「おお~! すっげー大迫力!」
クラスメイト君、確か相良がバスの窓から見える景色を見てはしゃいでる。他の子も総じてテンションが高い。
五年生となり、季節は秋。修学旅行なうでございます。
旅行先は日光。まあ、お約束である。班は俺、はやて、すずか、多分相良の四人。三、四人の班になれとのことだったので自然とこうなった。といっても、自由行動の時はとなりのクラスの高町達の班と一緒に行動する予定なので特に意味はないが。
その事を聞くと相良が泣きながら俺に感謝してきた。美少女五人組と一緒の修学旅行になるのが嬉しかったらしい。ませてんなあと思いつつも、きしょかったので蹴り飛ばした。
「やっぱ皆テンション高いな」
この辺は年相応である。その為大変騒がしい。
「ビッグイベントだもんね」
そう言う月村も旅行が楽しみそうだ。
「私は皆でお泊まりが楽しみやな!」
学校のイベント自体あまり経験してないはやてはカメラを首からぶら下げてテンションMAXである。
「晃一君は相変わらずテンション低いね」
それなりに楽しみではあるけどね。でも前世で行ったことあるし。中身が中身だし、これはしょうがないよ。
「まあ良い木刀があれば迷わず買うつもりだけど」
「ベタか」
定番と言いなさい。
一日目は自由行動は無く、団体行動で終わった。という事で旅館なわけだが、やべえわ、この学校。流石私立。すっげぇ高級そう。部屋は広いし料理は豪華だし、温泉は半端無く良い景色。ぱないの! 布団もふかふか。これは良く眠れそうだ。
部屋割りはおそらく相良と二人。小学生とはいえ、男女は別の部屋である。
「なあ、晃一」
夜。消灯時間となり布団に入って寝ているとクラスメイト君が話しかけてきた。
「なんだ? ひょっとすると相良」
「俺はひょっとしなくても相良だ!」
五月蝿い。先生来るぞ。それよりなんだ、急に話しかけてきて。
「恋バナしようぜ」
「きもい。寝ろ」
ヤロー二人で恋バナとか誰得だよ。
「いやだってさー! いっつも一人で居た癖に、急に美少女五人組と仲良くなってさー! 何あったのか気になるじゃん!」
「仲良いって、たまに話する程度だろうが」
相良は仲良くなったといってるが、学校に居る時は基本話さない。はやてもすずかもあまり俺が話をしたがってないのを分かってくれてるからだ。
だから五人は五人で固まっていて、そこに俺が入ったりはしてない。たまに、翠屋とかで会った時に話をする程度だ。
「充分羨ましいんだよ。男子は話自体できないもん」
もんじゃねえよ。それはお前らが話しかけれないだけじゃん。女子から男子に何の切っ掛けも無しに話しかけることなんて無いだろうし、男子から話しかけないと話すことはできないだろう。
「その切っ掛けを教えてくれよ」
えー。
俺があいつらと話すようになった切っ掛けか。はやてはいつの間にかって感じだし。他四人は闇の書事件が切っ掛けだからなあ。詳しいことは言えないし言うの面倒だし、簡単に言うと、
「死にかけたのが切っ掛けかな」
「全く参考にならない」
じゃあ寝ろ。
修学旅行二日目。自由行動がメインである。
俺達は二班が一緒になってるので割りと大所帯だ。
コースには特に珍しい物があるわけでもない、定番のコース。今は、お土産を買っている。
「ほう、イチイガシの木刀か。形も真剣に近い。買いだな」
「ほんまに買っとんのかい」
今は皆バラバラに買っているが、はやての場合車椅子を押す人が必要なので一番力のある俺が一緒になっている。
「そっちは守護騎士達に何買うか決めた?」
「ヴィータにはぬいぐるみ買って、シャマルとザフィーラの分も買うたから、あとはシグナムやな」
シグナムか。それならもう。
「木刀一択じゃね?」
「やっぱり?」
なんかめっちゃ喜びそう。嬉々として素振りを始めるよ、絶対。
「でもわたしが木刀買うのはちょっと……」
まあ、車椅子の少女が木刀買ってたら確かに変だよね。
「俺が代わりに買ってやんよ」
代金はしっかりもらうけどな。イチイガシは高いんだよ。
「……なんや、晃一君には世話になってばかりやなぁ。今だってほんまは独りで自由に動き回りたいんやろうし」
突然何を言っとるんだこの小娘は。
「特に見たいとこもないし、この程度で気にしてんじゃ無いよ。こんだけ付き合い長いのに今更な話だろう」
魔導師ってのがあるし、これから先も縁が切れることは無いだろう。些細なことを気にしてたら疲れるぞ?
