近すぎて見えない   作:青野

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毎度更新が遅い青野です。

十二月になって、今日はなんとイブです!イブなんですよ!
みなさんはどうお過ごしでしょうか?
え?私ですか・・・察してください!

というわけで16話です。


第十六話 そんな出会い

 

 

 現在テレビでは過去最高気温という文字が映っており、それをクーラーの効いた部屋で見ている女が一人。

 如月椎名であった。

 

「あ・・・・あ・・・・・はぁ・・・」

 

 言葉にすらならない声を発しながらダラダラとしていた。机の上には夏季課題である読書感想文のプリントが一枚あった。

 最後の課題であるのだが、どうにも何を書いたらいいのか分からないでいた。その前に温泉旅行での一見が彼女の中に渦巻いて、中々それどころではない。

 

(向こうから私の手を握ったよね?え、それって少なからず千早は私のこと好きだってことだよね?・・・いやいや、そんな簡単に答えを出すのは危ない)

 

 彼女は冷蔵庫からソーダ味のアイスを一本取り出すと本日二本目を口に入れる。

 

「うーむ・・・」

 

 そう彼女は悩んでみせるのだが中々答えがでない。

 

(あの千早が?いやいや、有り得ない。自分だって、そりゃ千早と友達以上恋人未満みたいな関係だってのは分かってる。だけど、千早のことを素直に好きなのかと言われた時に私はなんて答えたらいいのか)

 

「・・・図書館行こ」

 

 そう考えを先延ばしにした彼女は読書感想文の本を借りに外へ出かけることにした。

 他の中、高生も椎名と同じ考えをしていたせいなのか、図書館は彼女が思っている以上に大変混在していた。それに少々彼女は呆れながらどうしようかと考えると、恋奈が前に紹介してくれていた本に手を付ける。

 

『高原を走る豚』

 

(うむ、流石は恋奈が選んだ本・・・)

 

「読んで見ますか」

 

 椎名はそう思い本を見ながらクルッと身体を回転させながら受付へ向かうとした時、ドンッと誰かにぶつかってしまう。

 それに若干慌てふためき、「ご、ごめんなさい!」と言いながら彼女は前を見た。

 

「へ?」

 

 と、一瞬ポカーンとして目を擦って今一度ぶつかった人物を確認した。そこにはなんと我らが王子、宮野真守がいたからである。

 

「あっ、ご、ごめんなさい」

 

 過度なその緊張は彼女の声のトーンを数段跳ね上げる。

 

「いや、こちらこそごめんね」

 

 爽やかにそう伝える宮野の甘いフェイスは今まで幾多の女子生徒たちを落としてきたに違いはなかった。

 

「いえ、いえ!こちらこそ、ちゃんと前を見てなかったものなので、えへへ」

 

 少し照れながら頬をかく。

 

「えっと、確か同じ学校だよね?見たことあるよ。えっと、隣のクラスじゃなかったっけ?」

 

「えっ、私のこと知ってるんですか?」

 

「まぁ、よくは知らないけど、何度か見たことはあるかな。名前聞いてもいい?」

 

「あ、そうなんですか。はじめまして、如月椎名です」

 

「如月さんか。これも何かの縁だし、何かよろしくね」

 

「こ、こちらこそよろしく」

 

「はは、何をって話だよね。それじゃぁ、俺は用事もあるし行くね」

 

 そう言ってスタッと立ち去る宮野。そのピンと伸びた背筋にサラッとした髪の毛は後ろから見ても十分彼が爽やかである、指してはイケメンであることを証明していた。

 そして、決して誰にも嫌な言葉や失礼な言葉を発しはしない。

 ぶつかってしまった椎名に対してもあのような良い気遣いが出来る。

 

「・・・・・完璧か」

 

 ググッとある意味乙女ハートを鷲掴みされてしまった椎名はボソッとそんなことを言う。

 

「っと、いかんいかん」

 

 ブンブンと自分の意識をはっきりと戻すと、その両手にある本を受付に持っていった。

 

 椎名は本を借りて家へとてくてくと歩いていくと携帯にメッセージが飛んでくる。

 

恋奈『宿題終わった?』

 

椎名『残り読書感想文だけ』

 

恋奈『あ、そうなんだ』

 

椎名『うん』

 

恋奈『今日の夜花火大会なんだけど、行く?』

 

椎名『そうだっけ?完全に忘れてた。行く行く、お婆ちゃんに浴衣だしてもらう』

 

恋奈『おお、いいね。私もお母さんにだしてもらうわ』

 

椎名『確かにwwって、今年も独り身たちで花火大会とかww』

 

恋奈『毎年のことよ。そう悲観するでない』

 

椎名『あー、速く彼氏欲しいな』

 

恋奈『椎名ちゃんなら直ぐ出来るって』

 

椎名『はいはい、嘘乙。それとあんたに言われたくないんだけど』

 

