もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

72 / 343
02 姫様から見る攻略過程

「それは……強烈な属性だね……」

 

 エルシィさんから事の顛末を聞いた私の最初の感想はそれだった。

 少なくとも標準的なギャルゲーのヒロインとしては有り得ない属性だと思う。

 

「そーですねー。神様も何か気が触れたみたいに笑ってましたし」

「……大丈夫なのそれ?」

「はい! 私が何回か叩いたら元通りになりました!」

「……桂馬くんの方はひとまず置いておくとして、その女の子の告白はどうなったの?」

「それがですね、断られたのか泣きながら階段を駆け下りてました」

「告白は失敗したのか。う~ん……」

 

 心のスキマの原因がその恋愛? いやでも断られて心のスキマができるなら分かるけど元からあったスキマだよね。

 元から片思いしててそのせいでスキマができて今日告白した? いや、自分で告白できるメンタルの持ち主なら片思いくらいで心のスキマはできないだろう。

 原因は別にあるのかな?

 

「そう言えば、今回の攻略対象ってどんな人なの? 何年生?」

「あれ? 話してませんでしたっけ?

 今回の攻略対象は私たちのクラスの小阪ちひろさんですよ!」

「……え? ち、ちひろさん!?」

「はい? そうですけど」

 

 ちひろさんが、誰だか分からない男子に告白した?

 まさか今回の心のスキマの原因って……

 いや、断定するのはまだ早い。早いけど……

 

「……エルシィさん、今回の攻略期間中は私と交代して」

「え? はい! 構いませんよ!」

 

 ちゃんと確かめないといけない。

 心のスキマの原因はもしかすると私にあるかもしれないから。

 

 

 

 

 

  ……翌日……

 

 朝、登校しながら桂馬くんと作戦会議を行う。

 

「今回はどういう手で行くの?」

「どういう手ったってなぁ……

 本当にアイツを攻略しなきゃいけないんだよな?」

「そりゃそうでしょう。攻略できないと私たちの首が飛ぶよ?」

「でもなぁ……」

 

 渋ってるなぁ……

 どうやらちひろさんは桂馬くんにとって相当相性が悪い相手みたいだ。

 やる気を無理矢理出させるだけなら上手く挑発すれば落とし神として無視はしないとは思うんだけど、今回の攻略でそれをやると厄介な事になりそうなんだよね。

 とりあえずノープランで進んで適当な所でフォローするのが一番良いかな。

 

「とりあえず行くよ。桂馬くん」

「……そうだな」

 

 

 

 

 

 学校に着いても桂馬くんの表情は渋いままだった。

 何というか……やらなきゃいけない宿題があるけどやりたくない。みたいな表情だ。

 う~ん、とりあえずちひろさんが来るまで待機かな。

 

 

 しばらく待っているとちひろさんが暗い表情でやってきた。

 

「お、おはようございますちひろさん!」

「……あ、おはよう、エリー」

 

 私が挨拶をすると『いかにも傷心中です』といった感じの返事が返ってきた。

 

「……ははっ、昨日は恥ずかしい所見られちゃったね。

 思い切って告白してみたんだけどさ、見事に振られちゃったよ」

 

 ちひろさんは『いかにも(ry』といった感じでつぶやくんだけど……

 これってさ……いや、もう少し様子を見よう。

 

 私が『いかにも心配してます』という感じの表情でちひろさんを見守っていたら桂馬くんが渋い表情でやってきた。

 桂馬くんもこんな状態のちひろさんを無視し続けるほど人でなしじゃなかったみたいだ。何やら考え込んでから口を開く。

 

「あ~、昨日は……」

「よぉっし! じゃあ次の恋に移るか!」

 

 そして、ちひろさんがさっきまでとは打って変わって凄く元気の良い声を上げる。

 うん、私には分かってた。さっきまでのが茶番だったって事に。

 ちひろさんが『振られて傷心中の少女』を演じて酔っていたって事に。

 

「やっぱりサッカー部のキャプテンは高望みし過ぎだよね~。

 あ、でも、前に告白した人の方がカッコ良かったかも。

 ま、いいや♪ それよりエリー、これ見てよ!」

「え? はい」

 

 ちひろさんが差し出してきた携帯の画面には男の人が写ってる。舞島学園の生徒みたいだ。

 やや遠い所から撮影されていて、目線もカメラには向いてない……ってこれ盗撮じゃないの?

 ……と、とりあえず話を進めようか。

 

「えっと……どなたでしょうか?」

「ユータ君って言うんだって! この人が、次の本命!

 やっぱり恋が無いと張り合い無いよね~」

 

 ……そんな気はしてたんだよ。ちひろさんは大して好きでも無い人に手当たり次第に告白してるんじゃないかって。

 私はなんとなく分かってたからショックは少ないけど、桂馬くんは……

 

「……そんなの、恋じゃねぇ」

 

 あ、ダメだこれ。

 

「ヒロインの恋ってのはもっと重いんだよ!

 簡単に忘れたり、乗り換えたり、そんなのは恋じゃねぇ!!!」

「な、何よアンタ!」

「うるせぇ! 人の心配を返せ!!」

「え? 心配? どうしてアンタが私の心配をするのよ」

「っ、フン、また現実(リアル)女のレベルを思い知ったよ」

「はぁ?」

「部活にも入らず、頑張る事も無い。

 そのくせ人を悪し様に罵り、口を開けば誰がイケメンだと色恋の話ばかり!

 お前らみたいな連中が、現実(リアル)を汚染しているんだ!!」

 

 桂馬くんが爆発した。ちひろさんの発言は落とし神として看過できなかったんだろう。

 帰宅部で、人を罵って、色恋の話ばかり……確かにギャルゲーには居なそうなキャラだね。素人の意見だけど。

 ……うん? でも、どこかで見たことあるような……

 

「それって、アンタの事じゃん」

「……あ、ホントだ」

「アンタも帰宅部だし」

「ぐはっ!」

「今だって人の悪口言って!」

「あべしっ!」

「頭の中は恋愛ゲーム一色!!」

「おごぉっ!!」

「人の事言えた義理か! この底辺ゴキブリ男!!」

「ウボアァァァ!!」

 

 桂馬くんの悪口は綺麗なブーメランとなって桂馬くんに返って行った……

 これは桂馬くんの自業自得な面もあると思うけど……ゴキブリは言いすぎじゃないかな?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。