「…………おおきにな」
どういたしまして。
で終われば良かったのだが。
『はやてちゃん、晃一君、大変なの!』
高町からの念話。かなり切羽つまった声だ。
『すずかちゃんとアリサちゃんが……拐われちゃった!!』
「なのはちゃん!」
全力で車椅子を押して高町達の元へ。
「何があった?」
「フェイトちゃんと二人でお土産買っててすずかちゃんとアリサちゃんが黒スーツの人に車で人混みが!」
「落ち着け」
二人から話を聞く。
高町とテスタロッサは二人で居てお土産を買って月村たちと合流しようとしたところ、人混みの向こうで月村たちが黒スーツの人に車に連れ込まれるのを見たらしい。
人の多いところで魔法を使うわけにはいかず、急いで路地裏に移動してサーチャーを飛ばしたが、月村達は見つかっていないとのこと。
「どうしよう……」
まずは保護者に連絡だな。もしかしたら、GPSで月村たちの居場所がわかるかもしれない。
携帯を開き、電話をかける。
「もしもし、忍さん?」
『おお? 晃一君から電話なんて珍しいっていうか初めてだね、どうしたの?』
「簡潔に言います。月村が誘拐されました。携帯のGPS機能で居場所特定できませんか?」
『っ! わかったわ。今場所を特定する。わかったらすぐ教えるわ』
「携帯、捨てられてませんかね?」
『捨てられてても大丈夫よ。こんなこともあろうかと、すずかには内緒で全ての衣類に発信器を付けておいたから』
「……oh」
まさか下着もじゃないでしょうね。怖くて聞けないが。何にせよ助かる。
『それと、もしもの時の為に知り合いの警察が一緒に行ってるはず。私から連絡しておくから無茶しないようにね』
「ありがとうございます」
流石忍さん、頼りになるぜ。それに何もするなと言わない辺り、分かってるね。
『……すずかのこと、お願いね』
「……了解!」
携帯を閉じる。
「どうだった?」
テスタロッサが不安そうな顔で聞いてくる。
「場所はすぐ分かる。大丈夫だ」
「じゃあ助けに行かないと!」
高町お前はヒートアップしすぎだ。
「待て」
「待ってられないよ!」
「おかしいとは思わないのか?」
何が!? とかなり焦っている高町の横で、テスタロッサが顎に手をやる。
「あんなに人が沢山居た中で攫われたのに、騒ぎになってない」
流石は執務官志望、鋭い。ここは観光の名所だ。お土産を買ってたんなら周りにそれなりの人が居たはず。それでもばれてない、騒ぎになってないってことは、相当な実力のプロか、あるいは。
「魔法を使ってた……?」
そう。はやての言う通り、犯人が魔導師の可能性がある。
「じゃあ私たちがいかなきゃ!」
「狙いはお前たちかもしれないんだぞ!」
犯人が魔法関係者であれば、狙いは高町達で魔法の使えない月村達を人質にとった可能性もある。
将来有望な魔導師に夜天の書の主。狙う理由としては充分だろう。
「私たちの所為なら、尚更……!」
あくまで可能性としての話だ。普通に身代金目当ての可能性もある。そうであれば拳銃など質量兵器が相手となる。高町達には危険すぎる。
「俺が行く。今忍さんの知り合いの警察がこっちに来るから、状況説明は任せたぞ」
「……怪我、せんようにな」
わーってますよ。
女に頼むと言われちゃったんだから、ここは男の頑張りどころだ。
「ぅう……?」
「起きたみたいね」
