魔法の世界にこんにちは   作:ぺしみんと

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日間ランキングにちらと入ってましたね。驚きました。
総合評価も1000を超えてうっはうはです。


今回はすずかちゃん視点です。


Interlude~月村すずか~

 私の友達には、少し変わった子が居る。名前は、古夜晃一君。私達の数少ない、男の子の友達である。

 

「晃一君、こんにちは」

「月村か。よっすよっす」

 

 翠屋なんかで会った時は話したりもする。

 

「今日も一人できてるんだね」

「ゆっくりしたいからな」

 

 彼は知り合いが結構多いが、特に誰かと仲が良いということがない。私はその中では、わりと親しい方ではないかと思う。

 

 

 

 

 

 彼と知り合った一番の切っ掛けは、はやてちゃんと友達になったことだろう。

 図書館でお互いのことについて話した時に、彼の名前が出た。

 学校に行っておらず、同年代の子と接する機会のないはやてちゃんの唯一といっていい友達。しかも男の子という事で、結構気になったのを覚えている。

 

 直接会ったのは、アリサちゃんとはやてちゃんのお見舞いに行った時。病室に入ろうとすると、丁度出てきた晃一君と鉢合わせになった。

 

 聞いていた通りのオッドアイ。フェイトちゃんの綺麗な赤とは違う、血のような紅の瞳。それはまるで、私のあの目のようで……。

 一瞬、彼も同族なのかと思ってしまい。動揺してしまった。

 

 それと、もう1つ気になったのは、彼の印象がはやてちゃんから聞いていたものと、少し違うような感じがしたことである。

 

 はやてちゃんからは面白い人だと聞いていた。でもあの時の晃一君は、なんというか、素っ気無い人だと感じたのだ。

 態度が悪かったと言いたいのではない。むしろ、その点に関しては同年代の子よりも遥かにしっかりしていた。

 同い年の私が言うことではないかもしれないけど。

 

 彼は私たちに、何の興味も示さなかった。何の感情も抱かなかったのだ。そこまでわかったのはやはり、私が夜の一族だからだろう。アリサちゃんは私のように感じてはいなかった。

 

 はやてちゃんのボーイフレンドかとは思っていたが。

 

 そこは私も前から気になっていたことではあったので、二人で色々と質問攻めにしてしまった。

 

 女の子だからしょうがないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 次に会ったのはそれから少しして新学期に入った時。私とアリサちゃんが、魔法について知って間もない頃。

 

 なのはちゃんが、お昼に晃一君を呼びたいと言ったのだ。彼も魔法使いだから、色々と話を聞きたいんだとか。

 

 なのはちゃんが晃一君を知っていたことに少し驚いたが、クリスマスの時、事件のあの場に晃一君も居たらしい。

 

 はやてちゃんの友達ということもあって、私たちは反対しなかった。

 

 

 

 

 

 晃一君は、お弁当を食べてから来た。

 なのはちゃんはお弁当も一緒に食べるつもりだったようだが、断られたそうだ。先約が居たとか。

 

 ……きっと断る為の口実だよね。

 

 そこで話した晃一君は前とは印象が違った。

 思っていたよりも饒舌で、皆と親しげに話をしていた。

 

 私はソウルメイト扱いされてしまったが。

 ネタが通じるのが嬉しいとかなんとか。

 

 そのこともあって、前の無関心な印象は薄れた。

 

 ただ私は気づいた。

 

 彼は決して距離を詰めようとしないのだ。

 

 例えばなのはちゃんが名前で呼んでと言った時に、それっぽい理由を言って断っていた。

 

 なのはちゃんが気にしないと言っても、自分が気にするなどと言い、巧く躱していた。

 

 ただ相手を不快にさせることは言わない。

 そこには気を配っているようで。

 

 そういうところを見て、なんだか私たちよりもお兄さんに感じるなぁなどと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 新学期に入ると、晃一君とはクラスが一緒になった。

 なのはちゃん達とは別のクラスになってしまって少しだけ不安だったが、それも直ぐに無くなった。

 

