もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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01 地区長のごまかし

 どうやら心のスキマから追い出された駆け魂がこの近くに逃げこんだらしい。

 僕の担当は心のスキマから追い出すまでで、討伐なら中川、捕獲なら他の悪魔の担当なんで本来僕は何もしなくても良いんだが……

 中川は今は仕事で学校には居ないし、バグ魔と地区長だけに任せるなんてとてもじゃないが安心できない。

 もし駆け魂が再び誰かの心のスキマに隠れたら……僕の仕事になるんかなぁ? それだけは避けたい。

 

 

「そう言えば、さっきセンサーが鳴ったよ?

 もしかしたら逃げ出した駆け魂が通り過ぎたのかもしれない!」

「そうね。まったく、どこのバカが逃したのかしらね」

「ハクア! 一緒に探そう!」

「ヤダ」

「へ?」

「私、地区長よ? ヒラの悪魔の手なんか借りないわ!」

 

 

 そう言って、ハクアは飛び立った。あいつ、ここの地図とか分かるんかな?

 

 おっと、これは……

 

「か、神様! 私たちも……」

「くそっ、また電波が悪くなった!

 あと30分以内にまたイベントが来るというのにっ!!」

 

 エルシィを無視して電波の良い場所を捜す。

 やはり屋上では無理か?

 

「うぅぅ~、神様のバカー!!」

 

 そう言い放ってエルシィがどこかへ駆け出した。

 まぁ、上手いこと分かれて探せば良いんじゃないかな。

 僕はさっさとホットスポットを探そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駆け魂は心のスキマを求めて人の多い場所に引き寄せられる。

 となると、やっぱりこの学校から探すのがセオリーね。

 でも……

 

「この学校広すぎるのよ! どこ行っても同じような構造だし!!」

 

 こ、これは道に迷ったわけじゃないわ。この学校の構造が異常なのよ!

 それにしても、この広い学校をしらみつぶしに捜すのはちょっと面倒ね。何とかならないかしら。

 せめてそれっぽい場所をエルシィに聞いておけば……いやいや、エルシィなんかに頼らなくても、私は自分の力だけでちゃんと捕まえられる!

 

 

「その様子を見る限りだと、どうやら苦戦しているようだな」

「なっ、誰!?」

 

 声のした方へと振り向くとエルシィが『神様』とか紹介していた人間が居た。

 その手にはPFPとかいうゲーム機を持っていて、緊張感が一切無い。

 

「アンタ、状況分かってる? 呑気にゲームしてないでエルシィの所に……」

「よっし、イベント回収完了っ!!

 で、エルシィの所に行けだと? そんな無駄な事はしない」

「どういう意味よ」

「機動力という一点でエルシィは僕を遥に上回っている。センサーもあいつが使った方が効果範囲は一応広い。

 この学校の地理も把握しているし、僕が一緒に居る意味が無い。

 駆け魂に関する知識も……僕より少ないという事は無い……はずだ」

「……最後、随分と自信無さげね」

「エルシィだからな」

「……人間に同意するのもシャクだけど、心の底から同意できるわ」

 

 流石に人間以下という事は無いと信じたいけど……エルシィだからね。

 

「そんな事より、僕にはお前の方が手助けが必要に見えるが?」

「何バカな事言ってるのよ。私はエルシィなんかとは違う上級悪魔なのよ? 人間なんかの手なんて借りないわ」

「あ~、お前みたいに属性がハッキリしてるキャラを見ると癒されるな~。ちひろとは大違いだ」

「何の話よ!」

「それじゃあ手始めに一つ教えておいてやろう。

 

 そうやって人間を見下しているから駆け魂を取り逃すんだ」

 

「なっ、何を言ってるのよ! 冗談言わないで!」

 

 私が驚いたのは根も葉もない言いがかりを付けられた事……ではない。

 

「ん? 違ったか?

 協力者を放置して自分で勝手に動いてたから、心のスキマを埋める時に立ち会えずに駆け魂を取り逃したんじゃないのか?」

「ふざけないで! 大体、何の根拠があって……」

「お前は室長からの命令が来る前から何かを追っていた。

 逃げ出した駆け魂は随分と物騒らしいじゃないか。何故そんな危険をエルシィに伝えなかった?

 お前が追ってたのはその駆け魂なんだろう?」

「それは……違うわ。私が追ってたのは別の……」

「お前が勾留ビンを構えていた時点で駆け魂かそれに近いものを追っていたのは間違いないだろう。

 別の駆け魂だったとしてもある程度の危険がある事に変わりは無い。現場で働いているエルシィへの連絡を怠る意味は無いな」

「っ、……私が追っていたのは別の弱い駆け魂で、エルシィに伝えなかったのは極秘の任務だったからよ!」

 

 な、何なのよこの人間っ! 最初会った時と全然違う!!

 この人間が言ってる事は全部合ってる。けど、認めるわけには行かないのよ!

 これで何とか凌げたはず!

 

「……まぁ、一応話の筋は通っているな」

「当然よ!」

「弱い駆け魂の為にわざわざ地区長が自分の担当地区をほっぽり出してるとか、強い方の駆け魂の件でお前みたいな()()()悪魔には室長からの通信が来なかったとか、色々と疑問点はあるがギリギリ納得できる」

「……ええ」

「それじゃあ、室長に文句言うか」

「え?」

「だってそうだろ? お前の話だと今この学園には2体の駆け魂が居る。

 弱い方の駆け魂を捕まえて安心してたら強い駆け魂が暴れたなんて事になったらシャレにならんぞ?」

「それは……そうだけど……」

「全く、現場と上でのほうれんそうはちゃんとしてほしいもんだ。

 ……という名目で僕がお前たちの上司に問い合わせたら真相はハッキリするんだが、どうする?」

 

 勝手に問い合わせでもなんでもすればいい! 何て事は私には言えなかった。

 そこまでされてごまかせるほど駆け魂隊は雑な組織じゃない。

 

「くっ、アンタ、私をどうしようって言うの!?」

「安心しろ。この件をエルシィに言うつもりもなければ他の悪魔に教える気も無い。そもそも知り合いの悪魔なんてエルシィ以外居ないしな。

 ただ僕は、情報が欲しいだけだ。僕達が参加させられたこの駆け魂狩りとかいうクソゲーのエンディングに辿り着く為の情報をな」






原作のあのシーンでは桂馬がハクアを完璧に論破しますが、『逃げ出した駆け魂とは別の駆け魂を探していた』という筋書きにすれば一応矛盾はしないです。他にも矛盾しない筋書きは考えられるかもしれませんね。
もっとも、これは桂馬の詰めが甘かったとかいう話ではなく余計な話をでっち上げられないように一気に畳み掛けた桂馬が巧妙だったという事でしょう。

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