空条承太郎と奇妙な女神の守護者達   作:( ∴)〈名前を入れてください

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第9話

 

当然の事だが空条承太郎には親がいる。女の細腕一つで承太郎を育ててくれた大事な母親だ。名を空条ホリィ、どんな時でも太陽のように明るく朝日のように相手を優しく包み込む、そんな素敵な女性だ。

 

「ふっふーん。今日も良い天気ねー」

 

空条邸、日本屋敷のように広いこの家に承太郎とホリィの二人暮らしで昔から住んでいる。承太郎が本当に小さい頃は父親ホリィ承太郎の3人ぐらしだったのだが…昔、父親は蒸発してからこの家に帰ってきていない。

二人で住むには少し広めな空条邸の庭で朝日を浴びながら伸びをしているホリィ、顔には少し皺があるがそれをカバーする程の愛嬌のある顔とニコニコと笑う姿はとても1人の親とは思えないほどの潤いがある。

 

「ホリィさん!おはようございまーす!」

 

ホリィが声がする方を見ると其処には最近承太郎が仲良くしている友達の姿があった。綾瀬香純、元気な挨拶をするチャーミングな女の子。それがホリィの綾瀬に対するイメージだ。

 

「あらっ!香純ちゃんおはよう!今日も元気そうで何よりよ。グーッよグーッ!承太郎ならもう直ぐ下りてくると思うから家の中で待ってる?」

 

「……ってあら?蓮くん…は一緒じゃないの?」

 

何時も綾瀬と一緒にいる寡黙な少年、自分の息子と性根がとても良く似た寡黙だが心優しき少年。藤井蓮が見当たらず、それを不思議に思い聞いてみると綾瀬は苦笑いをしながら返事をしてくる。その返事から何処と無くバツが悪そうなあんまり話したくないような雰囲気を感じ聞くのを止める。

 

「あははは…ちょっと蓮は色々あって……」

 

「そう?何か大変な事があったら私や承太郎に何時でも頼ってくれても良いからね」

 

「はーいっ!」

 

そんな元気に話をしている彼女達の姿を見て会社へ出勤している者、学校へ向かっている者、夜勤を終えて帰っている男達が癒されたような顔をして彼女達を見ながら通り過ぎて行く。その気持ちはとても分かる。朝から彼女達を見たら癒されるし、今日これからを頑張ろうと思えるだろう。だが鼻を伸ばしている者が時折いるのは頂けない。そんな事をしていたら何れオラオラされる可能性がある、しかも3ページオラオラの可能性だ。

 

「…やれやれ。相変わらず目が覚めるデカい声だな」

 

「おはよー承太郎!…ってどうしたの?」

 

彼女達の声で目が覚めたのか、少し眠たそうな承太郎が玄関からゆっくりと現れる。そして承太郎は綾瀬の顔を見ると何時もとは違う視線を向ける。綾瀬は何時もとは違った真剣な表情をして見つめて来る承太郎に驚くが、どうしたのかと声をかけると「何もねぇ」と何時ものような突っぱねた返事を返してくる姿を見て何時もの承太郎だと安心する。

 

「おはよう承太郎。お友達が来てるんだから速く学校に行く準備をしなきゃ!」

 

「もうしてあるぜ」

 

承太郎の姿を見ると既に寝巻きである家着から学ランに着替えており、玄関に来る前に既に準備を済ませていたのが分かる。そしてそのまま家から出ようと

 

「……ってアラ?朝ご飯は食べないの?」

 

「…今日はいらねぇ」

 

そう言いながら家を出ようとする承太郎に綾瀬がストップをかける。承太郎はしまったと言わんばかりに顔を顰め無言で立ち止まる。

 

「駄目だよ、ちゃんと朝ご飯は食べないと、ホリィさんのご飯は美味しいんだからちゃんと食べて元気に学校に行こう!」

 

「香純ちゃーんっ!おばさん貴女の事がもう…大好きっ!」

 

「キャ…もうホリィさん!いきなり抱き着いて来たら危ないですよっ」

 

キャッキャッと盛り上がる姿はまるで同じ歳の女子のようだが冷静に考えなくともこのペアはおばさんと女子高生、ホリィさんの精神年齢が少しどころかかなり若く感じてしまうのは気の所為ではない筈だ。だが、そんな姿が似合っているのが空条ホリィの凄さでもあるだろう。やはり夫の目は節穴である、こんな良い人を置いて蒸発するなど正直信じられない。

 

「…やれやれだぜ」

 

そう言いながら家へと戻っていく承太郎。家へと戻り朝食を済ませ綾瀬と共に学校へと向かう姿をホリィは見届ける。

これがここ2年近くのホリィの日課だ。

 

「行ってらっしゃーい!」

 

「…おう」

 

毎朝承太郎を家から送り出す時、ホリィは思う、最近承太郎はとても楽しそうに学校に行っていると。

 

「(香純ちゃんや蓮くんが家に迎えに来てくれた頃からかしら…承太郎が楽しそうに学校に行くのをまた見れるようになったのは)」

 

