面倒な事になった。
リアル女子を攻略しないと僕とあの悪魔とスタンガン女が死ぬらしい。
何かのドッキリであって欲しいが、そんな事は無さそうだ。
……って言うか、あのスタンガン女……
『かのんちゃん、昨日のテレビ見たよ!』
「あ、はい! ありがとうございます!」
『今度のライブも楽しみにしてるからね!』
「ありがとうございます、これからも応援して下さいね!」
同じクラスだったのか……
そして、最近噂になってる現役アイドルらしいな。
そりゃ歌に自信があるわけだ。何せプロなんだから。
まあそんな事はどうでもいい。今はゲームを少しでも消化しておこう。
スタンガンのせいでデータが飛んでないか少々不安だったが、特に問題は発生していないようだ。流石はPFPだな。
お、同じクラス、だったんだ……
私、同じクラスの人にすら知られて無かったんだね……
反射的にスタンガンを取り出しそうになったけど、何とか自制する。
こんなに人が居る中で暴れたらまた岡田さん(私のマネージャーさん)に怒られちゃうし。
さっ、今は切り替えよう。勉強しないと!
……ん?
「…………」ピコピコピコピコ……
神様が授業中ゲームやってるぅぅっ!!
え、アレ? 誰も何も言わないけど、良いの!?
(ね、ねぇ、ちょっと!)
(え? 何? どうしたの?)
隣の席の女子に話を聞いてみる。
(あの、神様、じゃなくてあの人、ゲームやってるけど良いの!?)
(え~、あ~、うん。いくら注意しても止めないから先生たちも皆諦めてるのよ)
そうは言っても、いま授業をしてる先生はそういうのに厳しい事で有名な児玉先生だ。
あんまり登校しない私でも知ってるくらい有名なのに……
「こらそこっ! 授業に関係ないトークは慎めっ!」
「あっ、すいません!」
ほら、小声で話しただけで怒られるのに!
「んふ~、それではこの間の小テスト返しますよ~。皆出来が悪かったですねぇ~」
「………………」ピコピコピコピコ……
「桂木く~ん、もしも~し、桂木桂馬く~ん……
桂木ぃぃぃっ!!」
「ん? ああ、はい」
「んふ~イイんですか~? そんなタイドで~?」
「問題ありません、授業と100%両立できています」
「100点取ってりゃ良いってもんじゃねぇぞ! あ゛あ゛!?」
神様の名前、桂木桂馬くんって言うんだ。
そしてあんなにゲームやってるのに100点なんだ……ちょ、ちょっと羨ましい。
何か勉強の秘訣とかあるんだろうか? 後で訊いてみよう。切実な問題だから。
放課後になったので集合場所である屋上へと向かう。
正直な所、バッくれてゲームを買いに行きたかったが、命がかかってるからなぁ。
ゲーム本体とそれをプレイする為の命は同じくらい大事だからな。2D女子の記憶であるセーブデータの方がもっと大事だが。
屋上の扉を開けると、エルシィとかいう悪魔が既に待っていた。
「お帰りなさいませ! 神様!」
「メイド喫茶じゃねぇんだぞ」
「? めいどきっさ?」
「知らないなら良い。中川はまだ来てないのか?」
「はい、姫様はまだいらっしゃってません」
もしかして、一般人を撒くのに時間がかかってるのか?
人気のアイドルだからなぁ……
「おいお前、悪魔の力とか何かそんなのであいつをここに連れてこれないのか?」
「そ、そんな無茶言わないで下さいよ! 私にできるのはこの羽衣さんを使って透明化するとか、そのくらいですよ!」
「……十分じゃないか!! さっさとあいつを探して透明化させて連れてこい!!」
「あ、は、はいっ!!」
「あ、おい!! 自分も透明化してから行け!
部外者がうろついてたら騒ぎになるぞ!」
「は、はいぃぃぃっ!」
あいつ、本当に悪魔なんだろうな……? 凄くポンコツ臭がするんだが。
……数分後……
「神様! 姫様をお連れしました!」
透明化を解いたエルシィが突如現れる。
当然、中川も一緒だ。
「あの、ありがとね、桂木くん。エルシィさんを送ってくれたんだよね?
他の人をなかなか撒けなかったから助かったよ」
「ああ。ファンのモブのせいでアイドルに会えないなんて、ゲームじゃよくある光景だからな」
「そ、そうなんだ。
あれ? 今、私の事をアイドルって……」
「ん、違ったか? お前が中川かのんだろ?」
「わ、私の名前まで! 桂木くん、ありがとう!」
何がありがとうなんだ? と疑問に思う間も無く、何をトチ狂ったのか中川は僕に抱きついてきた。
「お、おいっ! 何してんだ、離れろ!!」
「あ、ご、ごめん……
でも、桂木くんに私の名前を覚えてもらえた事がちょっと嬉しくて」
ったく、これだからリアル女は……
しっかし、それだけで抱きつくほど喜ぶのか? ファンも大勢居るアイドルが?
