「とまぁこんな感じでしたね~」
「う、うーん……結さんがちょっと可愛そうになってくるね……」
仕事を終えて帰宅した後、エルシィさんから二人の入れ替わり生活の様子を聞き出していた。
何て言うか……良くも悪くも予想通りだね。
「私も疲れましたよ。結さんの家に沢山のモニターとゲームを運び込みましたからね」
「……身体は入れ替わっても桂馬くんは桂馬くんだね」
桂馬くんの事だから広い部屋が使えるって喜んでそうな気がする。
そこまで自由奔放だと結さんの母親が少し心配になってくるなぁ……
「ところで、今後の予定とかって聞いてる?」
「え? えっと……しばらくそのまま……だったかな。
結さんは自分で考えて動くような経験が無かっただろうからしばらく外の世界を冒険させてやれとかなんとか」
「え、桂馬くんがそう言ったの?」
「え? はい。確かにそう言ってましたよ」
う~ん……その方針の攻略は最短ルートに比べて結構時間がかかると思うんだけど……
まぁ、別に良いか。確か妖気が出てないのであれば軽く一ヶ月は大丈夫のはずだし。
そうなると私がするべきなのはしばらく留まれる居場所を用意してあげる事かな。
……よし、まずはアレだね。
「結さん、調子はどう?」
「あ、中川様ですか。少々疲れました」
「だろうねぇ……エルシィさんから話を聞くだけでも疲れたもん」
「うぅぅ……何がいけなかったのでしょうか?」
桂馬くんの演技がしたいなら授業中休み中問わずにPFPを手放さずゲームをし続けるだけで十分だと思うけど……正しい方法を教えたら攻略的には厄介な事になりそうなので黙っておこう。ホント申し訳ないけど。
「話は変わるけど、結さんは吹奏楽部に入ってるんだよね?」
「……いえ、やめてしまいました。お母様に不要だと言われたので」
「そ、そう」
桂馬くんやエルシィさんの話を聞く限りでは部活は結さんの唯一の趣味だった気がするけど……
それさえもあっさり捨てさせられるほどに結さんの母親の影響力は強いのかな。
心のスキマになるだけの事はあるかな。
「えっと、音楽自体が嫌いってわけじゃないよね?」
「はい。家では音楽なんて鳴らせないのでとても楽しかったです」
「それじゃあ、コレやってみる? 気晴らしくらいにはなると思うけど」
私が取り出したのは桂馬くんから借りてるPFPだ。中にはギャルゲー……ではなくリズムゲームがいくつか入っている。
前に私のゲームを作る企画を蹴った後に勉強の為に借りたものだ。
「これは……一体何でしょうか?」
「PFPっていう携帯ゲーム機なんだけど知らない?」
「ゲーム……ですか。家にはそういったものは無いので」
「筋金入りだね……
それじゃあイチから説明するね。ここを押すと電源が入って……」
ゲームプレイの流れを説明していく。
電源の立ち上げからそこそこの難易度の譜面を一つノーミスでクリアするまでを実演してみた。
「って感じなんだけど、やってみる?」
「は、はいっ! やりたいです!」
自分で勧めておいて言うのもどうかと思うけど凄い食いつきっぷりだなぁ。
初めてのものに触れたら大体こんなものなんだろうけど。
結さんは時折ミスをしながらも何曲かプレイを楽しんでいた。
ついさっきまで疲れ果てていた表情も穏やかになっている気がする。
「どう? 楽しい?」
「はい! ずっとやっていたいです!」
「そう。それなら良かったよ」
「はい! ですが……少々窮屈ですね」
「と言うと?」
「決められたように音を鳴らす事しかできないというのがちょっと……」
「そういうゲームだからねぇ……
となるとゲームだけじゃなくて楽器も欲しいかな?」
「用意できるのですか!?」
「多分何とかなると思うよ。ついてきて」
結さんを私が使わせてもらってる部屋へと連れていく。
あくまで借りている部屋なので私の私物の類は最小限しか持ち込んでいない。
その数少ない私物の一つがノートパソコンだ。
「結さんの専門は打楽器系だっけ? ドラムとか?」
「専門はドラムではありませんが……大体そんな感じです」
「それじゃあ『ドラム 通販』で検索っと」
エンターキーを叩くと検索結果がズラリと並んだ。
適当なものをクリックしてより詳しく調べてみると一部のものは早くて明日には届くようだ。
ただ……
「う~ん、フルセットだとちょっと高いね」
こっちは命が懸かってるので必要なら出費を躊躇うつもりはないけど、抑えられるものは抑えておきたい。
「え? 高いですかね?」
「……え?」
「え? 姉がよく買ってくるアクセサリーよりも安いんですけど……」
そう言えば、結さんの家ってお金持ちだった。
ドラムフルセットより高いアクセサリーねぇ……
「あの、これは高いのでしょうか?」
「一般的にはね」
「困りましたね……
……あ、そうだ! 思い出しました!
吹奏楽部に古いドラムセットがいくつかあったのでもしかしたら借りられるかもしれません!」
「それで済むならその方が良いね。
でも、もし無理だったら私に言ってね」
「ありがとうございます。明日頑張ってみます!」
ふぅ、こんな感じで大丈夫かな。