もしエルシィが勾留ビンを使えなかったら   作:天星

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01 良いゲームを作ってもらう為に

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 休み時間に小阪と雑談してるエルシィの携帯が鳴った。

 数日前に母さんに買ってもらってから普通に使いこなしているようだ。マンガみたいな機械音痴でなくて良かった。

 着歌とかも中川の歌に変えてるみたいだ。確か……ハッピークレセントだったか?

 

「あ、姫様からだ! ちひろさん、ちょっと出てきますね」

「あいよ~」

 

 トテトテと教室を出ていくエルシィ。

 ところで、電話を取る時のマナーとか誰に教わったんだろうな? 地獄でも通信装置はあるようだからそっちで身に付いてても不思議じゃないが。

 

「ん~……ねえオタメガ」

「何だ? 僕は今忙しいんだが?」

「忙しいって、ゲームしてるだけじゃん」

「そのゲームが忙しいと言ってるんだ!

 で、さっさと本題を言え」

「はいはいっと」

 

 全く、こいつは時間の大切さというものを分かっているのか?

 まだ時間はある、余裕であるとか思い込んでいるとあっさりと奪い取られる代物なんだぞ!!

 

「エリーがたまに口に出す姫様って誰かな~って。エリーに訊いてもはぐらかされちゃうんだよね」

「だからって何故僕に訊く?」

「だって、アンタってあの子に『神様』って呼ばれてるじゃん。

 だから何か知ってるんじゃないかな~って」

 

 神と姫だとかなり差があるような気がしないでもないがな。

 なかなか察しが良いなこいつ。現実(リアル)女のくせに。

 だが答える気は無い。電話の相手が中川かのんだなんて言ったら確実に面倒な事になるからな。

 

「悪いが僕も知らん。他校の友達とかそんなんじゃないのか?」

「なるほどね。それならまあ納得……

 

「神様~! 姫様が替わってほしいそうです!!」

 

「……行ってくる」

「ちょっと待ちなさい、アンタやっぱり何か知ってるんじゃないの!?」

 

 あのアホエルシィ、空気の読めない奴め!

 小阪にうるさく言われる前にさっさとエルシィの方に行き、携帯をひったくりながら廊下に出る。

 

「お前一体どうしたんだ? いつものようにメールじゃダメだったのか?」

『え? 電話じゃダメだったかな?』

「本来問題ないはずなんだがタイミングが悪かった」

『よく分からないけど……それじゃあメールに切り替えるね』

「いや、今はこのままで問題ない。どうしたんだ?」

『あ、うん。ゲームの事で相談したい事があるの』

「ほぅ?」

 

 ゲームの相談だと?

 それなら僕に連絡してくるのも納得だ。

 

『今度、私を題材にしたゲームを作るらしいの。

 だから、何かアドバイスとかあれば聞きたいかなって』

「…………なるほどな」

 

 随分と面白い事になってるみたいだな。是非とも色々と意見したい。

 だが、僕は神ではあるが社会的な身分としては一介のゲーマーに過ぎない。

 開発会社に乗り込んで詳細な案でも見せてもらえれば色々と口出しはできるだろうが、そんな事は流石に無理だろう。

 今この場で言える事に限定して、何とかやってみるか。

 

「まず、ジャンルは何だ? 正統派のギャルゲーでは無さそうだが」

『あくまで未決定だけど、リズムゲームっていうのになる予定みたい』

「音ゲーか。それならよっぽど変なミスしなければコケる事はあるまい」

 

 言い方は悪いが、音ゲーというのは画面の表示やリズムに合わせてボタンを押すだけのゲームだ。

 その『だけ』がプレイヤーにとっては曲者なわけだが、製作者にとっては作りやすいだろう。

 普通のギャルゲーに必要なフラグ管理とか好感度などの変数処理が一切無い、あったとしてもかなり少ないのだから妙なバグとかも起こりにくい。

 ……それでも酷い会社が作ると化け物じみたクソゲーが出来上がったりするんだがな。一体あいつらは何をどうやったらあんなのが作れるんだ?

 

「で、アドバイスだよな?」

『うん』

「そうだな……やる気やノウハウのある開発会社を選ぶ事だな。

 お前の知名度を以ってすればゲームの出来が多少悪くても赤字になる事はまぁ無いだろう。

 だが、質の低いゲームでファンの連中から金を毟り取るなんて事になったらお前自身の評価も落ちかねん。お前に一切の非が無くてもな。

 『とりあえず人気に乗っかってりゃいいや』とか『コケる事はまず無いからテキトーにやろう』とか、そういう雰囲気を感じ取ったらさっさと断った方が良い。

 そんな奴らに良いゲームが作れるとは到底思えないからな」

『確かにそうだね。私が強く拒否すれば岡田さんもちゃんと考えてくれると思うから、ちゃんと見極めて答えるよ』

「そうしてくれ」

『他には何か無い?』

「そうだな……悪いがあまり口出しできそうにない。

 ファンがどういったものを求めているかっていう知識はお前の方が上だろう?」

『ファンが求めるようなゲームを作れって事かな? 分かった』

「お前の立場で開発に意見できる事なんてたかが知れているとは思うがな」

『それは……そうかもしれないけど……』

「ま、できる範囲で頑張れば良いさ」

『うん!

 あ、あのさ、ゲームが発売したら桂馬くんもやりたい?』

「……良いゲームを期待してるぞ」

『うん! じゃあね!』

 

 中川を題材にしたゲーム……か。

 ふぅむ……

 

「神様! そろそろ授業始まりますよ~」

「ああ、今行く」

 

 エルシィに携帯を突き返して教室に戻る。

 その時に小阪と目が合ったが、とりあえず放っておこう。


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