アリサちゃんの声だ。ここは? 確か、アリサちゃんと二人でお土産を買ってて、そしたら急に大人の人に……。
「!」
「誘拐されたみたいね、私たち」
アリサちゃんは冷静だ。私たちの家はとても裕福で、誘拐された経験も何回かある。普通の人よりは落ち着くことができるのだろう。私も同じだが。
状況を確認する。私もアリサちゃんも手を後ろで鉄柱に縛られている。どうやら、どこかの廃工場のようだ。
「それにしても、妙ね。周りの人たち、私たちに気付いてなかったようじゃなかった?」
確かにそうだった。攫われた時、私たちの周りには少なくない数の人が居たはず。だというのに、誰も気づかなかった。
まるで意識を操られていたかのように。
「……!」
最悪の考えが頭を過る。
まさか犯人は…………。
「気が付いたようだな、月村のご令嬢」
『!!』
いつの間にか男が居た。見覚えのある顔。彼は、一族の……!
「あんたが犯人ね! こんなことして捕まらずに済むと思ってるの?」
アリサちゃんが強気に言う。
「思っているからこうしてるんだろう、ねえ、月村の次期当主様?」
そうだ。彼であれば可能かもしれない。私たちを攫ったのと同じ方法で。
「すずか、知り合いなの?」
アリサちゃんが聞いてくる。
「うん。家のライバルみたいなとこの人だよ」
前々から小競り合いがあったと聞いている。あまり仲の良くなかった家だ。
「聡明なお嬢様なら、もう目的は分かったろう?」
「……月村家を支配下に置くつもりですね」
「その通りだ。次期当主であるお前を捕らえれば、言うことを聞かざるを得ないだろうからな。海鳴に居る時は、メイド二人にあの剣士が居たが、海鳴を離れるこの時は絶好のチャンスというわけだよ」
ということは大分前から計画していたのだろう。
「あんた、すずかにひどいことしたら、ただじゃおかないわよ!」
「アリサちゃん……」
「五月蠅いぞ、人間風情が」
「っ!」
男に睨まれ、息を飲む。
「……人間風情とは、妙な言い方をするじゃない」
殺気に当てられながらも、アリサちゃんは負けない。
「妙でも何でもないさ、俺は。……いや、俺達はといった方が正しいかな?」
「っ!」
男がニヤニヤ笑いながらこっちを見てくる。
「なあ、そうだろ? 俺たちは……」
駄目だ。それ以上は言わないで……!
その時だった。
突如男の無線機が鳴る。
「どうした? 何があった?」
『い、今、侵入者が来て、消そうと……ぎゃあ!?』
「なんだ!?」
突然のことに動揺する男。
『……もしもし、私メリー。今、廃工場の入り口に居るの』
さっきの男とは別の声。この声は……!
「誰だお前は!? 警備はどうした!?」
無線機の声の主からは返答がない。一方的に通信を切られる。男は舌打ちをして、他の人に連絡を取ろうとする。
そこで再び鳴る無線機。
『もしもし、私メリー。今、廊下に居るの』
さっきよりも近づいているようだ。それも、すごいスピードで。
「どうしたんだ! おい! 応答しろ!!」
男の動揺が激しくなっていく。
『もしもし、私メリー』
何回目かもわからない、一方的な連絡。正直、かなり怖い。男の動揺も頂点だろう。
「なんなんだ!? どこに居る!?」
「今、あなたの後ろに居るの」
いつの間にか、男の後ろで晃一君が拳銃を構えていた。
この話、もうちょっとだけ続くんじゃよ。