……何か、コイツにこそ心のスキマがあるんじゃないだろうか?
「ああ、そうだ。そこの悪魔! ターゲットの情報を寄越せ」
「あ、はいっ! えっと、確かこの辺に……あった。これです!」
エルシィは懐(?)からタブレットのようなものを取り出して渡してきた。
一人の女子の顔写真とプロフィールが書いてあるようだ。
「この
「それって、お前が自力で駆け魂の入った娘を見つけられないからわざわざ自分で探したんじゃないか?」
「そ、そんな事は無いですよ! ……多分」
「あ~、はいはい。
えっと……『
「あれ? 私たちのクラスだね」
「そうだな。『血液型O型、身長158cm、体重50kg、陸上部に所属』
……はぁ、何て精度が低いんだ。これだから
「せい、ど?」
「ああそうだ! こいつの顔写真を見てみろ!!」
エルシィと中川に写真を突きつける。
「? 何か問題でもあるのでしょうか?」
「私も、何も問題ないように見えるけど……」
「まったく、こんな事も分からないのか」
無知な凡人どもに説明してやろうじゃないか。
「この高原歩美だが、陸上部であるというのに、
髪を括っていない!!」
「……はい?」
「あ、あの……髪なんて陸上には関係無いんじゃ……」
「フザケるなーーーー!! 陸上部女は、髪を括ってるもんなんだよーーー!!!」
陸上部女の髪を留めるゴムには、魂が宿るんだ! そんな事も分からないのか。
「……ん? あの、桂木くん?」
「何だ?」
「仮に髪を括ってる事が大事だったとして、陸上部として活動してる時に括ってれば良いんじゃないの?」
「むっ、それもそうか……」
大抵の陸上部ヒロインはプロフィール画面で髪を括っているから忘れてた。
デートの時とかは髪を括ってないヒロインとかも居るからな。陸上部として活動している時に髪を括っていれば認めてやろうじゃないか。
「それじゃあ確認してみるか。
陸上部って事は……この時間はグラウンドか? 屋上から見えるかな」
「羽衣さんの望遠機能を使えば遠くからでもよく見えますよ~」
「その羽衣便利だな」
「一枚欲しいよね」
「こ、これはあげられませんからね!! えっと……はい、できました! 羽衣を透かして見た風景は望遠鏡のように拡大されますよ!」
羽衣を通して屋上を見てみる。
……なるほど、よく見えるな。
羽衣さえあればこのポンコツ悪魔なんて要らないんじゃないだろうか?
……いや、決めつけるのはまだ早いか。ゲームではこういうスッとぼけた奴に限って重要キャラだったりするしな。
「あっ、見つけた! あそこ!」
「どれどれ……」
グラウンドのトラックのそばにストレッチをしている複数の女子が居る。
一人はターゲットである高原歩美だな。
よく目を凝らしてみると何か妙な靄っぽいものが見える。アレが駆け魂なんだろうか?
「はぁ、やはり髪は括ってないな」
「も、もしかしたら走る時には括るのかも……」
「いや、
そんな事を言いながらのんびり眺めていたら……
……髪、括ったよ。
読唇術は身につけてないからどんな台詞を言ってたのかはわからないが、『本気出すぞ~』みたいな事を言っていた気がする。
「か、桂木くん、本当に括ったよ、髪」
「そ、そうだな……」
「そ、それじゃあ神様! 早速攻略を始めましょう!!」
はぁ……やるしか、無いんだよなぁ……
「まず何から始めましょうか? 神様」
「私にも何か手伝える事はある?」
「そうだな……まずは情報収集だ。
相手の好みや性格を知らずに攻略する事は不可能だからな」
「とは言っても、どうやってやるんですか?」
「方法なんていくらでもあるだろう。
例えばクラスの情報通から話を聞いたり……」
「桂木くん、うちのクラスに情報通なんて居るの?」
「…………くそっ、これだから
じゃあ仕方ない。彼女の会話から情報を拾っていくか。
エルシィ、羽衣の透明化、3人分できるか?」
「お任せください!! 3人ならギリギリだけどできます!」
「じゃ、僕達3人にやってくれ。
その後移動して歩美の会話を盗み聞きするぞ」