小阪ちひろには『実はその髪留めは通信機が内蔵されているらしい』とか何とか言って適当にごまかし、僕はエルシィと2人でいつもの屋上に移動していた。
「……この学園、明らかに呪われてるだろ!!」
「そ、そう言われましても……」
「だってそうだろ!!
それとも何か? 駆け魂には16~17歳の女子にしか入らないという習性でもあるのか!?」
「い、いえ……確か下は小学生、上は60過ぎたおばあちゃんにも入った事があるとかなんとか……」
じゃあやっぱり呪われて……いや、それはもういい。どんな年齢の奴に入ろうがやることは変わらない以上はそこまで年齢が離れてない方がやりやすい。
でもな、これだけは言わせてもらうぞ。
「あいつ、昨日までは明らかに駆け魂居なかったよな?」
「そうですね。間違いないです。
きっと昨日の夜に取り憑いたんでしょうね」
「……まさかとは思うが、僕が攻略した奴に再び取り憑く……なんて事は無いだろうな?」
「その辺は大丈夫だと思います。神様のおかげで心のスキマは完全に塞がってますから!」
「……一応信じておこう」
「一応って何ですか! 一応って!」
「それより、さっさと攻略を始めるぞ。エルシィ、情報!」
「了解です!」
エルシィが羽衣を操作するとちひろのプロフィールが地獄の文字で浮かび上がる。
僕に地獄の文字は分からないが……心なしかいつもより文の量が多い気がするな。
「え~っとですね……
身長158cm、体重50kg、血液型O型、誕生日は12月3日の16歳。
部活は帰宅部、勉強は中くらい、運動は中の上くらい、趣味は特に無し。
好きなタイプはイケメンなら大体OK。
以上です!」
「……量が多いだけで質は最低だな」
「ええっ!? そんな、頑張って集めたのに!!」
「いや、お前の落ち度というわけじゃない。ただなぁ……」
個性らしき個性、ギャルゲーで言う属性が見あたらない。
吉野麻美を思い出すな。あいつは結局心のスキマからのアプローチを行ったが、それでも属性があった方が攻略方針を立てやすい。
「おいエルシィ、あいつに何か強烈な個性は無いのか!
例えば、実家が忍者とか!!」
「そんな無茶な事言わないでくださいよ!!」
「だろうな。しかしなぁ……」
あーくそっ、何であんな女の為に僕が悩まなきゃならん。
駆け魂に取り憑かれるなら取り憑かれるでもっと攻略しがいのあるパラメータを身につけてこいってんだ!
ところで、話は変わるが……
この学園の屋上は特に鍵等はかけられておらず誰でも入れるようになっている。
しかし、こんな何も無い所に用がある人はそうおらず、屋上そのものに価値を見出すとしたらせいぜい天体観測に使うくらいでそれ以上の価値は無く、故に人が少ない場所になっている。
それ故、この屋上は告白スポットとして一部の生徒の間では有名である。
なので、僕達がここに来た後に誰かがやってきてこんな台詞を言ったとしても別に不自然な事ではない。
「……好きです」
そう、決して不自然じゃないんだよ。
……その声が凄く聞き覚えのある声じゃなければ……
恐る恐る後ろへと振り向く。
そこには、困った顔をしているいかにもイケメンといった感じの男子生徒と……
頬を赤く染めて何かを男子に差し出している女子……
小阪ちひろが居た。
……あっはっはっ……なんだこれ?
ああ、確かに強烈なパラメータを求めていたさ。
だけどな、コレは無いだろう!!
パラメータ『好きな男、アリ』
こんなゲーム作ったら会社燃やされるぞ?
ははは……アッハッハッハッ……
「もうこんな学校に居られるか! 僕は自分の家に帰る!!」
「だ、ダメですよ神様!! それは『しぼーふらぐ』とかいうやつですよ!!」