恋奈『嘘じゃないのにー、まぁ、そういうことにしておいて。それじゃぁ、駅に七時でいい?』

 

椎名『オッケー』

 

恋奈『千早君たちも来るんだけど、どう?』

 

椎名『全然いいよー』

 

恋奈『先行くらしいから、現地集合だって』

 

 帰宅した椎名は借りた本を半分ほど読むと携帯を弄る。そうこうしていると真夏の太陽はゆっくりながら傾き始め、街全体をオレンジの光で包み込み始めた。

 それを契機にしたのか椎名は欠伸をしながら百メートル離れたところにある彼女の祖母の家に顔を出した。

 

「おばぁちゃーん」

 

 玄関で彼女がそう言うと廊下の襖が開いてヒョイと椎名の祖母が顔を出した。

 

「あら、椎名ちゃん。こんな夕方にどうしたの?」

 

「あのね、お婆ちゃんが確かこの前に浴衣があるって言ってたでしょ?今から花火見に行きたんだけど、着て行ってもいい?」

 

「ああ、いいよ。それじゃぁ、お婆ちゃんが着付けしてあげる。中に入っておいで」

 

 祖母に誘われて家に入ると祖母はタンスから浴衣を取り出してきた。ピンク色で桜模様の綺麗な浴衣である。

 

「えっ、凄い綺麗」

 

「椎名ちゃんの為に下ろしてきたやつだよ」

 

「そうだったの?ありがとうー!」

 

「その代わり柿の実取る手伝いしてね」

 

「任せて!」

 

 そのまま祖母に言われて椎名は浴衣を着る。主張し過ぎない胸にスラッとした脚。背筋を伸ばした先にある結った髪の毛。それによる項は大変彼女自身を美しく輝かせていた。

 祖母にお礼を言った椎名はそのまま下駄を履いて駅へと向かう。

 

「あ、椎名ちゃん」

 

「恋奈」

 

 駅にて二人は合流する。恋奈は椎名と違って藍色で花柄の浴衣はよく彼女に似合っていた。

 

「凄い恋奈似合ってる」

 

「椎名ちゃんも凄い似合ってるじゃん」

 

 お互いに褒め合うと二人は電車に乗って二駅移動する。その二人以外にも花火大会に参加する人がいるのか、浴衣姿の人が多かった。

 

「今日の花火大会楽しみだね」

 

「この辺じゃ一番大きな花火大会らしいし、知り合いが屋台やってるんだけど色々と見て回ろっか」

 

「へぇ、そうなんだ。うん、見に行こう!」

 

 そんな楽しげな会話が二人の視線から五メートル先で行われる。誰か知らないその仲睦まじいそのカップルに対して二人は毒を吐いた。

 

「くっ、花火大会にカップルで来てんじゃねーよ」ボソ

 

「見せつけるなよ。リア充は生中継で画面越しに花火見てろよ。あ、それ去年の私だ」ボソ

 

 そうこうしているとガタンッと大きく電車が揺れた。その瞬間、椎名はその衝撃によって前へと一歩出る。更に追加攻撃によって大きく前へと倒れるのだが、彼女の前にいた男によってそれは防がれる。

 

「あっ、えっとごめんなさい」

 

「え、いや大丈夫ですよ・・・って、如月さん?」

 

 と、そこにいたのは浴衣姿でこれから花火大会に行くであろう宮野真守がいた。それとお供が一人。

 

「えっ、あっ・・・宮野君」

 

「うん、どうしたの?あ、可愛い浴衣だね。凄く似合ってる」

 

「あっ・・・ども、ありがとうございます」

 

 いきなりの宮野の登場にビビる椎名。それに紳士対応する宮野。

女性対応に長けた宮野はそれに伴うコミュニケーション能力を発揮して椎名と更に話を続ける。

 

「えっと、俺たち二人なんだけど如月さんたちもどう?」

 

「是非とも!」

 

 ナチュラルに誘ってきた宮野に対して椎名は反射的にそんな風に答えてしまった。「しまった」と彼女が思った時には既に遅く、後ろにいた恋奈に勢いよく肩を掴まれる。

 

「ちょっと、何勝手に行く約束してるの!」

 

「ご、ごめん。つい」

 

「いや、ついじゃなくて。千早君と伊藤君はどうするの!?」

 

「マジでごめん・・・今から断った方がいい?」

 

「はぁ・・・ここで断ったら変なふうに見られるし、千早君たちにはちゃんと説明して、花火見る前にはてきとうに別れよ。イケメンと離れるのは嫌だけど・・・」

 

「うん、分かった。そうしよ、ごめん」

 

「いいよ、別に」

 

 そんな中、一人恋奈はため息を溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という感じでした。
ありがとうございます。

次回はたぶん直ぐに投稿できると思いますんので、クリスマスデートでも楽しんでください(笑)

・・・・・・・・・・・・けっ

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