もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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02 五位堂の家

 母親に連れ出された結を追跡する。

 校門の所に高そうな車が用意されており結と母親はそれに乗ってすぐに出発してしまったが、幸いな事にこちらの羽衣の方が速い上に空も飛べる。振り切られる心配はまず無いだろう。

 

 

 

 

 しばらく追跡すると格式高そうな日本風の建物の前に車が止まる。

 茶道か華道か、あるいはその両方の講師が居るんだろう。

 

「少し遅れてしまったわね。さ、急ぎましょ結さん」

「……はい」

 

 それじゃあ後を追って稽古の風景も観察……する必要あるかなぁ?

 結の暗い顔を見れば乗り気で無い事が容易に分かるんだが。

 正直な所このまま帰ってしまっても良いんじゃないかと思うんだが、せめて家の場所くらいは突き止めておきたい。

 お稽古とやらが何時間かかるのかも分からない。どうしたもんかなぁ。

 

「……よし決めた。一旦家に帰ろう」

「え? 良いんですか?」

「母親が押しつけてる稽古は攻略の本筋には関係ないだろう。

 あいつの家まで突き止めようと思ったが、あれだけ家柄を誇ってる連中だ。ネットで検索すればすぐに出てくるだろう」

「あっ、なるほど!!」

「それじゃ、家まで全速力」

「はいっ!!

 …………あれ? 家ってどっちですかね?」

「……上空から見れば目印になる建物くらい分かるだろうが。学校とか」

「なるほど! 神様はやっぱり頭良いですね!!」

 

 今回はかなり王道なキャラ設定だから攻略も楽そうだな。

 多少不測の事態が起こってもアドリブで対処できるだろう。

 明後日……いや、早ければ明日には終わるかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……その日の夜、五位堂家……

 

 (わたくし)はこの広い家に住んでいます。

 同じ学校に通っている他の皆様に比べてとても、とても大きい家。

 ですが……

 

「結さん、お稽古お疲れさま。真面目でしっかりした先生だったでしょう? 前のたるんだ先生とは大違いだったでしょう? あの先生ったら日本文化をより広く広めるとか何とか言い訳して全然正しくない作法を教えようとするんだもんねぇ」

「……はい、そうですね」

「新しい先生だったら結さんを安心して任せられるわ。そうそう、この機会に部活動なんて止めてしまいなさい。結さんにはもっと有意義な時間の使い方があるはずよ。顧問の先生には連絡しておくわ」

「……はい」

 

 大きい家にも関わらず、あるいはだからこそ、とても狭くて、苦しい。

 私は五位堂家の人間としてそのように振る舞わなければなりません。

 お母様の言うことをよく聞いて、お勉強やお稽古に精を出す事も、決して異を唱えてはいけない。

 

 そして、部活動を、私が唯一心の底から楽しめる事を止める事も……

 

 私はずっとこの広くて狭い家に押し込められ続けるのでしょう。

 ……願うだけなら、お母様も許してくださるでしょうか?

 自由になりたい。

 育ててもらった恩を忘れるような罰当たりな願いですが、願うだけなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……翌日、登校時刻、桂木家前……

 

 いつものようにテキトーに朝食を食べ、登校の支度を整える。

 そしていつもと同じように登校……と言いたい所だが今日は少々違うようだ。

 

「3人での登校なんて久しぶりだね」

「そうですね~。前に一緒に登校したのっていつでしたっけ? ねえ神様!」

「……吉野麻美の攻略が始まった日だから3週間くらい前だな」

 

 いつもはエルシィ、たまにエルシィの代わりに中川と一緒の登校なのだが、今日は両方居る。

 理由は簡単、中川の仕事が今日はオフだからだ。

 そして、もう一つ変化がある。尤も、僕やエルシィからは分からないのだが。

 

「あの時はわざわざ途中で別れたけど、今日はずっと一緒に行けるよ!」

「そうだな」

「室長から届いた錯覚魔法その2を使ってますからね!!」

 

 最初に変装が必要になったあの時はエルシィの姿にさえ変装できれば十分だったが、今は問題が色々と浮上してきたからな。

 エルシィの上司のドクロウ室長に頼んで中川でもエルシィでもない架空の人物に変装できるようにした。この外見の名前は『西原まろん』になるのだろうか?

 まあとにかく、色々とやりやすくなって大助りだ。

 

「ところで桂馬くん、攻略の進捗状況は?」

「今回は楽勝だ。早ければ今日中に決着が付く。そうなればお前も仕事の調整をする必要が無くなって助かるな」

「無理はしなくていいからね? 岡田さんも最近は強引に休みをねじ込むのにも慣れてきたって言ってたから」

「おいおい、それは大丈夫なのか……?」

 

 中川の都合に合わせた攻略をするつもりなんて毛頭無いが、見知らぬマネージャーが胃痛で倒れないに越したことは無い。

 サクサク攻略していく事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになった。放課後まで待っても良いが、あの母親の介入が入らないうちに仕掛けておいた方が良いだろう。

 まずは……

 

「エルシィ、外でオムそばパン買っておいてくれ。3人分」

「3人分ですか? りょーかいしました!」

 

 場合によっては昼食を買いに行く時間が無いかもしれないのでエルシィをパシらせ……食料調達に向かわせる。

 それと同時進行で中川にメールを飛ばして昼食を用意してもらった旨を伝える。

 何故わざわざこんな事を心配するのか? 理由はいくつかある。

 まず単純に今日は弁当を持ってきていない。オフの日まで早起きして弁当を作るのが面倒だったという事とたまには学校で買える物を食べてみたいとの事である。

 そしてもう一つ。これも単純な理由。

 

 このクラスに人が集まっていて移動するのも厄介だからだ。

 

 何で人が集まってるかって? あの中川かのんが久しぶりに登校してるからな。

 おかげで結が居る2ーAまで行くのも一苦労だ。(結のクラスはエルシィが小阪ちひろから聞き出した)

 なんとか人ごみを抜けて2-Aの様子を伺う。

 結がどこかに向かうなら先回りしてぶつかるなり何なりしてイベントを起こす。出会いのイベントは多少強引でもインパクトの強い方が良いからな。

 一切動かないようであればどうしようもないが……ああいうキャラが一人で教室で弁当を黙々と食べるというのは考えにくい。まず間違いなく教室は出るはずだ。

 ……なんて事を考えていたんだが、丁度いいイベントが見つかった。

 

 結はまだ教室に居た。

 教室を出ようとしているが、人ごみに圧倒されて出られないでいるようだ。

 これなら余裕でイベントを起こせる。早速声をかけるとしようか。






マシンガントークが地味に大変でした……
長々と書ける人は一体どうやってるんでしょうかね?

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