「……次の攻略相手はどこのどいつだ?」
「ちょっと待ってね」
中川が駆け魂センサーのアラームを止めてから何かの操作をしている。
少ししてから受付カウンターの方を指差した。
「あっち。あっちの方向に居るよ」
本棚の影からカウンターの方の様子を伺うが、誰かが並んでいる様子は無い。
となると、カウンターの受付係が駆け魂の持ち主という事になるな。
「あいつ、だな」
「そうみたいだね」
カウンターに座っているのは高等部の制服を着た女子生徒。
セミロングの黒髪、左胸の校章の所には『図書』と書かれた札が着けられている。
そしてその手には当然のように本があり、静かに読書しているようだ。
三つ編みや眼鏡が無い事を除けばいかにも図書委員といった出で立ちだ。
「図書委員かぁ……」
「何か問題があるの?」
「いや、最近ゲームで多いんだよ図書委員。
だから飽きたなぁって」
「いや、飽きたって……攻略どうするの?」
「やるよ。やるけどさ。
二番煎じのつまらん奴だったら抗議のユーザー葉書出してやる」
「……どこ宛に?」
まあそれはさておき……
前回の吉野麻美と違って属性がかなり特定しやすそうだ。やりやすいという意味では朗報だな。
「それじゃあまずは……」
「まずは?」
「帰るか」
「え、帰っちゃうの!?」
「まずは情報収集だ。名前とか所属クラスとか血液型とか身長体重とか、その辺が全く分からないからな」
「身長体重は……うん、要るんだね」
「ああ要る! だから明日エルシィを連れてきて調べてもらおう。
……ただ、このまま帰ってしまうのも少々勿体ないな」
何か仕掛けておくか。そうだな……
……よし。
「中川、一芝居打ってくれ」
「?」
打ち合わせを終えたら僕は一人で真っ直ぐカウンターへと向かい、例の図書委員に声をかける。
「すいませ~ん」
「…………」
ん? 聞こえなかったのか?
「すいません」
「…………」
「……もしもし! 聞こえてますか!?」
「ひゃいっ!!
…………あ、何か、用でござるか?」
「……ん?」
「あっ、あ、え……
…………な、何か、御用でしょうか……?」
一瞬ござる口調の図書委員という斬新なキャラなのかと思ったが、どうやら言い間違えただけらしい。
よく見てみると手元の本が時代劇ものだ。本の口調がうつったのだろうか?
少々驚いたが気を取り直して目的を果たす。
「これを借りたいんだけど」
「…………」
中川から頼まれたお菓子の本を差し出すと目の前の女子は無言で受け取る。
無言と言っても態度が悪いとかいうわけではなく動作そのものは丁寧だ。喋るのが苦手とかそんな所か?
「…………返却期限は2週間後です」
「はい、どうも」
そう言って踵を返そうとし、思い止まる。
「あ、そうそう。僕は今ゲームの本を探してるんだけど、この図書館にあるかな?」
「…………え?」
「だから、ゲームの……」
と、そこまで言った辺りで入り口の方から声がかかる。
「神に~さま! そろそろ帰りますよ!!」
エルシィに変装した中川の声だ。
「おっと、もうこんな時間か。
また明日出直すよ。じゃあね」
「…………」
反応がもの凄く薄いが、少しだけ頷いた……気がした。
僕が中川に頼んだ事はシンプルだ。
『本を借りた後にあの女子と少し話すから、話し始めてから10秒くらい待ってから入り口の方から呼びかけてほしい』というものだ。
「最後のアレってどういう意味があったの?」
「ああやっておけば明日も話しかける口実ができる。
他にも、ああやって中途半端に話を切っておけば印象に残るしな。神にーさまなんて呼ばれてる奴はそうそう居ないだろうし。
あと、ゲームの本が目的って事は伝えられたから、例えば相手がその本を用意してくれるとかの何らかの行動を取ってくれれば攻略のとっかかりになる。
そう都合良くはいかんだろうからあくまでついでだが」
「なるほどね。
実際に話してみてどんな感じだった? 攻略できそう?」
「典型的な控えめの図書委員といった感じだな。攻略は楽勝だ。
……と、思っていたんだが……」
「え? 何かあったの!?」
「……モノローグが出ない」
「…………え?」
「モノローグだよ! 心の声を描写する奴だ!
普通は画面の下に出てくるだろう!!」
「……あの、これゲームじゃないからね?
「くそっ、これだから
モノローグが見えないと攻略なんてとてもじゃないが不可能だぞ!!」
「え、不可能なの!? やりにくいとかじゃなくて!?」
「ああそうだよ!
何とか、奴のモノローグを引き出すしかないか……厄介だ」
「あ、結局厄介なだけなんだね」
だけとは言うが、厄介だなぁ……
やっぱり