空条承太郎は所謂『不良』のレッテルを貼られている。勿論それを知らないホリィでは無い、承太郎が学校で不良をボコボコにした時やレストランで不味いからと無銭飲食を働いた時、何時も彼女は謝りに言っていた。だがホリィは決してその事で承太郎を攻めたりしなかった。何故ならば承太郎が理由無くそのような事をしないと信じているからだ。

 

承太郎が煙草を吸うようになった時は本当にワンワンと泣いたが、それっきり承太郎はホリィの前では煙草を吸わないようにしているのか家では煙草を吸わない。

 

「(まぁ服に煙草の臭いが残っているんだけどね…、お母さんを誤魔化せると思ったら大間違いよ。バレバレなんだから)」

 

ホリィから見て承太郎は大切な我が子であり、寡黙だけど心優しい、誰かの為に怒る事が出来る格好いい男の子である。

そしてそんな我が子が理由無く暴力を振るう訳が無いと『信じている。』だから責めない。承太郎が昔と変わらず心優しき男である限りホリィは決して責めたりはしない。

 

「(だって殴る方も本当は拳と心が痛いんだもの。あの子がそれを気付いていない訳がない)」

 

拳を振るえば拳が傷付く。心優しい人が振るう拳には心が篭められている。殴れば殴る程拳と共に心が傷付いていくのだ 。だからこそ感情の篭った拳には力があるのだとホリィは思っている。

例え身体が傷付いていなくとも拳と心は必ず傷付いているのだ。喧嘩をすればする程ごつくて傷まみれになっていく承太郎の拳、そんな我が子を更に追い詰めるような真似はホリィには出来ない。

 

「(あの子達は本当に良い子ね。あの子達と共になら承太郎も楽しく学校生活を送れるでしょう)」

 

「さーって。今日も張り切って家のお掃除をしましょうか!」

 

そうして今日も彼女は相似をして綺麗になった家で我が子の帰りを待つ。我が子の帰りを待つのも母親の大切な仕事の一つなのだ。

 

「ホリィさんって本当に良い人だよね、優しくて話すと心が温かくなるよ。」

 

「…あぁ。そうだな」

 

通学路を綾瀬と承太郎が歩いて行く。綾瀬が楽しそうに話をし承太郎は相槌を打つだけだ。彼等を知らない者達からすればとてもアンバランスな二人だと思うだろう。見た目だけを見れば可憐な美少女と背の高いゴリゴリマッチョな不良が通学路を一緒に話しながら歩いているなんて世のオタクが嘆き苦しむ事案だ。「世の中やっぱ顔なんだ!」「イケメンで寡黙な奴がモテるんだ!」とか聞こえてくる気がするがそれはそれである。

 

つまり、どういう事かと言うと

 

「…やれやれだぜ」

 

「やっぱり…見られるよね」

 

彼等の関係を知らない周りの生徒達からガン見されて邪推されても可笑しくないメンツだと言う事であり

 

「…さっさと学校に行くぞ。視線がうっとおしい」

 

「うっ…うん。急ごっか」

 

「やれやれだぜ…」

 

蓮という存在がいないだけで他人が見る視線は一気に変わると言う事だ。周りのうっとおしい視線に溜息を吐きたくなる気持ちを抑えて学校に向かう。友達の二人が学校に来なくなり一緒に馬鹿をして楽しんだ奴等は、血塗ろの喧嘩の後学校に来なくなり1人は入院しているだけだがもう一人は行方知れず、承太郎の大切なこの日常に罅が入っていく気がする。

 

「おい、綾瀬。お前最近夜遊びとかしてねえよな?」

 

「してないよ?」

 

「…だったら良い。最近この街は治安が悪いからな」

 

あの夜の綾瀬はまるで人外の力を手に入れていた。人間では有り得ないタフネスにその速度、そして腕に付いていた鎌のようなナニカ。目は虚で正気を失っていて、承太郎を認識しても攻撃を止めなかった姿。

 

「(どうなってやがる。今の綾瀬は嘘を付いているようには見えねぇ…スター・プラチナの目を使っても瞳孔に異常は見られないし、急な冷や汗をかいているようには見えねぇ。)」

 

「(だがこのまま綾瀬を放置していたら事件は更に悪化する事は間違いない)」

 

承太郎は苦悩する。友達が自分でも気付かない間に殺人鬼になっているなんて口が避けても言える事では無い。

 

「ふーん。もしかして…心配してくれちゃてるの?承太郎…もしかしてデレ期来ちゃった?ウリウリ」

 

「……やれやれだぜ」

 

この笑顔を無くしてしまうの駄目だ。だが、この事実を伝えてしまえば蓮も司狼もそして張本人である綾瀬は悲しむだろう。それだけは嫌だ、折角出来た友を悲しませる事なんて出来ない。

 

綾瀬が自分の意思をもって殺人をしているのならば殴り飛ばして再起不可能する『覚悟』はある。だがその事を何も知らない彼女を、大切な友達を殴り飛ばして再起不能にする『非情』は持ち合わせていない。

 

空条承太郎は心の底で苦悩する。目の前の彼女の二面性を。優しく太陽の笑みを浮かべる彼女を、虚な顔で殺人を行おうとした彼女を一体どうすれば良いのかを

 

必要なのは目的の為に何であろうと躊躇しない『漆黒の意思』これを持たぬ承太郎には難しいのかもしれない。

 


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