20話 先輩とワーキング
週末。いつものようにバイトである。
月村邸の庭にある転送ポートに向かう。これのお蔭でミッドチルダに行くのがかなり楽になった。
「あ、晃一君。今週もバイト行くんだね」
転送ポートに着くと、月村が居た。月村家が所有している庭だから、いちゃいけないってことはないが。
「まあな。ここ最近、職場の先輩に色々教えてもらってるから」
デバイスが完成して特にバイトする意味もなくなったので、ちょっと前までは行ってなかったのだ。
「月村はなんでここに? あっちに用でもあんのか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだ。今、なのはちゃん達を見送ったところなの」
そういうわけね。の割には、なんだか落ち着かないみたいだけど。
「なんだ? 気になるとこでもあんのか?」
月村は少し悩んだ後、頷いた。
「……なんだか最近、なのはちゃんの様子がおかしくて……」
「高町の?」
高町とはクラスも違うから、滅多に顔合わせないんだよなあ。そういえば、はやても最近高町が働きすぎとか言ってたっけ。ヴィータが心配してるだのなんだの。
「なんていうか、焦り過ぎっていうか……ほとんど休んでないみたいだし」
んーそりゃちょっと不味いか? 疲労が溜まって失敗ってのはよくあることだけど。あいつは前線バリバリで戦ってるし、失敗がそのまま命に関わり兼ねないからな。
「まあ、その辺はクロノも考えてるだろ。いざとなったら無理矢理気絶させるとか」
「そ、それはちょっと……」
そうかね? あいつかなり頑固らしいし。言うこと聞かない奴には丁度良いと思うけどな。
まあ、俺に出来ることはないね。特に何かするつもりもなかったけれど。
ミッドチルダの首都、クラナガンに到着した。今日は航空武装隊の手伝いである。
「おっ、来たな問題児」
「人を見ていきなりそれはないんじゃないですかね、ティーダさん」
この人は最近よく仕事が一緒になるティーダ・ランスターさん。月村に言った、色々と教えてもらってる人とはこの人のことである。主に射撃魔法のコツなんかを聞いている。
「まったく、これだからギャル男は」
「お前俺には結構毒吐くよな? 大体、俺のどこがギャル男だよ?」
主に名前が。
「そこは置いといて、俺のどこが問題児なんですか」
命令違反だってしないし、仕事は真面目にこなしてるよ?
「問題児ではないかもしれないが、評判にはなってるぞ? 飛行魔法を使わずに俺ら空隊と同じスピードで空を跳ね回ってるって」
まじですか。俺の場合、飛行魔法よりそっちのが速く動けるんだけどなあ。飛行魔法は加速に時間がかかるから、長距離移動の方が向いてるんだよね。テスタロッサみたいに飛行魔法であんなに速くは動けないのです。
「なんでも陸士学校の奴らがお前の真似をして怪我しまくってるとか」
「それは御愁傷様です」
空中で、跳びたい方向に跳べるように足場に一瞬だけプロテクションを展開する。あんまり長く展開してるとそれだけ魔力の無駄になるから、難しいのはその辺だけだと思うけど。
「俺たちは守る為にしかプロテクションを使わないからな。数回は出来ても、実戦で突発的に使用できるように調整すんのは難しいんだよ」
それだったら、いっそのことその為の魔法作ってしまえば良いんじゃないか? まあ俺は出来るし、関係ないね。
「で、今日のお仕事は?」
「テログループの摘発。首尾次第では早く終われるぞ」
やれやれ、物騒な世の中だ。
クラナガンの郊外にあるとあるホテル。ここがテログループの本拠地らしい。
作戦メンバーは俺を含めて8人。調べでは敵は約20人。AAAランクが一人居るらしい。
「作戦は単純だ。一人を残して7人で突入。AAAの奴に当たった奴は一人で足止め。それ以外の6人で残りを潰す。良いな?」
最初の一人は逃げ道潰しと言うわけですな。
「準備は良いな? カウントするぞ」
「いけるな? ジェイド、グリーヴァ」
『勿論です』
『行けます』
「3」
カウントが始まる。グリーヴァを構える。
「2」
身体強化を掛ける。
「1」
軽く息を吐き、
「……突入!!」
作戦、開始。
窓を割って食堂らしき広間に突入する。広場に居たのは10人ほど。突入に驚いているうちに先制攻撃。
『シュートバレット』
近くに居た三人を狙い打つ。二人には命中した。
「っ!」
三人目には防がれた。オートのプロテクションか、厄介だな。ということはこいつがAAAランクの奴かな?
