「あ……晃一君」

「辛気くさい顔してんなぁ、おい」

 

 病室に入って軽く挨拶をすると、高町は力のない声で反応を返してきた。

 確かに、見事に沈んでんな。

 

「ごめんなさい……私の所為でそんな大怪我させちゃって……」

 

 高町が俺に向かって頭を下げた。

 

「別に問題ないさ。この程度」

 

 下手なフォローをするのもいけないので適当に流す。

 

「……私とは大違いなの」

「俺はそういう鍛え方をしてたからな」

 

 毎日生傷絶えない修行してんだ。このくらいは余裕余裕。

 そう高町の発言に軽くフォローを入れる。

 

 それからは、特に俺が話したいこともないのでしばらく地球の方の近況報告をした。

 

 その間、高町はずっと薄く隈の入った目でこちらを見ていた。

 

「……みんなに迷惑かけちゃったの」

 

 話が一段落付いたところで、ポツリと、高町が呟いた。

 

「良いんじゃねえの? 俺なんて、お前よりはるかに周りに迷惑かけてるぞ?」

 

 前はリーゼ達に、最近はリンディさんやシャマルに。

 

「晃一君には怪我させちゃった」

「さっきも言ったろ、問題ない」

 

 まだ何か言いそうだったので、先んじて言う。

 

「俺の怪我のこと気にしてんならさ。愚痴りなよ。あいつらに話せないこと、あいつらだから話せないこと、沢山あるだろう?」

 

 高町の表情が強ばる。図星のようだ。

 ずっと一人で抱え込んできたから、他人に話す事が怖いのだろう。

 

「……でも」

 

 渋る高町。

 

「気まずいなら、壁に話してるとでも思えば良い。聞いたことは誰にも言わないし、ここを出たら忘れるさ」

 

 肩を竦め、そう、高町に言う。

 

 俺の言葉を聞いて。少し、視線を彷徨わせる高町。

 

 やがて、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

「……私ね、魔法と出会うまでは、自信の持てることが無かったの。将来のこととか、よくわからないまま過ごしてた。だから、ユーノ君と出会って、魔法と出会って……」

 

「運命だと思ったの。やっと、自分の誇れるものが見つかったって。これが私なんだって。……でも、失敗しちゃった」

 

「勝手に無茶をして、ここまで皆に迷惑かけて。フェイトちゃんにユーノ君、はやてちゃん達も頻繁にお見舞いに来てくれる。それが嬉しいけど、申し訳なくて」

 

「……こんなことならもう、魔法から離れるべきなんじゃないかって。管理局を辞めるべきなんじゃないかって。……そう思っちゃうんだ」

 

 今まで溜め込んでたものを、吐き出すように。

 ぐちゃぐちゃになった感情を整理できるように。

 そんな高町の話を、俺はただ、聞き続けた。

 

 

 

 そして、高町は縋るように聞いてきた。

 

「晃一君も、辞めた方が良いと思うかな?」

 

 ……大きな失敗をしてしまって、周りに沢山迷惑掛けて。それで魔法を捨てるべきなのか、ね。

 

 俺の個人的な考えを言うならば、失敗云々関係なく、管理局を辞めるべきだ。

 高町に限った話じゃない。はやてもテスタロッサも、クロノやユーノだって辞めるべきだと思っている。

 命を落とすかもしれない職場で働くには、まだ皆若すぎる。

 

 確かにこいつらは皆大人びている。ただ『大人びている』というのは、つまりは『大人じゃない』ということだ。大人に大人びているとは言わないのだから。

 

 あいつらは、俺だってそうだが、まだまだガキなのである。

 

 まあ、そんなことは言ったりはしないが。皆本気でやってるのだ。ガキだから辞めろと言うのは野暮というものだろう。

 ここでの回答には適してない。

 

 そう思い、俺が言ったのは、

 

「ソレはお前が自分で考えて自分で決めなきゃいけないよ」

 

 答えかどうかも怪しいものだった。

 

「……意地悪な答えなの」

 

 当たり前だ。他人にそこまで深く関わるようなことはしたくないからね。

 ま、軽い助言くらいはしてあげよう。

 

「家族だって、友人だって、全ては同じ。自分以外の誰かだ。だから、誰かの都合や助言じゃなく、お前にとって、魔法は必要なのか。考えるべきはそこだろう」

「……私」

 

 高町は、言葉に詰まったような顔になり、俯く。

 

「……ま、ユーノは、お前には空が一番似合うって言ってたけどな」

 

 前に言っていた。高町は他のどんな場所より、青い空が似合うと。

 

「……ユーノ君」

 

 様子を見ると、思うところがあるようだ。

 

「……でもそれ、ついさっき言ったことと矛盾してない?」

 

 高町がジト目で見てきた。少しは楽になったかな?

 確かに高町の言う通りかもね。お前が考えろと言っといて、ユーノの想いを教えてるんだから。

 

 まあただ、他の誰よりも高町を想っているあいつがそう言うんだ。

 

「教えといた方が良いと思ってね」

「…………」

 

 俯いたまま、何かを考える様子の高町。

 

 じゃあ俺はそろそろ帰りますか。クロノとの約束は果たした。

 

 

 

 

 

 高町は果たして、どんな選択をするのかねぇ。

 




煮え切らない答えをだしたり、話を聞くのがうまかったり。
主人公はいい意味でも悪い意味でもなのはたちより大人なんです。

そろそろ、他の人目線で主人公がどう見えるか書いた方がいい気がしますね。

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