 はやてちゃんが私のクラスに編入してきたのだ。

 

 驚いたが、それ以上に嬉しかった。

 

 私と晃一君と同じクラスだったのは学校側の配慮のようだ。

 

 晃一君と一緒にはやてちゃんの案内をする。

 はやてちゃんと話す晃一君を見るのは初めてだったが、やはり私達と話す時よりも親しげに見えた。

 はやてちゃんも晃一君のことを信頼してるんだろうなっていうのが、やり取りから感じられる。

 

 

 

 

 

 そして、修学旅行。

 

 忘れられない、誘拐事件。

 

 犯人は同族。夜の一族の能力を使っての犯行だった。

 

 私はそこで、ずっと言えなかった秘密が、吸血鬼という秘密がついに知られてしまったのだ。

 一緒に攫われてしまったアリサちゃんと、助けに来てくれた晃一君に。

 

 いつか言わなくちゃと思っていた。なのはちゃん達から魔法のことを話された時、私も言うべきだとは思った。今が一番良いタイミングなんだって、頭では解ってたはずだった。

 

 でも、言えなかった。

 

 否定されるのが怖かったのだ。人間じゃないって拒絶されるのが怖かったのだ。

 

 同じ場に居たアリサちゃんと晃一君の二人は少なからず動揺しているようだった。

 

 頭の中はぐしゃぐしゃで、アリサちゃんの言葉にも反応できない。

 

 だが、その中でも否定しなくちゃいけないことはあった。

 

 私がなのはちゃん達を友達と思っていない? 見下している?

 

 それは違う。皆、私の大切な友達だ。たとえもう、友達ではいられないとしても、私にとって、彼女達は掛け替えのない親友なんだ。

 

 精一杯の大声で叫んだ。この気持ちは真実なのだと。

 

 そんな中でも事態は動く。

 

 男が晃一君に向けて、拳銃を構える。

 

 私の所為で、晃一君が死んでしまう。そう思った。

 

 銃声が響き、そして…………。

 

 

 

 晃一君は、倒れなかった。

 

 何があったのかと思い見ると、晃一君の頬から一筋、血が流れていた。

 

 動揺する男を余所に、両の手から炎を生み出し、男に近づく。

 

 そのまま炎を叩き付け、事件は、呆気なく終わった。

 

 

 

 

 

 

 犯人を捕らえた後、私はアリサちゃんに謝った。今まで黙っててごめんと。

 

 そこでアリサちゃんは、私のことを吸血鬼と知っても、親友と言ってくれた。

 

 本当に、嬉しかった。

 

 晃一君は全く意に介してなかった。……むしろウェルカムというのは少々複雑だったけれど。

 

 そして晃一君の言った約束。

 

『宴会をしよう』

 

 今まで見たことがない、優しく、楽しそうな笑顔だった。

 

 吸血鬼かどうかは関係ない、ソウルメイトに重要なのはあくまで魂だと。

 彼はおどけたように言って見せる。

 

 なんとなくわかった。彼なりの気遣いだろうと。

 大人びているとよく言われる私たちよりずっと成熟している。

 

 先ほどの戦闘での雰囲気と合わさって、なんだか、かっこよく見えた。

 

「ぶっちゃけ、俺も結構オカルトな存在だと思うし」

「えっ?」

 

 最後のは、割と聞き逃せないことだったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 事件が終わって。

 

 なのはちゃんたちは私のことを拒絶しなかった。唯一の負い目みたいなものがなくなり、前よりももっと仲良くなれた。

 現金かもしれないが、こうなってみれば、修学旅行は良い機会になったと思う。

 

 あと、晃一君に私から話しかけるようになった。もっと、仲良くなりたいから。

 

 ――とりあえず、はやてちゃんと同じくらいには仲良くなりたいな。

 

 そう思いながら彼と話す、翠屋での昼下がり。

 




賛否両論あるかと思いますが、こうなりました。

誘拐されて助けられたら、そりゃかっこよく映りますよね。

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