「当たりおめでとう! そいつ任せたぞ!」
隣のティーダさんがそう言い、俺が最初に当てた二人に追撃をする。俺ともう一人を分断したのだ。嬉しくない当たりだなぁ。
「くそっ! 管理局か!」
「ドーモ、ハンザイシャ=サン。バイトです」
犯罪者と向かい合う。
「さて、投降しなさい。お母さんが泣いているぞ」
「ガキがっ! ふざけんなぁ!」
男が魔法弾を乱射してきた。俺はテーブルの陰に隠れる。呆気なく破壊され、破片が飛び散った。威力が高い。盾にも出来ないな。やはりこいつがAAAランクのようだ。
破片に当たらないよう、その場から飛び退く。男がこちらを向く前に魔法弾を撃つ。
「効くかよ!」
またしても、プロテクションに阻まれる。だが今度は予想通りだ。動きを止めるのが目的。
男に突っ込む。
「グリーヴァ」
『はい。カートリッジ、ロード』
薬莢が宙を舞う。カートリッジの消費。蒼い魔力をグリーヴァが纏う。
時雨蒼燕流 攻式八の型――。
「篠突く雨!」
グリーヴァで男を薙ぐ。剣筋に追随するようにして飛び散る魔力の飛沫が男を襲った。
「ぐっ!?」
浅いな、掠った程度か。バリアジャケットの防御力を考えると、ほとんどダメージは入らなかっただろう。こいつ、それなりに戦闘慣れしているな。魔力量が多いだけでAAAランク認定ってのはないから、当たり前なのかもしれないが。
攻撃が掠ったのが気に入らなかったのか、男は舌打ちをする。そして、先程よりも量を増やして撃ち込んできた。
当たりそうないくつかをグリーヴァで切り捨てる。
「うぐっ!」
流石にこの近距離でこの弾幕は厳しい。一つ、被弾してしまった。バリアジャケットのお蔭でそこまで痛くはないが、このままでは不味い。
俺は一先ず空中へ逃げた。三次元に跳び回り、相手を撹乱する。
「おらおらどうしたぁ!」
男は調子に乗ってバンバン撃ってきた。こちらも負けじと魔法弾を撃つが、如何せん魔力量が違う。間合いの離れた射撃戦では押されてしまう。やっぱ近接戦だよね。
一旦弾幕が止んだところで地面に降りる。右手を前に突き出し、グリーヴァの切っ先を男に向ける。
「グリーヴァ」
『カートリッジ、ロード』
「なんだ? 特攻か? そんなの当たるわけ――」
男が喋り終える前に突進。その勢いのまま、グリーヴァを突き出す。カートリッジを消費して威力を高めた突き、つまりは牙突である。
バチバチと魔力が鬩ぎ合う。避けられはしなかったが。
「……ヒヤヒヤさせやがって」
三度プロテクションに防がれた。くっそ堅えな、おい。
「だがこれで終わ――」
まだ攻撃は終わってないぞ?
「ガトチュ・エロスタァイムッ!!!」
「がっ!?」
零距離での突き。上半身のバネを使って男のプロテクションをぶち抜き、ぶっ飛ばした。今度は牙突・零式である。
男が壁に激突し、壁が崩れる。手応えあり。確かに防御を抜いた。どんだけダメージが入ったかは分からんが無傷では済まないだろう。気絶しててくれたら嬉しいんだけどなぁ。
やったか?(確信犯)
「……こ、のぉ、くそやろぉがぁああ!!」
フラグだったか(すっとぼけ)。瓦礫の中からこんにちは。顔面を打ったのか鼻血を流し、目は血走っている。うわぁ、ぶちギレてらっしゃる。
まあ良い。
「チェックメイトだ、犯罪者」
「ふ、ざ、けるなああああ!!!」
男は激昂し、砲撃の構え。腐ってもAAAランク。喰らったら一溜まりもないだろう。
だが、
「あ……?」
唐突に男の頭が揺れた。意味がわからない、といった表情。そのまま前に倒れる。
「足止めご苦労さん、お蔭で楽だったぞ」
「……遅すぎですよ、ティーダさん」
タイムアップで援軍到着。他のメンバーは全て捕らえ終えたようだ。さっきのはティーダさんの狙撃である。流石、ランスターの弾丸に撃ち抜けないものはないって言うだけのことはあるね。
お仕事完了。今日のはしんどかったな。
「AAAランクにかなり良い勝負だったじゃないか」
「まあ、格上相手の戦いは慣れてますから」
そしてボコられるのもね。周りに格上しか居なくて辛い。
「あれ? お前魔導師ランクは?」
「特に取ってないです」
下手に取ったら管理局のスカウトが更に来そうだし。ただでさえ、闇の書事件の関係者としてそれなりに名が売れちゃってるからね。
「お前それでどうやって仕事もらってんだよ……?」
「陸の仕事できませんかねってレジアスさんに聞いて紹介してもらってた」
「!?」
最初はそれで仕事もらって、能力を認められてからは、現地の協力者ってことでランク関係なくやってた。だからミッドチルダの仕事が多かったのだ。
ちなみに、デバイスマイスターの資格を取ってからは地上本部でデバイスメンテナンスもやってる。格安で。お蔭で陸の人とはそれなりに仲良くなったよ。
「地上のトップと交流あるって、お前何したんだよ……」
大したことはしてないですよ。
「もう俺帰って良いですよね?」
「ああ。いつも通り、報酬は本部の方でな。俺も早く妹を迎えに行かないと」
相変わらずのシスコン振りで。かわいいかわいい言ってくる癖に、写真とかは全く見せてくれないんだよなあ。
それにしても、迎えがいるって、
「妹さん、今何歳なんですか?」
「何聞いてんだ、殺すぞ?」
理不尽極まりない。
交友関係は広く浅くな主人公。